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Side 神在月乃

今回は神在月乃視点です。

 西雲先輩は眉を吊り上げ、怒鳴ってから生徒会室を出ていってしまった。

 ど、どうしましょう! お、追いかけた方がいいのかしら?

 一人でパニックになっていると、山崎さんと道端さんは笑い出した。

「あ~あ、変わんないわね。あの子」

「まったくだな」

 二人して笑うが、私には何で笑っていられるのかが分からなかった。

「あら? みんなあの子が怒って出てったと思ってる?」

 道端さんがそう尋ねて、みんなが頷く。会長だけは首を横に振っていたけど……。

 あれだけ眉を吊り上げて怒鳴って出ていったんですもの。怒っているとしか思えませんわ。

 それを道端さんは手を振って否定した。

「違う違う。あれは恥ずかしがって逃げたの」

「昔からだな。恥ずかしがると逃げんのは」

「そうそう。それを内海か瀬野のどっちかに捕まって引き摺られて連れ戻されてたのよね。その時にあちこち擦り剝いて泣いてたわね」

 二人は思い出を語りながら笑っている。

「副会長の幼い頃って全然想像ができません」

 そう言ったのは長月先輩だった。

 私も話を聞いても想像できなかった。

 だって、西雲先輩は真面目で優しいところもあって、涙も弱いところも見せない、完璧と言うに相応しい方ですもの。

 それなのに先輩達が語る西雲先輩は、泣き虫な少年のようにしか思えませんわ。

「今はたいぶと気ぃ張ってるみたいだもんね」

「だな。あそこまで笑わなくなってるとは思わなかったよ」

 二人は過去と今の西雲先輩を比較したのか、苦笑している。

「副会長はあまり笑われる印象がないのですが……」

 長月先輩の言葉にみんなが頷いた。

 私だってそうだわ。あの時以外、ほとんど笑っているところは見た事がない。あっても微かに目元を和ませる程度ですもの。

「まあ、昔っから声出して笑うって程ではなかったけど、偶ににこっと笑う事はあったよ」

「そうね。その度に小浜は可愛いって言って抱きしめてたわね」

 私の知らない女性に抱きしめられている西雲先輩を想像して少しムッとしてしまった。

「小浜は西雲と如月の事をよく『うちの子』って言って可愛がってたもんな」

 そう言われて、母親が子供を可愛がる姿が浮かんだ。

 確かに幼い頃なんだから、そっちの方が近いのかもしれませんわ……。

 少しホッとした。

「写真とか残ってないんか?」

「内海ならデータ持ってるでしょうけどね。私が卒業する前に西雲の家訪ねて、ご家族に写真渡したもの。学校行事は参加させてあげられなかったから、せめてと思って持っていたのよね。その時は母親に渡したのよ。かなり喜んでくれてたわよ。お茶まで出してくれたし」

「母親って……、あの時俺を箒でぶん殴ってきた母親か……」

 道端さんの言葉に山崎さんはげんなりした。

 箒って一体……?

 それについては水無月先輩も疑問に思ったようだった。

「箒でって……一体何があったんですか?」

「ああ、西雲が最初の頃、熱出して三日間くらい休んだ事があったんだよ。そん時に親が学校辞めさせようとしてるって話が出てたから、家庭訪問つったらいいのかな? まあ、様子見をかねて家に行ったんだよ。インターホン鳴らして如月魔法学校の生徒会長の山崎ですって言ったら、箒構えた女の人が出てきたんだよ」

 その様子を頭の中で想像していく。

「私もついて行ったんだけど、凄い気迫だったわよ。私はどうにか避けたけど、ヤマはそのまま殴られたもんね」

「ああ、速い上に一撃一撃が重くってとても一般人には思えなかった」

 言葉を聞くに何回も攻撃を受けたんだろう。

 あまり隙のあるような方ではないのに攻撃を受けるとは、西雲先輩のお母様って何者なのかしら?

