第二話 『帰らぬ遺体』 その一
あれから朝になり、仮眠を取った。病院に置いてあった服と下着と、本来は入院患者用の入浴室を使い、身支度を整えた。
家に戻っている暇はなかった。混乱は続いている。叔父の遺体は県警のもとで司法解剖が行われるらしい。
事件性を疑われているのだろうか?……まあ、変死の一種だから、そうするしかないが……。
……まさかとは思うけど、あれは人為的な現象だったのかしら?
人の体が燃えるなんて、フツーじゃありえないもの。
眠れたことで、頭が少しは回り始めているかもしれない。現実として、あの状況を認識することが出来始めている。
ありえないことだけど。
事実、起きた。
叔父は交通事故で運び込まれて来た患者の処置に当たっていて……なぜか、いきなり燃え始めて焼死したのだ。
……その理由はわからない。でも、スプリンクラーからの水を浴びても、あの炎は弱まることもなかった……。
もしかして、燃焼性の強いものを、体にかけられたとか?……たとえば、ガソリンだとか?灯油かもしれない。
それを、どこかでかけられて、密かに火をつけられた?
……だとすると、殺人事件になる。それはそれで怖いことだけど、あの現象を説明することは可能ではある。
ヒトの体は自然には燃えないハズだもの。
そうだ。
あれは、もしかすると……叔父を恨む誰かによる放火殺人だったのかもしれない。
でも。だとすると、誰だろう?……叔父を恨む存在?……そんな人物がいたのだろうか。
私にはやさしい叔父にしか見えないし、脳外科医としても、精神科医としても叔父は実績がある。
市長選に立候補までして…………対抗馬に暗殺された?……こんな田舎の市長になったからといって、何が得られるのか分からない。
対抗馬も、市役所を早期退職した五十代半ばの中年男性。叔父を殺すような人物像には見えない……。
……ダメだ。
妄想じみた考えが浮かんできそうだ。病的な発想をしてしまいそうだわ……こんがり童子という妖怪に、うちの入院患者が神隠しに遭ったとか……。
ブブブブブ!
スマホの着信が入り、私はそれに驚いてしまっていた。
心が不安になっているのだろう。私は、叔父を怪死で失い、患者を神隠しにされた精神科医だ。
……気味悪がられそうな経験をしている。私の婚期はより遅れるかもしれない。
そんな下らないことを考えながら、私はスマホに出た。




