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日常/夢

また主人公視点に戻ります

 あらかた生徒会の仕事も終わらせてオレは帰宅した。

「ただいま~」

 玄関を開けて靴を脱ぎながら言うと、少し遠くから「おかえり~」と聞こえてきた。

 リビングに向かうと台所にいる母さんが見えた。

「ただいま」

 帰宅を知らせる言葉をもう一度言うと母さんは俺の方に振り返った。

「おかえり、葉月。夕飯、もうちょっとしたらできるからね」

「うん、分かった」

 そう返事してから自分の部屋にカバンを置いて、制服のジャケットだけを脱いでハンガーにかけた。

 自分の部屋はあまり物がなくて殺風景だ。

 まあ、眠る事以外にほとんど使わないから殺風景でもなにも問題はないんだけどね。

 カバンから筆記用具とか課題に必要なものだけを取り出してリビングに戻った。

「またここでするの? 自分の部屋があるでしょうに」

 呆れた顔をする母さんに「いいじゃん、別に」と口をとがらせて返すと「はい、はい」と返された。

 どうしても自分の部屋に長くいるのは嫌で、勉強はリビングですると決めている。


 そんな経たずに母さんが夕食ができたと声をかけてきた。

 オレはノートを閉じるとテーブルに向かおうとしたが、母さんに手を洗って来いと言われてしまった。

 素直に従い、戻るとすぐさま席に着いた。

「いただきます」

 ちゃんと手を合わせてから一口目を口に運ぼうとした時に玄関が開く音がした。

「ただいま」

 父さんだ。

「おかえり」

 短く返すと父さんはすぐにリビングに入ってきた。

 母さんは父さんからカバンとジャケットを預かるとそれらを片付けに行った。

 父さんはネクタイを緩めてオレに笑いかけた。

「今日は早く帰れたんだな」

「うん、やらないといけないことはさっさと終わらせられたからね」

「今日はまた学校に反政府の奴らが侵攻してきたと聞いたが、大丈夫だったか?」

「大丈夫だよ。一般生徒には被害はなかったし、怪我人もそんなに出てないから」

 オレが答えると父さんはそうかと言って、オレの頭を撫でた。

 オレはこの家では、二人の前では子供でいられる。普通でいられる。

 もし、守りたいものがあるのなら家族だろう。この時間や空間を守れたらそれでいい。奪われなければそれでいい。

 そう、それだけでいいんだ。

 オレはちゃんとここに戻ってこられるようにする為だけに戦っているようなものだ。

 束の間の平和かもしれない。

 それでもいい。オレが学校で甘さを捨てないといけないんだとしても、ここでは甘えられるからそれでいい。

 もしかしたら明日も戦わないといけないかもしれない。苦戦するかもしれない。

 それでも、ここに戻ってこられるのならいい。痛いのも怖いのも我慢できる。人に嫌われるもの怖くない。

 暖かな家族。オレを受け入れてくれるこの二人と一緒にいられる空間があればそれでいい。それでいいんだ。


 父さんにされるがままに撫でられていたら、母さんが戻ってきてさっさとご飯食べちゃいなさいと言ってきた。

 オレと父さんは二人して「はーい」と返事をした。

 いつも通りの夕食、それはきっと幸せなんだ。

 その幸せな時間を過ごし、いつものように眠りにつく。


 眠りにつくと夢を見ることがある。

 今日の夢はどうやら昔の自分らしい。

「まってよ。――おねえちゃん!」

 誰かの名前を呼びながら走る幼い自分。

 その先には顔のよく見えない少女がいる。

「はやく、はやく! ふふふ」

 笑いながら急かす少女はきっと自分より年上なんだろう。でも、誰なのか全く思い出せない。

 楽しそうにその少女の後を追う自分に全く覚えがない。

 君は誰なんだ?

 何度か見た事がある夢の少女。彼女は幼いオレの事を『はづきちゃん』と呼ぶ。

 その呼び方は会長がオレを呼ぶそれと同じで、今のオレには少し不快だ。

 でも、そう呼ばれていた事も全く覚えていない。

 もしかしたら、会長があまりにオレをそう呼ぶのが印象付けられてありもしない過去のように夢で見ているのかもしれない。

 それならいい迷惑だ。

 それでも、誰かを追いかける自分に既視感を覚える。


 楽しそうな昔の自分と少女。

 しばらくその光景を眺めていると急に幼い自分が蹲った。

 魔力の暴走だ。

 魔力が暴走した事は覚えている。経験した事のないほどの痛みが全身に走り、立つ事は困難で、溢れた魔力は周りを傷つけていった。

 どうやって魔力の暴走を抑える事ができたのかは覚えていない。

 覚えているのは、目を覚ました時の泣きそうな両親の顔。そして、右目の違和感だった。

 オレは魔力の暴走をきっかけに右目の力を失い、そして右目の視力も失った。

 右目の視力は暴走後かなり落ち、今ではもう見る事はかなわない。

 両親はオレが右目の力と視力を失った事に複雑な顔をした。

 忌み嫌われる力を失くしたのはある意味幸運で、視力が戻らないのは不幸だ。きっとそう思ったに違いない。

 視力が急激に低下してからはよく転んだ。距離感も分からず、視界に映る全てが今までと違ったからだ。

 だが、今では気配や魔力の流れ、そういったもので把握できるようになっている。

 見えているはずの左の方が反応が遅れる事があるくらいだ。

 過去の自分を夢だろうと見ると嫌でも思い出す。苦労して右目を補わないといけなかった事を。

 行き成り見えなくなる、見える世界が変わる事は怖かった。

 そんな中でどうやって生きていけばいいのか分からなくて泣きそうだった。それ以上に両親が泣きそうな顔でオレを見るから平気な顔をし続けた。

 平気な顔を続けるのも苦しかった。

 その感覚を今でも思い出す。


 首に何か巻き付いているのか、それとも自分がいるのが水中なのかと思うほどに上手く息ができなくなりそうだった。

 ここが夢だからだろうか、自分の首に何かが巻き付いている感覚がする。

 苦しくなって目が覚めた。

 はあっと息を吐くとかなり汗をかいていた事に気付いて、気持ち悪くなった。

 最悪だ。

 朝から不快すぎる。眠ったはずなのに眠った気がしない。

 少しの頭痛と体の怠さを感じながらベッドを抜け出した。

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