「まあ、あん時は本当に激怒してたもんな。『うちの子になんて酷い事してんのよ!』って何度も叩かれてたら、その騒ぎ聞きつけた西雲と西雲の父親が来て、どうにか収集は付いたけどな」

「そうね。あの時は西雲も熱が下がったっていても微熱程度はあったんでしょね。少し赤い顔してたのに母親見て青ざめて『お母さん、止めてよ』って言って母親の足にしがみ付いてたし、父親は母親羽交い絞めにして『他所様に行き成り殴り掛かったら駄目だよ』って言いながら家の中に引き摺って行ったのよね。あれは流石に吃驚したわ」

 二人して思い出してから少し疲れたような顔をした。

「まあ、子を思う母は強しって事だろうな。取り敢えず、そん時は西雲とも話して学校辞める事は結局なかったから良かったけどな」

「あれね。西雲のお父さんが冷静で話聞いてくれる人で助かったわよね。じゃなきゃ、あの母親だけなら学校に乗り込んできて、強制的にでも転校手続きしてたわよ」

 道端さんは遠い目をした。

「副会長のご両親って一般人で合ってるんですか?」

 長月先輩が疑問に思った事を口にし、道端さんがそれに答えた。

「そうよ。特に家柄とか継いでいってる家業もないし、母親は専業主婦で父親は会社員だもの。それに両親とも魔法は使えないそうよ」

「そんな中で副会長はかなり強い魔力を持って生まれたという事ですか?」

「まあ、そうなるわね。魔力や能力は別に遺伝ではないから何もおかしくはないでしょ?」

「まあ、そうですけど……」

「だからあの子はここに入ってからやっと魔法の使い方を覚えたのよ。あんたらは幼い頃から訓練やらなんやら家ごとであったでしょけどね」

 そう、私の家だって色々ありましたもの……。でも、一般のご家庭ではきっとそんな方針も何もないのでしょう。

 それでも西雲先輩は今あれだけ強いというのは、この学校で相当の訓練を積まれたという事でしょう。本当に凄い方。

「私もヤマも軍人の家だったから訓練なんて当たり前だったけど、一般人だとそうじゃないもの。それが原因で体調崩したとなるとそりゃ親も怒るでしょうね。本当に父親があの人で良かったって思ったわよ」

「西雲の父親って普通の会社員じゃなかったか? 知ってんの?」

 山崎さんはご自身の知らない情報を道端さんが持っていると判断したのか、そう尋ねた。

「私も社会人になってから知ったのよ。わりと顔が広い人らしくてね。色んな会社から引き抜きの話も出てるらしいけど、全部断ってるそうよ。

 仕事はできるし、ふんわりと笑う人だから色んな人から悩み相談も受けたりしてるそうよ。クレームが来ても、その人が話してると相手はなんで怒ってたのか忘れるくらいに穏やかな人らしくて『仏』って言われてるそうよ。

 まあ、悪い事を隠蔽するような人は許さないらしく、適切な判断力もあるっていう話は聞いてるわ。

 誰か特定の人を味方するわけでも、敵になる気もないらしく、多方面から取り合いにはなっているらしいけど、本人は笑顔で全部断ってるそうよ」

「ある意味強者だな」

 実際にお会いした事がないけれど、話を聞くだけで凄そうな方だわ。そんな方が一般人だなんて……。

「まあ、そんな二人の間に生まれたのが西雲だからね。将来どうなるかよね。この学校通ってる間にどこか良い所のお嬢さんに惚れられでもしたら、場合によっては一般人じゃなくなるしね」

 ニヤニヤしながら語る道端さんにムッとしていたら、突然高い声が響いた。

「そんなのダメ!」

 その声の主は会長だった。

「ダメって、西雲はあんたの物じゃないでしょ?」

「そ、それはそうだけど、ダメなの」

 ダメって……。私だって、他の方に取られたら嫌ですけど、ダメと言う権利なんて……。

「あんたねぇ。西雲だって大きくなってってんのよ? 恋愛的には好きってわけじゃないって言うなら、いい加減手放してやったら?」

 道端さんの呆れた声が響く。

「で、でも……。他の人に葉月ちゃんはあげられないの……」

 あげられないって、貴女の物ではないでしょう?

