魔法具制作
漢字で『制作』と『製作』の両方が出てきますが、『制作』は試作や数の少ないもの等を作る方に主に使用し、大量生産の方は『製作』を使用するようにしています。
偶に変換を間違えているものがあるかもしれません。
そういった時は誤字報告してくださるとありがたいです。
着いた場所は魔法具製作所だった。
「この間言っていた魔法具を作るって事ですか?」
「ええ、上にも申請しているからあんたが作って、その作った物をベースに大量生産してもらう予定よ」
勝手に話が進んでいるようでげんなりした。
「おや。早いお着きのようだね」
そう声を掛けたのは製作所から出てきた人だった。
髪は左側だけが長く、そこにジャラジャラと装飾がついている。どうやら全て魔法具のようだ。
背は高く、中性的で、声も中性的な為、性別は判断できなかった。
「初めまして。私はここの責任者の鍛冶鑑那と申します。以後お見知りおきを」
そう言って鍛冶さんは優雅に一礼をした。
ん? 鍛冶?
聞き覚えのある苗字に記憶を辿っていく。その間に山崎先輩と道端先輩が挨拶を終わらせていた。
記憶を辿り切れていないが、オレが挨拶をする番のようだ。
「如月魔法学校高等部一年の西雲葉月です。生徒会副会長を務めさせていただいております」
そう言うと、相手が手を差し出してきたので流れで握手をする。
相手の筋張った手に少し力が籠った。
「君が如月魔法学校の副会長君か。噂は聞いていたが、案外、細身の少年だったんだね」
「噂、ですか?」
「ああ、あまり気にしないでくれ。大した事ではないよ」
鍛冶さんはそう言ってオレの手を離した。
「で、魔法具制作だったね。どうぞ中に入ってくれ」
そう言われて三人で中に入っていく。
中は工房のようで、大量生産には不向きなんじゃないかと思うような環境だ。
魔法具は全て手作業で作られているから当たり前なのかもしれないが、大量生産を掛けると言っていたから、もう少し工場的な場所を勝手にイメージしてしまっていた。
それでもかなり興味深いものが多く、あちこちに目を遣ってしまう。
キョロキョロしていると笑い声が聞こえた。
「そんなに興味があるかい?」
「あっ、大変失礼いたしました。あまりこういった場所を見る機会がなかったもので……」
興味を持つにしても、あまりあちこちを見るべきでなかったと自分を恥じた。
「いや、いいよ。最初は誰もがそういった反応をするさ。珍しいようだよ」
その言葉に少しホッとした。どうやら不快にはさせていないようだ。
奥の方まで通され、そこは先程通ってきたところより衝撃に強い作りの壁で構成された空間になっていた。
「魔力吸収素材を使用した壁ですか……」
感心して見ていると、ほうという声が聞こえた。
「見ただけで分かるとはね。君は鑑定眼持ちかい?」
鑑定眼とは、見たものの性能や性質が分かる目の事だ。対象は物だけの場合や人も鑑定できる事もある。
「いえ。自分は解析が得意なだけです」
「へぇ。それでそれが分かるとはね。末恐ろしいね」
どういう感情なのか読めない声でそう言われた。
「まあ、いい。作った事のない魔法具はここで制作する事にしているんだ。私が監督しておかないと、外部の人には制作させてあげられないんだ。だからこの時間になってしまってすまないね」
「いえ、お時間いただきありがとうございます。早速、作業に取り掛からせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん。材料費は軍が出してくれているから、ここにあるものは好きに使ってくれていいよ」
そう言われ、何の加工も施されていない眼鏡を選んだ。
「何を作るつもりか聞いても?」
その質問にちらりと先輩達を見ると頷かれた。
「視覚を経由した精神系魔法を防ぐ為の魔法具です」
「ほう。あの系統の魔法は未だに分からない事が多いから、防ぐ事が困難だとされているのに、学生さんがそんなものを作るとはね」
少し引っ掛かる言い方をされるが、無視する事にした。
眼鏡のレンズに認識阻害魔法を付与する。
付与し終わると、それを自分の目の位置に持ち上げた。
「どうだ?」
山崎先輩の言葉に首を振った。自分の作ったものに眉が寄る。
「ふ~ん。認識阻害魔法か。付与は上手くできているけど、使い物にはなりそうにないね」
鍛冶さんが横から覗き込み、そう言った。
「……鑑定眼持ちですか?」
「うん。物質に対してのみだけどね」
