先輩達と当時の話 1
少し長いので何話かに分かれます。
やっと主人公の先輩達のフルネームが出てきます。
道端先輩は自分達が卒業した年度のページを開いた。
それを加山さんが真っ先に覗き込んだ。
「この子って副会長ですか?」
加山さんは幼い頃のオレを指差して聞いてきた。
「……そうです」
オレはちらりと見てから、顔を背けながらそう答えた。
「へぇ~。今とたいぶと雰囲気が違いますね」
鍛冶君もアルバムを覗いて感心したような声を出した。
「パン屋さんが言ってた『可愛い』とか『大きくなった』っていうのがよく分かりますね。なんか庇護欲駆り立てられるような見た目ですね」
明るい声で加山さんはそう言うが、オレにとっては憂鬱でしかならない。
「パン屋さん?」
何の事だといったように水無月さんが首を傾げた。
「食堂に不定期でパンの販売が来てるんだよ。それが今日来ていてね。今来ている人がここの卒業生で、オレの事を知っていただけ」
「ふ~ん。そう」
水無月さんは一瞬にして興味が無くなったのか、気のない返事をした。
「オレも小学一年の頃の在学生は把握しきれてなかったから、あんまり詳しくは覚えてない人なんだけどね」
「でも、流石にあれは覚えてたんだな」
山崎先輩が苦笑した。そして、加山さんが食堂での会話を思い出したように口にした。
「ああ、道端さんでしたっけ? パン屋さんが百回玉砕したっていう……」
「何それ?」
水無月さんが胡乱げな顔をした。
「あいつは昔っからよ。しつこすぎんのよ。人の事、勝手に影で写真撮ったりもしてるし、何度フッても翌日にも告白してくるような変人よ」
道端先輩が呆れた声を出した。
「お前、あん時は男より女にモテてたにも拘らず、潮だけは卒業までずっとだったからなぁ」
山崎先輩が苦笑した。
「女の子達はいいのよ、可愛いから」
「あっそ」
確かに道端先輩は当時、女性からモテていたのをオレでさえ知っている。
でも、時々男の人から呼び出されていた事もあった。
「貴方方が在籍していた時に一番モテてたのって誰なんですか?」
加山さんは気になって仕方ないといった顔をしていた。
「う~ん。微妙なところよね。異性っていうんなら坂田でしょうけど、同性含めていいなら私でしょう。小浜は付き合いだしてからは周りが諦めてたし」
「まあ、そうだな」
先輩達が事実確認しているが、今思うと、倫理観や普通って何だったんだろうなと思うような事もあった気がしなくはない。
「坂田さんって誰ですか?」
写真を見ても誰が一番モテるかなんて分からなかったんだろう。加山さんが無遠慮に尋ねてきた。
「こいつよ。この一番背が高い奴。坂田登。当時の学年首席よ。で、生徒会では会計業務を主に担当していて、校則の鬼で、仕事人って感じだけど、なんでか女の子達にモテてたのよね。因みに私達と同い年よ」
加山さんは感心した声を出したが、道端先輩は面白くなさそうだった。
「あいつは良くも悪くも真面目だからな。家柄もあって、頭も良くて、強いとなるとモテんだろうな」
「そういう貴方はモテてたんですか?」
加山さんのその一言で、山崎先輩は暗い空気を纏った。
そして、道端先輩は笑いを堪えながら説明しだした。
「こいつ、この学校在学中、一切モテなかったのよ。私と一緒で小学一年からこの学校にいたけど、本当にモテなくて、バレンタインも一切貰ってなかったのよ。まあ、小浜がみんなの分って作って持ってきてくれてたから、それだけはあったけどね」
「へ~。お二人は幼馴染なんですか?」
「まあ、そうね。生れた時から私とヤマは一緒にいるし、小学校入ってからは坂田も一緒だったけどね」
「もう幼馴染とかっていう感覚はねぇけどな。どっちかって言うと兄弟みたいな感じだな」
「それは分かるけど、あんたの場合、私の事、同性と思ってんでしょ」
「まあ、女って事は忘れるな」
山崎先輩がかなり失礼な事を言っているが、道端先輩は溜め息一つで許していた。
「ふ~ん。そんな感じなんですね。それはいいとして、この写真で見たら一際美人な人はいますけど、あとは……まあ、会長と副会長は幼すぎるから省いたとして、そこまで顔面偏差値高くないですよね」
「悪かったわね、どうせ普通よ。ブスじゃないだけマシでしょ?」
「まあ、そうですね。因みにこの美人、誰ですか?」
悪びれない加山さんは、写真の中の小浜先輩を指差しながら尋ねてきた。
