Side 霜月蓮
どうにか無事に投稿できました。
今回は霜月蓮視点です。
如月が西雲に眠るかを聞くと、西雲は頷いてそのまま眠りについた。
それを確認すると、如月は西雲の隣に座り、自分の膝の上に西雲の頭を置いた。
それを見た神在がすっげぇ顔して睨んでる。
そんなのは気にならねぇのか、如月は西雲の頭に触れ優しく撫でてる。
俺は何を見せられてんだ? 気持ちわりぃ。
「えっと、それは必要があるのですか?」
毎度堅苦しい話し方をする長月が少しの動揺を見せながら聞いた。それに対して如月は微笑んだ。
「魔力の制御は対象者に触れてないと上手くできないの。葉月ちゃんは今、魔力の制御が上手くできてないの。だから、そこ見て?」
如月がそう言って指差した方を見ると、紙がふわふわと浮いていた。
「風、の魔法ですか?」
「ううん、魔力が溢れてるだけ。属性魔法じゃないの」
そう言って如月は自分の魔力で西雲を包んだ。すると、紙は静かに床に落ちた。
「えっと、では昨日も魔力を制御させる為に手を繋いでらっしゃったんですか?」
「うん。本当は触れている部分が多い方がいいんだけど、きっと葉月ちゃんは嫌がるだろうから」
困ったような笑みを如月は浮かべるが、触れてる部分が多いって事は抱きしめるって事だろ?
誰がそんなん見たいんだよ。
膝枕の理由が分かってからも神在は如月を睨んでる。
しかし、流石に驚いた。
いつも西雲は何の感情もないような顔をしてるか、人の事見下げたような目をしてるくせに、今日は眼鏡も掛けてなかったが、ぽやっとして警戒心なんてものはない人畜無害そうな顔をしていた。
それにいつも纏ってる魔力がほとんどない。
それに眠ってるこの状態を見たら、誰もが童話に出てくる王子を思い出すんじゃないかって思う。
童話の王子としてよく書かれてるのは金髪碧眼だが、偶に黒髪の奴もいる。
まあ、子供向けの本だからそれはどうでもいいけど、兎に角どの奴でも書かれてるのは眉目秀麗、つまりイケメンだ。
こいつも眠ってたらイケメンって言えなくはねぇだろう。
その所為か睦月野も白縫も遠巻きながらチラチラ見てる。ガキでも女は女か。
陶器のように白い肌、長い睫毛、通った鼻筋、パーツ一つ一つも整ってやがる上に、強い魔力、圧倒的な力、頭の出来も良いとなりゃムカつく事この上ない。
そんな奴が今はすやすやと気持ちよさそうに眠ってやがる。普段見せやしない無防備な姿に驚いたのは俺だけじゃないのは確かだ。
それにしても昨日とは打って変わってって感じだな。
昨日の通信機から突然聞こえた声は普段とは少し違い、焦りがあったように聞こえた。
俺はその時、教室でグダグダしてた。
その時に聞いたそれはいつものような細かい情報もなく、少し動揺した。
駆けつける途中に神在と合流した。
すると、目の前に長月と師走田が見えた。二人も走っていた所為か、距離は縮まらなかった。
そして、俺の後ろの方で卯月谷と佐々山もついて来ていた。
もうすぐ着きそうな辺りで、山崎と道端が長月達と合流するのが見えた。
そして到着した時に俺が見たのは、空を逃げる人影と西雲がこの間見たと思しき侵入者の少女、体勢を崩しそうな西雲、その足元に転がってる数人の軍人。
正直何が起こったのか分からなかった。
ただ逃げる奴を見た卯月谷のフードから除く顔がいつもより青ざめてる事しか分からなかった。
師走田と長月が西雲の肩を支え、生徒会室に運んだ。俺はそれを見る事しかできなかった。
山崎と道端は軍に連絡したり、倒れてる奴の救護支援を要請していた。
生徒会室に行くと防御担当の三人がいて、西雲の様子を見て全員が慌てた。
応援に間に合わなかった水無月もすぐに生徒会室に入ってきて、その様子を見て明らかに驚いていた。
山崎は軍の事は道端に任せたようで、すぐに生徒会室に来た。
その辺りだった。西雲が呻いて、突風が巻き上げた。
行き成りの事でみんな驚いていた。
「なんだ? 魔力の暴走か⁉」
そう言ったのは長月だったが、山崎がすぐにそれを否定した。
「違う。普段は循環できている魔力が滞って溢れてるだけだ。如月!」
如月は名前を呼ばれる前に吹き荒れる風を突き進んでいた。
頬も手も足も風に切り裂かれ、あちこちに傷ができていたが、それも気にせず、ただ西雲の元へと足を進めていた。
そして西雲の側に着いて、手を伸ばした。
西雲に少し手が触れたところで西雲は如月の手を振り払った。
如月は振り払われた手を呆然と見た。
「如月!」
山崎の怒鳴り声に如月はハッとして、再度西雲に触れた。
すると、さっきまで吹き荒れていた風は嘘のように収まった。
一体なんで収まったんだ? そう思いはしたが誰も口を開けなかった。
風は収まっても苦しそうに呻く西雲は脂汗が滲んでいた。
いつも余裕な姿しか見た事のないこいつがこんなに苦しむような相手に俺らが勝てんのか?