にっこりと微笑む鍛冶さんに、どこで聞いた苗字だったのか思い出した。
鑑定眼持ちの鍛冶、か。
思い出したからといって、特段何かあるわけでもないので、付与を続けた。
再び何も付与されていない眼鏡に条件付きの認識阻害魔法を掛ける。
また自分の目を通すが、成功しているのか分からない。
「ふ~ん。魔法に対する認識阻害か。これじゃ精神魔法以外にも、他の魔法も見えないから、他の魔法で攻撃された時に避けられないんじゃないかな?」
その言葉に口をキュッと引き結んだ。
色々考えてはいたが、案外難しい。
最初から上手くいくとは思っていなかったが、次も上手くいかなかったらと考えると、心がすでに折れそうだった。
「まあ、でも付与の腕はいいね。今まではどういった作品を作ってきたんだい?」
鍛冶さんが上出来だと言わんばかりに言ってくるが、オレは悔しくて堪らなかった。
「……魔法付与は初めてです。どちらかと言うと、錬金術を利用したものとか、何もない所から作るものばかりだったので……」
イメージと作るものに対しての理解があれば魔法は実現できる。そういう意味では、オレは錬金術の方が扱いやすかった。
魔法付与から作るのは今回が初めてだ。もう少し学問的に理解するべきだったかもしれないと少し後悔する。
オレの回答に呆れたのだろうか。鍛冶さんは何も話してこなかった。
失敗を考えてしまうと成功はしない。
だからこそ、頭を振りもう一度付与を試みようとした。
その瞬間、腕を掴まれた。
「君……魔法付与が初めてって、本当かい?」
俯いて顔の見えない鍛冶さんがそう尋ねてきた。
「ええ。そうですけど……」
その答えに鍛冶さんが震える。
少し怖くて逃げ腰になると両手を掴まれた。
「そうか、初めてか! それでこれは才能がある! うちで働かないか?」
行き成りの勧誘に驚いた。
「い、いえ。ご遠慮しておきます」
「そうかい? 勿体ない。私もこの間子供ができたんだが、もし子供がいなければ養子の話を持ち掛けたいくらいだよ。はとこもなかなかの腕前でね。君と二人でうちにいてくれたら、うちも安泰だと思ったんだけどね」
残念だと鍛冶さんが頭を横に振った。
「はとこって……如月魔法学校の中等部に通っている?」
オレがそう尋ねると、嬉々とした声が返ってきた。
「ああ。あの子から君の事は聞いていたんだが、これほど付与が上手いとは思ってもみなかったよ」
噂の出所はやはり彼らしい。何を話したんだろうとは思ったが、今は無視だ。
「すみません。付与の続きをしたいので、少し集中させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、すまないね。続けてくれ」
鍛冶さんはニコニコとしながらオレの作業を見つめた。正直やりにくい……。
大きく息を吸って気持ちを切り替える。
今までとはまた別で、今回はあの少女の魔法を無効化するイメージで付与をした。
少し難しいのか付与に時間は掛かったが、どうにか付与はできたようだ。
上手くいっているのか鍛冶さんに見てもらおうと鍛冶さんの方を見ると、鍛冶さんは大きく目を見開いていた。
「えっと……。どういったように付与できたんでしょうか?」
オレが尋ねるが鍛冶さんは固まっていた。
「お~い。聞こえてるか?」
山崎先輩が大きい声でそう言って、鍛冶さんの目の前で手を振ったがそれでも動かなかった。
「どうしましょう。いっその事、他の道具で試しますか?」
オレが元々使うつもりだったのもあって眼鏡に付与したが、他の装飾具でも問題はないはずだ。
他の素材を手に取ろうとした時に、鍛冶さんがわなわなと震えた。
「君は一体何者だ? 本当に人間か?」
最近、化け物扱いされている気がして嫌になる。
「人間ですよ。行き成りなんですか?」
冷たく返すと、勢いよく手を握られた。
「凄いよ。君が最初言っていた『視覚を経由した精神系魔法を防ぐ』効果が見事に付与されている。こんな代物初めて見たよ」
「じゃあ、成功していたんですね」
鍛冶さんの言葉に胸を撫で下ろした。
「ああ。だが、これはかなり付与が難しい。正直うちで再現できるかは微妙なところだ」
「媒体となる物を眼鏡以外に変えてもですか?」
眼鏡の場合レンズに付与しているから、あまり硬度がない。強い魔法を付与するのなら硬度が高い物の方が適している。
「ああ、残念ながら硬度の高い物でも再現は難しいだろう。それに君は自身の魔力のみで効果付与している。うちが得意としているのは他の物質との組み合わせで作る魔法具だ。系統もうちの専門ではないから、かなり難しいだろう」
