父と母
「で、西雲は大丈夫なのか?」
「何がですか?」
質問の意図がよく分からず尋ねると、山崎先輩は首元を指差した。
「かなり汗掻いてるって事は、さっきのもかなり負担だったんじゃないか?」
そう言われ、手で汗を拭った。
「ああ、さっきのはコントロールが必要だったんで、抑えるのに力が必要だった所為ですよ。別に無理したわけじゃないです」
「コントロールできないと、ああいう風な結果は得られないって事か?」
「う~ん。一定魔力を流す装置があればできますよ。探査魔法と同じなんで、仕掛けの追跡してるだけですよ」
「それでどうやってモニターに映すんだ?」
原理はあるが、山崎先輩に言って果たして理解してもらえるだろうか?
「お前失礼な事考えてないか?」
「失礼というか……先輩に魔法工学の知識がどれくらいあるのかと思って」
「……素人でも分かる程度に話してくれ」
「まあ、ただの追跡装置ですよ。モニターには魔力の通るケーブルとかで繋いだり、兎に角、魔力を流せば映せるんです。今までのは映像と音が拾えない、もしくは片方しか拾えないものを両方拾えるものにしたのと、仕掛け自体を壊されても、魔力を流す事で壊される前までのデータは復元できるようにしただけですよ」
「だけっていうけど、難しいんだろ?」
「今までのは過去の映像を読み取れず、ライブ映像、つまりはリアルタイムの映像のみだったんです。それを過去のを見れるっていうのを成功したっていうだけです」
山崎先輩はいまいち理解できていないようで唸っていた。
「つまり遠隔からの情報復元って事?」
道端先輩が聞いてくる。
「まあ、簡単に言えばそうですね。もちろん壊れていなければ、リアルタイムの情報も見れますよ」
「じゃあ、情報を保存できるっていうのは今までできてたの?」
「あ~、あんまり表立った機関ではやってない事ですね。もちろんビデオカメラみたいなのではありますが、探査装置自体が軍用以外使われるものでもないんで……」
実際、法に触れるギリギリの代物だ。だからこれ以上追及されたくないのが本音だ。
オレを表情から読み取ったのか、道端先輩はこの事に関してそれ以上は聞いてこなかった。
「まあ、これはいいわ。あと聞きたい事あるんだけどいいかしら?」
「なんですか?」
まだ報告漏れがあっただろうかと記憶を辿るがあまり思いつかなかった。
「精神系魔法を防ぐ方法。どうせ、いくつか考えてんでしょ?」
「ああ、まあ、そうですね。一つは認識阻害魔法、そういった系統の結界を張るって事ですね。とは言っても、今回と同じ相手か同じような能力を持つ人間にしか有効じゃないですよ」
「どういう事?」
道端先輩は首を傾げた。
「あの少女は『目を見て』と言っていました。つまり発動条件がそれなんでしょう。だから視覚から精神魔法を掛けるような相手にしか使えないって事です」
「他の精神系の魔法の掛け方ってあるの?」
「オレも専門じゃないからそこまで詳しくないですよ。他があるとしたら聴覚とか念波とかはよく聞きますけど。それ以外と言われても本当に分からないんで、瀬野先輩でも頼ってください」
オレが瀬野先輩の名前を出すと、道端先輩と山崎先輩が口を引き攣らせた。
好んで会いたくはないんだろう。
「ま、まあ、他の系統の精神魔法はまたおいおいでいいわ。他の対策ってあるの?」
「そうですね。他っていうよりかですけど、タイミングが今回の相手なら『目を見る』というので分かりますが、もし分からない場合や分かっていても避けられない場合、魔法具に頼るのも手だとは思っています」
「魔法具ね……」
「実際どんな魔法具だ?」
山崎先輩もそこは気になったようだ。
「まあ、認識阻害魔法の付与されたものですかね。視覚を通して掛けるものしか防げませんけどね。精神系は普通の魔法じゃないんで、魔法反射とか効果無効じゃ効かないんですよね。魔法相殺もどの程度できるか分かりませんし……」
精神魔法の厄介なところはそこだ。防ぐのがかなり難しい。
「認識阻害って視覚阻害とかと違いあんのか?」
今更ながらの疑問をぶつけてくる山崎先輩にどう答えたものがと思案した。
