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理由

 放課後、神在さんは何とか回復したようで訓練に来てくれていた。

「神在さん、大丈夫? その、筋肉……」

「大丈夫ですわ」

 オレが筋肉痛と言おうとするのを遮るように、神在さんが食い気味に返答した。

「大丈夫ならいいけど。取り敢えず水無月さんと組んで柔軟しといてもらってもいいかな?」

 神在さんは恥ずかしかったのか、分かりましたわと言ってすぐさま水無月さんを引っ張って、少し離れたところに向かった。


 朝来ていなかった長月君と師走田君は放課後には来てくれた。

 カウンターを見ると目標は達成していた。まあ、朝からでなくても問題はないので良しとしよう。

「ちゃんと走り込みはしてくれていたみたいだね」

 オレの言葉に二人は反応しなかった。

 少し段差になっているところに二人は座り込み、動く気配もなかった。

 どうしよう……。

 腕を組んで悩んでいると霜月君がやってきた。

「おい、走ったぞ」

 見せてきたカウンターには百周走ったという数字が表れていた。

「おお、凄いね。明日もこの調子で頑張ってよ」

 カウンターをリセットして渡すと霜月君は鼻を鳴らした。

 いつもなら去っていくのだが、何故か壁に少しもたれるようにして立ったままだ。

 みんながおかしい。どうしたんだろう……。


 みんなの様子に戸惑っていると師走田君が口を開いた。

「副会長は何故、生徒会にいるのですか?」

「何故って強制だからだけど?」

 何をおかしな事を言っているんだろう。

 首を傾げながら答えると師走田君は珍しく声を荒げた。

「そういう事を聞いているのではありません! 自分達は学生なのにこんな理不尽を強いられるの疑問も何もないのですか?」

 声を荒げるのに慣れていないのか興奮状態の所為なのか、師走田君は肩で息をしていた。

「理不尽、ね。確かに何故自分が、自分達がこうまでして学校を守らなければいけないのかって思うのは普通だろうね」

 それは痛い程に分かる。だからこそ、オレは静かに話し始めた。

「オレなんか一般家庭の出だ。身分のある家の子供だったら常に死と隣り合わせと家もある。それで言ったら、オレなんかは戦闘と一切関わらず生きていけるはずだ。

 だけどね、生徒会にいる事は自分で決めた事だ。だからオレは理不尽でもなんでもやっていってるんだよ」

「どうして、生徒会にいる事を決めたんですか?」

 そう聞いてきたのは長月君だった。

「う~ん」

 オレは少し困った顔をして、辺りを見渡した。

「どうされたんですか?」

「いや……会長に聞かれると、この上なく面倒だからね」

 それには納得したようで、近くに立っていた霜月君でさえもああと言っていた。

 会長は離れたところで防御担当の子と属性魔法の訓練をしていたのでしばらくは大丈夫だろう。

「まあ、昔話みたいなものだよ。聞いても面白くはないと思うよ?」

「それでも伺いたいです」

 珍しく興味を示してくれた後輩たちの頼みを無碍にするのも気が引けた。

「じゃあ、話すけど、少し長くなると思うよ?」

 オレがそう言うと三人とも頷いた。霜月君まで聞こうとするとは本当に意外だ。

「オレが小学校上がってすぐ生徒会に入ったんだ。お達しがあったから、強制だけどね。

 最初は分からないし、理不尽だと思ったよ。当時会長だった山崎先輩なんかいつも怒号飛ばしてたし、オレ自身は体力もないし、出来る事なんて本当に少なかった。

 こないだの話であったように、訓練開始から一週間で高熱出して三日間学校を休んだんだ。その休んだ三日目の夕方に、今度こちらに来られる山崎先輩と道端先輩が訪ねてきたんだ。

 もうその時は大変だったよ。体調崩した所為で母さんはカンカンに怒って、今にも学校辞めさせようとしてたもん。それなのに先輩達が来たから、母さんがキレて山崎先輩を箒で殴り飛ばしたし」

 思い出してもあれはヤバかった。苦笑しながら言うと、みんなはギョッと目を剥いていた。

「その時は父さんが母さんを羽交い絞めして、オレが母さんの足辺りにしがみ付いて、母さんを止めたよ」

「何故、その山崎先輩達は副会長の家を訪ねられたのですか?」

 殴られるなんて誰も思いもしなかっただろうが、それでも結果を見ると、どうして訪ねたんだと思うだろう。

「オレに話があるって来たんだよ。父さんが母さんを宥めて、熱がどうにか下がったばっかりのオレを心配して、両親と共に山崎先輩の話を聞いたよ。

 今でも山崎先輩の言葉は覚えているよ。

『訓練が厳しかったのは分かっている。その所為で親御さんに心配を掛けたのは申し訳なく思っている。だが、君はこのままであれば、魔力が体を食い潰すのも時間の問題になるだろう。次に魔力の暴走があれば、最悪の場合死に至る危険性もある。それならば苦しくても訓練は続けるべきだと思っている。

 それにどこ生きていようと、今の世では危険と隣り合わせで、それは一般の人間でも決して無関係ではない。そんな中で生きていくのなら、自身を守る為にも体力・魔力・技術そういったものは磨かなければならなくなる。そして、そういったものを持っている者は他を守る事ができる。それをしないのはただの怠慢だと思っている。

