みんなで昼食
昼の時間になると、メンバーがぞろぞろと生徒会室にやって来た。
その中には会長もいて、山崎先輩も道端先輩も時間を見計らったように来た。
「よし。全員揃ったな。飯に行くぞ!」
山崎先輩のその言葉に、ほとんどのメンバーが口をぽかんと開けた。
「えっと、初等部は給食があるんですけど……」
睦月野さんが遠慮がちに言った。
「ああ。あれじゃ体作るには足りないから、俺らの代では食堂で生徒会用に作ってもらってたんだよ」
「まあ、私らの代より前も食堂で作ってもらってたみたいだけどね」
あの量を給食でというのは無理があるだろう。それについてオレはよく分かっていた。
だが、みんなはよく分からないといった顔で首を傾げていた。
「まあ、行ってみれば分かるよ。オレが前言った『吐くまで食え』って言われたっていう内容の食事だから覚悟はしておいてね」
オレがそう言うと、みんな顔を引き攣らせていた。
そんなみんなを引き連れて食堂に行くと、かなり賑わっていた。
その中に入っていくのは少し躊躇った。
「どうしたの、葉月ちゃん?」
会長が顔を覗き込んで聞いてくる。
「いえ、オレが行って大丈夫なのかと思いまして……」
楽しい食事時にオレなんかが入ったら台無しなんじゃないかと思う。
そんなオレの背中を叩いたのは山崎先輩だった。
「んな事、気にすんな。お前だって食事に来たんだ。問題ない」
そう言い切れるのは凄いなと思いながら、食堂に足を踏み入れた。
数人がオレの方を向いて、声を引き攣らせた。
それに気付いた人達が次々にオレの方を向く。
凄く嫌で少し俯くと、山崎先輩が広く開いている机に向かった。
「大人数で悪いな。ここ使わせてもらうぞ」
大きな声でそう宣言すると、近くにいた人達はどうぞと言って距離を取った。
「ほら、お前らそこに突っ立てないで座れ」
オレ達を手招きして呼ぶ山崎先輩に従い、オレ達は席に着いた。
オレはテーブルの端の席に着き、横には会長が、向かいには道端先輩が座った。
全員が席に着いたのを確認すると、山崎先輩は食堂のカウンターに向かった。
「おっばちゃ~ん。久しぶり~。俺の事覚えてる?」
明るい声でそう呼びかけると、厨房内からぞろぞろと人が顔を出していた。
「あら~、ヤマ君じゃない。久しぶり~。元気してた? もう、いい男になったじゃない。おばさんが十年くらい若かったらお付き合いしたかったわ~」
「え~。マジ~? おばちゃんも相変わらず美人だね。で、注文お願いしたいんだけどいい?」
一際仲のいい食堂のおばさんと挨拶を済ませると、山崎先輩は注文したい旨を伝えた。
「いいけど、今回はどうするの? 何人前ずつ?」
「え~っと、女子が、一、二、三、四……五人だね」
「はあ? 私も女子ですけど?」
山崎先輩が女子が五人と言うと、道端先輩が怒号を飛ばした。
「えっ、お前女子の量で足るの? まあ、いいけど。じゃあ、女子は六ね。で、男子は七でよろしく」
「あいよ。できたら席まで持ってってあげるから座って待ってな」
おばさんの声に従い、先輩は席に着いた。
「あんたには私が男に見えんの?」
「いや、だってお前量食うじゃん。女子の量じゃないだろう」
「別にいいでしょ。それに女子の方がカロリーは低く作られてるのよ」
怒っている道端先輩に山崎先輩は失礼な事を返し、余計に怒らせていた。
「先輩達って軍では食事ってどうしてるんですか?」
ふと疑問に思った事を聞いてみた。
「ん? まあ社員寮みたいなところで今は暮らしてるから、そこで飯は出てくるな。米はいくらよそっても怒られない。他は量が決まってるけど、満足する量は食ってるよ」
「私もそんな感じよ」
サラッと答える道端先輩の言葉に何か引っかかる。
それが何かすぐに分かり、不躾ながらも尋ねた。
「道端先輩も社員寮で暮らしているんですか? 確かご結婚されてましたよね?」
そう、道端先輩は高校卒業後、わりとすぐに結婚した。
それは元々決まっていた事らしく、周りはさして驚いてはいなかった。
「まあ、結婚はしてるけど、どうせあの人は他所で女作ってるだろうし、私も帰る気はないからいいのよ。子供も他所でこさえてるかもしれないけど、その場合、親権は死んでも自分のものにするよう言ってるからいいのよ」
「えっ、いいんですか、それ?」
いまいち意味が分からない。というか、倫理観というものはどこに行ったんだろう?