「う~ん。厳密に言うと違いますよ。認識っていうのは主観把握の事なんで、自分自身が把握している事を違うものとして捉えるようになる魔法なんです。視覚阻害は単純に見えるものを阻害して見えにくくしたりするものです」
「じゃあ、なんで認識阻害付与なんだ?」
「別に視覚阻害で防げるならそれでもいいんですよ。魔法を目で見えるのならの話です。でも、オレの場合、見える目は半分ですよ。なら認識阻害を使うのがベストだと思っただけです。オレが掛かったって事は認識阻害の方がいいと思いますよ」
そう説明したが、山崎先輩は分からなかったようで首を傾げた。
オレは大きな溜め息を吐いた。
「正直、視覚からの魔法ならオレには効かない、もしくは効いても半端だと思っていたところもあったんで、今回反応が遅れたのもあるとは思っています」
「は? なんでそう思ってたのよ?」
道端先輩がオレを睨みつけてくる。
「だって、オレの場合、視覚として機能してる目は半分だけですよ? 目に関する魔法は基本両目揃っていないといけない。だからオレ自身も半端なのはご存知でしょう?」
そう言うと、道端先輩は釈然とはしないが納得はしたようだ。
だが、オレの言葉に理解できなかった人達がいた。
「えっと、西雲君。半端ってどういう事?」
そう聞いてきたのは水無月さんだった。
「どういうって……。今まで目の能力持った人って、オレ以外に見た事ない?」
水無月さんは首を横に振った。他の人を見渡しても首を振っている。
「透視とか予知とかで目を使う人とかも見た事ないって事?」
「ええ。だって、目を媒介にする人ってあまりいないじゃない」
確かにその通りだ。当然みんなも知っているものだと思っていたが、そうではないという事実を突きつけられて、オレは頭を抱えた。
「西雲君? えっと、私の知識不足で申し訳ないわ」
「いや、オレも説明していなかったし、自分の分かる範囲を常識と思っていたのが悪いから」
もう少し自分の考え方を考え直すべきなのかもしれないと思った。
頭から手を放し、みんなに向かう。
「まず、目っていうのは二つあるのは、ほとんどの人間にとって当たり前と思う」
その言葉に何言ってんだこの人という顔をされたが、これは大前提だ。
「目の能力っていうのは、この二つの目が全く同じ能力を持って初めてちゃんのした能力を発動できるんだ」
その言葉に水無月さんが口を引き攣らせた。
「ちょっと待って、西雲君は片目ずつで能力が違うじゃない」
「うん。これはかなりの異例。そして不完全な力しか発動できない半端なものなんだよ。
本来『神の眼』は未来を見通す事ができる。数時間先だろうが数年先だろうが、自分の思う先の未来を視る事ができる力だ。所謂、予知に近い。でも、オレは自分の意志で先を視る場合、数分が限度だ。それ以上先は視えない。それに本来なら勝手に視えるなんてないんだ。でも、オレは制御しきれないのもあって勝手に視える事もある。
『悪魔の眼』の方は、今は使えなくなっているから、オレ自身の能力に関してはあまり言える事もないけど、本来なら人の過去を視るだけじゃなく、対象者にトラウマとかを見せて、精神を破壊したりするような力だ。オレにできたのは無作為にコントロールもできずに人の過去を覗くだけだった。だから本来の能力には程遠いんだよ。
これが半端って言った理由だよ。分かったかな?」
オレの説明にみんな最初は口を開けていたが、そのうちどこを見ていいのか分からないといった顔をして目線を彷徨わせていた。
「まあ、両目が揃っていたにしても、魔力が強すぎるとコントロールはどのみちできないだろうけどね。そうじゃなく、半端だから余計だったんだろうけど」
「余計って、どういう事?」
水無月さんが恐る恐る聞いてきた。
「まあ、オレが持っている能力はどっちの能力でも、基本強い魔力を持って生まれてくるんだ。過去の人達もそうだったらしい。
だからこの目の能力を持って生まれてくる人は、わりと魔力の暴走を起こしやすいんだ。
オレの場合、片方ずつだから余計に不安定になっていたらしいよ。だからここまで生きてこれたのは、ある意味奇跡だったみたいだけど……。まあ、片目の能力がなくなったからっていうのもあって、生き延びられたようなところもあるとは思うよ」
