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手伝いと雑談

 迎えた放課後は加山さんに言われた通り、実行委員が集まっている部屋に向かった。

 オレの後ろには長月君がついてきていた。

 二人でその部屋に入ると実行委員が全員集まっていた。

 あまり歓迎されていないような空気ではあったが、実行委員として本来してもらうべき事や、今回問題だった予算案をどう修正したかといった事を順を追って説明した。

 それに関しては全員が黙って聞いてくれていた。

 そして、次にしなければいけない事や体育祭までの流れを全て説明した。

 それで終わると思ったのだが、オレのその考えは甘かった。

 結局、加山さんに引き留められてしまい、オレは実行委員の仕事がある程度終わるまで数日駆り出される事になってしまった。


 委員会の集まりが終わり、長月君と二人になってからオレは口を開いた。

「……ごめんね、長月君」

 一緒に付き合わされる羽目になった長月君にそう謝ると、長月君は首を横に振った。

「余計な仕事を増やされるよりは安心ですし、後学の為にも、こういった行事の流れも把握できるので問題ありません」

 本当にいい子だなと思ってしまった。

 自分より背の高い後輩を子と思うのは若干失礼なのかもしれないが、心の底からいい子だと思った。

 オレだったらなんで付き合わされないといけないと憤りを感じていただろう。自分の狭量を反省しなければと思う。

 父さんにも言われたが、いい勉強にはなるんだろう。

 そう思って頑張る事にした。

 因みに会長に暫く実行委員の手伝いをすると伝えたら叫ばれた。

「なんで~⁉ 葉月ちゃんが面倒見なくてもいいじゃない!」

 そう言われても断れなかったのだから仕方ない。

「兎に角、放課後は暫く、オレは不在となります。急ぎの仕事も今のところないので大丈夫だと思いますが、何かあれば対処の程、よろしくお願いいたします」

 そんな業務的な事を言うと、会長はふくれっ面をした。

「そんな顔をしても駄目ですからね。オレがいなくてもちゃんと仕事はしてくださいね」

 オレがそう言っても不機嫌な事には変わりがないらしく返事すらなかった。

 これ以上拗ねないといいけど……。




 数日間、放課後は体育祭実行委員の集まりに駆り出された。

 今学期中にプログラム作成までは終わらせてしまわないといけない。備品発注だってそうだ。

 何一つ終わっていない現状に急ピッチで仕事を進めていく。

 体育祭実行委員は全員、目が回りそうだと言いながら動いていたが、オレはその倍以上に走り回っていた。

 それをその数日間目の当たりにし続けていたら、オレに対して文句を言う人は一人もいなくなった。

 そして、発注も終わり納品日の確認が取れ、問題もないのが分かり、プログラムもどうにか原本は完成した。

 あとは教員側に提出する書類を渡しに行き、プログラムを全生徒分綴じれば終わりだ。

「やっと終わりが見えてきましたね」

 オレの言葉にみんなが頷いた。

「よくこの短期間でここまで仕上げられましたね」

 疲れの見える加山さんがそう言ってきた。

「本来なら今回の予算案を提出していただいた辺りにはプログラム構成も終わって、備品発注も終わっていないといけなかったんですよ。

 例年はそうしていたんで、急いでくださいと言っていたんです」

「うっ、申し訳ない……」

 加山さんもこの数日で自分の行動を顧みたらしく、態度もかなり変わった。

 言葉遣いに関しては父親に言われたらしく、なるべく敬語を使うようにしているらしい。

 別に自分の方が後輩だから構わないと言ったが、そういうわけにいかないそうだ。


「では、あとは書類提出とプログラムを綴じていただくのと、備品が届いた際に確認してもらう事、そして体育祭前日からのグラウンドの整備ですね」

「ええ。本当にお手数をおかけしました」

 そう言って加山さんが頭を下げると、他の体育祭実行委員の人達も頭を下げだした。

「頭を下げていただかなくても大丈夫ですよ。本番まで準備がありますし、それまでは大変だと思いますが、みなさん頑張ってください」

 オレが労いの言葉を言うと、みんな頭を上げた。そして、加山さんが余計な一言を言った。

