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先輩達について

「あ~、どっから話そうかねぇ」

 山崎先輩は昔を思い出して、少し楽しそうにしている。

「取り敢えず私らの学年からでいいんじゃない?」

 そう言ったのは道端先輩だ。

「そうだな。俺は如月が小学校入学した時から会長を務めてたんだ。んで、西雲とは一年間だけ生徒会被ってたんだよ」

「そうそう。だから如月と西雲以外のメンバーは三年間ずっと固定だったのよね。懐かしいわ」

 道端先輩も嬉々として話し出す。

「俺と道端と坂田が同じ学年だったな。俺が会長。道端が副会長だったな」

「そうそう。こんな単純馬鹿が会長で務まんのかって言われた時もあったけどね」

「はあ? 単純馬鹿はお前もだろう?」

「私は単純馬鹿とは呼ばれていませ~ん。言われてたのは猛獣使いのいない猛獣よ」

 どっちも酷い呼び名だと思いながら黙って聞く事にした。

「まあ、でもあの時のメンバーはわりと個性派だったわよね」

「確かにな。坂田だって普通じゃなかったからな」

「そうね。あの男は本当に私達の事を馬鹿にしてたわよね。西雲の事は気に入ってたみたいだけど」

 行き成り名前を言われて、オレは吃驚した。

「えっ、オレ気に入られてましたっけ?」

 そんな覚えはあんまりなかった。

「あいつ基本的に話さねぇからな。でも、あいつ教え甲斐があるって言ってたとこみると、かなり気に入ってたと思うぞ。それまでそんな言葉、聞いた事がなかったからな。あいつが褒めるとかまずなかったし。他にも行動的にどう見ても気に入ってんなぁって思うとこはあったぞ」

 そうだったんだ……。

 今更知った事実に少し驚いた。

「その方も強い方だったんですか?」

 睦月野さんがこてんと首を傾け聞いてくる。

「まあな。あいつの場合は空中戦が多かったけどな。なんつったらいいんだあの武器は?」

「さあ? 形状としてはロープの先に立方体の重りみたいなのがついてるのよね。あれぶん回してたわね」

 みんなよく分からないようで首を捻った。

「まあフレイルに近いかな。紐の先に重りとなる石がついていて、石の形状は立方体じゃなく、二等辺三角形を組み合わせた八面体だよ」

 オレが言って形状はなんとなく思い浮かんだらしい。

「それを振り回して、相手を捕らえてから落としてたな」

「なんかその石に集められて集団で落ちてたわよね」

 先輩達の説明でみんな空から引きずり落とすようなイメージはできたようだが、あまりよく分からなそうだった。

「坂田先輩の武器は少し特殊でね。紐の部分は浮遊魔法で浮きやすい素材で、先についている石は重力魔法でコントロールされるものなんだ。正確に操れないと上手く発動されない魔法具の一種なんだ。それを使って空の敵を迎撃していた。

