先輩登場
朝も放課後も訓練を行う日々を続け、一週間が経った。
いつものように放課後の訓練を行おうとしていたら、二つの人影が背後にある事に気付いた。
平然を装いながらその影に意識を集中させると、その二つの影は瞬時に攻撃を放ってきた。
すぐさま無属性の魔法で相殺し、接近してくる二つの影に向かい打つ。
接近戦はなるべく避けたかったが、距離を詰めらるのが速すぎた。
後ろに大きく跳び、距離を空けるもすぐに詰められる。
その様子を会長以外は茫然として見ている。会長は困ったような顔をしていた。
オレは繰り出される拳を最小限の動きで避け、相手の鳩尾に魔力を込めた拳を打ち込む。が、容易に止められてしまった。
だが、オレも予測していなかったわけではない。
止められた拳から魔法を放つ。
相手はそれは少し予想外だったのか攻撃を避けきれてはいなかった。
その様子を見ていたもう一つの影も加勢してくる。
俊敏な蹴り技がオレの頭部を狙う。辛うじて避け、オレはその影に足払いをする。しかし、相手は空を舞うように軽々と避ける。
二人相手は流石に厳しいと思いながら無属性の防御壁をオレの周りに展開し、それを急激に巨大化させた。
結界に弾かれた二人は強制的にオレから距離が開いた。
「……行き成りご挨拶ですね。山崎先輩、道端先輩」
軽く溜め息を吐いてから言うと、二人は口角を上げた。
「あら、腕が鈍っていないか見てあげたんじゃない。それにしても他のメンバーは動けすらしないとは最弱と言われても仕方ないわね」
皮肉たっぷりに言う女性は道端先輩だ。ベリーショートの髪に、女性にあまり似合わない鍛えられた筋肉の持ち主だ。だが、やはり女性らしく、体の動きはしなやかで軽やかだった。
「西雲は多少は戦えるみたいだがな。まあ、俺らがこれから鍛えるんだ。問題ないだろう」
腕を組み自信たっぷりの顔をしている男性は山崎先輩だ。学生の時より鍛えられた肉体は筋骨隆々という言葉がとても似合っていた。
「はぁ、行き成り来て攻撃仕掛けないでくださいよ。しかも、なんでオレなんですか」
心底嫌だという声で言うが、それはサラッとスルーされた。
「西雲と如月以外は初めて見る顔ばかりだな。俺は山崎岳。如月の三代前の生徒会長をしていた。今は現役の軍人だ。年齢は二十六だ。これから鍛えてやるからよろしく」
オレの方には背を向け、他のメンバーの方を向き、山崎先輩は行き成り自己紹介を始めた。
それに倣うように道端先輩も自己紹介を始めた。
「私は道端歩。西雲の三代前の生徒会副会長を務めていたわ。私も同じく現役の軍人よ。年齢も同じく二十六。優しい鍛え方なんてしてあげるつもりないからよろしく」
二人が他のメンバーとの距離を詰め始めたので、オレは間に割って入った。
「お二人が来られるのは聞いていましたが、いつ来るかくらい伝えておいていただいてもよろしかったのではないですか?」
「サプライズよ。まあ、私らも忙しかったから仕事がやっと片付いたから来られたってだけだけどね」
道端先輩はけらけらと笑いながらそう言った。
「俺らも暇じゃないんだ。すぐに来られたらよかったんだがな。しかしなぁ、西雲。下を育てるのも仕事だろう。何やってたんだ?」
山崎先輩は割って入ってきたのも気に食わなかったんだろう。冷たい目をオレに向けてきた。
「すみません。自分が要領も良くなかった為もあります」
「ハッ、違うだろう? やりたくなかっただけだろう? お前は戦闘も厳しい訓練も嫌いだもんな。他人に強制できないもんな? それは優しさじゃない。人を殺したくないんならちゃんと下に指導しろ」
山崎先輩の言葉にオレは体が跳ねた。
「西雲、歯ぁ食いしばれ」
その言葉が聞こえ、オレはすぐさま歯を食いしばった。そして、すぐに顔面に衝撃が走った。
「葉月ちゃん!」
流石によろけてしまったオレに、会長が慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫です」