 本当にイライラする。

 キッと睨みながら話の顛末を見守る事にした。

「はあ。あんたはいつもそう。『守ってあげるのは私』。それをいつまで続けるの? 西雲はもう自分でも魔力の調節はできるようになってる。一人でも戦える。守られるようなんじゃなく、守る側で活躍できるようになってる。それなのにいつもいつも同じ。『私が守るの』。それをいつまで続けるの? あんただって、今年卒業でしょう? いい加減になさい」

 道端さんの威圧が強く、空気がビリビリと揺れる。

「……よ」

「は?」

 よく聞こえず、道端さんが聞き返す。

「先輩には、分からないよ。私は葉月ちゃんが大切なの。葉月ちゃんの事は私が守るって決めてるの。それを邪魔しようとする先輩なんて嫌い」

「嫌いで結構」

 珍しく人を睨む会長とそれをものともしない道端さん。どちらも引く気はないと言った様子だ。

「あ~。お前らストップ」

 その間を割って入ったのは山崎さんだ。

「ヤマ。止めないでもらっていい? いい加減このお嬢様には分からせないといけないでしょう?」

「何を言っても分からない先輩に話す事は私はありません。聞く気もありません」

「だー、もう。女の喧嘩を大勢の前ですんな。つーか、道端もあんま突っかかんな。どうせ、西雲は気付いてないだろう? だったら放っといても問題はないだろう? 如月も自分が言ってる事ちゃんと理解してんのか? お前が今年で卒業なのも事実。西雲はこの学校を卒業したら一般人だ。それ以降は人生に介入は難しくなってくる可能性がある事は頭に置いておけ」

 珍しく真っ当な事を言う山崎さんに二人は黙った。

 その様子を見て山崎さんは頭をがりがり掻いた。

「如月は西雲の事を放って置けない原因は自覚してるんだろう?」

「原因って……そんな言い方しないでください」

 会長は両手を握り、震わせていた。

「なあ、今のメンバーはお前らの事をどのくらい把握してんだ? 俺達は学校側からある程度、話があったから知ってるが……」

「私と葉月ちゃんの事だもん。他の人には関係ない」

 他人だと割り切っている言い方。本当に虫唾が走る。

「別に全部話せとは言わない。でも、隠し事をしていれば人から信頼を得にくくなるのも事実だ」

 山崎さんが静かに言うけど、会長は口を開かない。

 そんな会長を見て、山崎さんは溜め息を吐いた。すると今度は私達の方を向いた。

「こいつは小学一年時に入ってきたら校舎の結界だけ張って、長い間、学校サボってたんだよ」

 山崎先輩は会長を親指で指しながら話し始めた。

「如月家のお嬢様で魔力も強い。だから入学前から生徒会入りは確実だと言われてきた。そんな人間がいざ入ってきたら結界だけ張って後は自分に関係ないって顔して学校に来なくなったんだよ」

 そう言ってから山崎先輩は会長をちらりと見た。

 会長はそれに気付いたのもあってか、溜め息を吐き、私達の方を向いて話し始めた。

「学校には興味もなかったし、生徒会って言われてもあんまり興味を持てなかった。

 そんな時に自分の家の近くの子で、珍しい能力を持つ所為で周囲からあまり良く思われていない子がいるらしいって聞いて、興味を持ったの。

 最初は少し覗いたら帰ろうと思ってたの。でも、窓から見たその子は凄く小さくて、魔力が強くて、ちょっとした事でも壊れてしまいそうな、そんな印象の子だった。その子が葉月ちゃんだった。

 窓をノックしたら、その子は私に気付いて慌てて物陰に隠れようとしたの。だから声を掛けたの。『少し、お話ししない?』って。

 でも、中々返事を返してくれなかった。それが少しじれったくって、『私と遊ぼう? お話ししよう?』って何度も声を掛けてたら、葉月ちゃんのお母さんが私に気付いてお家に入れてくれたの。

 吃驚した顔の葉月ちゃんは目をまん丸くして凄く可愛かった。

 でも、すぐに目を手で隠して叫んだの。『近付いちゃダメ! 見られたくないものを見ちゃうんだ。だから近付いちゃダメ!』って言ってから泣き出しちゃったの。

 その時になんて優しい子なんだろう。みんなそれが嫌でこの子を嫌うなんて酷い事をしているのに、この子は人の事を思って泣く程の優しい子なんだって思った。

 だから『大丈夫。見られても平気だよ』って言って側に行ったら、『本当?』って言ってきたから『ホントだよ』って答えたの。そしたら笑顔を向けてくれて、すっごく可愛かった。