たぶんここにいるほとんどの奴が思っただろう。
正直頭がついていかなかった。
もし、駆けつけたのが西雲じゃなく他だったら? もし俺だったら?
そんな事をぐるぐると考えていたら、西雲はいつの間にか呻き声を止めていた。
そして微かに聞こえた声。
その後は眠ったようだが、眉間に皺が寄っていた。
眠っていたのもほんの数分だけだった。
起きてからは道端が帰ってきて怒られていた。
対策がある? ならなんでそれを実行しない?
話を聞いていて色々ムカついた。
でも、こいつだからできる事なんだろうと思った。きっと俺じゃできない。それが悔しい。
いつも余裕で色んな事をやってのけるこいつが嫌いで、自分にはできないと思い知らされるのがこの上ない程に悔しい。
そんな事を考えていたらフードを被ってた敵の話になった。
そいつの話が出てからオレはずっと卯月谷の方を向いていた。
そしたら、卯月谷は顔面が真っ青で今にも発狂しそうだった。
結局、敵の片方の正体は卯月谷の弟だった。卯月谷の過去に何があったかは知らねぇ。でも、気が狂いそうな程の事だったんだろう。
自分の弟をそこまで恐れ、嫌うような事があったんだろう。
俺はこの時、霜月の家に生まれて良かったと思った。
他人事でしかない。なのにあいつは卯月谷の肩を掴んで『大丈夫だ』って言ってた。
普段、人に関わろうとしないくせに、本当に困った奴がいれば放って置けないそんなお人好しなのもイラっとする。
西雲は話してる時だってかなり消耗してたんだろう。顎を伝って汗が流れ、顔色だって悪くなっていた。
結局その日、西雲は如月に付き添われ帰っていった。
そして残された俺達は少し暗い空気が漂っていた。
卯月谷は感情が抜け落ちてんのかってくらい表情はなかったが、顔色はいつもくらいに戻ってた。
他の奴はそわそわしていた。
そんな中、師走田が口を開いた。
「こんな、副会長ですらあんなにダメージを受けるような敵と戦うなんてできない! 俺は抜けさせてもらう!」
師走田は元々学生業に重きを置いていた。だから生徒会が授業や部活動より優先されるのには最後まで納得はしていなかった。
だからこう言い出すのも分からなくはなかった。
だが、それを許さないのが一人いた。
パンッという音が響いた。
見ると神在が師走田の顔を平手で引っ叩いていた。
呆然とする師走田の前には肩で息をする神在が立っていた。
神在は師走田を睨み付け、怒鳴った。
「勝手な事をおっしゃらないでください! 私達より幼い子達も戦っているんですよ⁉ それを行き成り抜けるなんて、それでも殿方ですの?」
師走田は睨み付けてくる神在から視線を逸らし、叩かれた頬に手を当てた。
「すまない。取り乱した……」
「いえ、私も叩いてしまい申し訳ありませんでした」
神在は叩いた方の手に逆の手を添え、師走田から目線を逸らした。
その遣り取りを始終見ていた山崎が手を叩いた。
「自分が戦えるか分からない敵に怯えるのも分かる。今回は軍人も勝てていないような相手だ。そんな相手に学生のお前らに命張れとは俺は言わない。でもな、今は誰かがここから抜けるって事はされちゃ困る。だから悪いが、学園に頭下げてでも生徒会を抜ける事はさせてやれない。そのくらい危うい時期なんだ。それは分かってくれ」
その言葉にほとんどの奴が俯いた。
まあ、辞めたいつって、はいどーぞなんて言ってもらえるわけがない。
生徒会を辞めれば退学は免れない。退学するって事は家に迷惑がかかる。家の名がある奴らはそれができない。
俺もそれがあるからそう簡単には辞められねぇ。
師走田も分かっていただろうが、それでももう我慢の限界だったんだろう。でも、自分より年下の神在にあんな風に言われたんじゃ辞めるに辞められないだろうし、山崎の言う事もある。
辞めるってのは今はどう足掻いてもできねぇ。
それはみんな分かったんだろう。少し沈んだ空気が流れてる。
「……今日は、全員帰っていいぞ。頭がついていってないんだろう。少し休め」
山崎はそう言って全員を家に帰らせた。
俺も大人しく家に帰った。
それからもずっとぐるぐると今日の出来事が頭ン中を回ってた。
自分より戦闘経験があるだろう人間がやられてて、西雲ですら相手の魔法を食らった事。捕縛魔法が弾かれたって言ってた事。精神系の魔法であんなに苦しむ事も初めて知った。
きっと自分にできる事なんてない。そう思うとあんまり眠れもしなかった。
だから朝になったら頭はスッキリしないし、体もなんとなく怠かった。
それでもいつも訓練する為に早めに登校していた癖が残ってるのか、その時間に登校した。
いつもならその少し後に西雲が登校してくるが、今日は違った。
結局、西雲が登校したのは如月を除いた他のメンバーが登校してきてからだった。
如月はいつもいつの間にか来てるから、いつ登校してるのか分からない。
今日もいつの間にかカバンは置いてあったけど、登校してきたところを見てない。
今日は生徒会室に一番乗りで鍵を開けたのは俺だ。その後もずっと居たのに生徒会室に入ってきたのは見ていなかった。
いつカバンを置いたのか疑問に思ってたら、本人は西雲の手を引いて慌てて生徒会室に入ってきた。
西雲は眠そうな顔でポヤポヤして、結局寝ちまった。
そして今に至る。
変な空間が嫌すぎて昨日の記憶整理しちまったわ。
しっかし、いつまでこうしてんだ?