 空に向かってから石を投げると敵機を捕らえる。そして、重力魔法の応用で引力を生じて他の敵機も引き寄せ、勢いよく地面に叩きつけるのが主な戦法。

 一か所だけを狙って攻撃もする事もあったよ。コントロール能力に非常に長けている先輩だったよ」

 オレが説明すると感嘆の声が漏れた。

「あいつの場合、小学校の頃から一緒だったが、最初は陸の敵も相手にしてたけど、武器をぶん回して森林伐採しすぎた所為で俺らの先輩達に怒られて禁止されたんだよな」

「そうそう。木を切り倒しながら敵を倒すもんだから『森林伐採するな』って怒られてからは空中戦に移行したもんね」

 知らなかった情報を聞き、驚いた。そんな過去があったとは……。

「まあ、それ以上に印象深いのは演算じゃね? めっちゃ速かったもんな」

「そうよね。機械より速いんじゃないかってくらいだったもんね。当時はアナログだったから余計にそう思ったのかもしれないけど。今じゃパソコン導入されてるもんね」

 当時はアナログだった。今はデジタル化してるけど……。

「オレが小学四年の時にデジタル化したんですよ。オレと会長だけだと絶対に仕事が終わんないってなって……。その一年は本当に移行に手間取って死ぬかと思いましたけど」

 思い出してげんなりしながら言うと、睦月野さんが驚いた声を上げた。

「えっ、副会長がデジタル化したんですか? かなりの過去のデータも保存されてるし、セキュリティだってちゃんとついてますよね?」

「ああ、うん。本見ながら最初はやってたよ。最初は意味分かんないと思ったけど、必要に駆られたからね」

 本当に辛かった日々を思い出して遠い目をしてしまう。

「あの時は葉月ちゃん、本当に泣きながら仕事してたよね。夜の十時とかになっても作業が~、締め切りが~って言いながら……」

 当時を知る会長がしみじみとした声を出した。

「もう二度とあんな事、経験したくないですけどね」

 あの時は帰れないと思いながら仕事をしていた。本当に自分でも頑張ったと思う。

「ふ~ん。大変だったのね」

 大変さが分からない道端先輩が軽く言う。

「先輩もやってみれば大変さが分かりますよ」

「いや、私は遠慮しとく」

 きっぱりと断られたが、その方がいいだろう。

「先輩は機械とか苦手どころの話じゃなかったですもんね」

「まあね。結構色んな方面から機械触んなって言われたもん」

 明後日の方を向きながら道端先輩は乾いた笑いをしていた。

「坂田は今パソコンでやってる内容をアナログで難なくこなしてたからな」

「本当に仕事のできる人でしたからね」

 それは本当に思う。当時の生徒会ではデスクワークは坂田先輩が目を通していたらだいたい間違いはなかった。

 間違う時なんかよっぽどだ。繁忙期に何轍したんだってくらい目の下に隈を作って、栄養ドリンクを数えきれないほど空けて、ぐらぐらと揺れているような時じゃなければミスなんてなかった。

「俺らの学年は俺と道端と坂田だけだったからな。次は一個下か。一個下なら瀬野がいるな。こないだ西雲が色々資料引っ張り出してたろ。あれの元々の持ち主だ」

「まあ、あいつはあいつでちょっとね……」

 道端先輩は少し苦手な印象があったのか、あまり語りたくない様子だった。

「あの人はへんた……いえ、少し変わった方でしたからね」

 思わず言いそうになった言葉を言い直すが、みんな察しただろう。山崎先輩は半眼でオレを見てくる。

「態々言い直さなくても変態って言えばいいだろう。事実だし」

「まあ、あいつはほんとにね……。マッドサイエンティストって言われてたし」

 そうあの先輩はマッドサイエンティストと言われるような人だった。

「あいつも基本非戦闘員だって言うのに、自分で作った魔法薬試したいが為に敵にかけに行ったりしてたからな」

「そう言えば、西雲が悲鳴上げた事あったわね」

 それを言われて、はっきりと思い出してしまった。

「だって、瀬野先輩が行き成り敵に魔法薬かけていて、その後呼び止められたんです。振り返ってみると、敵の手の皮膚と筋肉が無くなって骨が剥き出しになっていたんですよ。それで『ほら見て綺麗な中節骨だろ。見本のようだ』って言って小躍りしていたんですよ。敵なんて泡噴いて失神してるし……」

