訓練三日目
今回は次話の都合もあり、かなり短いです。ご了承ください。
翌日、朝からはグラウンドでみんなそれぞれ訓練をしていた。走り込み、柔軟その辺りは伝えていたが、霜月君と師走田君は二人で組んで、魔法の打ち合いをしていた。
おお、自分から取り組んでくれるとはいい傾向だ。
感心してみていると、途中大きな溜め息が聞こえてきた。
溜め息の主は神在さんだった。
どうしたのか聞くに聞けなかったので、近くで走っていた長月君に声を掛けた。
「おはよう。なんか、神在さん落ち込んでない?」
オレがそう聞くと、長月君は心底驚いた顔をした。
君もそんな顔できるんだなと感心していたら、少し呆れたような声が響いた。
「理由は本当に理解されていらっしゃらないのですか?」
「えっ、長月君は分かるの? やっぱり昨日笑っちゃったのが悪かったのかな? また謝った方がいいかな?」
わりと真剣にこっちは言っているのに、長月君は大きな溜め息を吐いた。
「副会長が介入するとまたややこしくなるので止めてください。どう考えても笑った事が原因ではないでしょう。……副会長は会長とお付き合いされているのですか?」
走りながら会話していたが、あまりにも意外な事を質問された。
「違うけど。なんでそう思ったの?」
「昨日おっしゃっていたじゃないですか。お家まで送って差し上げているのでしょう?」
「だって、会長の家は帰り道にあるし、女性を暗くなってから一人で帰らせるわけにはいかないじゃないか」
仮にも女性だ。それにいいところのお嬢さんに何かあって色々言われてもかなわない。
「付き合ってもいない女性に優しくされるんですね」
少し軽蔑したような眼差しが向けられた。
「優しいってわけじゃないよ。それに遅い時間に女性を一人で帰したっていうのが母親にバレたら、オレが怒られる」
母さんは女性には優しくしなさいとよく言っている。そんな母さんにバレたらただじゃ置かないだろう。
「まあ、こちらには関係のない話ですが、一人を特別扱いしているように感じられたのなら、他が不満を持ってもおかしくないのでは?」
「はあ……」
よく分からず曖昧な返事をすると、長月君は頭を押さえた。
「兎に角、自分は走り込みの最中なので、もうそろそろよろしいですか?」
「ああ、邪魔してごめん」
並走をしていたのが邪魔だったのか一人で走りたいようだ。
オレがスピードを緩めていくと長月君はそのまま自分のペースで走っていった。
みんなが訓練しているのに一人立ち尽くすオレは、一人取り残されたような気がした。
「オレも頑張らないと……」
その声は風にすぐさま搔き消された。