「副会長って案外、優しいところありますよね」

 その言葉に眉を吊り上げたのは長月君だった。黙ってはいるが失礼な事を言うなという顔をしている。

「別に優しくなんてないですよ」

 オレがそう言うと、加山さんは長月君の表情には気付かず話し始めた。

「いや、もっと怖い人だと思っていたんで。なんていうか威圧? なんか最初の頃、凄くそういったのがあって……。でも、最近そうでもないですよね?」

「ああ、たぶんそれは慣れたんじゃないでしょうか」

「慣れ?」

 よく分からないといったように加山さんが首を傾げた。

「本来、生徒会メンバーは監視の役目もあって、威圧を纏う事があるんです」

「は? 監視、ですか?」

 加山さんが怪訝な顔をする。他の生徒会メンバーの時もそうだったけど、どうやら今の生徒はその事実を知らないようだ。

「ここは政府派の学校とされています。なので、裏切りが出ないように監視するのも生徒会の役目です。その為、威圧を纏う事もあるんです。

 ただ、威圧だけだと問題はあるので、役割を決めていて、オレは威圧を纏っているだけです」

「はあ……。でも、それって慣れるんですか?」

「長い間近くに居たり、その相手の魔力の波長に慣れてくると慣れるみたいで……。まあ、そりゃ、オレが威圧強めたら別ですけど」

 威圧を強めたらと言ったところで、前の訓練場での事を思い出したようで加山さんも実行委員達も震えた。

「でも、その事を知らないで怖がられるのって損じゃないですか?」

「そうですかね。オレより前の代の人達はオレより強い威圧を纏う人も多かったですし、それで怖がられても仕方ないとは思いますよ。言ったらそれが仕事なんですし」

 オレの言葉に納得はいかない人は多いようで、怪訝な表情を浮かべている人が多い。

 加山さんもその一人だった。

「前の代ってこの間いた軍人の方もですよね。でも、側に居ても威圧はそこまで感じませんでしたよ?」

「そりゃ、あの人達は、今は生徒会メンバーじゃないので、威圧を纏う必要はないですもん。でも、生徒会メンバーだった時はえげつなかったですよ」

 オレだって慣れるのにかなりかかった。

 今の生徒じゃ慣れるなんて事はできないんじゃないだろうか。

「……あの人達って副会長より強いんですか」

「オレはそう思ってますよ」

 サラッと答えるオレにどよめきが起きた。

「で、でも副会長は仲裁に入っていたじゃないですか」

「あれでもあの人達、加減してたからなぁ。本気出されたらオレも無事じゃすまないですよ」

 手の怪我だけじゃすまないだろうなぁと思いながら小さく溜め息を吐いた。

「副会長は、ご自身の実力を過小評価しすぎている節があるかと思われます」

 今まで黙っていた長月君がそう言った。

「そう? オレなんかまだまだだよ。先輩達が凄かったっていうのもあるだろうけど、やっぱり実力不足は否めないと思うよ」

 鍛え足りないんだろう。そうじゃなきゃ、山崎先輩との組手だって一撃くらいは食らわせられただろう。

「それが過小評価だと申し上げているのです」

 長月君の厳しい言葉が降ってくる。

「いや、でも、山崎先輩と訓練してても未だに勝てはしない。それどころか当たっても軽い攻撃だけだ。あれでは駄目だ」

「他のメンバーは軽い攻撃すら当てられないんですが……。

 まあ、それは我々の実力不足なんでしょうが、攻撃速度で言えば、山崎さんより副会長の方が上でしょう?」

「だとしても体重が軽いから攻撃を食らうと吹っ飛ばされてしまう。それでは駄目だろう」

「なら、ちゃんと食事を取ってください」

 その言葉にオレは言葉を詰まらせてしまった。

「食事、取ってないんですか?」

 加山さんが眉を寄せながら尋ねてきた。

「いえ。食事は取ってます」

「忙しい間はカロリー栄養食で昼食を済ませていた人が何をおっしゃっているんですか。あれは食事とは言いません」

 長月君の厳しい言葉が突き刺さってくる。

「いや、忙しい時は時間が勿体ないし、十分栄養は摂れるし……」

「睡眠不足で隈まで作って、酷い形相をされていた人が何をおっしゃっているんですか」

「いや、それも時間が……」

「休息を取れない程に仕事を詰め込むからでしょう。そんな事だから体重も増えないんですよ。この間、水無月先輩が自分より体重が軽いと言って怒ってらっしゃったじゃないですか」