「小浜よ。小浜弓弦。私より二つ年下の子よ。因みにこの男、波多翔と付き合ってたのよ」
道端先輩が波多先輩を指差すと、加山さんはまじまじと見た。
「う~ん。そんな悪くはない顔してますけど、こんな美人と付き合ってたら反感食らいそう」
「そうね。普通ならそうでしょうね。ただ、波多の場合、性格的に多くの人から慕われていたからね。笑顔も愛嬌があるって言われてて、わりと好かれていたのよ。と言っても、異性から好かれるんじゃなく、同性の友達が多いって感じだったけどね」
「ああ、そういう感じなんですね。でも、案外そういう人の方がモテたりしますよね」
「う~ん。偶に告白はされてたみたいだけど『好きな人がいるから』って断ってたもの」
「へ~。硬派なんですね」
「まあ、軟派な男ではなかったわね」
波多先輩は兎に角明るい笑顔が印象的な人だった。それを嫌う人はほとんどいなかっただろう。そして、真面目と言えば真面目だが、坂田先輩程、気真面目ではなかった。
「そう言えば、食堂でチラッと言っていた副会長のバレンタインの話って何だったんですか?」
加山さんが本当に聞きたかったのはこの事だろう。目を輝かせて、興味津々といった様子だ。
「バレンタイン? 何かあったの?」
他のメンバーも少なからず興味があるようで寄って来た。
「別に大した事じゃないよ」
オレはそれ以上話す気はないといったように、その一言だけを言った。
だが、道端先輩はにやにやしながら話し始めた。
「西雲が小学一年の時の話ね。あの時、西雲は行事とかに疎かったから、ハロウィンもバレンタインも知らなかったのよね」
「仕方がないでしょう。それまで家から出た事がほとんどなかったんです」
ムスッとした声で言うと、道端先輩はくすくすと笑った。
「それにしてもよ。全く知らない所為で、バレンタインデーに登校してきたら、真面に話した事のない高等部の女子生徒数人に話し掛けられて、チョコレート渡されても、よく分からないって顔で生徒会室まで来ると思わなかったわ」
「……そう言われても、その時は本当に知らなかったんで、何を渡されたのかも分からなかったんです」
「でしょうね。だから生徒会室に着た途端、如月が驚愕の表情浮かべて、そのまま西雲の手を引っ張って、チョコレート渡してきた子の元まで連れて行って突き返したのよね」
「えっ、会長が突き返したって事ですか?」
加山さんが驚きの声をあげたが、会長は何も答えなかった。
「そうよ。しかも『好きな人以外から貰っちゃダメなんだから』って注意してたのよね。だから西雲はそれ以降貰ってないんでしょ?」
「貰ってないも何も渡されてもませんよ。くれたのは、小浜先輩がみんなにって言って持ってきていた手作りのお菓子くらいですよ」
「そうね。小浜は何かとお菓子を作ってきてたのよね。ハロウィンもだし、バレンタインもだったわね。他にも聖夜祭もだったわね」
確かに小浜先輩はよく作って持ってきていた。そして、その腕前は確かなもので、どれも美味しかったのを覚えている。
「ちょっと待ってください。えっ、副会長はそれでいいんですか?」
「何が?」
よく分からず首を傾げていると、周囲が口の端を引き攣らせていた。
「何がって、会長にバレンタイン邪魔されて、それから一切チョコ貰ってないって、問題でしょう⁉」
「そう? どのみちオレを好いてくれる人もいなんじゃないですか? だから渡してくる人もいないんでしょうし、今は恋愛している余裕がないんで、別に構いませんよ」
「いやいや、今高校生! 青春真っただ中でしょう! モテたいとかってないんですか?」
「特には」
サラッと答えるオレに加山さんは撃沈した。
「なんだよ! イケメンの無駄遣い!」
「え、え~。これってオレが悪いんですか?」
叫ぶ加山さんに、オレはどう答えるのが正しいんだろう。と言うか、本当にこれはオレが悪いのか?
「まあ、あんたらしいと言えばあんたらしいし、良いんじゃない? あんたの顔面が活かされてないのは今更よ。
どうせ、このくそ忙しい高校生活が終われば、あんたも余裕ができるかもしれないし、そっから恋愛でもいいんじゃない?
勿論、好きな人ができたら高校の間に恋愛すればいいんでしょうけど」
「はあ……」
「それに、君。人の恋愛に興味持つのはいいけど、強制するもんではないのよ。協力はいいとは思うけどね」
ニヤッと笑う道端先輩に加山さんは何かシンパシーでも感じたようで、固く握手を交わしていた。