「そうですか……。それはそうとして、手を放していただけませんか?」
オレがそう言うと、「すまない」と言って、鍛冶さんは手を離した。
「大量生産は不向きか……。どうしたもんか……」
山崎先輩が腕組して考える。
「取り敢えず成功したものは軍の方に持ち帰ってもいいかしら?」
「ええ、勿論です。こちらも同じ効果のものは試みますが、成功するかどうか……」
道端先輩の質問に鍛冶さんはそう答えたが、難しい顔をしている。
「取り敢えず、他の媒体でも作りますか? 出来れば、これか今から作る分か、今作ったもののどっちかはオレが持ち帰らせて欲しいんですけど……」
根本的に対応策としてオレが持っておきたいから発案したものだ。それを取り上げられるのはかなわない。
「じゃあ、二つ作って、一つはうちに置いとかしてもらえないかな? そしたらうちでも再現できる可能性は上がると思うんだ」
そう言われ、オレはさっきまでと違う媒体で二つ作った。
「媒体はルビーか。硬度的には問題ないが、ダイヤモンドの方がいいだろうか……」
オレが作った物を鍛冶さんがまじまじと見ながらブツブツと言っている。
「お前の持ち帰るのは眼鏡の方でいいのか?」
「ええ。別に着ける眼鏡はどれでもよかったんで、こっちを掛けておけば問題はないでしょ?」
「まあ、そうだろうが……」
魔法具だから学校で身に着ける場合は申請をしておかないといけない。自分で自分の仕事を増やすのは嫌だが、仕方ないだろう。
取り敢えず上手くいったようで良かったと伸びをした。
「しかし、お前は本当に人間離れしていくなぁ」
そんな事を零す山崎先輩を軽く睨む。
「どこがですか。オレが人間離れしてるんだったら、内海先輩とかはどうなるんですか?」
あの人はオレより錬金術や魔法具に詳しい。
「内海? 内海ってあの内海か?」
どの内海だろう?
オレが首を傾げていると、山崎先輩が鍛冶さんに話し掛けた。
「俺が如月魔法学校で生徒会長を務めていた際に生徒会に所属していた内海ですが、何か?」
「ああ、やっぱり私の知り合いの方の内海か」
どうやら内海先輩と知り合いらしい。あの人も顔が広いから交友関係がよく分からない。
「学校は違ったが、山崎さん達の噂も聞いていたからね。私の二つ上にそんな人がいるって。内海とは、まあ、仲は良い方だったよ」
その言葉に少し引っ掛かる。
「ただあの子はね……。若干人外かなと思うところがあったからね」
遠い目をして語る鍛冶さんに、若干ではないと思うと突っ込みそうになった。
「如何せん、ある日突然『こんなものを作ってみた』と見せてきたのが、人工的に作られた賢者の石だったからね。あの時は驚いたよ。自分の魔力を凝縮したらできたと言っていたが、あの時は本当に人間じゃないと思ったよ」
あの人はそんな事をしていたのか……。
賢者の石は高エネルギー物質で、魔力濃度の高い物質だ。研究で使うにしてもそう簡単に作れるものではないらしい。それを簡単に作ってしまうとは……。
隣では山崎先輩が「ある意味あいつらしいな」と呆れた声を出していた。
「賢者の石の製造って法律で規制されていなかった?」
道端先輩が痛いところを突いてくる。
「まあ、紛い物だからね。人工的なものは研究的にも作られている。個人で偶然できてしまう事も有り得なくはない。と言ったところかな?」
鍛冶さんは笑いながら言っているが、実際はグレーゾーンだ。作らないに越した事はない。
道端先輩は聞かなかった事にすると言った。
「取り敢えず私達はこれを持って軍に戻らせていただきます。鍛冶さん、今日はご協力ありがとうございました」
道端先輩はそう言って敬礼した。その隣では山崎先輩が黙って敬礼していた。
「いやいや。私の方も貴重な経験をさせてもらったよ」
鍛冶さんがにこやかにそう言った。
それを見て先輩達は軍に戻ろうとしたので、オレも帰ろうと思い、鍛冶さんに声を掛けようとした。
「では、オレもそろそろ……」
そこまで言ったところで鍛冶さんに腕を掴まれた。
「君とは是非ともまだお話をしたいんだ。何なら見学していってもいいよ?」
「い、いえ。ご遠慮……」
「遠慮はいらないよ。お茶も出すし、ちょっとくらい、いいだろう」
そう言って鍛冶さんはオレを引き摺って行った。
先輩達は引き摺られているオレに手を振って、そのまま軍に戻っていった。
裏切者~!