いっその事どっかほっつき歩こうかとも思ったが、昨日の今日だ。
一人で歩いて何かあった時に自分だけで対処できる自信がない。
だから生徒会室で大人しくしてっけど、いい加減飽きた。
椅子にもたれて不機嫌にしていたら扉が開いた。
入ってきたのは山崎と道端だった。
「おはようございます」
他の奴らが言うそれに便乗するように語尾だけを合わせた。
「うっす」
「おはよう」
それぞれがそう返すと、二人とも西雲と如月を見た。
「あら、懐かしい取り合わせね」
道端がそう言った。
「懐かしい、ですか?」
そう言ったのはあまり聞き慣れない声だった。木瀬……だったか?
いつの間にか入ってきてたそいつがそう聞いた。
「そうよ。私らが高校三年生だった時に西雲は小学一年でね。わりと寝る事が多かったのよ」
意外だ……。今なんか眠ってる印象の方が少ない。下手すると眠らないじゃないかって思ってた。
最初に眠るっていう認識を持ったのはいつだったか……。西雲が間抜けにも、ボールがぶつかって意識を失った時か?
その時でも気を失うであって、眠る印象じゃなかった。昨日のも苦しげでとても眠っているという認識は持てなかった。
「この子、魔力量が多いのは見て分かるでしょ? 最初は体力なくて、魔力と体力のつり合いとれてなかったのよ。だから魔力が溢れる事も多かったし、体力だけが尽きて眠る事も多かったのよ」
山崎は道端の話を皮切りに過去話をし始めた。
「一緒に歩いてても突然いなくなったと思ったら数メートルくらい前で寝てたり、走り込みの最中に眠って水掛けても起きなかったりってのもあったな」
くつくつと喉を鳴らしながら話す山崎はどこか楽しそうだった。
「まあ、眠ってるだけならいいけど、魔力が溢れてる時はこうして如月が魔力の制御を掛けてたのよ」
道端はそう言って西雲と如月を指差した。
「触れないとできないのですか?」
木瀬が如月に尋ねた。
「遠隔だとどうしても調節しきれなかったり、一瞬だけしかできないんで、安定的に継続する場合は触れていた方がいいんです」
「そうですか……」
何を考えているのかよく分からない木瀬はそれだけを言った。
「しっかし、こうしてみるとまだ子供って感じだな」
山崎はそう言いながら笑った。
「まあ、普段は眉間に皺が寄ってる事も多いし、警戒し続けて気が張ってるみたいだからね。こんな安心しきって眠ってるなんてあんまりないんじゃない?」
道端はそう言って西雲の頬を突いた。西雲はそれでも起きなかった。
「でも、ムカつくわね。何この肌。スベスベじゃない」
そう言いながら西雲の頬を突き続けていたが、如月がその手を払いのけた。
道端と如月の目が合うと、ピリピリとした空気が流れた。
「この間見た子と同一人物とはあまり思えないのは事実ですね」
木瀬が感心したように言う。
「まあ、普段は本当に気を張ってるからな。それでもまだ学生である事には変わりないんだ。
……本当はもう少し休ませてやりたいが、こっちの仕事も進まんようになるしなぁ」
山崎は少し困ったような声を出した。
「葉月ちゃん、かなり魔力のバランス崩れてて起きる事も難しかったから、無理やり起こしても使い物にはならないですよ」
如月がふくれっ面でそう言った。
「マジかぁ。起きるまで待つしかないのか……」
山崎がそう呟くと西雲がもぞもぞと動いて寝返りを打った。
そして、何か感触に違和感でもあったのか、如月の太腿に少し触れて薄目を開けた。
何を考えてるのかよく分からなかったが、寝起きで頭が回っていないようだった。
ぼんやりした顔で上を向くと如月と目が合い、その目を今度は下に向けた。すると、自分の手が如月に触れているのに気付いたらしく飛び起きた。