「そ、それは……」

 何の言い訳もできず、それ以上言葉を紡げなかった。

「水無月さんより軽いんですか?」

 加山さんがドン引きした目を向けてきた。

「いや、その……、はい」

「以前、あまりにも食事の内容がそんな状態だったので、水無月先輩が体重を測るように副会長におっしゃったんです。そしたら、水無月先輩より軽かったんです」

 曖昧な返事をするオレの補足説明を長月君がした。

「いや、あの時は忙しかったから、ちょっと油断したっていうか、その……食事が疎かにはなっていたけど、まさか五キロも落ちてるとは思わなかったし……」

 体重を測ったのは春の健康診断以来だった。もう季節は変わろうとしているが、それでもそんな短期間でそこまで減っているなんて思ってもみなかった。

「そりゃ落ちるでしょう。お話を伺っている限り、夕食も取った覚えのない日もあったじゃないですか。昼はカロリー栄養食、夜も真面に食べていなければ、そりゃ減ります」

「い、今は食べてるよ」

「今はでしょう。これからも食事はきっちり取ってください」

 こんな事で後輩に注意される日が来るなんて思いもしなかった。自分が情けなくなる。

「副会長ってそんなに忙しかったんですか?」

 加山さんのその質問に答えたのは長月君だった。

「貴方方に予算案の提出を急ぐように伝えていた辺りは、副会長は軍にも顔を出し、毎日のように走り回っていました。勿論、生徒会の業務も果たした上です。暇なわけはありません」

 その言葉に加山さんは申し訳なさそうな顔をした。

「まあ、あの時は部活動とかの申請締め切りの過ぎた書類を持ってくる生徒も多かったので、一々説明して返すという作業が多かったんですよ。

 ただ、みんな投げるように生徒会室に持ってきて、早々に去っていくから、態々出向いて行かなければいけなかったんで……」

 オレのその言葉に身に覚えのある人もいたようで気まずい顔をしている人もいた。

「だから掲示板にあれが貼ってあったんですね」

 合点がいったように加山さんが言った。

「ええ、どのみち締め切りが過ぎてしまった書類は受け付けられないんで、こうする以外ないかと思ったんです」

「……大変ですね」

 きっと締め切りを過ぎた書類を持っていく人を何人も見たんだろう。加山さんが憐みの目を向けてきた。

「まあ、これも仕事なんでね。嫌われようが怖がれようが、断るところはしっかり断らないといけないんで、仕方ないんですよ」

 思い出して乾いた笑いが漏れる。

「多忙な所為で、副会長はかなり凶悪な形相をされていましたけどね。廊下を歩く度にあちこちから悲鳴が上がってましたよ」

 それに関してはここにいる人達も知っていたようで苦笑いを浮かべていた。

「まあ、今はそこまで忙しくはないから大丈夫ですけどね」

「何が大丈夫ですか。少し時間があるからといって、資格試験や訓練をしているのはどこの誰ですか? 副会長は動かないと死ぬんですか? 過労死しそうな程に働いている上、何故自らそこまでやる事を増やしてるんですか?」