 もし、君が今すぐ辞めたいと思っているのなら、学園自体も辞める事になる。それはそういう規則だからだ。それを止める事は誰一人としてできない。

 決断するのは君自身だ。親御さんでも我々でもない。

 幼いのに決断を迫られるのは酷かもしれない。けれど、いつの時でも決断はしなければいけない時は来る。それが今だというだけだ。

 言いたいのはそれだけだ。無理をさせた事は申し訳なかった。君の体調が一日でも早く良くなる事を願っているよ』

 その言葉に母さんは納得もしなくて山崎先輩の胸ぐら掴もうとしたけど、父さんがそれを止めたんだよ」

「副会長のお父様はこの学校に残る事を良く思っていたという事ですか?」

 長月君の質問に、オレは首を横に振った。

「怒ってる母さんに父さんは『この子達は葉月の事を考えてここまで言ってくれている。僕達、親は過保護になる事も甘やかす事もできるけど、それはきっと本人の為にならないのも事実だ。決して葉月の事を憎くてこうしているわけじゃないんだよ。それはちゃんと分かってあげないといけない。

 葉月の事はもちろん心配だ。でも、僕達は強い魔力を持っているわけでもない。それが必要になった時は守ってあげられないのも事実だ。

 訓練は葉月の為でもあるんだろう。今回の事はこの上ない程に心配したよ。でも、必要だからこそ、この子達はこうして話をしに来てくれたんだ。

 だから僕達は葉月の決断に従おう。葉月の未来は葉月が決めないとね』って言ったんだ。

 母さんは流石に黙ったよ。普段ニコニコして優しい父さんが辛そうな顔をしながら言ったんだ。それを否定は母さんもできなかった。そんな二人を見ていたけど、オレはその時はすぐに答えは出せなかったよ」

「えっ、生徒会にいる事は即答ではなかったんですか?」

 長月君が驚きの声をあげた。

「うん。少しばかり恥ずかしいんだけどね、オレとしてもやっぱり訓練は嫌だったし、初日で実戦に出されて、それも正直怖かったんだ。だから辞めていいって言われて本当はホッとしたんだ。熱を出しながら辞めたい、学校に行きたくないって泣いてたから……」

 それはもう見っとも無いくらいに泣いたのを覚えている。

 だからこそ、母さんもあれだけ先輩達に怒ったんだけど……。

「だからこそ、即答はできなくて、その日は先輩達に帰ってもらったんだ。その翌日は熱も下がったけど、行きたくないって思って朝になっても布団から出なかったんだ。

 そしたら会長……今の会長だから如月先輩なんだけどね、あの人が迎えに来たんだ。『一緒に学校に行こう?』って。母さんは最初戸惑ってたけど、あの人をオレの部屋まで上げたんだ。

 その日は渋々登校したよ。恥ずかしながらあの人に手を引かれてね。

 でも、生徒会には行かなかった。

 あの人も生徒会に所属してたけど、行かなかった」

「どうしてですか?」

「ん? 行きたくないなら行かなくていいってあの人は言ったんだよ。で、授業も出ず、一緒に学校を巡ってた。それで見つけた場所がオレがよく行く中庭の大きな樹の下。オレはあの場所と相性が良くてね。あそこに行くと魔力が安定するんだ」

 最初の頃は魔力が安定しないのもあって、体が兎に角しんどかった。でも、あの場所を見つけてからはあの場所でよく休むようになった。

「休み続けて大丈夫だったんですか? その、当時の会長とかに……」

 少し歯切れ悪く長月君は聞いてくる。

「まあ、あの人が何か言ってたみたいでね。怒られはしなかったよ。だから数日間、なんだかんだで一緒に授業にも生徒会にも出ずに学校を回ってた。

 でも、終わりって来るんだよ。

 敵の侵攻があったんだ。あの人は生徒会として動かないといけなかった。だからオレをあの樹の下へ残して戦いに行った。オレはその時やっぱり怖くて、震えていて動けないまま、戦いは終わった。

 戦いが終わるとあの人はオレの元に戻ってきて『大丈夫だった?』て聞いてきたんだ。

 それが恥ずかしくて堪らなかった。

 自分とそんな年齢も離れていない女の子が戦ってるのに、自分だけ安全なところにいて守られて逃げているって気付かされて、恥ずかしかった」

 あの日は恥ずかしさで泣きじゃくった。それをあの人は怖かったと勘違いしたのかオレの事を抱きしめて『私が守るから、大丈夫だから』ってオレの事を慰めた。

「それが嫌でね、だからもう逃げたくないって言って生徒会に戻ったんだ。

 そしたら山崎先輩は悪役みたいな顔して『今までサボってたぶんきっちり鍛えてやるよ』っていってしごかれたよ」

 過去の事だが、本当に話していて恥ずかしくなった。

「さあ、これでオレが生徒会に残ったのもなんとなく分かっただろう? 結局、少しの意地を張り続けているようなものだ。それでも続けられるんだよ」

「それは分かりましたが、副会長は今でも戦う事は……」

 長月君が何を聞いてきたいのかはなんとなく分かったが、オレはそれを遮った。

「まあ、オレの事はもういいから訓練を再開しよう。ほら女性達が頑張ってるのに男がサボってたら恥ずかしいだろう。行くよ」

 無理に話を切ってオレ達は水無月さんと神在さんの元へ向かった。

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