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Side 卯月谷凪

今回は卯月谷凪視点です

 副会長が会長に対して頭を下げる事でも周りはかなり驚いていた。

 それなのにお構いなしで二人は会話を続け、果てには副会長はさっさと生徒会室を出て行ってしまった。

 残された会長はうんうん唸っている。

 たまに溜め息を吐いてはこちらをちらちら見てきている。

 それを見ないふりをしてボクはソファに横になりながら書類を眺める。

 カタンと音が鳴ったのでそっちを見ると睦月野が会長の側まで歩いて行っていた。

「会長は副会長とケンカでもしていたんですか?」

 副会長が謝っていたのがよほど珍しく思ったのか、睦月野が会長にそう聞いた。

 会長は唸るのを止め、少し困ったような顔で笑った。

「別に喧嘩じゃないんだよ。ただ、私がしつこかったから、葉月ちゃんが声を荒げただけ。葉月ちゃんは別に悪い事はしてないし、喧嘩でもなかったの」

「でも、副会長はご自身が悪いと思ったんですよね?」

「う~ん。声を荒げたのがよっぽど気がかりだったんじゃないかな?」

「じゃあ、なんで会長はしつこくしたんですか?」

 まあ、会長がしつこいのはいつもの事だろうと思ったが、誰も突っ込まない。

「う~ん。敢えて言うのなら葉月ちゃんがあんまり調子良くなさそうだからかな」

 困ったような顔をして答えたのがそれだった。

 調子が悪い? いつもと同じように見えたけど……。

「副会長は体調が悪いんですか?」

「体調がっていうより精神的っていうか、疲れてるって言うか……」

 曖昧な回答ではあったが、疲れているのなら原因は会長ではないかと思った。

「葉月ちゃんは精神的に追いつめられるといつも以上にピリピリするし、気が張っちゃうから、いつか倒れちゃいそうなんだよね……」

 いつもピリピリとした空気を纏っているのに、それ以上とは一体どんなだ?

 疑問に思いながらもボクは一言も発しなかった。

「まあ、ケンカでないのならいいですけど……。副会長、佐々山先輩とも揉めていたみたいなんですけど」

 副会長と会長の話だったはずが、いきなり佐々山先輩の方に被弾した。

「はぁ? べ、別に揉めてたって言うか……」

 心当たりはあるんだろう。佐々山先輩が口ごもる。

「何かあった?」

 会長が佐々山先輩の方に近付き、優しい声で尋ねる。

「別に揉めたっていうか、ふ、副会長に、なんでいっつも魔力纏ってるのか聞いて、あんまりはっきり答えないから……」

 きっと突っかかるような口調だったんだろう。

 それを睦月野が揉めていると思ったんだろう。

「ああ、葉月ちゃん、理由言ってないのね」

「理由あるんですか?」

「うん、あるよ」

 会長はケロッとした顔で佐々山先輩に返した。理由って事は魔力が漏れているわけじゃないってことか?

 少し興味を持ち、耳だけはしっかりとそちらに傾けた。

「う~ん。葉月ちゃん自身が言ってない事、私が言ってもいいのかな?」

 会長は腕組をして考え出した。

「人に言えないような理由なんですか?」

「違う、違うよ!」

 会長は大きく手を振って否定する。そして、意を決したのか一呼吸してから口を開いた。

「生徒会って、この学園を守る為に発足されてるのは知ってるよね?」

 それに対し、会長の話を聞いている全員が頷いた。

 まあ、みんな興味はあるよね。

「この学園は政府派として運営されてるのもみんな知ってるよね?」

 それに対しても頷く。

「じゃあ、裏切りが絶対にないって言える?」

 その言葉に全員が固まった。

「内部の裏切りが一番戦力が削がれる。それは一番あってはいけないの。だから監視と反逆を起こさない為の威圧、それは歴代の生徒会のメンバーが行っていた事。それを葉月ちゃんが今は一人で担ってくれているの」