 間髪入れずに冷たい言葉を長月君が放ってきた。

「いや、資格試験は飽く迄も私用だし、訓練は必要だし……」

「休むという事を少しは覚えたら如何ですか? 働き過ぎです。過労死しますよ」

 そんな事はないと言いたかったが、長月君はそんな事を言わせないといったような目で見てきた。

「確かに副会長ってかなり動いてますよね」

 そう言ったのは加山さんだった。

「そんな事……」

「あるから言われているんですよ」

 否定の言葉を氷のように鋭い言葉で遮られてしまった。

「今回手伝っていただきましたが、ほとんど副会長が動いてらっしゃいましたもんね。人の倍どころじゃないですよね」

「そんな事はないと思うんですけど……」

「いや、そんな事あります。こちらが言う事じゃないんでしょうけど、ちゃんと休んでください」

 こんなに休めと言われると思ってもみなかった。

「休めって言われても……」

「気晴らしと言って訓練をするのは休憩ではありませんからね。

 それに休憩と言いながら読書は構いませんが、それが論文や資格試験対策の本であれば、休憩になっていないと思います」

「それは確かに休憩ではないですね」

 加山さんが長月君の言葉に同意する。

「いや、でも、他にする事ってあんまり思いつかないし……」

 オレの言葉にあちこちから溜め息が聞こえた。

「そのうち本当に過労死しそうですね。少しは休んだらどうですか? 友人と雑談したり……」

 加山さんはそこまで言うと口を手で押さえた。

「……副会長ってご友人はいらっしゃるんですか?」

 長月君のその質問にオレは顔を背けた。

 その反応に周りはシンとした。

「し、仕方ないじゃないか。あまり生徒会の業務以外はしてこなかったし、知り合いとかもあまりいなかったから……」

 授業も受けていないからクラスメイトと言っても、顔を真面に合わせた事のない人が多い。部活動だってしていない。そうなれば友人はおろか、知り合いと言える人も少ないのは仕方ないだろう。

「……副会長、もう少し学生生活を謳歌したらどうですか?」

 加山さんがそう提案してきた。

「いや、そういうわけにはいかないですよ。生徒会業務は勿論ありますし、反政府派の動きも見ながら対策できる事はしていかないといけませんから、自分の事なんか二の次ですよ」

「だったら今回の体育祭だけでも参加されたらどうですか? 全員参加の五十メートル走しか参加予定がないじゃないですか」

「それは無理でしょうね」

 バッサリと切り捨てるように言うと首を傾げられた。

「なんでですか?」

 何故なんて考えなくても分かるだろう。

「まず、生徒会はその日は見回りをしなければなりません」

「人数がいるんだし、分担すればいいじゃないですか。

 何かあった時はそりゃ動かないといけないでしょうけど、そうでなければ楽しんだらいいじゃないですか」

「あとは、オレが参加して競技が成り立ちますか?」

 その質問に加山さんがぴたりと止まった。長月君も気まずそうな顔をしている。

「いくら魔法を使わないにしても、常日頃、戦闘を行って鍛えている人間が一般生徒と競技をしてそれは公正性が保てますか?」

「それは……」

「勿論、生徒会メンバー全員が不参加ではありません。ですが、公正性を欠くような場合は参加が認められないと学校側が決めているんです。オレの場合それに当てはまるので、全員参加の競技以外の出場は認められないんです」

「……すみません」

「いえ」

 みんなで楽しめればと思っての提案だろう。だが、申し訳ないが理由があってオレはそれができない。

「他の人が楽しんでもらえれば十分ですよ。見ているだけでも十分です」

 その言葉に涙ぐむ人もいた。別に悲しい事じゃないのに……。

「じゃ、じゃあ! 恋愛とかはどうですか!」

 体育祭が駄目ならと加山さんはそんな提案をしてきた。

「は?」

「学生と言えば友人との語らいの他に恋愛もあるじゃないですか! あの人が好きとか、あの人が可愛いとか話すだけでも楽しくないですか?」

 テンションが行き成り上がった加山さんにオレはついていけなかった。

「いえ、今は恋愛している余裕もありませんし、今のところ誰かと付き合う気はないんで」

「え~。恋愛なんて余裕云々じゃないですよ。好きって思ったらもう仕方ないじゃないですか。それを諦めるなんてできなくないですか?」

「すみません。よく分からないです」

 きっぱりと言うが、加山さんは諦める様子はなかった。

「副会長は誰か好きになった事ってないんですか? 初恋は?」

 その言葉にごくりと息を呑む音が聞こえた。

「いや、オレは……」

 そう言うが周りの視線が痛い。答えるまでは許されないようだ。

 長月君ですら黙って耳を傾けている。

「だって、ここに通う生徒のほとんどが良家の子女です」

「身分違いの恋だってあるじゃないですか!」

「でも、中にはすでに婚約者がいる人もいますし、卒業したら婚約者ができる人もいます。そういった人にとっては、一般家庭の人間と付き合いがあったなんてなったら、経歴に傷が付くだけです。