 あれは軽くトラウマになるレベルだった。

「あいつはよくやるからなぁ。それに西雲があまりにいい反応返すから嬉々としてからかっていたとこもあるしな」

「いい反応って……」

「そのうち、みんな『またか』って言って叫びすらしなかったから楽しくなかったらしい。だから耐性のないお前で楽しんでたみたいだぞ」

「ほんと変態よねぇ~」

 それを知っていながら助けてくれなかったあんたらはなんなんだと少し怒りたくなった。

「まあ、ほんとに解剖図とか人体模型とかを撫でながら嬉々として話すあいつは変態だよな」

「それが今は研修医だっけ? 患者が無事だといいけど……」

 よく医学部を無事卒業できたなと本当に感心する。

「まあ、治癒魔法に関してはこの上ないほど的確で、高度な魔法を平然と使ってましたし、治療用の魔法薬だってかなり質の高い物でしたよね」

「まあ、それはそうだが……やっぱり性格がなぁ」

「ねぇ」

 フォローするような事を言ってもやっぱり二人にとっても性格が難ありという印象らしい。

「しかし、あいつもよく副会長務めたよな」

「まあ、八湖よりはマシって感じだけど……。それに会長が波多だったでしょ。もし八湖が副会長してたら、それこそ大変だっただろうから仕方ないんじゃない?」

 確かに八湖先輩が副会長をしていたらきっと生徒会を纏めるのは大変だっただろう。ある意味バランスは良かったのかもしれない。

「えっと、その波多さん? が山崎さんの次の会長だったんですか?」

 瀬野先輩の悪口に近い事をワーワー言い合っている二人に睦月野さんが尋ねた。

「そうよ。波多がヤマの次の会長だったのよ」

「あいつもなんていうか個性的な男だったよな」

「まあ、武器作りに関しては右に出る者はいないといった方でしたね」

 少し思い出しては寂しくなるのはきっともう会いには来ないと分かっているからなんだろう……。

「あいつは大体大砲とかで攻撃してる多かったが、他にも一瞬にして武器を生成する能力があった。しかも作った武器は自在に扱う事ができたからな」

「……あんたは卒業してから会ったんだっけ?」

「一回だけな」

 少ししんみりした声で二人も話す。

「あいつは多分この学園には直接的にはもう関わんないだろうなぁ」

「でしょうね。仕方ないんじゃない」

 山崎先輩は空を仰ぎ、道端先輩は少し冷たい声をしていた。

「えっと……。すみません。余計な事、聞いてしまいましたか?」

 睦月野さんが申し訳なさそうな声を出す。

「いいや。あいつも俺らと一緒に戦ってた仲間だからな。大切な仲間だった。でも、あいつはもう前線には立たない。ただそれだけだ。

 でも、ちゃんと実家の武器屋は継いでんだ。だから間接的には関わる事はあるだろうな。波多の作る武器は使いやすい。だから必要ならお前らが会いに行ってやってくれ」

 山崎先輩は明るい声でそう言ったが、目が少し悲しそうだった。

「波多先輩の学年だと後は八湖先輩ですね」

 少しでも話題を変えたくて、オレは八湖先輩の名前を出した。

「ああ、そうだな。八湖もだいぶと単純って言うか、な」

「あんまり勉強は得意じゃなかったわね」

 道端先輩は思い出してから苦笑した。

「でも、空間認識力の高い方でしたね。飛行術も得意で、アクロバティックな攻撃を繰り出されてましたね」

 空中戦では本当に強かった。

「そうね。蝶のように舞い蜂のように刺すって言うのかしらね。本当に空を自在に動いて、的確な攻撃を決めてたわね」

「ただ、あいつの場合スカートのまんまで飛んでたから、めちゃくちゃ内海に怒られてただろ?」

「そうそう。何回言っても直んなかったわ」

 二人ともケラケラ笑うが、なんで内海先輩が怒っていたのか未だに分からない。

 他にも女性で空中戦を行っていた先輩達は多かったのに、なんで八湖先輩だけが怒られてたのか分からなかった。

「なんで怒られていたんですか? 未だにオレは分かっていないんですけど……」

 いっその事今聞こうと思って言うと、ざわめきが起こった。

 えっ、オレなんかまずい事言った?