「で、でも、会長はそんな威圧のある魔力を纏っていないじゃないですか!」

 佐々山先輩の言葉は尤もだ。生徒会メンバーがその役割を果たしているのなら会長も威圧のある魔力を纏っていないといけなくなる。

 それに対し、会長は静かに答えた。

「そうね。私は別の役割を担っていて、威圧だけでは心に闇ができる。それも反乱分子を生む原因になる。だから私は少しでも闇を持っていそうな人とお(・・)をする必要がある。でも、威圧のある魔力を纏っていたらそれはできない。だから私はそういったものを纏うわけにはいかないの。葉月ちゃんはそれを分かっているから私に対して、その役割を強制しないの」

 会長の言葉に全員黙っていた。意味は分かった。でも、それならボク達は? ボク達も嫌われるような役目を担えという事か?

「私の前の代の人たちは本当はずっとしてきた事。そして一般生徒も元々は暗黙の了解だった。でも、最近の生徒はその威圧に耐えられないくらいにレベルが落ちてるのは事実よ」

 つまり、以前まではその威圧に耐えれる生徒がほとんどだったと言うのか?

 みんな考えている事は同じようで、この生徒会というものに不信を抱いた。

「ただ、葉月ちゃんはそれを抜きにしても魔力は纏い続けると思う」

「は? なんでですか?」

 会長の言葉に佐々山先輩が疑問を投げ掛ける。

「あれ? みんな葉月ちゃんの右目の事知らない?」

 悪魔の眼の力が失われている事は生徒会メンバーは全員知っている。それ以外に何かあるんだろうか?

 そう思ったのはみんな一緒みたいで、少し離れていたところにいた神在先輩が口を開いた。

「西雲先輩の能力以外で何かあるんですの?」

「そっか。葉月ちゃん話してないんだ……。でも、もうここまで話したんなら言ってもいいかな?」

 割と大きめな独り言を会長は呟く。

「はっきり言っていただけませんか?」

 神在先輩は苛立ちを顕わにする。女同士ってこういうところが怖い。

「うん。葉月ちゃんが本当は自分の口から言った方がいいんだろうけど、この際だから言っちゃうね」

 会長の言葉にみんな息を呑み、静かに耳を傾けた。

「葉月ちゃんは魔力の暴走で右目の能力を失ったの。そして、右目の視力もかなり落ちてしまったの。ここに入学したての頃はまだ辛うじて見えていたから、今も名残みたいな感じで眼鏡はしてるんだけど……。今はもう右目に関しては光も感じられないの」

 それは割と衝撃的事実だった。

「えっ。でも……」

 驚きでそう声を上げたのは佐々山先輩だった。神在先輩は口を手で押さえている。

「まるで見えるように動けてるのは魔力で補ってるからよ。でも、葉月ちゃんは左目は視力で補っている所為か、今じゃ左の方が反応が悪いくらいだって言ってる。葉月ちゃんは努力したから今はそうやって過ごせるようになってるんだよ」

 会長は少し悲しげな顔をしながらも微笑んでいた。

 ……あの人は一体どれだけの努力を重ねたんだろう。失ったものは戻せない。それを補うのも容易ではない。

 少しボク達はあの人に対しての見解を見直すべきなのかもしれない。

 会長からの衝撃的事実を明かされ、ボク達はまた誰も喋らなくなっていた。

 そして、会長はまた書類を見てから溜め息を吐いて、悩み出していた。

 しばらくすると会長は意を決したように口を開いた。

「みんな、聞いて欲しい事があるの」

 その声にボクは渋々ソファに座り直した。

「あのね、えっとね……」

 はっきりと言わない所為で霜月先輩がキレた。

「はっきり言わねぇならしゃべんな」

 低いその唸るような声に白縫先輩が震える。それを庇うように佐々山先輩が抱きしめる。

 薄ら寒い兄妹愛なんて見たくもないのに……。

 会長は大きく息を吸ってから、霜月先輩を見据えた。

「な、なんだよ」

 珍しい会長の行動に霜月先輩がたじろぐ。

 ふーん。そんな顔できたんだ……。

「葉月ちゃんが、私が判断するよう言ったから私が判断しないといけない事だし、避けられないことだから、みんなにちゃんと言わないといけないと思ってるの。でも、上手く説明できるかわ分かんなくって……。それでも、話さないといけない事だから聞いて」

