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後輩達の申し出

 体育祭実行委員の手伝いも終わり、生徒会でやらなければいけない仕事はほとんどない状態だ。

 だが、暫くしたら期末試験がやってくるなぁ、と頭の片隅で考えていた。

「すみません、副会長」

 思考がぼんやりと期末試験に向いていたら、佐々山君に声を掛けられた。

「どうかした?」

「少し教えていただきたい事があります」

 佐々山君も少し前までは、先輩に話し掛けるとは思えないような話し方だったが、最近は改まった話し方をするようになった。

 いい傾向と言えばいい傾向なんだろう。

「何を教えて欲しいのかな」

「結界魔法を教えていただきたいです」

「結界に関しては会長の方が得意だと思うけど……」

 何故オレなんだろう?

 訝しげな顔をすると、佐々山君は溜め息を吐いた。

「最初は会長に教わったんですが、自分の理解力不足もあってか、習得できませんでした」

 その言葉を聞いてオレは会長を見た。

「……どういう教え方したんですか?」

「え~? ただ単に結界構築理論を教えただけだよ?」

「小学生にそれは厳しいのでは?」

 結界魔法はイメージのみで使えなくはない。だが、学問的に説明する事もできる。

 その説明で使うのが結界構築理論だ。はっきり言って、大学でも研究題材にされる事もある程に難しい。

 それを教えたとしても理解できないのは仕方ないだろう。

「でも、私は幼等部にいた時には理解したんだけどな~」

 会長は特殊中の特殊で、それをあっさり理解したようだ。

 苦手な分野もあるくせに、こういったところは出来が良すぎて困る。

「この人は結界に関しては普通じゃないから、教えるのは適任ではないのかもしれないね」

「ええ。痛感しました」

 佐々山君はどこか遠い目をしていた。

「でも、オレもそんなに教えるのは上手くないよ?」

「だとしても、ここに入学するまでは魔法を真面に使った事ないんですよね?」

「まあ、そうだけど……」

 ズバッと言われた事が心を抉った。

「だから、どうやってそこまで使えるようになったのかと思いまして」

「……あまりいい例じゃないよ? 如何せん、かなり無茶苦茶だったからね」

 思い出すだけで気が遠くなりそうだ。

「どんな事してたんですか?」

 佐々山君は眉間に皺を寄せた。

「先輩達が只管に攻撃してくるのを防いでただけだよ」

「いや、それは結界が張れるようになってからですよね」

 そうじゃないと言わんばかりの佐々山君にオレは首を振った。

「いや、結界が使えない時からだよ。

 最初の頃は魔法で攻撃もされたけど、体質的に魔法が効かないと分かってからは、物理攻撃をされ続けたよ。

 何度、腕や足の骨を折られたかな。その度に治癒魔法を掛けられて、結界が張れるようになるまではそれを繰り返されていたよ」

 遠い目をしながら語るオレに佐々山君は顔を引き攣らせた。

「えっと、じゃあ、おすすめの本とかってありますか?」

 流石に同じ事はしたくなかったようだ。

「う~ん、そうだなぁ。図書室にある本なら『結界魔法の極意~たまごレベル~』っていうのかな」

「なんですか、そのタイトル……」

「まあ、タイトルはあれだけど、内容は悪くないよ。ただ、対象年齢が低いから、ほとんどひらがなで書かれてるんだよね」

「はあ……」

「本当に全く結界が使えなくて、イメージが湧かないって人向けの本だよ。

 もし理論的にっていうなら、別の本もあるけどね。

 この本はシリーズ化されててひよこレベル、にわとりレベルっていうのがあって、にわとりになると、高校生でも難しいって思うレベルを比較的分かりやすく書かれてるからおすすめだよ。まあ、最近フェニックスレベルっていうのも出されたんだけど……」