あっけらかんと話すオレにみんな驚愕の表情を向けた。
「こうして生きてるから特に問題はないとは思うけど、この先も同様に生きてられるかは分からないのは事実だよ。左目もあんまり使い過ぎると多分コントロール不良を起こすし」
「だからあんま使うなとは言ってあったでしょ」
オレの話に道端先輩が割って入る。
「あんたは本当に自分の話してこなかったのね。まあ、行き成りそんな話聞いても、どう反応していいか分からないでしょうけど……」
道端先輩は心底呆れていた。
「まあ、そうですね。ただ、今は普通に生きてるからいいかなぁって……」
「あんたってそういうところは馬鹿よね」
学年トップクラスの成績誇る人間に馬鹿とは何だと言いたくなったが、この上ない程に呆れた顔をする道端先輩を見ると、言葉が出なかった。
「実際どうなるかも分からないし、安定した能力でもないから左目も故意ではなるべく使うなとは言ってるけど、勝手に発動するからあんまり意味はないんでしょうね」
「まあ、魔力の暴走が起きなければどうにかなるかなぁとは思ってるんですけどね」
「軽いわね~。まあ、目を失うのはそれ切っ掛けになりそうだものね」
道端先輩と話していると、この上ない程真剣な山崎先輩の声が響いた。
「西雲、軽く言ってるけど、本当に魔力の暴走起こすなよ。如月、お前もだぞ。お前らの場合、魔力量が桁外れなんだ。暴走なんて起こってみろ、どれだけの被害が出るか……」
「分かってますよ」
オレと会長は二人揃ってそう言ったが、あまり信用はないようだった。
「魔力の暴走って起こると痛いって聞くけど、実際どうなの?」
道端先輩がふと気になったようでオレに聞いてきた。オレ以外にも分かる人はもう一人はいるけれど……。
「まあ、痛いですよ。だって自分の中で抑えきれない魔力が吹き荒れて、自分の血管とかも突き破って外に出てくるのに、魔力が自己修復をするから傷も残らない。だからただ只管に痛みだけが残るんですよ」
「今回の精神系の魔法とどっちが痛いの?」
「どっちがって言っても……痛みの系統が違うんで……」
「今回のはどうだったのよ?」
「今回のは視界の歪みとノイズと頭が割れるような痛みだったんですよ。今回は頭だけですけど、魔力の暴走の場合、全身の痛みですからね」
どちらにしても痛い事には変わりない。
「ふ~ん。魔力の暴走にしても精神系の魔法を克服するにしても、かなり珍しいって事は分かってるでしょ? 場合によっては医療機関とか研究所に症状報告とかしないといけなくなるわよ」
面倒くさくて知らんふりをしていたかったが、どうやらできないようだ。
「まあ、そりゃ、そういうデータを集めて、対応策を練るのが仕事のところはきっと報告を待ってますもんね。でも、あれって時間掛かるじゃないですか……」
「めんどくさがるんじゃないわよ。国の管轄になるんだから協力は要請されたらちゃんとしなさいよ」
「は~い」
分かっている事を念押されるのはあまり好きではない。
少し間延びした返事に道端先輩は小さく溜め息を吐いた。
「まあ、体に異常がないのなら今はいいが、親の方は大丈夫なのか? 何か言ってきたりとか……」
山崎先輩としてはそこが心配なんだろう。もしオレの親がこんな危ないところ辞めさせるって言いだしたら、戦力が欠けるのは免れないだろう。
「特に何も言ってきてませんよ。今回はオレも親に特に伝えてないんで。多分疲れ切って帰って来たって認識じゃないですか?」
「う~ん。それは大丈夫なのか? だって、お前の母親、俺の事を箒で殴り飛ばしてくるような人じゃん」
その当時の事はよく覚えているから苦笑いする。
「その節はご迷惑をおかけしました。まあ、あの後は両親とも自分が決めたんなら構わないって言ってくれてるんで、大丈夫ですよ」
「本当か? 母親の方はかなり過保護な印象があるぞ」
「まあ、否定はしませんが、わりと自由にさせてもらってますよ」
そりゃ、大怪我したりしたら心配はされるが、それでもオレ自身が決めた事を頭っから否定する人じゃない。
「でも、お前だって何度か死にかけるような怪我してんだろう?」
それも否定はできない。