 山崎先輩と道端先輩は額を押さえた。そんな先輩達を見かねたのか、会長が話し掛けてきた。

「葉月ちゃん、考えてみて。他の女の先輩達は空中戦とか激し目に動く時はズボン履いたりしてたんだよ。でも、八湖先輩は……」

 そう言われ、翻るスカートが頭の中で浮かんだ。

「あっ……。あの時はあまりに自分の事で精一杯だったんで気付きませんでした」

「まあ、葉月ちゃん上見る余裕なんてないって感じだったもんね」

 今まで気付かなかった自分に恥じた。

「あんたの場合、必死こいてたもんね。戦うにしても、ね」

 会長にも道端先輩にも苦笑され、より恥ずかしくなった。

「……俺も言われるまで意味分かってなかったからお前の事笑えねぇわ」

 山崎先輩はオレと同じだったらしく、少し安心した。

「あんたら二人はほんとにねぇ。西雲の場合、気付いてもいいような事気付かないし……。まあ、今回は誰も何も傷付くようなんじゃないけど、気を付けてなさいよ?」

「はい……」

 釘を刺されてオレは少し俯いた。

 しょげたオレを庇うように会長が間に入ってきた。

「まあまあ。八湖先輩だってご自身で気を付けないといけなかった事ですし、特に問題なかったからいいんじゃないですか?」

 道端先輩は軽く溜め息を吐いた。

「まあね。それに西雲はあの連中には振り回されてたでしょ?」

「はあ、まあ……」

 色々思い出し遠い目になってしまう。

「ああ、あいつらと連絡とってたけど、あいつらの勉強見てやってたんだろ?」

「見てやってたって言うか、波多先輩が『分かんねぇ』って言って教科書投げてきて、『読んで理解して教えろ』って言われたんで……」

 なんで小学二年生で高校三年生の教科書読んでるんだろうと思いながらも、先輩命令だったから読み込んだ覚えがある。

「でも、説明しても分かり難いとか色々言われて……。たぶん、教えるのに向いてないんですよ、オレ」

 少し落ち込んでしまったオレに、山崎先輩が違う違うっと言ってきた。

「あいつら自分の専門分野は大人顔負けの知識は持ってたけど、それ以外は小学生より酷いんじゃないかって感じだったからな。よく今まで赤点取らなかったなぁって感心したもんだ」

 山崎先輩は当時の事を思い出したのか、腕を組んでうんうんと頷いていた。

「確かに私らより酷い教科もあったもんね。私はギリ平均取ってたけど、赤点すれすれのヤマですら、あの子らの成績見て愕然としてたもんね」

 思い出すだけで頭が痛くなった。

「んで、よく内海が馬鹿にしてたのよね」

 ケラケラと笑う道端先輩に睦月野さんが話し掛けた。

「えっと、その内海さん? って先生の方ではないんですよね?」

「そうよ。流石に私らも先生の事はちゃんと先生って付けて呼ぶもの。私らの二個下に内海っていてね。先生の親戚よ」

 道端先輩が軽く説明しようとしたところで、睦月野さんは「副会長に少し聞きました」と言った。

「あら、なんて言ったの?」

 その質問にオレは少し目線を逸らした。

「え~っと……」

 歯切れの悪いオレに続きは聞かず、道端先輩は睦月野さんになんて言っていたのかを聞いた。

「えっと、内海先生の親戚で、一つ前の代の副会長だと。あとは、知的戦略を練るのが好きな方で……ドS眼鏡だと……」

「ははっ。確かにそう呼んでたわね。誰が呼び始めたかは忘れたけど、それがいつの間にか定着したし、本人も気にしちゃいなかったけどね」

 道端先輩は笑うが、この人伝いでオレがそんな事を言っていたのが知れたらネチネチ言われそうで怖い。

「西雲はよくチェスの相手させられてたわよね」

「ええ。戦法がどれだけ大切か、相手の動きを把握してどう動くのか、決断の速さがどれだけ重要になるかがよく分かりましたよ」

 あの人はルールも知らないオレにチェスの勝負を仕掛けてきた。

 ルールを覚えてからも一度も勝てた覚えがない。

「あいつは頭が良すぎるからな。何考えてんのか俺にはよく分からんよ」

 山崎先輩とはあまり相性が良くない覚えがある。

「山崎先輩はよく内海先輩に色々言われてましたよね」

「ああ、あの時は『ああするべきだった。こうするべきだった』『考える頭がないのか。脳味噌まで筋肉でできてんのか』とかな。あいつが女じゃなかったら絶対に殴ってたっつーの」

 思い出しているうちに腹が立ってきたのか山崎先輩は拳を作っていた。

「まあ、結果だけでなく、魔力の消費だの、連戦だった場合の体力残量だの、その辺考えながら動く子だったからね。だからこそ、副会長としては適任だったんでしょうけど……」

 道端先輩のその言葉を聞き、山崎先輩は拳を解いた。

「先輩方が卒業してからどんどんと人数が減っていきましたからね。だからこそ、ペース配分を考えるのは必要だったんだと思いますよ」

「それでも、な……」

 山崎先輩は暗い声を出した。それに引き摺られるように道端先輩が暗い顔をした。

 誰の事を思い出したのか、オレも会長も分かっていた。

「……それでも、内海が戦法を考えて効率よく戦ってもこっちの人数は少なくなっていたし、敵の数はそう減るもんじゃなかった。だから、河口は……」

 山崎先輩の言葉にオレも会長も道端先輩も俯いた。

「……その、河口さんって……?」

 嫌な予感はしていたんだろう。それでも気になったようで睦月野さんは少し震える声で聞いてきた。

「私の前の代の会長よ」

 そう答えたのは会長だった。

「ああ、防御力に長けていて、貫通攻撃も通さない。だから鉄壁少女なんて呼ばれてたんだ。だからあいつはきっと俺らの後に続いて軍に入って、この国を守るんだと思ってた。

 だが、あいつは軍に入る事はなかった。もう、この先会う事だってできない」

 目を伏せながら語る山崎先輩の手が微かに震えていた。

「如月と西雲は最後まであの子と一緒に戦っていたものね。でも、私達は一緒には戦えなかった。だから知らせを聞いた時は嘘だと思ったわ。あの子が死んだなんて信じられなかった」