 こんな可愛い子を他の人は能力だけで嫌うなんて、なんて酷いんだろうって思った。でも、私が側にいたら誰も何も言わない。だから側にいたら守ってあげられるって思った。でも、違った」

 向かいを思い出しながら語る会長は微笑んでいて、それが幸せだったと言わんばかりだった。けど、一瞬にして表情が失せた。

「葉月ちゃんは体が弱くて、いつ魔力の暴走が起こってもおかしくなかった。それには気付いていた。でも、私は見て見ぬふりをしていた。

 最初の頃は外に出る事もなかったけど、だんだん外にも出るようになって、その頃には私の事を『弥生おねえちゃん』って呼んで、よく私の後を追いかけてた。

 そんなある日だった。葉月ちゃんは魔力の暴走を起こした。

 『痛い』、『助けて』、『怖い』。そう言って助けを求めてたのに、私は何もしてあげられなかった。

 結局私の周りにいた大人達ががどうにか魔力の暴走を抑えて、葉月ちゃんは一命をとりとめた。でも、葉月ちゃんは右目の能力も、視力も失った。

 そして、目を覚ました葉月ちゃんは私と過ごした思い出を全部忘れてしまったの」

 その言葉にみんな驚愕した。

「いつか、思い出してくれるかもしれない。そうじゃなくても、あの日何もできなかったからこそ、今度は守ってあげないとって思ったの。あれから私は葉月ちゃんの事だけは絶対に守るって決めたの」

「……西雲はやっぱりその時の事は?」

 山崎さんが尋ねると、会長は首を横に振った。

「そうか……。お前が突然学校に来て、守る為の術が欲しいって言い出した時は他のメンバーも驚いたよ。今までサボってた癖にって言う奴もいた。それでも、それからは訓練も真面目に取り組んでたからとやかく言う奴は減ったけどな。

 でも、お前は本当に守るっていう意志が強すぎるのもあって、防御とサポートに全振りしてるからな」

 山崎さんは若干呆れた顔をした。

「そうね。攻撃魔法も使えなくはないけど、防御やサポートに回り続けてるものね」

 道端さんの言葉にみんな驚いた。

「攻撃魔法使えたんだ……」

 そう零したのは佐々山君だった。

「あんまり表立って使わないからみんな知らないでしょうけど、使えなくはないのよ。それでも本人は防御に徹してるけどね」

 道端さんの呆れた声が会長を責める。

「どうして、ですか?」

 師走田先輩がそう尋ねた。きっとみんなが思った事だろう。

「……貴方達にはきっと分からないでしょうね。私はそうであるべきだからそうしているだけよ。それに、守る力が強ければ、葉月ちゃんを守れるもの」

「身勝手だ」

 その言葉に誰もが同意した。

「そうよ。私は勝手よ。分かってる。でも、それで葉月ちゃんが守れるならそれでいいの」

「でも、離れた場所にいたのなら結局守れないんじゃないですか? 貴女は戦っている時はまるで塔の中のお姫様のようだもの。安全なところにいるのは貴女じゃない」

 水無月先輩が会長に鋭い目を向ける。

「……私は、一人だけなら遠隔でも結界を張れるわ。いざとなったら私は迷わず葉月ちゃんに使う」

 それはきっと私達の誰かが瀕死になっても助けないという事だろう。本当に身勝手。

「でも、それをしたら葉月ちゃんは悲しむんだもん。それはしたくない……」

 会長のその言葉で、会長の中心にあるのが西雲先輩なのはよく分かった。でも……。

「本当に身勝手。それが分かっているならどうして……!」

 私はこれ以上言葉が出なかった。

 どうして貴女は普段笑って西雲先輩の側にいるの? どうして前線に立たないの? どうして、そんな身勝手な事を私達に言うの?