「まあ、その度に母は『そんな危なくても続ける気なの?』って聞いてきますけど、まだ辞める気はないって言うと、大人しく引き下がってくれますよ」
最初の頃は「辞めた方がいいんじゃない?」っていうのは散々言われた。でも、最近はそこまでではない。
「まあ、それならいいけど……」
いいのかどうかは少し微妙なところだが、先輩にとって親が口出ししてきたら対処に困るんだろう。
「しかし、あんたのお母さんってあの時本当に凄かったわよね。それを止めるお父さんもだけど」
道端先輩が過去を思い出して感心した声を出す。
「まあ、二人とも変わってますからね」
そう言うと、お前が言うのかという顔をされてしまった。
「いや、だって母さんは特殊だし、その母さんに変わってるって父さんは言われてるし……」
思わず砕けた言い方をしてしまった。
「特殊ってなんかあるの? 二人とも魔法の使えない一般人じゃないの?」
道端先輩は砕けた言い方は気にしていないようで、特殊という言葉の方が引っ掛かったようだ。
「ええ。二人とも魔法は使えませんよ。ただ、母の場合、魔法を物理で弾き返すっていう、かなりおかしな人なんで」
「は?」
そりゃ、理解できないだろう。普通じゃないもん。しかも、先輩達が在学中に話した事もないから驚くのも無理はない。
「偶に魔法は使えなくても、特異体質の人っているじゃないですか。たぶんそれなんですよ。だから母は放たれた魔法を素手で殴り飛ばせるような変な人なんですよ」
過去にその様子を一度だけ見た事があるが、かなり衝撃的だった。
「マジ? 今までそんな人見た事ないわ。確かに特殊ね……。そんな人に変わってるって言われるお父さんは何者なの?」
「何者って、会社員ですよ」
「それは知ってるわよ」
他の情報を出せと言わんばかりに睨まれた。
「え~。そう言われても……」
どう説明したらいいのかよく分からない。
「じゃあ、ご両親の馴れ初めは?」
何故、行き成りそんな話になる……。
「そんなのあんまり聞こうと思った事もないから知らないですよ」
「じゃあ、出会いは? いつ最初に会ったかくらい知ってんでしょ?」
何がそんなに気になるのか道端先輩は食いついてくる。
「確か、高校が一緒だったって言ってましたよ」
「じゃあ、高校からのお付き合い?」
「いえ、付き合ったのは社会人になってからって聞いてますよ」
詳しい事は知らないが、高校の時はそこまで関りがなかったらしい。
「ご両親でどこ出身?」
「えっと、東桜高校ですね」
魔法の使えないもしくはほとんど使えない人の通う高校で、偏差値はこの国一番と言われている高校だ。
「へ~。じゃあ、御両親とも頭良いんだ?」
「そうですね。二人とも学年首席だったらしいんで」
「ん? 歳離れてるの?」
そりゃ、同学年で二人とも首席とは普通言わないだろう。だが、うちの親は普通ではない。
「いえ、同い年です。二人とも三年間同じ成績だったらしくて……。卒業生代表の言葉をどっちが読むかってなったらしいです」
「結局どっちが読んだの?」
「母です。父は辞退したそうです」
父は目立ちたくなかったからと言っていた。父と母はこの時初めて真面に話したらしいが、その後は大学も違ったから関りが本当になかったらしい。
「そう。大学はどこ出身なの?」
「父は推薦で国立帝桜大学で、母は推薦蹴って自力で受けたいって言って恵王大学に首席合格したそうです」
今でも母さんは自慢げに言う時がある。
「は~。本当に頭良いのね。エグイくらい偏差値高いじゃない。国立と私立のトップの大学にそれぞれ通うって……やっぱり頭の良い親からは頭の良い子ができんのかしらね」
「それはどうなんでしょうね」
絶対にそうとは言えないだろう。オレは苦笑するしかなかった。
「で? 卒業後に再会してゴールイン?」
「あんまり詳しくは知らないんですけど、結婚したって事はそうなんじゃないですか? まあ、二人とも同じ会社に入社して再会したとは言っていましたけど……」
本当に詳しい事は知らないからこれ以上聞かれても答えようがない。
「でも、負けん気の強そうなお母さんがよくもまあ家庭に収まってるわよね。専業主婦だっけ?」
「あ~。それは色々あったみたいで……」
オレがそう言うと道端先輩は目を光らせた。