体を支えようと伸ばされた手をオレは制止した。
「西雲、お前が甘くなれば死人が増えると思え。お前が今は司令塔だろう。何故叩かれたかはお前がよく分かってるだろう。分かったならすぐにそこをどけ」
「……はい」
重く響いた山崎先輩の言葉にオレは大人しく従った。
みんなの元に山崎先輩が一歩近づくと女性陣は体を強張らせ、男性陣は敵意を剥きだし、戦闘態勢に入った。
その様子を山崎先輩は鼻で笑った。
「そう警戒すんな。さっきのは西雲が甘い態度だったから叱っただけだ。俺だって理由なく人は殴んねぇよ」
「そうそう。それにヤマは元々ここに顔出すのが決まった時に西雲の事は一発殴るって言ってたから気にしなくていいわよ」
そんな事を決めてきてたのか……。
殴られたところを擦りながら山崎先輩をじとりと見た。
それに気付いたのか山崎先輩は顔だけをこちらに向けてにやりと笑った。
「多少は気合入るだろ? 気張れよ」
嫌味な人だ……。
溜め息を飲み込み、オレは山崎先輩を見た。
「取り敢えず、全員自己紹介してもらえるか?」
「そうね。年の若い順でお願いしようかしらね。名前と学年と生徒会に入った年と防御か攻撃担当かは最低でも教えてもらいましょうかね」
明るく言う道端先輩とは反対にみんな表情が硬かった。それでも、言葉に従うように最初に睦月野さんが口を開いた。
「睦月野唯です。小学一年生で生徒会には今年から入りました。私は情報系の魔法を得意としていて、防御担当です」
「そのウサギのぬいぐるみは?」
ウサギのぬいぐるみを抱いたままの睦月野さんに疑問を持ったのか、山崎先輩が尋ねた。その質問にはオレが答えた。
「それがあった方が彼女の場合、魔力が安定するんです」
「魔法具ではないだろ?」
「ええ。それでも効果はあるようです。取り敢えず全員のデータを纏めた資料があるのでどうぞ」
オレは資料を取り出し、山崎先輩に渡した。
ペラペラと捲られる資料に横から道端先輩も覗き込んだ。
「ふ~ん。えらく纏められてるな。まあ、顔も一致させたいから、自己紹介は引き続き頼むわ」
山崎先輩は資料に一通り目を通すと、自己紹介の続きを促した。
次は卯月谷君だが、ぼそぼそと小さな声で話す所為で、聞き取れない。
「はっきり喋ろ!」
山崎先輩の怒号が飛ぶと、今まで聞いた事のないくらいの大きさの声で卯月谷君が返事をした。
自己紹介はそれより声量は落ちていたが、聞き取れる大きさで話し始めた。
「卯月谷凪です。小五です。生徒会は去年からです。攻撃担当です」
「お前はなんでフード被ってんだ? 脱げ」
山崎先輩の威圧からは逃げられなかったようで、今まで脱いだ事のなかったフードを脱いだ。
血色は悪いが、少し灰色がかった黒目が印象的な少年らしい顔をしていた。
「なんで今まで被る必要があった」
威圧的な声が響き、卯月谷君は視線をさ迷わせた。
「あ、あんまり日光に直接当たると、肌が痛くなるんで……」
青白い肌は確かに紫外線に弱そうだった。
「ふ~ん。なら紫外線から身を守る魔法があるだろ。それ張っとけ」
「先輩、五年生はその魔法習ってないです。それに卯月谷君は去年この学園に復学してきたんで、まだそういった生活魔法は覚えさせてないです」
オレが言うと山崎先輩は呆れた顔をした。
「去年から入ってるなら教えられただろう。まあ、いい。今教えると時間の無駄だ。フードが必要なら被っとけ」
山崎先輩は魔法を覚えさせるのは諦めたようで、溜め息を吐きながらそう言った。
「で、次は?」
そう言われ、白縫さんがか細い声を上げた。それを支えるように佐々山君が抱きしめていた。
「は、白縫文月です。小学六年です。えっと、生徒会は今年から入りました。防御担当です」
服の裾をぎゅっと掴みながらそう言い終わると、山崎先輩が口を開いた。
「白縫? あの家って佐々山と婚姻結んでなかったか?」
記憶を手繰り寄せるように山崎先輩が言うと、佐々山君が山崎先輩を睨み付けた。
