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模擬戦/怒り

 実践訓練場に着くと、どうやら噂を聞き付けたらしい生徒がかなり集まっていた。

 ここまで来てしまったら諦める他ないだろう。


 オレは溜め息を吐きながらプロテクターを身に着けた。

 このプロテクターはダメージカウンターにもなっていて、致死的な力がかかった場合、戦闘不能と表示されるようになる。

 勿論、小細工なんてできないようになっている。

 それは体育祭実行委員達もその保護者達も分かっているようだ。

 彼らもプロテクターを身に着け、お互いに準備ができた事を確認した。


「ただの一般人が偉そうな事を言ったのを後悔すればいい」

 加山さんが小悪党の捨て台詞のようなものを吐く。

 この人は中等部からいるからオレが他の人と決闘した事あるのも知っているだろうに……。

 心の中で溜め息を吐き、戦闘開始の位置に着く。

 人数は多いが所詮、烏合の衆だろう。統率なんて取れもしないだろうに、数だけ集めて何になるんだろう。

 相手を眺めながらそんな事を考えると、開始の合図が鳴った。

 すると、数人が前に出て、オレに向かって魔法を放とうと詠唱を始めた。


 まったく遅いなぁ。


 オレはかなり加減をして風の魔法を放った。すると、前に出ていた人達は軽々と吹き飛ばされ、壁に激突した。

 まったくもって手応えがない。

 後方で待機していた人が一人、オレに接近してきた。だが、動きが遅い。

 オレはゆっくりと構え、相手の鳩尾に掌底打ちを食らわせた。すると、その人は後ろにいる人達を巻き込んでそのまま壁まで飛んでいった。

 これで相手は全員戦闘不能の表示が点いた。


 加減したけど、怪我させてなければいいけど……。

 はっきり言って、コバエを指で弾く程度の感覚しかない。それ程までに手応えはないが、相手にとってはかなりの衝撃を食らっただろう。

 プロテクターをしているにも拘らず、数人が呻いている。

 ゆっくりと近付いていくと数人が悲鳴を上げた。

「化け物!」

 加山さんはそう叫んだ。

 まったく失礼な人だ。

「これでこちらの実力は分かっていただけたかと思うのですが?」

 加山さんの叫びは無視して、そう尋ねると保護者達は首が捥げそうな程に首を大きく縦に振った。

 加山さん以外の実行委員は顔を青ざめて俯いている。

「お怪我は?」

 そう尋ねると、加山さん以外が首を横に振った。

 加山さんはずっとオレの事を睨み続けている。それを加山さんの父親は顔を青ざめながら止めようとしていた。

「こんな化け物生み出すなんて、親も化け物なんじゃない?」

 その言葉に頭がカッとなった。ガンと音を立て、足を壁に踏みつけるように置いた。

 そこでようやく加山さんは顔を青ざめ震えだした。

「は? 今なんて言った? 誰の事を悪く言った?」

 この言葉に誰も答えられはしなかった。

「ねぇ。別にオレに関してなんと言われようと構わないよ。イラつく事はあっても仕方ないって割り切ってるから。でもさぁ。親の事まで悪く言われて許されると思うなよ」

 加山さんは自分の失言を自覚したんだろう。小声で謝罪のような言葉を紡ぐが、はっきりとは聞こえない。

「何? 言いたい事があるならはっきり言えばいい。けど、貴方が言葉を放ったっていう事実は消えない。だからオレは貴方を許さない」

 そう言いながらオレの魔力が吹き荒れる。別に暴走しているわけではない。

 意図的にやっている事だ。

 このまま魔力をぶつけてしまいたい衝動に駆られる。だが、そうすればいくらプロテクターをしていても無事では済まないだろう。

 そんな事は分かっている。だが、許せない。

 怒りのまま衝動をぶつけるのは良くない事だって分かってる。でも、この感情を抑えられる自信なんてなかった。

 目の前にはガタガタと震えている加山さん。その周囲の人達も震え、怯えている。

 馬鹿でもこの状況下では、自分より魔力が劣っているとは言えないだろう。

 虚勢さえも張れない状況でオレの魔力を真面に浴び、威圧も強く感じているのだろう。全員が動く事もできず、呼吸も喘ぐようになっている。


 元はと言えば、この人がちゃんと自分の仕事を果たさなかった事が原因だ。