 道端先輩の震える声を聞いてオレは目頭が熱くなった。

 泣いちゃ駄目だ。

 そう思って目を閉じ、なるべく毅然と振舞った。

「オレが知っている歴代の生徒会メンバーで、唯一その命を犠牲に最期まで戦い続けた先輩だよ。強い方だった。それでも、敵も強かった。

 一切の妥協も許さず常に努力する人だったけど、そんな人でも、生き残れなかったんだ……」

「とても、真っ直ぐな方で防御力で右に出る者はいない、そう思ってた。でも、亡くなってしまったのよ」

 悲しみを孕んだ会長の声に泣いてしまいそうになった。鼻の奥がつんと痛む。

 山崎先輩と道端先輩がオレ達二人の様子を窺うように見てくるが、何も聞いてはこなかった。

 本当は二人がその時の状況を聞きたがっている事には気付いていたが、話そうとしても喉の奥が詰まったように声が出なくなる。嗚咽が漏れそうになる。

 だから何も言わない二人に甘えてしまう。


「まあ、河口の事はこのくらいにしましょう」

 道端先輩が無理にでも河口先輩の話を終わりにした。

 みんなも思ってもいなかった事だからというのもあってか、暗い空気になってしまった。

「後のメンバーっつったら小浜か」

「そうね。あの子は凄く可愛い子だったわ」

 道端先輩は目元を和ませた。

「確かに女性らしい雰囲気の方でしたね」

 ふんわりと笑うのも仕草も容姿も全て女性らしく、多くの生徒から好かれていた。

「ええ、そうね。なんせ『微笑の天使』って言われていた子だもの。花が咲くように笑う子だったっわ。見た目も可愛らしかったけど、性格も優しくて、誰からも愛されていたもの。……それをあいつは」

 道端先輩は温かな目で語っていたかと思うと、突然怒りに満ちた目をしだした。

 一体どうしたんだと思うと、山崎先輩が呆れた声を出した。

「小浜は波多と付き合ってたからな。小浜をこの上ないほど可愛がってたお前としては面白くなかったわな」

「面白くないどころじゃないわよ! 私がどれだけ可愛がっていたか! それをあいつは掻っ攫ったの! それだけならまだしも、あの件の後あいつ、小浜と別れたのよ? 支える覚悟もない癖によくも隣を独占したわねって思ったわよ。ああ、思い出しても腹が立つ!」

 私怨の籠った叫びが轟いた。

「お前の私怨なんぞ知らんわ。あいつらだって、色々あったんだろう」

 山崎先輩は二人の間に何があったのか知っているようだった。

 オレはその辺りは知らない。オレが知っているのは在籍されていた頃だけだ。

「あのお二人は、この学校に在籍されて一緒にいる間は凄く幸せそうな顔をなさってましたよね」

「そうだな。お前はだいぶとあの二人に可愛がられてたろ? 自分らの子供かってくらい面倒見てたし。波多の場合、訓練時は厳しかっただろうが、それ以外の時は小浜と一緒になってお前の面倒見てたもんな」