「いいのよ。元々道端は子供ができにくい家だから、遊びの盛んな人間を選んで結婚してるのよ。血筋じゃなく、大切なのは家を継いでくれる人間がいる事だけだもの。私は現役貫きたいから子供を産みたくない。だから相手には外で子供は作ってもいいけど、道端の後継ぎとして親権を手放すなって言ってるの」
「でも、それだと相手の女性は……」
「そうね。相手には申し訳ないけど、養子に出すと思ってもらうしかないわね。まあ、あの人にはそれは伝えてるし、道端の婿養子に来た時点で決定事項みたいなもんよ」
道端先輩の言葉にはみんな絶句していた。
山崎先輩ですら口を挟む事をしなかった。
だが、オレの目線に気付いたのか、山崎先輩は口元に手を当てながら、そう大きくない声でしゃべった。
「道端には道端の家がある。他人が口出す事じゃねぇよ」
道端先輩はその言葉をしっかり聞いていたようだ。
「そうよ。うちにはうちの事情があるの。だからこの話はもうお終い。ほら、料理が来たわよ」
道端先輩の言葉の通り食事が運ばれてきた。
オレは運んでくれたおばさんにお礼を言った。
運ばれてきた料理は相変わらず凄い量だ。その量を見た事のないメンバーは開いた口が塞がらない様子だった。
「わ~。美味しそう」
そう言ったのは会長だった。みんな会長の事を異常なもののような目で見た。
「えっ、これ、食べんの?」
恐る恐る聞いてきたのは佐々山君だった。
「オレが小学一年の頃から食べさせられていたのもこれでしたね。女子の方が量は若干少なめで、カロリーも抑えめですけど、どっちも高たんぱくで作られていて凄いですよね」
「そりゃ、歴代の人達が考えたり、改良も加えられて作られたメニューよ。さあ、冷める前に食べましょう」
オレの言葉に道端先輩が反応したが、みんなの反応はあまり思わしくない。
まあ、最初は驚くよね。
「ほら、呆けてないで食え。残すなよ。吐いてでも食え」
昔と変わらない言葉を山崎先輩がみんなにかける。
それを聞いてからオレは手を合わせた。
「いただきます」
それに続くように、会長と先輩達二人も手を合わせ食べ始める。
他のメンバーはそれが異常といった目で眺めてくる。
オレは気にせず料理を口に運んでいった。
ちらりと前を見ると、道端先輩が綺麗な所作で食べ進めていた。所作は綺麗なんだが、オレより食べるスピードが速い。
今度は横を盗み見る。
会長は一つずつ味わって食べていた。その為、食べるスピードはそんなに速くなかった。
一番食べるのが速いのは山崎先輩だ。ガツガツという音と、箸が食器にぶつかるカツカツという音が少し騒がしい。
それを注意するように道端先輩が山崎先輩を肘で小突く。
しかし、山崎先輩は何故小突かれたのか分からないようで首を傾げたが、すぐにまた食事に集中し始めた。
そんなオレ達に対し、他のメンバーは相変わらず箸が進んでいない。
「みんな食べないの?」
オレが聞くと、ハッとした顔をして霜月君が食べ始めた。
それに倣うように長月君と師走田君が、続いて神在さんと水無月さん、佐々山君が食べ始めた。
残る三人はどうやって食べたらいいのか分からず戸惑っているようだ。
「そういえば聞いてなかったけど、みんな、アレルギーとかはあったりする?」
オレの質問に一同は首を横に振った。
「それならよかった。じゃあ、みんな頑張って食べきってね」
オレの言葉はなんの励ましにもならないだろうが、最初はきっとこれを食べきるのは大変だろうと思いながら言った。
食べ始めてそんな経たないうちに、食堂のおばさんが丼に山盛りよそわれたご飯を持ってきた。
「はい、ヤマ君。それじゃ、足りないでしょう? お替り持ってきたよ」
にこりと微笑み渡してくるおばさんに山崎先輩はニカッと笑い、お礼を言いながらご飯を受け取った。
「他の子はいるかい?」
その言葉にみんな首を横に振った。
「西雲君もいらない?」
「ええ。十分満足する量なので大丈夫です」
「あら、おかずのお替りもいらない?」
「大丈夫ですよ」
そう返すと、おばさんは少し寂しそうな顔をして厨房に帰っていった。
「西雲、本当にお替りいらなかったのか?」
「ええ、まあ。オレの場合、この量は食べれなくはないですけど、こんなに食べなくてもいいんですよ」
その言葉に山崎先輩は眉根を寄せた。
「お前、普段どういう食事してんだ?」
「どういうって、朝と夜は普通に家で母が用意してくれている食事を取ってますよ。昼は……その時によりますね。忙しいとゼリー飲料とかカロリー栄養食みたいなので済ませるんで」
「それで足んのか?」
「まあ、魔力の循環を上手い事したら足りますよ」
山崎先輩はマジかと声を漏らした。
「でも、西雲。あんたの場合、常に魔力消費してんだから、カロリー取んないとぶっ倒れない?」
「省エネで頑張ってるんで」
魔力を使い過ぎるとどうしても魔力不足になりかねないが、普段使わないようにして、いざという時の為に貯めているからどうにかなる。
