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依頼の進捗確認

 魔法具制作部の前に着き、オレはドアをノックした。

 すると、中にいた生徒で一番近くにいたであろう生徒がドアを開け、オレを見た瞬間に、気まずそうに鍛冶君の方に目を遣った。

 今回は鍛冶君もすぐにオレに気付いたようで、困ったように頭の後ろを掻きながらオレに近付いてきた。

「どうせドアの近くで立ち話は無理なんでしょう? なら、奥の方まで入ってくださいよ」

 鍛冶君は親指で部室の奥の方を指しながらそう言った。

「じゃあ、入らせてもらうよ」

 オレがそう言うと、鍛冶君は案内するかの様にオレの前を歩き、部室の奥の方の椅子のところまで行った。


「どうせ手短に済む話じゃないんでしょう? 座ってください」

 鍛冶君は椅子を向かい合わせにして、片側に座った。

「じゃあ、座らせてもらうよ」

 そう言って座ると、鍛冶君は少しばかり不機嫌そうだった。

「……えらく早いっスよね」

「申し訳ないね。明日から試験前の部活禁止期間に入る事を失念していたんだよ」

「副会長でも忘れる事があるんっスね」

「まあ……。少しばかり、依頼する事自体も悩んでいたから、思ったより時間がなかったんだよ」

「ふ~ん」

「で、話は受けてくれるのかな?」

 単刀直入に聞くと、鍛冶君は少し気まずそうにした。


「えっと……」

「ん?」

 続きを促すようにそう言うと、鍛冶君はより気まずそうな顔をした。

「その……、鑑那さんには相談したんです」

「そう」

「そしたら『今うちにある素材じゃ作れないよ』って……」

「そう……」

「ただ、素材さえ揃えば、製法は分かるって……」

「結論としては?」

「素材が揃うのなら、引き受けられなくはないと言われました」

「……鍛冶君はそれが誰からの依頼とかは伝えた?」

「いや、それは……」

 依頼元が分からなければ、断りたいのは確かなんだろう。ただ、鍛冶君が必死に頼んだのかもしれない。その妥協案なんだろう。

「鍛冶君一人ではどうにもならないんだよね?」

「そうっス……」

「問題は何がどのくらい足りないか、かな……」

 本当はそれだけじゃないんだろうけど、依頼を受ける最低の条件が素材だというのなら、足りてないものを用意すればどうにかなるだろう。

「いや、でも……」

「ん? 何?」

「素材自体、滅茶苦茶高いんっスよ」

 きっと金額を示されたんだろう。それこそ、見た事の無いような金額だったのかもしれない。

「まあ、そうなるよね」

「そりゃ、副会長がこの間、報酬の件で提示したアレをどこかで売ったなら、十分すぎるほど足りるでしょうけど……」

「それを是としないって事なんでしょう?」

 オレがそう聞くと、鍛冶君は静かに頷いた。

「まあ、それは置いておくとして、何が足りないんだろう?」

「色々と挙げられましたけど、最後にエトセトラって言ってたんで、全部は教えられてないんっスよ」

「そっかぁ」

 素材が分からないんじゃ、こっちで用意しようがないな。

 依頼者が分からないから警戒してるっていうのもあるんだろうけど……。

「ただ、教えてもらったものの中には、用意するのに一年近く掛かるようなものもあったんで……」

 きっと鍛冶さんとしては、遠回しに『断れ』と言っていたんだろう。


「……鍛冶さんとは連絡は取れる?」

「えっ、まあ、取れますけど……」

「あんまり直接会って交渉はしたくなかったけど、話が進まなそうだし、都合をつけてもらった方がいいかもしれないね」

「えっと、副会長が直接話すって事っスか?」

「そう言ったつもりだけど?」

「いや、まあ、そう聞こえたんっスけど……」

 何か不都合でもあるんだろうかと思って首を傾げると、部室のドアが開いた。

「あ? 西雲、今日も来たのか?」

 鬼怒川先生がオレを見ると、眉を器用に曲げ、そう言ってきた。

「ええ、明日から試験前の部活禁止期間に入るので」

「ああ、ここで話してたから、俺の管轄だもんな。そうなると、個別で呼び出しもし難いから、お前がここに出向くくらいしかできないもんな」

「よくお分かりで。まあ、他に接点ができたのなら、別ですけどね」

「確かにそうだが、俺の管轄内の方が鍛冶は比較的安全だからな」

「どういう事っスか?」

 鬼怒川先生とオレの会話をいまいち理解できていない鍛冶君がそう聞いてきた。それに答えたのは鬼怒川先生だった。

「どうもこうも、部活内で西雲が話を振ってきたっていうのは、俺が許可したって事になる。そうなると、許可した範囲外での行動はオレが西雲に制限を掛けたり拒否する事ができる。

 つまり、西雲がお前に対して危険を冒させようとした場合、俺が止めに入れるって事だ」

「えっと、副会長としてはそうする必要ってあったんスか?」

「正直、誰かの管轄でってなると、こっちの方が制限が掛かるから不利なのは確かだよ。

 だけど、オレが詳しくない範囲で無意識に無茶な事をさせてしまいそうになる場合、ストッパーは欲しいのは確かだよ。君はこの学校の生徒だからね」

「それって、副会長に必要っていうか……」

 鍛冶君がそう言うと、鬼怒川先生が面倒そうに話した。

「まあ、お前の身の安全を優先した結果ではあるな。

 じゃなきゃ、生徒会室にお前を呼び出して『話があるんじゃないか?』って聞いてきたと思うぞ。

 そうなると、鍛冶個人との話し合いだ。俺が関与できないから、何かあったところで俺には何もできん」

「これでも最善の行動をしているつもりなんですよ」

「知ってるよ。お前はいつもそれだ。自分が損になろうとも、最善なら何でもいいって感じだからな」

「別に何でもいいってわけじゃないですよ。不利益は被りたくないんでね」

「そう言っときながら、ややこしい事に首を突っ込んでるのはどこの誰だよ」

「結果的にそうなってるだけです」

「今回の鍛冶に頼んでるのだって、お前自身が使うものじゃないんだろう?」

「……」

 先生は確信を持って聞いてきている。誤魔化せないのは分かっていて、オレは沈黙を貫いた。


「はぁ……。お前、頭は良いくせに馬鹿だよな」

「失礼な事言いますね」

「実際のところ、如月に丸投げしちまえばよかったんじゃないか?」

「如月保有になると、どれだけ厄介か分かってらっしゃるでしょう?」

「まあ、そうだが……」

「何故、一般人のくくりに入ってるオレが頼んでるのかって話ですよ」

「そう言われたら、そうなんだがな」

 先生も理解しているんだろうが、少し呆れた声を出していた。

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