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中間試験勉強

 空がどんよりと曇り、雨がしとしと降っている。

 こんな日は流石にグラウンドで訓練している人はいないだろうと思いながらも、グラウンドの側を通った。

 案の定、グラウンドには誰もいなかった。

 だが、どこからか足音が響いてくる。

 音の発生源は屋根のある通路で走り込みをしている霜月君だった。

「おはよう。今日も精が出るね」

「チッ、なんでいつもいつもこうも早く来んだよ」

 悪態を吐かれ、苦笑する。

「オレはずっとこの時間に来てるからね。態々ずらす必要はないでしょ?」

 そう言うと舌打ちをされてしまった。

「ヨッス。相変わらず早いな、お前ら」

「おはようございます。山崎先輩」

 オレが丁寧に返すのに対し、霜月君は「っざす……」とだけ返した。

「今日は生憎の天気だな」

「そうですね。外での訓練は厳しいかもしれませんね」

 山崎先輩が空を見上げて話し掛けてきたのにつられ、オレも空を見上げた。

「今日から試験一週間前だろ? ちょうどいいから今日からは暫く試験対策な」

「分かりました」

 オレ達の会話を聞いていた霜月君はげんなりとしていた。


 今日から試験勉強というのは山崎先輩がみんなに伝えたらしく、みんな生徒会室に集まってきた。

 生徒会室では各自の机をなるべく端に寄せ、折り畳み式の長机を持ってきて、中央の辺りに並べた。

「今日から試験勉強開始だ。その為、学内での訓練は一旦休止だ。だからと言って体が鈍ったら元も子もない。だから各自しっかり鍛えるのは忘れんなよ」

 山崎先輩の言葉にみんな元気よく返事をした。


 参考書を解いていると、水無月さんに話し掛けられた。

「西雲君、少しいいかしら」

「なに?」

 参考書から目を離して尋ねると、水無月さんはオレの横で魔法薬学の教科書を広げた。

「もし、分かればでいいんだけど教えてもらえるかしら?」

「いいけど……。オレ、実際に調剤した事ないから理論しか分かんないよ?」

 オレは授業に出ていないから実験や実務も行っていない。

 それに魔法薬学は高等部に上がってから初めて習う分野だ。

「まあ、中間は筆記だけだからいいけど……」

 水無月さんも実務が少し不安なようだ。

「だったら内海先生に頼めよ。あの人魔法薬学担当だろ?」

 そう口を挟んできたのは山崎先輩だった。

「え~、私もやりた~い」

 ずるいと言わんばかりの声を出したのは会長だった。

「お前は必要ないだろう。調剤マスターの試験受かってんだろうが」

「むぅ~」

 半眼で言ってくる山崎先輩に会長は口を尖らせた。

「えっ、会長って調剤マスターの試験受かってるの?」

 水無月さんは疑いの目を向けていた。だが、それは事実だ。

「うん。そうだよ。高等部に上がってから試験受けて一発で受かってるから、その人」

 みんな意外だという顔で会長を見ているが、本人は気にしていないようだ。

「しかし、西雲は意外だよな。受けないのか?」

 山崎先輩はオレがすでに資格を取っているものだと思っていたらしい。

「受けないんじゃなく、今までは受けられなかったんです。今年の春のはもう締め切られましたし、秋のは文化祭と被ってるので今年は無理です」

 調剤マスターの試験は資格試験の一種で年に二回行われる。そして、魔法学校所属の高校一年生以上という制限が設けられている。

「ああ、そうか。お前の場合、スペルマスターの試験受かってたからとうの昔に取ってると思ってた」

「あれは年齢制限ないじゃないですか。それに会長だってその資格持ってますよ?」

「えっ、スペルマスターの資格持ってるの?」

 驚く水無月さんに首を傾げる。

「うん。だって小学一年の時に取ったし。会長もそのくらいに取ってましたよね?」

「そうだよ~。私も小学一年で取ったよ~」

 ふにゃっとした顔で答える会長にみんな驚きを隠せないといった顔をしている。

「なんだ、お前ら。こいつら資格魔かってくらい資格取ってんの知らないのか?」

 山崎先輩の言葉に、みんな知らないといったように首を横に振った。