「色々って?」
話さないと引いてはもらえなさそうな雰囲気だった。
「最初母は、結婚はいいけど、専業主婦になる気はないって言っていたそうです」
「まあ、そんな気はするわよね。で?」
「それでも父は母に家にいて欲しかったみたいで頼み込んだそうです」
「ほう。折れて専業主婦になったと?」
「いえ、母がわりと難題を出して……」
「難題?」
これを初めて聞いた時はかなりエグイ事言ったなと思ったが、それをすんなりクリアする父さんも父さんだと思った。
「母は『私の収入を貴方の収入に上乗せした分稼げたら、専業主婦になってあげる』って言ったそうです」
パッと聞いたら、倍の年収稼げって事に聞こえる。だが、『現在』という言葉を言っていない時点で性格の悪さが出ている。
「えっ、何年掛かったのよ」
「それが一年も掛からずだったそうで、昇進とか他にも色々断っていた話を全部受けたら、年収換算した時に軽くそれを上回ったそうです」
時間を掛けてしまったら二人とも昇給した時に上回るのは厳しかったんだろう。
しかし、母さんも屁理屈捏ねたら働いたままでいられただろうに……。よっぽど父さんの稼ぎ方がおかしくて何も言えなくなったんだろうなぁ。
『じゃあ、専業主婦になってね』と父さんは母さんに言ったらしい。母さんも『女に二言はない』と言って専業主婦になったそうだ。
「はあ~。凄いっちゃ凄いわね。一般の人の年収がどのくらいか知らないけど、そんな簡単に年収倍にはできないでしょ?」
「普通はそうだと思うんですけどね。父は笑顔でやってのけたそうです」
だからこそ母さんに変わってるって言われるんだろう。
「まあ、出来の良い息子さん、娘さんを持ったご両親はさぞ自慢だったでしょね。
そう言えばお祖父さん、お祖母さんはあんたの事何か言ってるの?」
「あ~、オレ、父方にしても母方にしても祖父母に会った事ないんですよね」
「へ?」
意外だったのかあちこちからそんな声が漏れた。
「オレの目の能力を知った祖父母が『そんなの連れてくるな』って言ったらしく、母はブチギレて、父に関しては母が言うには今まで聞いた事のない重低音で『は?』って言ってから縁を切ったらしいです」
「縁切ったって……」
「まあ、オレ切っ掛けだったから、オレが会わなくていいだけなら、二人とも復縁したらって言った事はあったんですけど、母は『絶対ありえない』らしく、父は重低音で『は?』って言われましたよ。それ以降、祖父母の話はうちではタブーなんです」
父さんの重低音を聞いたのは後にも先にもそれ一回きりだ。
「いいの、それって?」
「良いも悪いも父も母もそういう感じなんで、これ以上は話しても仕方ないですよ。偏見っていうのはいつの時代でもある事ですよ。仕方ない事です」
いくら祖父母といっても会った事ない人達だ。そんな人達に何を言われてもオレは痛くも痒くもない。
「まあ、人の家の事情はそれぞれだけどね。というか、あんたの父親も怒る事もあるのね」
「怒るっていうか、押し黙らせたって言うかですけどね……」
もう一度聞きたいとは思わないような声だ。聞かずに済むのが一番だろう。
「なんかあんたのお父さんはニコニコして人当たりがいいイメージがあるのよね。確か西雲葉一さんでしょ?」
「よく父の名前知ってますね」
「まあ、顔が広いって言うか、ちらほらと話聞く事があるのよね」
確かに父さんは人望も厚いし、人脈もかなり持っている。
「だからって有名人でもないでしょうに……」
「まあ、そうかもしれないけど……。ちらっとあれからも見た事があるのよね。その時も基本笑顔だし、誰かと一緒にいても、どんどん人が周りに集まっていくっていうか……」
父さんは歩くだけで色んな人に声を掛けられるのは確かだ。だからその様子は容易に思い浮かぶ。
「それにかなりの遣り手だって話も聞くわよ」
「う~ん。父は仕事のできる人らしいですからね。本人はあまり仕事に関して話さないというか、普通だと言ってはぐらかされるんで」
だから父さんの仕事はあまり詳しく知らない。
「そんな人の奥さんも大変だとは思うけど、専業主婦なんでしょ? あんたの母親は」
「ええ。昔の知り合いとかは多いみたいで、母も顔は広いみたいですけど……」