 言いたい言葉なんていくらでもあった。でも、声に出せなかった。

 代わりに出たのは涙だった。

「月乃ちゃん……」

 泣いている私に会長が手を伸ばしてくる。

「そのように呼ばないでくださいませ。貴女のような方がどうしてそう優しいフリをなさるの? どうしてあの方の側で平然としていられるの? どうして……!」

 会長は差し出しかけていた手を引っ込め、痛々しい程に儚い笑みを浮かべていた。

「許されないのは分かってるの。それでも、私は葉月ちゃんの側にいて、葉月ちゃんを守りたいの」

 純粋さと汚さが入り混じっているのに、どうしてこういう時のこの人は綺麗に見えるのだろう。

 悔しい。知らない方が見ればきっと清廉な人に見えるだろう。誰からも愛される。見た目も頭脳も秀でていて、みんなから優しいと言われている会長。

 それが本当はこんな私欲に塗れ、それを押し通そうとするような人なのに……。

 私が何も言えずに黙っていると山崎さんが告げた。

「いつかは終わりが来る。お前と西雲の関係性もそうだろう。何か変化が起こるのなら今の関係性はいつか終わる。

 それに、西雲がこの学校に入ったのはお前が原因だろう?」

 意外な言葉にみんなが山崎さんを見た。

「気付いていらっしゃったんですか?」

「気付いてたって言うのは語弊があるな。俺も元会長だぞ? 学園入学者の情報くらい学校側から聞かされている。何かある生徒ならなおさらだ」

「そう、ですね。先輩の言う通りですよ。小学一年の時に駄々をこねたんです。『葉月ちゃんと一緒じゃないと学校に行きたくない』って。それをお祖父様が聞いて、それで葉月ちゃんはこの学校に入る事になった」

 一般人の入学は少ないがあり得ないわけではない。歴代の生徒会メンバーの中でも一般家庭の出の方はいらっしゃったと伺っている。

 だからあまり疑問には思っていなかった。

「それは、副会長自体はご存じなんですか?」

 長月先輩が手を挙げ、質問した。

「あ~、どうなんだ?」

「私は、言ってないです……」

 この学校の事情に巻き込んでしまったという自覚はあるのだろう。会長は気まずそうにしていた。

「まあ、人生に大きく関わっている事なんだから、それとな~くでいいから、本人には伝えるなり謝るなりしといたらどうだ?」

 知らないままでもいいんだろうが、気まずく思うならという山崎さんなりの配慮なのだろう。

 それに対し、会長は少し俯いた。

「それでも、あんたが恋愛感情じゃないっていうなら西雲には自由に恋愛させてやったら?」

 道端さんは話を蒸し返した。

 少し不機嫌そうな顔をした会長は道端さんの方を見た。

 けれど、道端さんは気にしていないようだった。

「だってねぇ。神在は西雲の事が好きなんでしょう?」

 行き成り投げられた話題に私は顔を赤くした。

「えっ、どうして……!」

「どうしてって、見てたら分かるわよ。気付いてないのってこの中じゃいないんじゃない?」

 そう言われ周りを見ると、恋愛に疎そうな長月先輩や師走田先輩にすら気付いていたという顔をされた。

 えっ、気付かれていないと思っていたのは私だけ? では、西雲先輩も?

 頭が沸騰しそうになっていると、咳払いが聞こえた。

「あ~、たぶん西雲は気付いてないわよ」

「だな。あいつだからな」

 山崎さんは腕組しながら頷いていた。

「えっ、えっと……」

 そう言われても頭が回らず、声にならなかった。

「もしかしなくても副会長って鈍いですよね?」

 長月先輩が二人にそう尋ねると、二人とも大きく頷いた。

「なんせ、あいつは鈍感魔王って言われてた程だからな」

「そうそう。明らか好意持ってる子に呼び出されたにも関わらず、それに気付かず『早く生徒会の業務に戻らないといけないんだけど』って空気も読まずに言って、平手打ちを食らった事もあるような子だからね」

 そんな事もあったんだと内心感心してしまった。

 けれど、それなら私の想いには気付いていないのだろうと少し安心した。

「でも、神在はそんなあの子が好きなんでしょ? もし告白して上手く言ったら付き合えるかもよ? そうじゃなくてもあの子が卒業後も連絡取り合えたら希望はあるんじゃない?」

