遅めの昼食
「すみません。まだ、大丈夫ですか?」
もう学生は誰一人としていなくなった食堂にオレは入っていった。
カウンターの奥からふくよかな女性が出てきた。
「あら、西雲君じゃない。久しぶりね。お昼? もう大したものは残ってないから残り物の盛り合わせみたいになるけどいい?」
「はい。全然問題ないです。おいくらですか?」
メニューにない物はその場に応じて値段がつけられる。だが――。
「いいの、いいの。いつも仕事頑張ってるんだからこのくらいはタダで提供させてよ」
「駄目です。払います」
いらないと言われてもそれは良くない。オレは頑なに払うと言うと食堂のおばさんは仕方ないねぇと困った笑顔を浮かべた。
「じゃあ、五百円でいいよ」
「分かりました」
オレはすぐにお金を払った。
「今日も忙しかったのかい?」
「今日は見回り当番だったんです」
「ああ、それでか。でも、人数増えたんだし、負担も軽くなるんじゃない?」
「う~ん。まだ、教えないといけない事が多いのと、オレが業務で手一杯なのもあってなかなか……。でも、読書時間は取れるようになりましたよ」
「まあ、みんな授業は受けてるみたいだからねぇ。読書時間はその間にってことだろう? 西雲君の場合、授業も最初の頃受けさせてもらえず、仕事ばっかりだったじゃないか。今の子達にはそうしないのかい?」
「……オレは先輩方のやり方がどうも苦手で、でもどうするべきか思案していて」
食事を用意してもらっている間、オレは愚痴のようなものをおばさんに零した。
「今の子達はだいぶと軟弱じゃないかい? 君の事も怖がっているみたいだし。前の代の子達だったらそういうのもなかったでしょう?
? 一般生徒の子もそれが当たり前だっただろうに……」
「仕方ないですよ。あの時を知っている生徒なんてもう殆どいませんから」
「まあ、ねぇ。学年が上がる時に他の学校に行く子も珍しくないし、途中から入ってくる子も多いから事情なんて知らない子が多いからねぇ。でも、君が損するだけじゃない?」
「別にいいですよ。それに、教員や他の職員の方々は知っている方が多いから協力してくださるじゃないですか」
「まあ、ねぇ」
おばさんは納得していない顔で、出来上がった食事をオレに渡してくれた。
「せめてしっかり食べていきなよ」
「ありがとうございます」
皿にこれでもかという程に乗ったおかずに、丼によそわれた大盛りのご飯、お椀一杯に入れられた味噌汁はきっと普通の人だったら食べきれるか心配になる量だろう。
だが、オレはこの学園に入ってから「吐いてでも食え」と言われ、このくらいの量を小学一年生の時から食べている。
今は毎日この量というわけではないが、余裕で食べきれる。
「いただきます」
手を合わせ、そう言ってから食べ始めた。
「……おにぎりとかも作ろうか?」
「いえ、大丈夫です」
オレは味噌汁を啜ってからそう答えた。
「じゃあ、甘いものでも持っていく? サンドウィッチとかもあるわよ?」
「いえ、大丈夫ですよ。それにあんまり甘いもの取り過ぎてもよくないですし」
「そう……。いるものあったら言ってね。いくらでも作るわよ」
「気持ちだけいただいておきます」
そう言わないといろんなものを押し付けられそうだった。
オレは出された食事を綺麗に平らげ、食器を返却口に運んだ。
「もう行くの?」
「ええ。仕事は見回りだけではないので」
簡潔に答えるとオレは生徒会室へと足を運んだ。