「お母さんの旧姓って?」
「安住ですよ。安住満月です」
「そう……」
母さんの名前を言ったところで道端先輩が何か考え始めた。
「どっちにしても一般人なんで、先輩方もご存知ないんじゃないですか?」
「知らないけど、学歴聞くだけで調べたら色々出てきそうだけどね」
確かにそうだが、調べようとも思わない。
「でも、なんで行き成りオレの親の事なんて聞いてきたんですか?」
「ん~。ちょ~っと興味があっただけよ。気にしないで」
道端先輩はそれ以上答えるつもりはないようだった。
「ところで、昨日の事とかはもういいんですか?」
聞く事がまだあるのならさっさと聞いてもらった方が楽だ。
「取り敢えずはね。私達にしても上からの指示待ちよ。敵の居場所が一か所分かっても、私達は基本ここに派遣されてるから暫く出動はないわよ。動くのは他の待機中の人間よ。
それにさっきあんたが言ってた魔法具は、あんたが本調子になってからじゃないと手付らんないでしょ?」
「まあ、そうですね……」
今日やろうにも付与する道具が壊れかねない。
手を開いたり閉じたりを繰り返すが、やはりまだ魔力は上手くコントロールできそうになかった。
「逆に聞くけど、あんたは聞きたい事はないの?」
そう聞かれて少し考えた。
「あ~っと、オレが昨日その辺にまき散らした書類ってどうしました?」
昨日ここで目覚めた時に書類が散乱していたのは記憶がある。だが、今日来た時にはすでになかった。
「ああ、それなら……」
道端先輩がそう言うと、山崎先輩が部屋の隅に置かれたカゴを持ってきた。
「取り敢えず、集められる範囲はここに入れた。揃ってるかは分からんがな」
そう言って渡されたかごの中には無造作に入れられた書類があった。
「わぁ……」
所々折れ曲がっている書類が分類分けもされずに入れられている事に軽く絶望した。
それらを自分の机の上で分類分けしていく。
「俺らの場合、坂田に散々『触んな』って言われてたのもあったから、余計な事しない方がいいと思って、何もせずカゴに入れたんだが……」
その判断は懸命だ。
「そうですね。原因はオレなんで、自分で片付けるんで大丈夫ですよ」
先輩達は坂田先輩に「お前達が触れると書類を紛失するから絶対に触るな」と言われていた。
それを知っていたから、まだこの状態なのはマシだと思える。
分類わけをすると、書類が三枚足りない事に気付いた。
机の下を覗き込むと、隅の方に落ちている書類が目に入った。
それらを回収していき、所定の場所に戻した。
「足りなかったか? 悪い……」
山崎先輩が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえ、元は自分の所為なんで先輩が謝らないでください」
自分の魔力で舞い上がってしまった書類だ。自分の責任に違いない。
「これでヨシッと」
最後の書類を直しそう言うと、後ろから山崎先輩が声を掛けてきた。
「今日はどうする気だ?」
「そうですね。部活動をしている生徒もいるので見回りと、先生達には補習日程をどうするのか確認しないといけませんし、オレ個人は図書室に本の返却もしないといけないですね」
今日中に済ませないといけない事を挙げると、山崎先輩は他のメンバーの方を向いた。
「長月、師走田。お前らは風紀担当だろ? 見回り行け」
「はい」
山崎先輩は二人に指示すると、二人とも返事をして生徒会室を出ていった。
「……いいんですか?」
「お前が見せたあの情報の通りだったら、暫くは同じ奴が攻め込む事はない。なら、あいつらなら問題ないだろう」
つい過保護になってしまいそうな自分とは違い、山崎先輩は的確に判断していた。
「補習の日程は如月、お前が行け。会長だろ?」
山崎先輩が会長を軽く睨むと、会長は「は~い」と言って生徒会室を出ていった。
「で、西雲、お前は本の返却行ってこい」
「別に他の人に頼まなくても、他の事も自分でできましたよ?」
「お前は一人で仕事抱え過ぎだ。体調が万全じゃない時くらい他を頼れ」
山崎先輩はそう言うと、オレを後ろから蹴った。
恨めしそうに睨みながら、オレは返却する本を持って生徒会室を出て行った。