 いっその事魔力をぶつけてしまおう。そう思った時、背中に柔らかなものが当たり、オレの魔力を抑えていった。

 後ろに目線を向けると会長がオレの背中に抱き着いていた。

「葉月ちゃんが手を下さなくてもいいよ」

 落ち着いた魔力に周りは安堵したが、オレの怒りは収まっていない。

「勝手な事を言わないでください。オレにだって許せない事はあります」

「だとしても、それでその人達を傷付けて後悔するのは葉月ちゃんだもん。そんな事になって欲しくない」

 未だに抱き着いたまま離れない会長の言い分はよく分かっていた。

 だからこそ、オレは足を地面に下ろし、近くの壁を殴りつけた。

 壁から拳を離すと剝がれた一部がパラパラと音を立てて落ち、壁自体は凹んでいた。

 それを見た人は悲鳴を立て、逃げようとするが腰が抜けているのか動けないようだった。

「葉月ちゃん……」

「分かってますよ」

 会長の呼びかけにそう答え、オレは拳を下げた。

 その様子を見た会長はオレの前に回り、オレの手を取った。

「痛そう……」

「平気です」

 会長はオレの手を壊れ物のように撫でてきた。

「葉月ちゃん、少し血が出ちゃってるから先輩達のところ行って治療してきて?」

 会長は微笑んだ。

「……分かりました」

 そのまま居たら今度は本当に殴りつけてしまいそうなのもあり、オレはその場を離れた。

 そっと会長の方を振り向くと、会長は体育祭実行委員達の方に向き直り何かを言っている様子だった。

 何を言っているのかまで聞き取れなかったが、そちらを気にしている間もなく、オレは道端先輩に手を掴まれた。

「馬鹿ね~。あんな連中の言う事なんか受け流しちゃえばいいのに」

「自分の事なら、そうしてます」

 暗く答えるオレに道端先輩は消毒しながら溜め息を吐いた。

「確かにあんたの場合、親の事言われたら怒りたくもなるでしょうね。大切にしてるご両親の事だもの。それは分かる。でも、本当に本気で殴ったりしたらあんたが後悔するわよ」

「だって……」

 それ以上言葉が紡げなかった。燻ぶったままの怒りも苛立ちもまだ自分の中にある。

 その所為で涙が零れそうだった。

「でも、よく我慢したわ。何かあれば私達はあんたの味方になる。だから遠慮せず頼んなさい」

 道端先輩はオレの手の治療を終えると、オレの頭を撫でた。

 そのタイミングで会長はにっこりと笑いながらオレの元へ駆け寄ってきた。

「あの人達とはお話ししたからもう葉月ちゃんとご両親を悪く言う事はないよ」

「そう、ですか……」

 一体何を言ったんだろうと、そっちの方が怖くなり、怒りと苛立ちはどこかに行ってしまった。


 加山さん達と目が合うと少し気まずそうな顔をされた。

 だが、このままというわけにもいかないだろう。

 オレは意を決し加山さんたちに近付こうと一歩踏み出した。すると、会長に手を掴まれた。

「大丈夫です。もう、殴ったりはしないんで」

「そう……」

 それでも会長は心配そうな顔をした。手は放してくれたが、会長はオレの後ろにぴったりくっついて付いてきた。


 加山さん達の前に行くと目を逸らされた。だが、何も話さないわけにはいかない。

「先程は感情に任せて攻撃しようとしてすみませんでした」

 言葉だけの謝罪をすると、加山さんからも謝罪が返ってきた。

「こっちも、その、悪かった……」

 そんな謝罪とも取れないような言葉だったけど、表情からは申し訳なさが感じられた。

 だが、それを素直にオレは受け入れられなかった。

「オレは、貴方が言った言葉自体は許せません。言葉は放ってしまった時点で取り消せません。だから、謝罪されても許せません」

「じゃあ、どうしろと?」

 せっかく謝ったのに謝り損じゃないかといった表情を浮かべる加山さんに静かに言った。

「だから、許しを請わないでください。許しを請われれば許したくなくなる。また、怒りが込み上げそうになります。だから、これ以上、謝らなくても結構なので許しを請う事も止めてください」

「……分かった」

 加山さんはそう言うと、それ以上謝る事はしなかった。

 許されないという事は一生自分の過ちを抱えて生きていく事だ。

それはある種、罰を受ける事より辛い事だろう。でも、それを科さないとオレはきっと一生賭けても許せないだろう。

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