「父と母は去年離婚しました。なので佐々山を名乗っているのは自分です。文月とは双子です」
「ふ~ん。そうか。で、名前は?」
「佐々山皐月です。文月と同じく小学六年生です。生徒会も文月と一緒に入りました。攻撃担当です」
始終白縫さんを抱きしめながら、佐々山君は自己紹介をした。山崎先輩はその様子を呆れた顔で見ていた。
「まあ、いい。次」
そう言われ、神在さんと霜月君が目で互いに何か訴えている。
「どっちでもいいから早くしろ」
山崎先輩のその言葉に神在さんが渋々自己紹介を始めた。
「神在月乃です。私は中学一年生です。学園には小学四年生の頃から在籍していますが、生徒会は今年から入りましたわ。攻撃担当です」
「神在なのに攻撃担当か?」
その言葉に神在さんは俯いた。
「ヤマ。女の子泣かせないでよ」
道端先輩は山崎先輩に手刀を食らわせた。
「いってぇな~。泣かせたつもりはねぇよ。ただ、神在って巫女筋だろ? 結界とかのイメージが強かったんだよ」
「だとしてもナイーブな問題でしょ? 聞いてあげないの」
道端先輩が圧を掛けながら言うと、山崎先輩はすまんと言って神在さんに頭を下げた。
「あっ、頭を上げてください。私が結界があまり得意でないのがいけないんです。なので……」
神在さんはジワリと涙を浮かべた。
「神在さんは攻撃担当ですが、捕縛にも使える能力の持ち主です。それに魔法の発現が少し遅かったので、まだ使い方を覚えている最中なんです。これから色々使えるようになる可能性はありますよ」
オレがそう言うと何故か道端先輩がニヤニヤと見てきた。一体何なんだ……。
神在さんは涙を拭って、もう大丈夫ですと言った。
「あ~、じゃあ次、自己紹介して」
山崎先輩は気まずげに頭を掻きながら、そう言った。
「霜月蓮。中一。生徒会は今年から。攻撃担当」
嫌そうに簡潔に言うと、山崎先輩は眉をピクリと動かした。だが、何も言わなかった。
「……次」
山崎先輩が静かにそう言うと、長月君が自己紹介を始めた。
「長月真と申します。中学二年生で、生徒会には去年から在籍しております。風紀及び攻撃担当をしております。よろしくお願い致します」
「長月って事は剣術か?」
「はい。そうです。その為、攻撃手法としても剣……竹刀で応戦する事が多いのですが、それに魔力を纏わせて戦う事が多いです」
「分かった。次」
淡々した受け答えが終わると、山崎先輩が次を促した。
「師走田学と申します。中学二年生です。生徒会は去年からです。自分も風紀と攻撃を担当しております」
「今度は師走田、か。弓道だったか?」
「はい、その通りです。自分の戦法も主に弓に魔力を纏わせるものです」
「そうか。じゃあ、次」
最後は水無月さんだ。
「水無月花音です。高校一年生。生徒会は今年からです。攻撃担当です」
「水無月は魔術書の編纂とかが多かったように記憶してるんだが……」
「ええ。国立図書館に勤めている者も多く、大半が書に関する仕事をしています」
淡々と受け答えをしているが、山崎先輩は流石という程、多くの家の事も把握しているようだ。
「これで全員か?」
オレと会長以外の自己紹介が終わり、山崎先輩が確認を取る。
「ええ。自分と会長以外の全員は紹介が終わりました」
「じゃあ、今度は私が質問してもいい?」
手を挙げて聞いてきたのは道端先輩だった。
「何か疑問でも?」
「うん。西雲あんたに確認したい事あんだけど、いい?」
「オレにですか?」
何か聞かれるような事があっただろうかと思い、首を傾げた。
「そう。あんたによ。あんた、右目どうなの?」
「右目ですか? 能力は相変わらず戻っていませんよ」
そんな戻るわけないだろうというニュアンスを含めて言うが、道端先輩は首を振る。
「そうなじゃくて、私らが在籍してた時は辛うじて視力はあったじゃない。今はどうなの?」
「ああ、今はもう右目に関しては光も感じられませんよ。全く見えません」
サラッと言うオレが信じられなかったのか、オレの右側で道端先輩が手を振る。
