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戦闘後の生徒会室

 生徒会室には会長と睦月野さんの二人だけがいた。

「他の人たちはまだですか?」

「うん。でも、もうすぐ戻ってくると思う。……みんな、大丈夫だった?」

 会長がこの上なく心配そうな顔で聞いていたから、答えるのが何となく嫌だった。

「……卯月谷君がいつも通りというべきか、貧血で……。あとは、佐々山君が軽傷を負いました」

 こういう時、オレが一番甘いんじゃないかと思う。

「そう……。救急箱を用意しておけばいいかしら?」

「ええ、それで大丈夫だと思います」

 オレがそう言うと、会長はいそいそと救急箱を用意し始めた。

 それを横目で見ながらオレは、敵を撃退したことの校内放送を入れた。

 放送を終えると、メンバーがぞろぞろと返ってきた。

 卯月谷君は長月君に支えながら帰ってき、佐々山君は白縫さんに心配され、それを宥めながら帰ってきた。

 すると、会長は直ぐに救急箱を持って佐々山君に近付き、手当てを始めた。

 因みに、卯月谷君は長月君に手伝ってもらい、直ぐにソファーで横になった。

「ごめんね、お兄ちゃん」

 涙を今にも零れそうなほど目に溜めて謝り続ける白縫さんに、佐々山君は頭を優しく撫でて宥めていた。

「大丈夫だから気にすんなよ、な?」

 本当に仲のいい兄弟だとつくづく思う。なのに、親の所為で引き離されるなんて可哀想だ。

「ねえ、保健室、行く?」

 会長が佐々山君に尋ねると、そこまでは必要ないと断った。でも……と会長は言い募り、チラリと白縫さんの方を見た。

「お兄ちゃん……」

 心配そうな顔で見上げてくる白縫さんに佐々山君は、どうしよう……という顔をして、他のメンバーに助けを求めるように目を向けた。

 それに溜め息を溢しながら応えたのは水無月さんだった。

「誰か、ここにいるメンバーに治してもらえばいいんじゃないかしら?」

 それは保健室に行くのと大差ないんじゃないかと思いながらも、黙って見ることにした。

「でも、この中で治癒の魔法が使える人って……」

 気まずげに睦月野さんがそう言うと、みんなが互いの顔を見合わせた。そして……。

「治癒の魔法使える人~!」

 会長がそう言っても誰も手を挙げようとしない、というより、みんな使えないから挙げられない。だから、仕方なくオレは一人で手を挙げた。

 すると、目線が一気にオレに集まった。

「あっ、じゃあ、葉月ちゃんが……」

 会長がその続きを言おうとした途端、佐々山君がワーッと言って遮った。

 その時、他の人は会長に対し、なんて恐ろしいことを言うんだという顔をしていた。しかも、ソファーで横になっていた卯月谷君も飛び起きていた。

「だ、大丈夫ッスから気にしないでください‼ そこまで酷い怪我でもないんで。文月も気にすんな、な!」

 それに肯定するように会長とオレ以外が頷いた。何か、複雑……。

 言っておくが、オレは治癒魔法だって人並み以上に扱える。だから、能力的には心配はない。

 つまり、断った理由はオレの人柄とかから信用できないとでも思ったのだろう。

 まあ、普段の行動を思ったら仕方ないのかもしれないけど……。

 無愛想だし、親切でもないし、人と壁作ってるし……、本当に信用される要素が無いしね。

 それに元々持っていた能力の所為で怖がられているところもあるし。

 オレの元々あった能力は左目と対の能力。右目にあった能力で過去を視る力だ。『神の眼』との対の為『悪魔の眼』と呼ばれていた。

 だが、今はこの能力は失われている。それにも関わらず、それでも過去を覗かれたらという恐怖心があるのか煙たがれる。

 仕方がないのだろう。この力は生まれた時から周囲から嫌われていた。

 幸い、親だけはその力も受け入れてくれていて、「過去を視られても平気だから」と言ってくれていた。

 ある種恵まれた環境で育ったんだろう。

 それでも、周囲の人の目が気にならなかったわけではない。だからオレは物心つく頃には人と壁を作っていた。

 そして、それは今も……。


 ゆっくりと目を閉じ、ざわつく心を静める。平然としなければ。

 オレは、オレだけは甘くなってはいけない。与えられた任務は全うしなければいけない。だから無駄な感情なんていらないんだ……。

 心が落ち着き、目を開けると他のメンバーはいまだにざわついていた。

 何をそんな話す必要がある? 怪我をしているのならさっさと保健室に行くなり、手当てをするなりしたらいい。

 その判断さえも、ここのメンバーは遅い。

 こんなのでこの先大丈夫なのだろうかという不安が心にのしかかる。

 それを振り切るようにオレは机に向かい書類をしたため始めた。

 オレの行動に気付いた会長が覗き込んでくる。

「今日の戦闘報告書?」

「ええ、さっさと仕上げてしまったらさっきの器物破損の報告書とまとめて提出できますので」

 淡々と答えるオレを会長がじっと見つめてくる。

 無視をしようにも視線が五月蠅い。

「……何か用ですか?」

 痺れを切らせ、尋ねるが会長は首を横に振る。

「用があるわけじゃないの、でも、でもね……」

「用がないのなら話しかけないでください。こっちはやることが多いので」

 やることと言っても、この報告書だって会長が書いてもいいものだ。

 ただ、オレの方が見渡しのきくところから全てを見ていたから、オレが書いた方が早いと判断しただけだ。

「ねぇ、葉月ちゃん」

 ちゃん付の呼び方にイライラする。呼びかけに答えず、書類に向き合っていたら会長はそのままオレに尋ねてきた。

「葉月ちゃん、無理してない? 大丈夫?」

「なにも無理なんてしていません。問題ないので放って置いてください」

 きっとオレの声はすごく冷たかっただろう。会長は少し寂しそうな声で「そう……」と言って、オレの前から去っていった。

 なんだっていうんだ。何が無理なんだ。オレはこうして仕事をこなしている。それの何が無理だっていうんだ。

 イライラが募っていくのを感じ、報告書を最速で書き上げた。

「報告書、提出してくるんで」

 オレはそれだけを言うと生徒会室を後にした。

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