表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/266

Side 佐々山皐月

今回は佐々山皐月視点です。

 授業が開始してしばらくすると、行き成り山崎先輩が尋ねてきた。

 先生はさもそれが当たり前のように接し、山崎先輩は俺に授業を抜けるように言ってきた。

 さっき授業受けないのは明日からって言ったくせに……。


 しぶしぶ教室を出ると移動するぞとだけ言われ、俺はそれに従った。

 どこに行くつもりだろうと思いながらついていくと、到着したのは生徒会室だった。

 何故かこの人は生徒会室の鍵まで持っていて、勝手に開けて入った。

 元生徒会メンバーかもしれないけど、こんな勝手許されていいの?

 疑問に思いながらも俺も生徒会室に入った。

「適当に座れ」

 そう言われて俺はソファに腰かけた。

「で、なんですか。授業も途中だったのに……」

 文句を口に出すと殺気の含んだ目で睨まれた。はっきり言って副会長の比じゃないくらいに怖い。

 息をするのも精一杯で、全身から汗が噴き出す。

 今すぐ逃げてしまいたくなったが、それもかなわないと頭のどこかで警鐘が鳴る。


 どのくらい経っただろう。重い空気がこの部屋一帯を包み、ただ只管な沈黙が流れていた。

 それを山崎先輩が徐に口を開き破った。

「お前はちゃんと生徒会メンバーである自覚はあるのか?」

「あ、当り前じゃないですか! ちゃ、ちゃんと戦闘だって参加してるし、訓練だって……」

 いつものような声を出そうとしたが、喉の奥が乾いて声が引き攣る。

「それは強制だからだろう? 強制じゃなかったらどうだ?」

「どうだって、そりゃ、嫌だけど……」

「けど?」

 中途半端な言葉は許さないといったように威圧を掛けながら聞いてくる。

「けど、戦わないと妹を、友達を守れないじゃないですか」

「それは本当か?」

「ど、どういう、意味ですか?」

 だって、この学校には沢山の友達もいる。大切な妹だっている。みんなを守る為なら俺は戦わなくちゃいけないじゃないか。

 それを本当かと聞かれても意味が分からない。

「もし、お前が一般生徒なら守られている立場だろう。お前自身が守る必要がどこにある?」

「そりゃ、友達はそうかもしれないけど、妹は俺が守らなくちゃいけないんだ」

 文月は俺が守るって幼い頃から言ってきた。

 それは今でも変わらない。それはこれからずっと先もそうだ。

 そう思って告げた言葉を山崎先輩は鼻で笑った。

「なんで、笑うんですか?」

 尋ねる俺を山崎先輩はただじっと見てきた。

 それが怖くて俯きそうになるが、それでも懸命に顔を上げたまま山崎先輩を睨み返した。

 その様子がおかしく思ったのか、ふっと笑われた。

「そんなに俺が怖いか?」

 その言葉に体が跳ねた。

「口で言わなくても態度が正直だな。そんな怖がって戦えんのか?」

「た、戦いますよ」

 だって、と言おうとしたが山崎先輩に睨まれ、声が出なくなった。

「お前はさぁ、妹を守るって言ってたが、守られてるの間違いじゃないか?」

「な、なに言って」

 声が震える。

「お前自覚ないのか? 結界もまともに自分で張れない。妹に守ってもらわないと前線にも立てない。それのどこが守れてるんだ? 守られているの間違いだろう?」

 静かに告げられる言葉が重く感じた。

「それに妹の白縫は攻撃魔法も微力ながら使える。だったら足手まといは誰だ? お前じゃないか? 訓練にやる気も意味も見出せないんなら辞めちまえ。生徒会もこの学校も。じゃないと、お前の所為で妹が死ぬぞ?」

 俺はその言葉に頭が熱くなり、逃げるように生徒会室を飛び出した。


 とにかく走って走って、どこかも分からずに走っていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「佐々山君?」