「見えませんけど、分かりますよ。魔力で補ってるんで」
「ああ、じゃあ、気配察知に近い状態だ。でも、それだと視力に頼ってる左目の方が反応悪いんじゃない?」
「ええ、左の方が反応遅れる事があるんで少し対策を考えている最中なんです」
支障はそこまでないが、左が弱点になっても困る。
「まあ、現状は分かったわ。それにしてもあんた威圧掛けてるつもりかもだけど、えらく弱くない?」
「そうですか? そりゃ、先輩達に比べれば弱いでしょうけど、一般生徒はこれでも十分怖がりますよ」
「だとしたら、聞いてた通り一般生徒も質が落ちてるわね。まあ、私らの代を知ってる生徒なんてもう殆どこの学校には残ってないんでしょうけど」
呆れたような顔でそう言う道端先輩は首を振って嘆いた。
「ああ。私達が頑張っていたあの頃はもうないのね。本当に生徒の質は落ちてるし、鍛えた後輩も未熟だし。私達のあの頃の努力はどこに行ったのかしら」
大袈裟なまでの仕草は少し腹が立った。
ちらりと会長の方を見ると冷めた目をしていて、ぞっとした。
「か、会長?」
か細くなってしまった声で呼ぶと、会長はさっきまでの表情が嘘のように消え去り笑顔を向けてきた。
「ん? どうしたの、葉月ちゃん」
「えっと……」
「あっ、分かった。そりゃ、私だってここまで言われたら嫌よ。でも、事実だもん……」
会長はポンと手を叩いてからそう言うと、少し困ったような顔で笑った。
「そう思うんなら、全体を鍛えなおさなきゃな」
ニッと歯を見せながら山崎先輩は笑った。それを見たオレは背筋が凍りそうだった。
「よし、じゃあ訓練を開始する」
その言葉にオレ達は背筋が伸びた。
「防御担当の二人は結界を張り続けろ。簡易結界で構わない」
「じゃあ、私が見ておくわね。如月も来なさい」
道端先輩は会長と睦月野さん、白縫さんを連れ、グラウンドから少し離れたところで訓練を開始した。
「卯月谷、佐々山、神在、水無月、お前達は走り続けろ。全速力でだ。スピードを一切落とす事は許さん。さっさと開始しろ」
その言葉と同時に、言われた四人は走り出した。
「長月、霜月、師走田、お前達は西雲に属性魔法を打ち続けろ。もちろん当てるつもりで攻撃しろ。属性魔法ならどんなものでも構わん。西雲は魔法を一切使わずに避け続けろ」
「相殺は無しですか?」
「ああ、今は無しだ」
「了解しました」
オレは返事をするとともに三人と一気に距離を離した。
「ほら。さっさとしないと簡単に逃げられるぞ」
「は、はい」
三人は慌ててオレを追う。だが、そう簡単に捕まる気はない。
攻撃の当たりそうな距離になると、また一気に距離を突き放すように逃げた。
山崎先輩の方をちらりと見ると、卯月谷君に近付いていた。
卯月谷君は全速力と言われているにも関わらず、かなり遅かった。ああ、ご愁傷様。
オレは心の中で手を合わせ、耳を軽くふさいだ。その様子にオレを追っている三人は不思議なものを見る顔をしていた。
山崎先輩は卯月谷君の真後ろに行くと怒号を発した。
「コォラ! 卯月谷! 何をちんたら走ってる! 死ぬ気で走れ!」
凄い剣幕で殺気を放ちながら卯月谷君を追う山崎先輩は、他の走っている人達も怖がらせたようで、みんなスピードアップした。
オレは一発目の声が一番でかいのを知っていたから耳を押さえていたが、もう大丈夫だろうと思い、手を離した。
そして、オレは逃げる事に集中する。三人はオレと距離を詰める事すらできず、魔法を打てずにいる。
「コラ! 長月、霜月、師走田! 攻撃しろつってるだろう! 何追いかけっこしてんだ! 遊んでんじゃねぇよ!」
山崎先輩は卯月谷君を追いかけながら、器用にこちらに怒号を飛ばしてくる。
追いつくのに必死な三人は言われたように魔法を打ってくるが全く当たらない。それどころか届きすらしない。
しばらく様子を見ていると、この騒ぎを聞きつけたのか一般生徒がぞろぞろと集まってきた。
見世物ではないからあまり見て欲しくもなく、オレは仕方なく山崎先輩の近くまで一足飛びした。
