先輩達と当時の話 3
「副会長が鈍いのは分かりましたけど、その瀬野先輩という方の能力って何なんですか?」
オレの事はどうでもいいと言わんばかりの鍛冶君がそう尋ねてきた。
「ああ、あいつのはガチでチート級の能力だからな。でも、べらべら喋っていいんかな?」
「いいんじゃない? あいつだって隠してたわけじゃないんだし」
先輩達はそんな風に話し合ってから、道端先輩が話し始めた。
「瀬野の能力は自分が解析した魔法及び魔法薬等の効果を選択的に無効化できる能力よ」
「は? どういう事ですか?」
一回では理解できなかったらしい鍛冶君が再度尋ねた。
「瀬野は解析魔法も長けていたんだけど、一度でも食らった攻撃を解析したら、二度目は食らわないようにする事ができるのよ。同様に魔法薬も解析したら無効化する事ができる。勿論、精神系の魔法もね。
しかも、あいつは無効にするかどうか選択できるから、治癒魔法とかは解析しても無効にしないって事ができるのよ」
「つまり、あいつを魔法で殺そうと思ったら、解析もできないように一発で仕留めなきゃならないって事だな」
「そういう事。だからある意味最強よ。結界も張れるし、態と食らっても、死なない程度なら、解析して二度と効かないようにできる。
その所為もあって、あいつは自作の魔法薬は自分じゃなくて他人で試すのよね。その被害者になったのは数知れずよ」
瀬野先輩の能力を初めて知った人達はみんな驚いた顔をしていた。
でも、瀬野先輩と言えど不死身ではない。もし、一撃で死ぬような攻撃を食らえば、いくら結界を張っていても死んでしまう時は死んでしまうだろう。
「……だからって、魔法薬を他の人に試すって意味分かんなくないですか?」
「まあな。西雲は小学一年の頃は大体被害に遭ってたけどな」
加山さんの質問に答えたのは山崎先輩だった。だが、余計な事を言った所為で加山さんの視線はオレに注がれた。
「よく、無事でしたね」
半分同情のような、呆れたような顔をされながら言われた。
「まあ、瀬野先輩も死ぬようなものは試しませんからね」
本当にあの人の悪戯には何度酷い目に遭わされただろう。
思い出しただけで、苦虫を嚙み潰したような顔になってしまう。
「なんか色々あったよなぁ。行き成り西雲が声も上げずに泣き出したり、青ざめて口を開いても何の音も出なくなってたり、意識はありながら行き成り倒れたりとかな」
山崎先輩が思い出した事をつらつらと挙げていくが、オレの表情は曇る一方だった。
「他にも何か言ってるけど、口押さえてるのもなかった? あれは魔法薬じゃなかったような気もするけど」
「……それは激辛の飴だと思いますよ。同じような事が何度もあったんで、定かじゃないですけど」
道端先輩の言葉に嫌々ながら答えると、加山さんが首を傾げながら尋ねてきた。
「辛いの苦手なんですか?」
「……苦手とかの範囲を超えた辛さだったんですよ。なんでブートジョロキアの粉末の入った飴が普通の飴と同じところに並んでたのかが意味不明ですし、オレが偶々口にしただけですけど、当時その場にいた人達だって誰が引くか分からない状況だったんですよ」
「なんですか、その悪趣味なの……」
「瀬野先輩は笑ってそんな事するんですよ。本人は同じ物を口にしてもケロッとしてましたし……」
本当に意味の分からない人だった。
「あいつの味覚はバグってるからな。辛かろうが苦かろうが何でも口にするからな」
「だって、あいつ味覚なかったでしょ。たぶん未だにだけど。
だから何食べても紙食べてんのと同じだったみたいよ。みんなが小浜の作るお菓子を美味しいって言って食べても、あいつは『これが美味しいって言うんだ』って言って食べてたくらいだもの」
「そう言えばそんな事もあったな」
先輩達は平然と瀬野先輩の味覚について語るが、知らない人達は目を見開いていた。
「えっ、味覚ない人なんですか?」
驚いた声をあげたのは加山さんだった。
「そうよ。あいつは昔っから味覚がないのよ。だから味で危険も何も判断できないから、食べる前に解析魔法使うのが常だったわ」