そう叫びたかったが、それもできず、オレは作業スペースではなく、従業員の休憩スペースのようなところまで連れていかれた。
「いや~。狭いところで申し訳ないね。空いているところに適当にかけてくれ」
そう言われ、渋々と椅子に腰かけた。
鍛冶さんは機嫌良さそうに鼻歌を歌いながらお茶を入れている。
「あの~、あまり長居してはお邪魔かと……」
「いやいや、そんな事はない。時間の許す限りゆっくり話そうじゃないか!」
「は、はあ……」
結局オレは鍛冶さんの勢いに負けてしまった。
そして、出されたお茶を啜りながら、嬉々とした鍛冶さんの話を聞き続ける事となった。
「いや~。私ばかりが話してしまってすまないね」
「いえ……」
延々と話し続ける鍛冶さんに付き合っているうちに、すっかり疲れてしまったオレに覇気は残っていなかった。
「ところで、君から質問とかはないのかい?」
「その、自分はあまりこの分野に明るくないので……」
質問できる程ではないと言おうとしたが、ふっと頭を過った事があった。
だが、聞いていいのだろうかと迷った。
「どうかしたかい? 今回の事、軍にも関わりのある事でも聞いて大丈夫だよ。飽く迄も仕事の関係だからね。身内にも喋らない。機密は守るからね」
その言葉を聞いて、鍛冶さんに真っ直ぐ向き直した。
「では、お聞きしたいのですが」
「おっ、良い目だね。答えられる範囲なら応えるよ」
鍛冶さんが興味津々といった様子で、聞く姿勢に入った。
「衣類に魔法陣を描いて作った魔法具というのは、製作は通常行われないと思いますが、もし、複数の魔法陣の描かれた衣類となると作れるのでしょうか?」
実際見たあの少女の衣服。あれは魔法具だが、他に見た事はない。
卯月谷君の弟君が着ていたものには魔法陣は描かれていなかった。それでも魔法具のようだった。
自分の知らないものは多い。それを製作できるのは、一体どのくらいの知識と能力が必要なのだろう。
少しでも想像できれば、打開策を導き出せるかもしれない。次の戦闘に備えられればいい。
じっと鍛冶さんの回答を待っていると、鍛冶さんは何か難しい事を考えている様子だった。
「……魔法陣、衣類……複数……効果付与……」
ぶつぶつと単語を上げていく鍛冶さんを固唾を飲んで見守った。
暫くすると鍛冶さんは目を閉じ、上を向いた。
「ああ、そうか……」
そう呟くと鍛冶さんはオレの方に向き直った。
「すまないね。あまり前例のない物だったからかなり考え込んでしまったよ」
「いえ。こちらこそおかしな事を聞いて申し訳ありません」
「いや。結論から言うと作る事はできるだろう」
その言葉にオレは唾を飲み込んだ。
「ただ、容易ではないよ。服……つまり布に魔法を付与しようとしたら、布が耐えられず破れてしまうだろう。それを防ぐのにつなぎを使わないといけない。つなぎは魔力でも魔素材でも構わない。だが、魔法陣を描くのは染料では無理だろう」
「何故ですか?」
描くのなら染料や何かしらインクのようなもので描くのが普通だ。
「布の場合、滲みもあるからね。おまけにつなぎを使った布の場合、弾いてしまう事が多い。だから特殊な糸を使わないといけないんだ」
「特殊な糸ですか?」
「ああ、魔素材からできているものでないと、上手く定着はしないだろう。複数魔法陣を描くのなら、つなぎとして使ったものとも相性が良くないといけない。かなりの魔力と技術は要するだろう。けれど、条件さえ揃えば作れなくはないよ」
「そうですか……」
やはり、あれもまだ試験的なものだったんだろう。それを発展させて魔法陣のない衣服を作ったのかもしれない。
「魔法陣等の描かれない、一見普通の服に見える魔法具は、存在はしますか?」
「そうだね。うちでの取り扱いはないけど、国宝級の物ではいくつかあるね。上流階級の人達が稀に身に着けるよ」