「山崎先輩、ギャラリーが集まってますが、いいんですか?」
近付き過ぎた数人は山崎先輩の殺気に当てられてその場に崩れ落ちていた。
はっきり言って邪魔でしかない。追い払えるならそれに越した事がない。
「ああ? チッ。おいコラ! そこの一般生徒ども邪魔だ! 散れ!」
山崎先輩は一般生徒に怒号を飛ばすが、その怒号により腰を抜かす生徒が多発した。
だが、その騒ぎを聞きつけた教員達がすぐさま生徒達を回収していった。
そして、先生達は生徒にこれからしばらくは生徒会の訓練で使用する為、邪魔をしないようにと伝えていた。
その様子を見ながら、オレは三人の攻撃を躱し続けていた。
三人はかなり消耗しているようで息切れをしていた。まあ、無駄打ちばかりだと精神的にも磨り減っていくか……。
全く当たらない攻撃にどうしたものかとアドバイスが欲しく、山崎先輩の方をちらりと見た。
山崎先輩はオレの視線に気付いたようで溜め息を吐いた。
「西雲、仕留める気でそいつら三人に攻撃していいぞ」
「えっ、仕留めていいんですか?」
「殺さなきゃいい。死にさえしなきゃお前の治癒魔法でどうにかなんだろ」
「はあ。まあ、そうですけど……」
「別に殺せとは言ってない。仕留めるようなつもりで攻撃しろってだけだ。危機感覚えなきゃあいつらだって育ちゃぁしねぇよ。ただし、無詠唱な」
「……了解致しました」
オレ達の会話は三人に十分聞こえていたらしく、オレが逃げるのを止めると逆に三人が逃げの姿勢を見せた。
そんな簡単に逃げられると思わないで欲しいな。
そっと溜め息を吐き、オレは三人に雷を落とす。長月君は避けきれなかったらしく、足に真面に食らい、地面に突っ伏した。
辛うじて意識はあるのか這ってでも逃げようとしていた。オレは近くまで歩みを寄せ重力魔法を放った。
重く圧し掛かる魔法に潰され、長月君は呻いた。だが、ここで止めては意味はないと思いより重くした。
ミシッと音が聞こえ、呻き声も聞こえなくなるとオレは魔法を解除した。
雷を避けた二人はその様子を目を大きく開き、見ていた。
「二人とも逃げるのは止めたの?」
オレの声に二人は肩を大きく揺らした。
師走田君は慌てて逃げようとしたが、足が縺れて上手く進めていなかった。
霜月君はオレに攻撃を放ってくるが、コントロールが甘く一切当たらなかった。
「駄目だよ二人とも。これが実戦だったら、もう死んでるよ?」
オレはそう言うと、二人をそれぞれ大きな水の玉に閉じ込めた。
一瞬で閉じ込められた二人は訳が分からなかっただろう。兎に角口を押さえ、水が肺に入るのを防いでいた。
霜月君は片手で口を押え、もう片方の手で叩く仕草をするが、オレの魔法はそう簡単には破れない。
一分も経たず、師走田君は意識を失った。オレは師走田君の方だけ魔法を解き、霜月君を見た。
霜月君はオレを睨んでいたが、もう限界だったらしく意識を手放した。
霜月君の方の魔法も解き、オレは山崎先輩の方を見た。
山崎先輩は首を横に振っていた。
オレは溜息を吐き、三人を一か所に集め、治癒魔法をかけた。
しばらくすると三人とも目を覚まし、師走田君と長月君はオレに怯えの宿った目を向けてきた。
霜月君はオレに殴りかかってきたが、容易に止める事ができた。
「そんな力の入ってない拳が届くとでも? 三人とも、自分の力量は少しでも図れたかな?」
オレの言葉に三人とも俯いていた。オレは霜月君の拳を止めていた手を解き、頭を掻いた。
ちらりと山崎先輩の方を見ると、すごい剣幕で睨んでいた。
その事に三人も気付いたようで、がくがくと震えながら汗を流していた。
「……先輩、眉間に皺増えますよ」
「分かってんならお前がもう少しそいつら鍛えろよ。俺に縋るな」
「いや、だって……」
無理と言葉に出したかったが、山崎先輩はそれを許さないと言わんばかりに威圧を向けてきた。
「でも、三人とも怪我は治しましたけど、体力は回復していないんでばててますよ。訓練にもならないと思うんですけど……」