 副会長だ。なんて最悪なタイミングなんだ。

「どうしたんだい? そんな走って……。もしかして泣いてる?」

 そう言われ、涙が頬を伝っている事に初めて気が付いた。

 制服の袖で荒く拭くと、手を掴まれた。

「そんな風に拭いたら目が傷付くよ」

 そう言って副会長はハンカチを渡してきた。

「いらねぇよ、そんなもん」

 そう言って俺はハンカチを叩き落とした。

 副会長は俺の手を放し、黙ってハンカチを拾った。

「なんで、なんでこんなとこにいんだよ」

「なんでって、ここはオレがよくいる場所だよ?」

 そう言われようやく自分が高等部の中庭にいる事に気付いた。

 指摘された事に、顔が熱くなった。

「君はどうしてここに?」

 質問をされるが、俺は答えなかった。それどころか質問で返した。

「あんたはなんで、あんな人と普通にしゃべってんだよ」

「は?」

 俺の言葉は行き成りすぎて分からなくても当然だろう。

「あんな人って、山崎先輩?」

 意味が分からないといったような声を出したくせにそれは分かったらしい。

 俺が黙って頷くと溜め息が聞こえた。

 ああ、どうせこいつもあの人の味方なんだ。聞くんじゃなかったって後悔した。

「あの人、また意地の悪い事言ったんだな。本当に相変わらずだな」

 呆れた声が聞こえた。どうやら溜め息は俺に対してじゃなかったらしい。

 少し意外で、俺は副会長の方を見た。

 顔を真面に見んのはこれが初めてかもしれない。

 いつもは怖く感じて、視線をなんとなく逸らしていた。

 でも、さっきまで山崎先輩の威圧と殺気を感じていた所為か、そんなに怖く感じなかった。

 少しぼんやりと見ていた俺に副会長は目線を合わせるように膝を折った。

「あの人わりときつい事とか言われたくない事とか平気で言うんだよ。でも、それが必要な事も事実なんだ。それは分かって欲しい」

「必要ってなんだよ」

 さっきまで涙を流していた所為か、声が震えてしまった。

「あの人と何を話していたかまで分からないけど、どうせ『辞めてしまえ』とか『そんなんで人を守れると思のか』とか『人を死なせたいのか』とか言ってきたんじゃない?」

 それはほぼほぼ当たっていた。

「そんな事言わなくてもとか、現実に起こるはずないって思う人は多いと思う。実際、今の生徒会メンバーは大半が思ってると思う。でも、山崎先輩の言う言葉は脅しじゃない。現実に起こりうる事なんだ」

 その言葉を口にした副会長は真剣そのものだった。

「だからこそオレとしてもみんなに訓練はちゃんと受けて欲しい。現実を本当に理解する事は必要なんだ。どれだけ逃げたくても、逃げてしまったら、現実から目を背けてしまったら、自分が今まで関わってきた全ての人が被害を受けるかもしれない。中途半端な気持ちで訓練をしていたら自分が死ぬかもしれない。そうじゃなくても死んでしまう事だってある。そうならないように自分のできる努力を精一杯して欲しいからこその厳しい言葉なんだ。だから必要なんだよ。分かって欲しい」

「……そんなん、言われても、死ぬとか分かんないし、それでも戦ってんのに、どうしろって言うんだよ」

 途切れ途切れ言っている間に鼻の奥がつんとした。

「そうだよね。行き成り言われてもね。どうしたらいいのかも明確に言われず、ただ訓練だけしてても駄目。授業も受けている暇なんてあると思うな。そう言われても、どうしたらいいかなんて分からないよね。オレだって最初はそうだったよ。でも、そうも言っていられなくなる時だってある。戦闘が苛烈化したらどうしてもっと対策をとっていなかったんだろう。自分にできる事はもっとあったんじゃないかって後悔する事になる。そうならない為にも、最初からあの人は厳しく言ってるんだよ」

「でも、分かんねぇよ……」

 言いたい事は分かる。でも、どうしたらいいかなんて分かんない。

 鼻水を啜ると、副会長は困ったように眉を下げた。こんな顔初めて見た……。いや、俺がちゃんとこの人を見てこなかっただけかもしれない。

「佐々山君は白縫さんを守りたいって意志が強い。そういった明確なものがあればきっと大丈夫だと思うよ。ただ、今のまま、訓練にもちゃんと身が入っていないまま、生徒会メンバーに選ばれたから仕方ないってスタンスでいてはいけないよ。

 ……オレが言えるのはこのくらいかな」

 そう言ってから副会長はティッシュを渡してきた。

 それを無言で受け取り鼻をかむと、副会長は目元を和ませていた。

 俺はこの人の事をちゃんと見た事がなかったんだと実感させられた。

「……俺、もう行くから」

 ここに居続けても副会長はきっと何も言わない。けど、俺がここに居続けるのは耐えられそうになかった。

 だから、ぶっきら棒に言ってその場を去った。

 俺はまだ自分がどうしたらいいかなんて分かんない。でも、今間のままじゃダメだ。

 副会長が言ってた『後悔する事になる』。そんな事には絶対にしたくない。

 涙を拭って俺はきっと山崎先輩にぎゃふんと言わせてやる、そのくらいに強くなって見返してやると心の中で誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