「はあ。美味しい物が分からないっていうのは少し可哀想ですね」
「どうかしら? あいつはだからこそ悪食なところがあって、人が食べないものも平気で食べて解析して、そこから毒を抽出する事もしていたし、それを楽しんでいるようだったからね」
加山さんは味覚がない事を憐れんでいるようだったが、瀬野先輩を知る人達はきっと可哀想なんて言葉は出てこないだろう。
道端先輩の言った事実に、瀬野先輩を知る人達は頷いた。
「瀬野先輩は本当にそういうのを楽しんでいましたよね。他にも人が嫌がる事も平気でする方でしたね」
「まあね。ただ他に楽しんでいたとしたら、あんたに知識面で色々教える事もだったみたいよ。内海と一緒になって、どれを教えるか、これを教えるなら同時にこれもとか言って吟味してたのよね。あの二人仲悪いくせに、ああいう時だけ気が合ったみたいよ」
「あれ? お二人って仲悪かったんでした?」
一緒になって色々知識面で教えてくれていたから、あまり仲が悪いイメージはなかった。
「悪かったわよ。瀬野が内海に『お前、俺の事嫌いだろ?』って聞いたら、内海は笑顔で『好かれてるとでもお思いですか? 自意識過剰なお馬鹿さんだったようですね』って返してバッチバチに火花散らしてたもの。
ただ、二人とも下を育てるっていう意味では、お互い協力した方が上手くいくっていうのが分かってたみたいで、あんたの前では滅多なこっちゃ喧嘩はしてなかったわね」
「そうなんですね。知りませんでした」
「そりゃそうでしょ。あいつら隠すのも得意だもの」
呆れた声を出す道端先輩に、加山さんが口を挟んだ。
「同族嫌悪ってやつですか?」
「それは違うわね。あいつらはどっちかって言うと真逆だもの」
「真逆?」
「そう。内海は努力で成り立っている秀才。対して、瀬野は自分の得意な分野においてはとことん恵まれた天才。ものの考え方も違うのに、なんでか見た目だけは何となく似てんのよ。だから余計に仲が悪かったんじゃない?
天才と秀才って仲が悪いというより、どうしてもお互いが理解できないらしいから仕方ないんでしょう」
道端先輩の言葉はあまりに理解でき過ぎて、あの二人の仲が悪かったというのを認めざるを得なかった。
内海先輩はよく『私は天才にはなれない。でも、努力をしない天才よりは優秀であるつもりだよ』と言っていた。
瀬野先輩は『こんな簡単な事も凡人は理解できないらしい。凡人が努力しても所詮秀才にまでしかなれない。天才にはなれないんだよ』と言った事があった。
それはきっとお互いに向けた言葉だったんだろう。
「よくそれで当時の生徒会は纏まってたんですね」
鍛冶君が半分感心したような声を出した。
「まあ、その当時は全員小学一年から入ってたし、高校生になる頃にはある程度ね。それに得意分野はそれぞれ違ったから、纏まるっていうより、得意なものは得意な人に任せていただけよ」
「瀬野も内海も俺らの事を馬鹿にしてるところはあったけど、力勝負では勝てないの分かってるから、引き際も分かってたんだろう。
全員ある程度線引きがあったし、小浜とかが間に入って緩衝材の役割してくれてたからな。じゃなきゃ、仲間割れとかもあったかもな」
小浜先輩は色んな方面に気を配って、内部で争いが起こらないようにしていたのは確かだ。それを笑顔でやっていた小浜先輩も凄いと思う。
「その天才と秀才の先輩方が副会長に錬金術を教えてたって事ですよね?」
かなり逸れてしまった話を鍛冶君が戻そうと、その質問を投げてきた。
「ああ。そうだよ。お二人とも、その……個性的な方ではあるけど、錬金術以外にも様々な分野の知識はかなり深い人達だよ。まあ、瀬野先輩は偏りがあったから得意分野だけだったけど、勉学に関してはお二人にかなり教えてもらったよ」
「あっ、だから副会長は治癒魔法も使えるんですね」
加山さんはこの間の事を思い出してか、明るい声でそう言った。それに対し、鍛冶君は怪訝そうな顔をした。