 さっき副会長と見ていた書類の件だろう。

 みんな気にはなっていたから、黙って聞く体勢に入った。

「今までは生徒会を私と葉月ちゃんでほとんど回していたけど、去年から入ってきてくれた子もいて、書類仕事とかは大部としてもらえるようになったと思うの。今年入った子も頑張ってもらっていて、それはすごく助かってるの」

 感謝のような言葉とは裏腹に会長の顔は少し暗く沈んでいる。

「でも、それだけじゃダメなの。私たち生徒会はこの学園を守る為に動かないといけない」

「だから戦闘に参加してんじゃん」

 霜月先輩が口を挟む。この人は黙っていられないのか?

「うん。でも、それじゃ足りないの。普段から訓練しないといけないの」

「訓練、ですか?」

 今度は師走田先輩だ。この人が口を挟むのは珍しい。

「うん。本当は葉月ちゃんがずっと受けていた訓練をしてもらえるのが一番いいのかもしれないけど、私も葉月ちゃんもあんまり積極的にしたい内容じゃないの……」

 一体どんな内容の訓練だ? みんな少しざわついている。

「それって、一体どういう……?」

 師走田先輩が恐る恐る尋ねる。

「それは……かなり肉体的にも精神的にもしんどいと思う。実際、私は別の訓練を受けていたから詳しい内容は葉月ちゃんしか知らないから……」

 なんだそれはといった顔を全員がしている。霜月先輩もまたイライラし出している。

「だから攻撃担当は葉月ちゃんの元で、防御担当は私の元で訓練してもらおうと思います」

 一体どんな内容の訓練かも分からないが、行き成り訓練をしてもらうと言われ、「はい、そうですか」と誰が言えるだろう?

「あの、すみません」

 そう言って挙手したのは長月先輩だ。

「どうしたの? 長月くん」

「自分や師走田は部活動もしています。正直これ以上生徒会での活動を増やすのは……」

 長月先輩の言葉は尤もだろう。でも、会長にとってはそうではなかったらしい。

「長月君、生徒会メンバーは授業免除があるのは知ってる?」

「ええ、それはもちろん。ですが、自分たちの本業は……」

「うん、学生だね。でもね、生徒会に入る時に説明あったよね? 生徒会は政府派の小規模軍隊にあたるって。だから学業より生徒会の活動を優先するようにって」

 長月先輩の言葉を遮るように言った会長の言葉に全員目を見開いた。

「しかし、今でも戦闘の為に授業を抜けて……」

「分かってるよ。でも、それじゃダメなの」

 会長の言葉を強かった。みんな呆然として黙る事しかできなかった。

「私も葉月ちゃんも授業を受けられた回数の方が少ない。葉月ちゃんに関しては試験以外は受けていないもの。それはこの学園に入った小学一年生の時からよ。強制なの、これは。みんな入る時に説明会ったでしょ? 知らないなんて言わせない」

 確かに説明があった。生徒会は政府派の小規模軍隊にあたり、推薦された者は強制的に入会し、必要時には戦闘を行う事。そして、生徒会の活動は学業より優先する事。

 もし、承諾できない場合は強制退学となる事も説明はあった。

 でも、誰が授業も受けず訓練までして、命を懸けて戦闘を行うと思う?

 確かに良家の子女は家の都合で常に危険と隣り合わせで、死も覚悟している。

 戦闘も日常茶飯事の家もあるくらいだ。

 だが、学生生活も真面に送れないなんて聞いていない。

 みんな黙っているが、納得しているわけではないだろう。

 そんな沈黙を破ったのはノックの音だった。

 会長が返事をすると開いた扉の先にいたのは副会長だった。

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