 道端さんが悪魔のような囁くをしてくる。

 それを真に受けて西雲先輩とお付き合いができたらなんてって想像してしまう。

「で、なんであんたは西雲の事が好きなの? お姉さんに聞かせてみなさい」

 道端さんは私の顔の輪郭をなぞりながら聞いてくる。

 空気に飲まれ、私はおずおずと口を開いた。

「あの、最初は苦手というか、噂で怖い方と伺っていて、その時は私も魔法が真面に使えなかったので威圧もあって、怖く感じておりましたわ……。そんな時、生徒会入りのお話を受けて、気まずくは思ったんですが、生徒会に入りましたの。

 わ、私、自分の見目があまり好きでなくて……。こ、この髪とか特に嫌っておりましたの」

 最初はわくわくした顔をしていた道端さんが、行き成り自分の容姿のコンプレックスを話す私に首を捻った

 でも、その時は本当に嫌いだった。

「この見目はお祖母様にそっくりで、お祖母様は神在の中でもあまりよく思われていない方で……けれど、後継ぎがいるのはお祖母様だけだったので、仕方なくその子供であるお母様が神在を継いだんです。けれどこの見目で魔法を使えない私に神在の家の者はみんな落胆していて、だから私も私自身が嫌いだったんです。生徒会に入ってすぐもまだ嫌いでしたわ」

「つまり今は好きなの?」

「好きって程ではありませんが、少しは以前より嫌いではなくなりましたわ」

 そのきっかけは西雲先輩だった。

「どうしてもこの波打つ髪は絡まりやすくて、風の強い日に中庭の木に引っ掛かってしまったんですの。その時は本当に嫌いで切ってしまおうかと思う程に嫌いで……。

 無理にでも引っ張って取ってしまおうとしていたんです。そんな時に西雲先輩が現れて、その時はまだ怖く思っていたので逃げる事もできなくて怯えてしまいましたわ。

 けれど、西雲先輩は『ごめんね』と声を掛けてから絡まった髪を解いてくださったんです。

 最初は分からなくて解き終わった後、そのまま去っていく西雲先輩を見送る事しかできませんでしたわ。

 その後、お礼を言いたくて機会を窺っていたんです。その度に他の方に気遣っている西雲先輩を見かけて、ご自身に怯える方の前では威圧を抑えているのも見かけて、ああ、なんて優しい方んだろう。どうして怖いなんて思っていたんだろうと思って……。

 その、す、好きなどと私が言うなんておこがましいと思いますし、そのこの程度で本当は好きなどと語る資格などあるのかどうか……」

 話していくうちに顔がじわじわと熱くなり、最後の方は誤魔化すように話していると道端さんに手を握られた。

「もっと自信持っていいわよ。それを恋と言わずなんて言うのよ。もう応援しちゃう! なんて可愛いのかしら」

 キラキラした目でそう言ってくる道端さんに、私はより顔を赤くした。

「おい、道端。あんま余計な事すんなよ」

「いいじゃない。ちょっとくらい青春はするべきでしょう? 歴代の生徒会メンバーでも恋愛とかあったんだし、ちょっとくらい学生の間にキラキラした思い出は作っておくべきよ! 相手があの西雲だから落とすのは至難の業かもしれないけど、私は応援するわ。如月だって自分の感情が恋愛じゃないんなら問題ないでしょ」

 会長はそう言われ言葉を詰まらせていた。

「でもよぉ。西雲はこないだ恋愛してる暇はないって言ってたぞ?」

 少し浮上していた気持ちは一気に突き落とされてしまった。

 それはそうだ。忙しいのに、私になんてかまっている時間なんてない。

「今は余裕がないだけでしょ? それに少しでも余裕作ったら年頃の男なんだから少しは興味くらい抱くでしょ?」

「それは本人次第だろ。あんま無茶苦茶な事すんなよ?」

「分かってるって。いい思い出作りを頑張りましょう!」

 道端さんは私に頬擦りしてきた。

 驚き固まる私には気にしていないようで、道端さんは一人で舞い上がっていた。

 そんな空気を壊したのはノックの音だった。

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