オレの言葉に山崎先輩は大きく溜め息を吐き、立ち止まった。
「訓練止め! 全員集合!」
その声は防御担当の人達にも聞こえたようで集まってきた。
さっきまで追いかけられていた卯月谷君は足を止めた途端地面に崩れ落ちた。それでも、ここまで走れると思わなかったので、やっぱり山崎先輩はある意味凄い。
他の走り込みをしていた人達もフラフラになりながら山崎先輩の元に集まってきた。
みんな体力や気力の限界と言わんばかりの顔をしていた。
「ここまで酷いとはな。全員死にたいのか? 自分達の実力の無さが分かっていないのか? 死にたいのなら訓練しなくていい。だが、生き残りたいのなら各自努力不足である事は自覚しろ」
その言葉にみんなが押し黙った。
「道端、防御の方はどうだ?」
「まあ、体力不足かな。白縫の方はもう少し魔力も増やさないとだけど、それ以上に二人とも体力なさすぎ」
肩を竦めながら言う道端先輩の言葉に、二人とも俯いていた。
「はぁ。今までこんなんでよく生きてこれたな。言っておくが、これから先こんなんだと本当に死ぬぞ。死ぬ気がないなら鍛えろ。体力は一朝一夕ではつかん。毎日の訓練を怠るな。分かったか?」
山崎先輩の言葉にみんな暗い声で返事をする。それに対し、山崎先輩は青筋を立てていた。
「まあ、いい。各自デスクワークもあるだろう。さっさと取り掛かれ」
頭を押さえながら山崎先輩はそう言うが、立ち上がる体力も残っていない人も多く、睦月野さんなんか今にも眠ってしまいそうなくらいぐらぐらしている。
「先輩、訓練を始めてからはオレと会長だけでデスクワークはこなしているんで……」
オレが口を挟むと額を思いっきり突かれた。
「お・ま・え・は、どんだけ人を甘やかせば気が済むんだ! 仕事の割り振りもできんのか! いい加減にしろよ。なあ? お前は入った頃デスクワークも訓練もこの量以上にしてただろうが! 自分にできた事が人にはできないとでも思ってんのか? お前のそれは人を駄目にするんだよ。いい加減分かれよ!」
オレの額は突かれ過ぎて赤くなってしまった。それを擦りながら山崎先輩に進言する。
「確かに自分のやり方に問題があったのは事実でしょう。ですが、動けそうにない人間にデスクワークと言っても足を引っ張られるだけです。それなら動ける人間でさっさと終わらせた方が自分にとっても楽なんです」
「お前なあ、お前が卒業したら残ったメンバーはどうするんだ? お前、卒業したらここの附属の大学に進まないんだろう? だったらお前がここに関われんのは高校の間だけだ。それならその間にどうにかしろよ」
山崎先輩の言葉は尤もだ。
だから少し黙っていると会長がわなわなと震えていた。
「葉月ちゃん、他の大学行っちゃうの? どうして?」
「どうしてって、ここの学費高いじゃないですか。一般家庭の人間には厳しいんです。今は特待生で学費免除ですけど、大学は奨学金はあっても一般企業に勤めたら返すのが難しいんですよ。だったら、もう少し学費の安いところに行くしかないでしょう?」
「そ、それはそうかもしれないけど……!」
どうして会長がここまで動揺するのか分からなかった。
「如月、西雲は一般家庭の子供だ。無理強いはできない。それにこの学園以外の大学に進んだら西雲は一般人として暮らすんだ。どの道、今だけこうして戦力としてくれてるだけありがたいと思うしかないんだ。他のメンバーも、言ったら一般人に守られてるんだ。いい加減、自分達の責務を自覚しろ」
山崎先輩の言葉に誰も何も言えなかった。
オレ自身、今こういう生活をしているから卒業して、行き成り、貴方は一般人ですって言われて、普通に過ごせるか自信はない。
しばらく沈黙していたが、それを破ったのは道端先輩だった。
「今日は如月と西雲以外は帰らせていいんじゃない? 私らこの二人に話あるし。ね?」
「まあ、そうだな。じゃあ、西雲と如月以外は解散」
その言葉を聞いて他のメンバーは暗い空気を背負って帰っていった。