「治癒魔法まで使えるんですか?」
「まあ、取り敢えずね」
「やっぱチートじゃん」
ぼそりと呟かれた言葉だったが、しっかりと耳に届いた。
「そんな事はないと思うよ」
「そんな事ありますよ。と言うか、錬金術も得意って言ってましたけど、まさかと思いますけど、錬金術師の資格まで持ってるんですか?」
鍛冶君は眉間に深い皺を寄せて問い詰めるような口調で聞いてきた。
「まあ、持ってるけど……」
「やっぱり普通ではないですよ。錬金術師なんて全国でも数十人しかいないんですよ? なのに学生の間でその資格持ってるなんて有り得ないですよ」
「そう? でも、オレは小学一年で取得したし、さっき言った瀬野先輩も内海先輩も持ってたし、会長だって持ってるよ?」
オレがそう言うと、鍛冶君は大きく目を見開いて、会長の方を振り向いた。
会長はただ「えへへ」と笑うだけだった。
「他って誰か取ってたっけ?」
道端先輩が思い出せないといったように聞いてくる。
「確か波多先輩が取ってたと思いますよ。ただ、いくつの時に取得したかまでは把握してないです」
つまりオレを含めて五人は取得していたという事だ。
「波多って武器屋の波多ですか?」
鍛冶君は再びオレの方を向いて尋ねてきた。
「そうだよ」
「なら、波多は分かります。でも、他の人が取得する理由は全く分かりませんよ。かなりの難関って聞きますよ?」
「まあ、確かに難しいかも。でも、オレの場合、先輩達に『これを叩きこめ』って言われた本を丸暗記しただけだからなぁ」
「実技もあるでしょう?」
「あるけど、そっちの方がわりと簡単だよ。ある程度材料が用意されていて、そこからお題のものを作るだけだから」
サラッと答えると鍛冶君は大きな溜め息を吐いた。
「はあ~。絶対に当時の生徒会のメンバーが異常なんだと思いますよ。なんでそんな色々とできる人が集まってるんですか?」
「集まっているというより、必要性があるから集められたんだろうね」
その言葉に全員の目がオレの方を向いた。
「どういう事ですか?」
鍛冶君の鋭い眼差しがオレに回答を求めた。
「別にその時だけというわけではないよ。生徒会はこの学校を守る為の小軍隊の位置づけでもある。それは国に要請しても色々な理由で軍による警備を断られていた事が起因している」
「何故、国は要請を断るんですか」
「それは……」
オレは言うのが躊躇われた。そして、見かねた会長が口を開いた。
「国は如月の権力を弱めたいのよ。不備があればそれを理由に権力を削げると思っているんでしょう。それだけでは揺るがない家ではあるのよ。それでも、国は少しでも打撃を与えたかったみたいよ」
それさえも会長は笑顔で言った。
「……副会長があのパン屋の人と話してた時に『こういった場で言うべきではない』と言っていた事がそれって事ですよね」
鍛冶君の鋭い視線がオレを捕らえる。
「君もあの場にいたようだね」
「誤魔化さないでくださいよ。あの時に食堂に居ましたよ。だから話は所々ですが、聞こえましたよ。あの人は『レベル自体が下がってる』とかも言ってましたけど、俺ら一般生徒の知らない事ってどれだけあるんですか?」
鍛冶君はどうやらそこまで頭が悪いわけではないようだ。
ただ、オレがどう説明したらいいか分からない。
その所為で思わず、溜め息が出てしまった。
「西雲、そんな風に溜め息吐いたら委縮されるわよ」
道端先輩のその言葉で、鍛冶君が顔を強張らせている事に気付いた。
「ああ、すまない。ただ、どう説明したものかと思って」
「実際、何話してたのよ?」
その場にいなかったから何も分からないといった道端先輩が説明を求めてきた。
「潮さんは色々と把握されているようだったので、あまり人の多い所で不確かな情報を拡散するのが良くないと判断しただけです」
「でも、ここは少人数よ?」
「なら他言無用でお願いします」
箝口令を敷かなければ、食堂で話さなかった意味が無くなってしまう。
それは全員が分かったんだろう。全員が頷いた。