「食べれる時に食べなさいよ。じゃないと倒れるわよ」
「分かってますよ」
小言のように言ってくる道端先輩にそう返すと、まったくと言われてしまった。
そんな会話をしているうちに道端先輩が最初に食べ終わった。次に山崎先輩、そしてオレが食べ終わった。
それを見計らってか、おばさんが何やら手にまた来た。
「食べ終わったんならデザートはいかが?」
そう言って持ってきたのはプリンだった。
「わ~。いいんスか? あざーす」
そう言って真っ先に受け取ったのは山崎先輩だった。
道端先輩とオレと会長もお礼を言いながら受け取った。
おばさんはちらりと他のメンバーを見たが、誰も食べ終わる気配はなかった。
「他の子はどうする? いる?」
みんなおばさんの申し出を断るように首を横に振った。
そうよねという言葉を残して、おばさんは厨房に戻っていった。
「ん~。美味しい~」
そう言ったのはいつの間にか食べ終わっていた会長だった。プリンをつつきながら至福の表情をしていた。
オレもプリンを口に運ぶ。
滑らかな生地にほろ苦いカラメルソースが絡んでいて、とても美味しい。
思わず口が綻ぶ。
「ふふふ」
横からそんな笑い声が聞こえ、振り向くと会長がオレの事を見ていた。
「なんです? 何か付いてますか?」
半眼になりながら聞くと、会長は首を振り、何でもないと言った。
一体何なんだと思いながら、オレはプリンを平らげた。
食べ終わり、お茶を飲んで一息つくが、他のメンバーはまだ食べ終わっていなかった。
霜月君、長月君、師走田君は懸命に食べ進めているが、他の人達は手が止まり始めていた。
睦月野さんと白縫さんに至ってはほとんど減っていない状態なのに、涙目で手が止まっていた。
「コラ! 作ってもらった食事なんだ。最後まできっちり食え!」
その言葉に睦月野さんと白縫さんは涙を零した。
「泣くな! 泣いてる暇があれば食え!」
容赦ない怒号が飛ぶ。
代わりに食べてあげる事はできなくはないが、それは本人達の身にならない事はよく分かっているから、オレはただ何も言わずに見守った。
結局、昼食の時間の終了のチャイムが鳴り終わって食べきったのは、霜月君と長月君と師走田君だ。
その三人ですら、お腹を擦りながら苦しそうにしている。
「よく、この量を、平然と食べられますね」
長月君がどうにか声を絞り出してそう言った。
「オレも最初は食べきれなかったよ。で、食べきれなかったのは器に移してもらって、生徒会室で永遠と食べさせられてたよ」
あの頃は辛かったなぁ。
「どうします? 器借ります?」
「食べ終わってない奴らが全員、生徒会室に移動するんならそうするが……」
ああ、授業受けるってみんな言ってたもんなぁ。
「じゃあ、どうします?」
「西雲、まだ食えるか?」
「まあ、食べようと思えば……」
「じゃあ、残ったの食うぞ」
山崎先輩はそう言って、残った分を自分の側に寄せた。
「そのままだともったいないだろう。せっかく作ってくれたもんだし、食材だって無駄にするわけにはいかない。だから食えるならお前も食え」
「分かりました」
オレはそう言って食べるのを手伝う。
「じゃあ、私も食~べようっと」
そう言って道端先輩も食べ始めた。
そんなオレ達の側で、師走田君が気持ち悪そうに口を手で押さえていた。
「そんな細いのに、よく食べられますね」
異質なものを見る目で長月君がそう言ってくる。
「魔力循環さえちゃんとできるようになれば、食べられると思うよ」
「……後でで構わないので、教えてください」
まさかそんな事を言われるとは思わず、オレは長月君の方を振り返った。
「オレ、教えるのあんま上手くないよ?」
「構いません。授業で習わない事なら、人に聞いた方が早いので」
確かにそうかもしれないと思って、オレは了解した。
「ほら、よそ見すんな。さっさと食うぞ。他の連中は授業に行くならさっさと行け!」
山崎先輩のその言葉にみんな「はい!」と返事をしてから会長以外が授業に向かった。
「……会長は食べないんですか?」
「これ以上は太っちゃいそうなんだもん」
まあ、女性の永遠の悩みなんだろうな。うちの母さんも太るとよく叫んでる。
そんなに見た目が大幅に変わらなければ問題ないと思うけど、女性にとっては一キロでも痩せたいようだ。
女心って難しい……。
そんな事を思っていると道端先輩と目が合った。
「言っておくけど、私は筋肉つけたいから普通に食べるわよ」
「それはそれでいいんじゃないですか?」
人それぞれなんだろうと思い、そう返すと道端先輩は頭を押さえた。
疑問に思いながらも箸を進めていたら、いつの間にか料理は全て食べきっていた。
「あ~、食った食った」
そう言って、山崎先輩は腹を擦った。
「で、この後どうすんの?」
立ち上がった山崎先輩に道端先輩が聞く。
「あ~、お前らも時間くれ。放課後の訓練の項目について相談したい」
そう言われ、オレも会長も先輩達に放課後まで捕まったのだった。