 オレはもし好きな人がいても、そういう風に相手にマイナスになるなら、付き合う気はないです」

 その言葉にさっきまでテンションが高かった加山さんが落ち着いた。

「すみません。考えなしでした……」

「いえ。これは飽く迄も自分の考えですし、他の考えを持つ人もいるでしょう。

 オレはただ相手の将来を考えた時に、その人の人生を背負える覚悟がないと付き合わないと思います」

 その考えをお堅いという人もいるだろう。でも、覚悟もなく付き合う方が失礼だろう。

 本当に好きならオレはそうする。自分の事だけを押し付ける事はしたくない。

「……副会長はその、恋愛じゃなくても、この人が可愛いとか綺麗とかで好意を抱いたりしないんですか?」

 もう話は終わったものだと思っていたが続いていたようだ。

「好意という言い方は少し難しいですね。表面上だけの判断で好ましいというのは相手にも失礼な気がします」

「で、でも好みの見た目とかないんですか?」

 好み? あまり考えた事がなかった。

「う~ん。あまり意識した事がないですね」

「この人、美人だなとかも思わないんですか?」

「それは思う事はありますよ」

 綺麗なものは綺麗だと思う。それはある意味当然だろう。

「えっ、誰が美人だと思いますか?」

 加山さんが食いつき気味で聞いてくる。

「まあ、今の生徒会メンバーの女性陣は見目麗しい人ばかりだと思いますよ」

 会長を筆頭に全員、見た目が良い。

「えっと、その中で好みっていうか、一番美人って思うのって誰なんですか?」

「一番……えらく難しいですね。系統も違うのに優劣なんてつけられませんよ。……長月君はどう思う?」

「えっ!」

 行き成り話を振られた長月君が焦る。

「だって、一番って難しいと思わない? 会長は口さえ開かなければ美人だとは思うよ。喋ると残念なところはあるけど」

「はあ……」

「水無月さんは目つきの鋭さはあるけど、綺麗だとは思うよ。だから美人と言えるだろう」

「そう、ですね」

「神在さんだって少し吊り目ではあるけど、可愛らしいとは思うし、美人と言えば美人だと思うんだ」

「まあ……そうですね」

「白縫さんと睦月野さんはまだ幼いけど、顔は整っているし、将来的には美人と言われるようになるとは思うんだよね」

「……そうですね」

 オレが各々の特徴を告げていくと、長月君が相槌を打っていった。

「だから誰が一番って言われても困るんだよね。長月君は一番って決めれると思う?」

「いえ、自分にはちょっと……」

 長月君も困惑の表情を浮かべている。

「なので一番と聞かれても答えられませんね」

 結論を述べると、加山さんが呆れたような表情を浮かべていた。

「いや、もし付き合うとしたら誰と、とかないんですか?」

「誰とも付き合う気はないです」

「じゃあ、タイプの女性もしくは、付き合うとしたらこんな人とかないんですか?」

 しつこく聞いてくる加山さんにオレは腕を組んで考えた。

「う~ん……敢えて言うなら……」

「敢えて言うなら?」

「自分の事を支えてくれるような人ですね。聡明な方の方が話しやすいかとは思いますね」

 それ以上もそれ以下も答えようはなかった。

「じゃあ、頭の良い、しっかりした人って事ですか?」

「そうなるんでしょうかね? あまり意識もした事もないので分かりません」

 そう答えるが加山さんはあまり聞いていないようだった。

「まあ、副会長は苦手なタイプの方が多そうですけどね」

 長月君が冷めた目でそう言った。

「まあ、あまり女性の扱いには慣れていない所為もあるんだろうけどね。明確な好意を向けられても応える事の方が今は難しいからね」

 こんなオレを好きになる人の方が少ないんだろうけど……。

「ん? 苦手なタイプははっきりしてるんですか?」

 再び興味を示した加山さんが尋ねてきた。

「別に明確にあるわけではないですよ。

 ただ、自分の気持ちを只管に押し付けてこられるのは苦手です。あとはみだりに触れてこようとする人もあまり得意ではないですね」

 そう言いながら国条さんを思い出した。

 あの人は合同文化祭の時にはよく触れてきた。思わず振り払ってしまいそうに何度もなったが、そんな事をしたらきっと、後が面倒だっただろう。