「そうなんですね。勉強になります」
オレがそう言うと、鍛冶さんはニコニコと微笑んでいた。
「他は何か聞きたい事でもあるかい?」
そう聞かれ、色々気にはなるが、どれから聞いたものかという事もあり困惑していたら、誰かが入ってくる気配を感じた。
振り向くと、中等部の鍛冶君がいた。
「ああ、来てたのかい。すまないね。来客中なんだ」
「あっ、そうなんだ。って、ゲェ、副会長」
ゲェとはなんだと思いながら咳払いをした。
「お邪魔させてもらっているよ」
「あっ、はい……」
気まずそうに目線を逸らす鍛冶君にふと思い出した事を告げた。
「鍛冶君。君は確か魔法具制作部に所属していたね」
「あ、そうですけど……」
声を掛けられた鍛冶君は未だに気まずそうな顔をしている。
「魔法具制作部は今回稟議書を提出していたが、あれは認められないよ」
「ッス」
分かっていたんだろう。短い返事が返ってきた。
「理由は明日改めて伝えるけど、理由は見当がついているんじゃないかい?」
「まあ、はい」
「なら、通らないと分かっている稟議書を提出するのは止めて欲しい。実際提出しているのは部長だろうが、内容を把握しているのなら君にも責任はあるという事は覚えておいてもらえるかな」
「……はい」
親戚の前で怒られたくはないんだろう。あまりいいとは言えない返答ばかりだった。
「因みにどんな内容だったんだい?」
興味津々と言った様子で鍛冶さんが聞いてくる。
「オリハルコンと一角獣の角の購入許可を申し出てきたんです」
「ふはっ。そりゃ無理だ。そんなの私だって滅多なこっちゃ使えないよ」
それはそうだろう。二つともかなり珍しいもので高価な代物だ。
「でも、去年は影蜥蜴の購入許可下りたじゃないですか」
「あれは去年、値崩れして入手が容易にできるようになったからだよ」
むくれた顔で抗議する鍛冶君に理由を明示した。
「ああ、そんな事あったね。今年はまた値段が戻ったけどね。あれ、何だったんだろうね」
「確か生息する洞窟が大量崩壊したからだったと……」
あれ? 洞窟が壊れたのって人為的じゃないかって言われてなかったか?
何かが引っ掛かる。
「そう言えばそんなのあったね。新聞にも載ってたっけ」
「そうですね。わりとニュースになりましたよね」
魔法具の原料となるのは、効果を示す魔力を帯びた生物である魔生物だ。それを素材にしたものが魔素材。
魔生物が何の効果も持たない生物に接触すると魔力を帯びるようになる事があると言われている。これもまだ研究段階で明確な事は分かっていない。
そんな魔生物が生息地崩壊により大量発生となればニュースにもなる。そして、人為的な可能性があるとすれば、そりゃ、知っている人が多くてもおかしくはない。
だが、気になるのはそこじゃない。
「……鍛冶さん」
「なんだい?」
オレの声が今までの声と少し違ったのか、鍛冶さんは緊張したような声を出した。
「影蜥蜴を素材とした魔法具の場合、視覚認識できなくなるんでしたよね?」
「ああ、そうだね。他にも素材部位によって多少効果は変わるけど、認識阻害や視覚阻害、幻覚を見せるといった作用があるね」
「そうですか。ありがとうございます」
オレはお礼を言うとカバンを持った。
「長居をしてすみません。少しやらなければいけない事があるので今日は失礼させていただきます」
「ああ。またいつでもおいで」
鍛冶さんはそう言ったが、鍛冶君は二度と来ないでくれと顔に書いてあった。
「……機会があればまた訪ねるかもしれません。その時はまたよろしくお願いいたします」
そう言うと、オレは製作所を後にした。
この話に登場する鍛冶君の方は過去にすでに出ています。
今回も下の名前は登場しませんでしたが……。