「先輩、オレは年齢制限のあったのはほとんど取ってないですよ。それにスペルマスターくらいなら取れる人多いでしょ?」

「一番長い詠唱魔法使えれば大体受かるもんね」

 会長はオレの言葉に同意してくれた。だが、みんなは異常だという目で見てくる。失礼な。

「一番長い詠唱って、何分掛かるのってくらい長いじゃない。あれ、覚えてるの?」

 顔を引き攣らせながら聞いてくる水無月さんにオレは頷いた。

「覚えてるよ。まあ、会長の方が詠唱の覚えてる種類は本当は多いんだけどね」

「イエイ!」

 会長は嬉しそうにピースサインをしている。

 そんな会長をみんなは意外そうに見詰めている。だが、当時を知る先輩達としては意外性は全く感じていないようだった。

「如月は案外そういうのは得意だもんな」

「理数系は少し苦手ですけどね……」

 自分にだって苦手はあるといったように言うが、それで調剤マスターの資格が取れているのだから十分じゃないか?

 オレは逆に理数系の方が得意なのに、負けている気がして少し悔しい。

「調剤マスターは来年あたりに受けれたら受けようと思いますよ」

 受けようと思うと言いはしたが、絶対に受けて受かってやる。

「うん。いいと思うよ。課題の通りに調剤できたら受かるよ~」

 軽く言う会長にみんな信じられないといった顔をしている。

「でも、調剤はした事ないんですよ」

「あっ、さっき言ってたもんね」

「だから内海先生に言えって言ってんだろう?」

 オレと会長の会話に呆れた顔をした山崎先輩が口を挟んできた。すると――。

「呼んだ?」

 いつの間に入って来たのか、内海先生が現れた。

「あっ、せんせ~。相変わらず神出鬼没ねぇ」

 道端先輩が軽く声を掛けると、内海先生は軽く手を挙げて応えた。

「で、魔法薬学?」

「はい。自分は調剤実習に出ていないので、期末の実技試験が少し不安です」

 オレがそう言うと内海先生はふむと言った。

「なら期末試験前に調剤室使えるようにしとくよ。でも、お前ならできると思うぞ? 過去に魔力のみで生成してたやつが課題だし」

「試験内容言っていいんですか? 過去にって回復薬系ですか?」

「そこまでは言わんよ。まあ、頑張れ」

 内海先生はそう言うとまたふらっと消えていった。

「あの先生は相変わらずねぇ」

 感心するような道端先輩を他所に、水無月さんが理解不能と言ったような顔でオレを見てきた。

「えっ、魔力のみで魔法薬生成ってどういう事? 普通原材料あるでしょ?」

「魔法ってイメージのところあるし。イメージができてたら材料は魔力だけで作れなくはないよ」

 サラッと答えるオレに水無月さんはあり得ないと驚愕した。

「まあ、それはいいからどこ教えればいいの?」

「あっ……ここ……」

 水無月さんはそう言いながら教科書のあるページを指し示す。

「ああ、これね」

 そう言ってからオレは説明を始めた。


「とまあ、こんな感じだけど分かったかな?」

「ええ。ありがとう。西雲君って案外教えるの上手いよね」

「そう? 今まで教えてもそんな事、言われた事ないよ」

 上手いなんて言われた事がなかったから少し照れてしまいそうだ。

「誰かに教えた事あるの?」

「えっ。ああ、うん。ちょっと、ね」

 オレは目線を明後日の方に向け、そう答えた。

「どうせあいつらだろ。俺らの一個下の」

 山崎先輩は分かったようで、オレは素直に頷いた。

「あいつらは専門分野は強いんだけどなぁ。他がなぁ……」

 山崎先輩も覚えがあるらしく、少し遠い目をしていた。

「そう言えば山崎さん達の代ってどういう方が他にいらっしゃったんですか? 聞いた事がなかったんですけど……」

 試験とあまり関係のない小学生達は興味がそちらに逸れていったようだ。睦月野さんがそう山崎先輩に聞いた。

 他のメンバーも少なからず興味があったのか勉強の手を止めた。

「みんな試験勉強……」

「まあ、いいじゃん。ちょっと休憩がてら話してもさぁ」

 オレが注意しようとしたが山崎先輩に遮られた。

 こうして試験勉強は一時中断され、先輩達の代の話が始まった。

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