 フェニックスレベルは読んだが、あれは誰向けに作ったんだろう……。

「フェニックス読んだの?」

 水無月さんがそう尋ねてきた。

「うん。でも、あれって大学生でも理解するの難しい気がするんだけど……」

「本当にね。レベルの名前もどうかと思ったけど、内容も今までと違って完全に専門書レベルだもの。意味分かんなかったわ」

「水無月先輩でも理解できなかったって事ですか?」

 佐々山君が驚いた声を出した。それに対し、水無月さんは静かに頷いた。

「オレも読んだけど、あれは理解するのにかなり時間掛かったよ。構築式の羅列しているところは最初、同じ式が並んでいるようにしか見えなかったよ」

「そうね。一部が違うだけで全く違う効果の結界が得られるっていうのは分かったけど、あれを使いこなすのは私にはできそうにないって思ったもの」

「僅かな違いで、どうしてその結果になるのかが理解し難かったしね」

「本当にそれ。こんなの完璧に理解できたら人間じゃないわよ」

「まあ、それは分からなくはないけど……。と言うか、にわとりからフェニックスの間に何があったってくらい内容のレベルが違い過ぎて、同じシリーズなのか疑ったよ」

「本当にね。でも、出版社も著者も編集者も一緒だし、シリーズのところに記載があったから同じシリーズなんでしょうね」

 水無月さんとは本に関しては共感できるところが多い所為で、佐々山君そっちのけでつい話し込んでしまった。

「あっ、あの!」

 そんな佐々山君の声が響くまで、水無月さんと話し込んでしまった。

「あっ、ごめん。つい話が逸れてしまったね」

「いえ、取り敢えず、副会長が言っていた本を借りてきます」

 佐々山君はそう言うと、一礼をして生徒会室から出て行った。


「申し訳ない事しちゃったわね」

 思わず話し込んでしまい、佐々山君の存在を忘れていた水無月さんがそう言った。

「本当にね。オレもつい話し込んでしまったから申し訳ないよ」

 佐々山君の出て行った扉を見ながら苦笑すると、今度は長月君が話し掛けてきた。

「副会長、少しよろしいでしょうか?」

「ん? どうかした?」

「少しお願いがあるのですが……」

 五月蠅いから静かにしてくれという事だろうかと思いながら続きを促した。

「以前、副会長が山崎さんと組手をしていたように、自分とも組手をお願したいのですが、よろしいでしょうか?」

 意外な申し出に少し呆けてしまった。

「えっ、と……それは魔法無しで、って事でいいのかな?」

「それは魔法ありでも可能という事でしょうか?」

「魔法ありは少し厳しいかもしれないな」

「理由を伺っても?」

 そう言われオレは会長を見た。会長も少し困ったような顔をしている。

「そう、だね……。長月君はここの学校の結界の範囲って知ってる?」

「えっと、西の森以外は基本張られていると認識しております」

「まあ、だいたい合ってるよ。ただ、それは理事長が張っている結界。会長がさらに張っているのは校舎だけ。だけと言っても、部活棟とかも入るからかなりの広範囲だ」

「えっと、それがどのように関係しているのでしょうか?」

「会長は常に魔力を流して保つタイプの結界を張っているから、会長の結界はそうそう破られないだろう。ただし、グラウンドには張られていない。

 もし、魔法ありの実戦形式の訓練をグラウンドで行ったら、校舎側なら会長の結界でなんとかなる。でも、敷地を守る為に張られている理事長の結界は設置型だ。壊れたらすぐの張替は難しい。

 そう壊れるものではないと言っても、可能性がないわけではないから、魔法ありは難しいだろうね」

 勿論、加減してもいいだろう。でも、それでは訓練にならない。

「では、体術のみなら可能という事ですか」

「うん。今なら時間もあるし、構わないよ」

「では、お願いします」

 長月君がそう言うと、師走田君も自分もと言い出し、霜月君は無言で立ち上がった。

「えっと、何人がする?」

 そう尋ねると、長月君と師走田君、霜月君が手を挙げた。

「卯月谷君は?」

「ご遠慮します」

 山崎先輩に睨まれながらも、卯月谷君はそう言った。

「そう、じゃあ三人だけかな」

「佐々山が戻ってきたら声かけておこうか?」

 山崎先輩の申し出にオレは首を横に振った。

「確かに体術訓練も必要ですけど、彼の場合、結界の習得を急いだ方がいいと思います」

「まあ、確かにな。使えないのはあいつくらいか。まあ、神在も微妙だけどな」

 そう言いながら山崎先輩は神在さんを見た。

 神在さんは気まずげに身を縮めていた。

「自分の身を守れるに越した事はないし、もし可能なら、結界の訓練はしておいた方が良いかもしれないね」

「はい、頑張ります」

 神在さんはスカートの裾を掴みながら頷いた。

「じゃあ、オレ達は外行ってくるんで、何かあったら連絡ください」

「おう」

 山崎先輩の短い返事を聞いて、オレ達四人は外に出た。

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