「それは覚えてます」

 本当にお世話になった。二人ともオレと年が離れていたのもあってか、かなり気遣ってくれていた。

「本当にね。私はあんたまで恨みそうな程にあの光景が嫌だったわよ」

 道端先輩が恨みの籠った目でオレを見てくる。

「先輩、勘弁してください。オレの所為じゃないです……」

 たぶんと思いながらも、それは飲み込んだ。

「まあね。あんたに言っても仕方ないもの。それはよ~く分かってるのよ」

 それでも、思い出しても腹立たしい程に道端先輩は小浜先輩の事は大切にしていたんだろう。

「……別れてしまったのって、やっぱり……」

 波多先輩から、自分は学園に顔を出す資格もないような男だと電話があった時があった。理由は言いはしなかったが、きっとこの事と関係があるのだろう。

「河口が死んでから小浜は心を病んだからな。あいつは優しすぎたんだよ」

「そんな小浜は泣きながら私に電話してきたわよ。波多とは暫く会ってたみたいだけど、波多は小浜を支えきれなかった。そんな程度の男だったのよ、あいつは」

 道端先輩は怒りと共にそんな言葉を吐き捨てた。

「波多はその時、俺んとこ来たよ。自分の前では気丈に振舞う小浜に何もしてやれない。壊れていくのも分かってるのに、何もしてやれないって。で、結局破局」

 そんな一連の話を聞いて師走田君が口を挟んできた。

「小浜って、あの小浜ですか?」

 みんなが一斉に師走田君を見た。

「あのがどのかは分からないけど、おそらくそうよ。あんたも弓道の家だもんね」

「ああ、そうか。弓道繋がりか」

「はい。幼い頃に小浜の家とは多少交流があったので……。その時に小浜の家では『必中の女神』と言われる方がいました。その方でしょうか?」

 師走田君が言った呼び方は知らなかった。だが、山崎先輩達は知っていたようだ。

「ああ、外部からはよくそう呼ばれていたよ。あいつの弓の腕前は右に出る者はいないと思っていたからな」

「そうね。あの子が的を外す事はあり得なかったもの」

「やはり、その方だったんですね……」

 師走田君は少し沈んだ顔をした。

「知り合いだったの?」

 オレが聞くと師走田君は首を横に振った。

「お会いした事はありませんでした。ただ、その方が表に出てこなくなった辺りに小浜の家は衰退の一途を辿っています。その為、師走田との交流はなくなりました。なので、どんな方だったんだろうと思いまして……」

 小浜先輩の腕前は後世に残ってもいい程のものだった。それをきっと師走田君は伝え聞く程度はしていたんだろう。

「あの子は凄かったわよ。飛行魔法も得意で自在に空を舞っていたわ。そして狙ったものは必ず射止める腕前。それは空中の敵もそうだったけど、陸にいる敵も木々の間を縫って的確に仕留めていたわ。

 普段、あんなにふわふわと笑って優しいあの子が、この学園を守る為に戦う時はこの上ない程に頼もしかった。

 それに瀬野直々に教わった治癒魔法は重傷ですら治してしまう程のものだった。あの子は怪我をしている人が放って置けないような子だった。

 本当に天使のような子だったのよ……」

 思い出を語る道端先輩をみんな黙って聞いていた。

 本当に優しい先輩だった。そんな人が心を病むような事なんて起きなければよかったのに……。

 当時の自分の無力さに腹が立った。

 オレは拳を作り、ぎゅっと握った。

「まあ、今は小浜も療養中だが、いずれ、きっと、また笑えるような時が来るだろう。そんな時代を作る為にも俺らは政府派の人間として負けられない。そうだろう?」

 山崎先輩の言葉にみんなが頷いた。

 みんなが笑って過ごせるような日が来るのを願って、オレ達は戦わなければいけない。

 どれだけ辛くとも、恐ろしくとも、オレは二度とあんな思いは繰り返したくない。

 だからこそ、オレもみんなも強くならなきゃいけなんだ。

「でも、私らが在学してる時に比べて西雲はだいぶと変わったわよね。相変わらずのところもあるけど」

 突然、道端先輩はにやにやとした顔でオレを見てきた。

「行き成りなんですか?」

「だってねぇ。あんたあの時はよくビービー泣いてたじゃない」

 そう言われてオレの顔は赤くなった。

「あ、あの時は……!」

「それによく転んでたし、その度に泣いて。戦闘の時も震えて腰抜かしたのは何回あったかしらね?」

 行き成り話し出される過去にオレは言葉が上手く出ず、「あ」とか「う」とかしか出なかった。

「いくら小さい頃つっても、かなり泣いてたもんな」

 山崎先輩までニヤニヤしながら話し出した。

「ちょ、止めてくださいよ」

 オレが止めるが二人は悪魔のような顔で話を続けた。

「食事ん時も食べれないって言いながら泣きべそ掻いてたしね」

「訓練時もすぐへばって、少し怒鳴っただけで泣き出したし」

「そうそう。泣いてない日なんかあったかしらってくらい泣いてたもんねぇ」

「~~!」

 自分の事をみんなの前で話されるのがこの上なく恥ずかしかった。

「ああ、もう! なんで態々そんな事言うんですか! もう知りません! オレ、外の空気吸ってきます」

 オレはそれだけを言うと生徒会室を勢いよく飛び出した。

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