Side 睦月野唯
睦月野唯視点の話です
副会長の西雲先輩が去ってから会長以外の先輩たちが口々に西雲先輩のことを口にした。
「魔力漏れてるから威圧半端なさすぎんだよ」
「はあ~、仕事出来んのは分かるけど、怖いんだよ」
そう、確かに怖い。魔力が漏れているのも、あの目も全て畏怖の対象になる。
視線が合うと逸らしたくなる。その度に私はいつも持っているウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
あの人はもともと右目に『悪魔の眼』の能力があった。今は失われているらしいけど、それを知ったのは生徒会に入ってからだ。
だからきっとその力が失われていることを知る人は少ない。
暴かれたくない過去はきっと誰しも持っているんだろう。だからこそ、過去を視る力は恐れられる。
その対となる力はある種、崇められるが、きっと頭の足りない人が持っていたら利用されるだけなんだろう。
あの人はそれを許さない。
何があっても人を寄せ付けず、圧倒的な力を見せつける。
戦闘で怪我をすることも滅多にない。
なんでもこなして見せるあの人に私は憧れではなく、畏怖を抱く。
それはきっと他の大勢の人も同じなんだろう。
だからあの人がいなくなった途端に今のような言葉が口から零れる。
ただ、それをよく思っていないのが生徒会メンバーでは二人いる。
怒りの頂点に達しそうな神在先輩と珍しく悲しい顔をしている如月先輩。
二人はあの人の事が好きなのか、あの人の悪口や恐れているような言葉を聞くと怒ったりする。
あの人のどこが良いのか私には理解できない。
あの人の事が怖いだのなんだの他のメンバーが口々に言い合っていると、やっと如月先輩が口を開いた。
「……みんな、いざというときは守られているのにそういう風に言うのね」
普段とは違う静かな声にみんなが黙る。
神在先輩は少し驚いている。
「みんなは葉月ちゃんのこと怖いっていうけど、彼のことどのくらい知っててそう言ってるの? ねぇ、私たちはこれ以上強い敵と立ち向かわないといけなくなる可能性が高いのに仲間を怖がって戦えるの?」
如月先輩の質問に誰も答えられなかった。
私たちは言ったらチームだ。一緒に戦うチーム。
でも、でも……。
「……仲間っつってもあいつはそう思ってねぇんじゃないか?」
そう言ったのは霜月先輩だった。
いつもは同意できないような事の多い霜月先輩だが、これに関してはほとんどのメンバーが同意だったようで同じような目で如月先輩を見つめていた。
「葉月ちゃんが人と距離取ってるから? でも、それは……」
「あんただって、なんか知っててもそれ以上は言わねぇじゃん。何が仲間だよ。うすら寒い」
そう吐き捨てるように言うと霜月先輩は出て行った。
他のメンバーも居心地がよくないのか次々出て行った。
残っていたのは私と如月先輩と神在先輩、そしていまだに貧血が酷くてまともに動けない卯月谷先輩だ。
「……先輩、きっとみんなが西雲先輩の事を恐れるのは本能に近いですよ。強すぎる者は恐れられるんです。魔力もあの目も全て西雲先輩は普通の人にとって強すぎるんです。神在先輩も少し前まで怯えていたじゃないですか。すぐにはどうにもできないですよ」
「唯ちゃん……」
私の言葉に辛そうな顔をする如月先輩はいつもの明るい先輩とは程遠い。
でもね、先輩。これは事実ですよ?
そう目で訴えかけるが、きっと貴女は理解してはくれませんもんね。
「私も授業に戻るので失礼します」
そう言って私は生徒会室を後にした。
怖いものは怖いの。それは仕方ないでしょう?
そう思いながら私はウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。