「みだりに触れるって会長の事ですか?」

 加山さんにそう聞かれてオレは首を傾げた。

 そんなオレを見て加山さんも首を傾げた。

「違うんですか? この間だって抱きつかれてましたよね?」

 そう言われて会長の行動を思い出す。

 確かに抱きつかれたり、服の裾を引っ張られたりは多い。

 でも、不快にはあまり思わない。

 自分の事なのに何故そう思わないのかが分からなかった。

「言われてみればそうですよね。何故なんでしょうね?」

「何故って言われても、何がなのかもよく分からないんですけど……」

 オレの言葉に加山さんが困惑の表情を浮かべた。

「そんな風だから道端さん達に鈍感と言われるのでは?」

 長月君のその言葉が突き刺さった。

「そんなに鈍感なのかな……」

「自分はそのように思います」

 後輩にそんな風に思われている事に傷付いた。

「そう言えば会長は副会長の事どう思っているんでしょうね」

 会長の話が出てきたからか、加山さんがそう尋ねてきた。

「あの人はオレの事は弟みたいにしか思っていないと思いますよ」

「何故?」

 長月君が眉を寄せて尋ねてきた。

「そうじゃなければ、いい加減、呼び方も変えると思うよ」

「ああ、まあ、そうですね。そう言えばあの呼び方っていつからなんですか?」

「入学してからずっとだよ。止めるようには何度も言ってたんだけど……」

 もう癖なんだろう。何度言っても直らない。

 それでも人前ではなるべく呼ばないようにはしてくれているようだ。今回は人前でもあの呼び方をされたけど……。

「あの人にとって、オレは未だに幼子なんでしょう。そうでなければあんな呼び方もしないでしょう」

 自分でそう言いながら胸がチクリと痛んだ。

「会長はもし自分以外の人と副会長が付き合いだしたら、どうするんでしょうね」

 ぽつりと零れた加山さんの言葉が違和感を生んだ。

 オレが誰かと付き合う事も考えられないけど、それは会長がオレの側から離れるって事? それともオレが会長から離れるって事?

 何れ来る終わりは分かっているはずなのに、頭の片隅で否定している自分がいる。

 だって、あの人はオレから離れないでしょう?

 あり得ないはずなのに、自分の中でそんなバカげた事を考えている自分がいる。

 それを否定するようにオレは首を振った。

「……どうもしないでしょう。だって、オレと会長は住む世界が違うんです。

 どうせ一緒にいるのは今年までです。来年には会長は大学生ですし、そうなれば家を継いでいく。そうなったら、オレなんか側に居る資格もないし、あの人だってそんな事しようとも思わなくなるでしょう。

 それが自然な事なんです。一緒には居られない事なんて、あの人だって分かっているはずです。だから、どうもしないですよ。きっと……」

 言葉を放つ度に胸がズキズキと痛んだ。

 どうして? 分からない……。

「大丈夫ですか?」

 心配する長月君の声が響いた。

「ああ、大丈夫だよ。何の問題もない」

 そう、問題なんてあるはずない。ただ、きっと側に居すぎただけなんだ。だから、少し離れ難くなっているだけ。勘違いしちゃいけないんだ。


「体育祭の運営もこれ以上は手伝える範囲はないでしょうし、オレは生徒会室に戻ります。何かあった際は尋ねていただければ結構です」

 これ以上話していたら変な事を考えてしまいそうだ。

 だからそう言って一礼をした。

「あっ、ありがとうございました」

「いえ。では書類提出等はお願いいたします」

 オレはそう言って、長月君とともに生徒会室に戻った。

 その途中に長月君はすみませんと言ってきた。それに対してオレは気にしなくていいとだけ返した。

 その後は沈黙だけだった。

 生徒会室に戻ると、オレが判を押せば提出できる書類が机の上に置かれていた。

 それに目を通し、判を押した。

「職員室に提出に行ってきます」

 オレはそう言って生徒会室をさっさと出た。

 何となく今は会長の顔を見る事ができなかった。

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