Side 白縫文月
今回は白縫文月視点の話です
副会長が攻撃担当と防御担当と別れ、防御担当は会長の元で訓練と言われ、私は少し落ち込んだ。
実を言うと私は副会長より、会長の方が苦手だ。
会長は基本誰に対しても優しく接する。けれど、それは表面的な優しさで、本当はその他大勢に対して興味がないんじゃないかと思う。
それに対し、副会長は魔力を纏っているのは恐ろしく思い怯えてしまうが、人の事をよく見ている。
だからこそ、必要な時には必要なサポートをしっかりとしてくれる。
私はお兄ちゃんと一緒じゃないと基本何もできない。でも、お兄ちゃんには迷惑を掛けたくない。
それはずっと思ってる。
それを副会長は気付いているのか、仕事は私ができる範囲を割り振ってくれている。本当は優しい人なんだと思う。
今日も走り込みでこけそうになった時は支えてくれた。びっくりはしたけど、嫌ではなかった。
けれど、今は味方のいないところで訓練をしなければいけない。
防御担当は会長と私と睦月野さんだけ。睦月野さんは小学一年生だけど、しっかりしてる。
ただ、なぜかずっとウサギのぬいぐるみを抱いている。走り込みの時は流石に抱いていなかったけど、今はまた腕の中にウサギのぬいぐるみがいる。
睦月野さんはあんまり無駄なおしゃべりはしない。私より年下なのに情報処理も得意で、私なんかと比べたらずっと優秀だ。
思わず溜め息が出てしまう。
「じゃあ、訓練開始しようか」
会長のその言葉で訓練は無情にも開始されてしまった。
防御担当の訓練はいいと言われるまで結界を張り続ける事だった。
終わりの見えない訓練は本当に疲れる。
結界を張るのは魔力も体力も消耗する。すでに走り込みで体力を消耗しているからかなりしんどい。
ちらりと横にいる睦月野さんを見るが、淡々と結界を張り続けている。
結界は簡易的なもので一番魔力の消費が少ないといっても継続して張り続けるのは集中力もいる。
会長はただ私達を見ているだけに最初は見えた。時々目の端であの人を追っているのに途中で気付いた。
結局、私達には興味がないのかもしれない。
私が途中で結界を張るのを止めても気付かないんじゃないかという考えが頭を過った。
その瞬間、会長の声が響いた。
「何か考え事? 結界が安定してないよ?」
「あっ、ご、ごめんなさい」
慌てて謝ると、結界を張り直すよう指示された。……ちゃんと見てたんだ。
指示通り結界を張り直すと会長は私に話し掛けてきた。
「考え事してもいいけど、結界は安定させてね。戦闘時は作戦を考えながら動くこともよくあるから考え事をしちゃダメとは言わないけど、安定した結界を張り続けられないと意味がないのよ?」
「す、すみません」
謝ると会長は少し悩んだような顔をした。
「ねぇ、何を考えてたの?」
「えっ……。大した事じゃ、ないです」
俯く私に会長はそのまま真っ直ぐな目を向けているようで、視線が突き刺さってくる。
「ただ……会長は、ずっと副会長の事を気にされているんだな、と」
私達の事なんかどうでもいいんしょうとはとても言えない。言える範囲で答えると会長は今までで一番綺麗で優しい顔をした。
「葉月ちゃんはね、私が守るって決めた大切な人なの」
「……恋人、なんですか?」
仲が良いと言えば良いのだろうとは思っていた。もしかしたらそうなのかもしれないと思って聞くと会長は首を横に振った。
「恋人とかそういうんじゃなくて、とっても大切なの。小さい頃に私が守るって約束したの。だから絶対に守り続けるの」
小さい頃の約束と言われ、守るという事の約束と聞いて、私はお兄ちゃんが昔私にしてくれた約束を思い出した。絶対に私の事を守ると言ってくれたお兄ちゃんの約束。
でも、会長達は姉弟ではない。じゃあ、関係性はなんなんだろう?
「会長は、いつから副会長とお知り合いなんですか?」
その質問に、会長は花のような笑顔を浮かべ、人差し指を唇に当てた。
「秘密よ。私と葉月ちゃんの大切な思い出だから」
秘密という言葉にドキッとした。私はそれ以上何も聞けなかった。けれど、会長は柔らかな声で語り始めた。
「葉月ちゃんは優しい子なの。今でも凄く優しい子。それでいて、傷付きやすくて、昔はよく泣いていて、誰かが守ってあげないとって思った。私はそれが誰かじゃ嫌だったから約束したの。『私が守る』って。
葉月ちゃんは覚えていないかもしれないけど、私はずっと覚えてる。葉月ちゃんが忘れてしまった事も全部。それも葉月ちゃんの大切な一部だから。それも全部誰にも壊されないように私が守るって決めたの」
聖母のような顔で語る会長に冷たい声が響いた。
「副会長はそんな風に守ってもらわないといけない程弱い人のように思いませんが」
「唯ちゃん……。そうね、葉月ちゃんは凄く強くなった。みんなを守ってくれるくらいに、頼れるくらいに強くなった。でもね、強さは力だけじゃないでしょ?」
会長の言葉に睦月野さんは何も返さなかった。
「みんなにはまだ分からないだろうね。葉月ちゃんは自分の事、あんまり話さないから。でも、葉月ちゃんがもし自分の事を何か話した時は聞いてあげてね」
にっこりと微笑む会長はお姉さんの顔をしていた。
私はこの人の事が本当に分からない。
校舎に張り続けている結界が凄い事は分かる。そんな凄い結界を平然と張って、必要な時は普通に他の魔法も使う。
並列魔法を使うのは体力も魔力も集中力も必要だ。それだけ、全て備わっているという事なんだろう。
だからと言って、私達に対する訓練は見ているだけで自分では何もしない。手本を示すわけでもない。
何故、この人が会長なのか私には理解できない。家柄? 魔力量? この人に他に何があるんだろう?
考えながら張る私の結界はまた歪んでいった。