門番の噂話
「転ぶ」って回転するって意味だよね。
人がつまづいたけど、回転しなかったら、
それは本当に転んだのか?
評価よろぴく☆
「さて、残りの四人はどうしてくれようか。」
堂々とした佇まいで近づいてくるアルに焦る四人の男たち。
大の大人が紙くずのように吹き飛ばされる。
明らかに常人から逸脱したことが目の前で起こった。
しかし、それ故に男たちはアルの実力を正しく判断することができない。
「お、おい。お前ら、どうするよ。」
「落ち着けお前ら。何かタネがあるはずだ。」
「あ、あぁ。あんなデタラメな腕力あるはずがねぇ。」
「そんなこと分かってらぁ。それでも、ヒト一人吹っ飛んだのは事実なんだがよ。」
大人を片手で吹っ飛ばす?
そんな英雄みたいなことができる奴がそこら中にいてはたまらない。
四人はパニックにならない冷静さを持ちながら、結論に着地する。
「多分高価な、護身用の使い捨ての魔道具か何かだ。」
魔道具。
技術と魔法を掛け合わせ、人々の生活をさまざまな方法で便利にする道具。
種類は乗り物や、日常品、そして装備品など数多にわたる。
男は高級そうな服装に包まれている。
であれば、自分達が知らない魔道具を持っている可能性も十分にある。
一回だけの目眩し、そういったものだとの判断だ。
それぞれが自分の武器を取り出し、アルを囲むように陣形をとる。
「何か面白いモノでも見せてくれるのか?」
「調子に乗ってんじゃねえぞ!」
アルは囲い込む四人に、思ってもいない言葉を発する。
そんな余裕を振りまく獣人に怒りを覚えた一人が剣を振りかざした。
それを皮切りに残りの四人も流れるような連携で襲いかかった。
「遅い、遅いのぅ。」
「な!?」
右側から迫る袈裟斬りを、右手の中指と人差し指の二本で摘んでやる。
「おりゃあぁ!っぉわあ!」
盾を構え正面から駆け込む男に対してもう片手を突き出し、受け止めた力を下から上に流した。
男は情けない声を出して盾ごとアルの後ろへと吹っ飛ぶ。
「なっ!?」
「ボサッとするな!、クソ!」
盾の男に突っ込まれ、体勢を崩した所を後ろから突き刺し襲う予定だった男。
予想外の結果に動きが遅れるが、カバーするようにアルの左に立つもう一人の男が足を狙った。
鋭い一撃はアルに飛び越えられ空振り。
剣を返し今度は獣人の顔を狙いに行くものの、最初の男と同じように摘まれて抜けなくなってしまった。
「死ねぇぇえ!っグハ!」
両手が塞がれた事をチャンスと思った背後の男。
後ろから今度こそ突き刺してやろうと迫れば、顎に衝撃を受けて吹き飛んだ。
「うぎゃぁ。」
気づけば盾を持っている男の上に落ちる。
((前転から踵で顎を蹴り飛ばすだと!?))
確実にやったと武器を防がれた二人は思った。
しかし男二人の武器を両手に掴んだまま身軽に体を翻し、仲間に一発入れた。
その事実に言葉を失う二人。
更には体を翻す一連の動きで両手にある二人の獲物を真っ二つに折られた。
折られた刀身は宙に投げ捨てられる。
前転する勢いのまま手首を掴み直し、絶句していた二人を盾の男に投げつける。
「軟弱の二文字が良く似合う。」
訳のわからない言葉を発する男に恐怖を覚える四人。
彼らの士気は完全に折れてしまった。
アルがふとアイーシャの方へ視線を向けた。
そこには心配そうな顔をした彼女が立っている。
(やりすぎたか?)
…大した脅威でもない。見逃してやるとするかの。
少し遊んでやったつもりのアルだったが、アイーシャの顔を確認して認識を改める。
「命拾いをしたな、童ども。行くぞ。」
アイーシャに首で行くぞと合図を出せば、タッタッタっとアルに近寄っていく。
アイーシャは最後にその場を離れる前に一度振り返る。
怯えた大人四人に対して舌を出してから、アルの横に並ぶ。
そして二人は手を繋いで森の奥に消えていった。
「な、何もんなんだよ。あいつ」
「し、しらねぇ。聞いた事ねえよ」
四人は謎の余韻を感じながら、命がまだある事に感謝していた。
「あれ?なんか忘れてねえか?」
◇
「可愛そうだよなぁ。女の子、まだ見つかってねえんだろ。」
村の門番達は、今日起こってしまった悲痛な事故に皆心を痛めていた。
少女が一人、村から消えてしまった事件だ。
失踪届けに記載された娘の特徴が、今朝方村の出入り口で見かけた少女に酷似しているそうで、
その子供は夕方になっても発見されていないそうだ。
茶色い髪に黒い目をしており、薄い桃色のワンピースを着た少女。
村に住む人々はそれぞれ違った認識をしているが、
拐われたか、村から出て今頃は魔物の餌食になって死んでいるか、
この二択だと思われていた。
「俺たち巡兵に落ち度がある可能性があるってのが、また嫌な所だよな」
巡兵とは巡回兵士の略。
その言葉通り、指定された場所を巡回することで公共の安全を守る役職だ。
場所にもよるが、街や村の門番もしている。
今朝方見張りに立っていた門番の何人かが、
村の中で起きた取っ組みあいの鎮静化にあたった。
最初は小さな喧嘩のようなものだったようだが、
巡兵が喧嘩の仲裁を行う上で、カッとなったのか必要以上の武力を行使した。
すると喧嘩などがあったと知らない途中で参加した野次馬が、
必要以上の武力の行使に不満を持ったのか野次を飛ばした結果、
見物客がヒートアップし、なぜか野次馬を含めた殴り合いの争いに発展した。
増援で門番に当たっていた巡兵も駆り出されて、門を2・30分は空けるはめになったそうだ。
20分もあれば、少女が門を抜けて見えない所まで走っていくことなんて容易だ。
最後に残ったのは、怪我をした村の住民と失踪届けってわけだ。
そんな話をしていると、
「おい。なんだアイツ。」
村の外から子供を連れた獣人がやってきた。
「獣人なんかここらで珍しいな。不思議な服もしてるし。」
「あれ、確か着物とか水干とかいうらしいぞ。高そうな服だよな。」
「おい待てよ。あの手に花を持ってる子供ってまさか。」
「おいおい。まさかも何も、茶色い髪に黒い目。桃色の服ってあの子じゃねえの?」
村の出入り口が騒がしくなった。
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