無茶振りする子×真面目に答える子
2019年4月30日。日本は平成最後の日を迎えた。
そんな中、 友だちの和の家で、あたしはお泊まりをしている。
和と友だちになったのは、小学1年生に入学してからすぐだった。
ただ前後の席だっただけという理由なのだけど、なんとなく波長が合って、気がついたら隣にいるのが当たり前となっていた。
お気に入りのパジャマ姿で寄り添うあたしたちは、ベッドに座って、なにをするわけでもなく、のんびりと過ごしていた。家も近くなので、休みの日はこうしてどちらかの家に泊まることがほぼ当たり前だ。
山のようにあった高校の課題は昼間に終わらせている。他にやることといえば、おしゃべりをするか、寝るかのどちらかだろう。
ぼんやりと暗くなっている外を見ている和へ、いつもの日課を投げようかと顔を向ける。彼女の横顔が、まるで美術館にあるような絵画のように綺麗に思えて、一瞬だけ声をかけることをためらってしまう。まあ、声をかけるのだけど。
「ねぇ、和~」
「なに?」
「平成最後だから、なんかビックリすることして~」
目を細め、呆れた表情を和は浮かべた。
「いつもの無茶振り? まあ、いいけど」
和はすぐに人差し指を口元に当て、天井を見上げる。そんな彼女を眺めて、つい笑みをこぼす。いつも和は文句を言いつつも、なんだかんだで答えて、あたしを楽しませてくれる。
「あたし、真面目に考えてくれるあなたが好き」
「私も。あんたといると退屈しないよ」
和は青空のような爽やかな笑みを見せる。しばらくすると、熱っぽい瞳で見つめてきた。
「どうしたの、和? なにか思いついた?」
ワクワクしながら和を見る。見たことのない真剣な雰囲気で和は向き直り、あたしは首をかしげた。
「令……」
和はあたしの腰に手を回し、ぎゅと抱きしめキスをした。お風呂上がりでまだ温かい身体が、あたしをポカポカと包み込む。あたしたちは唇を離し、和はいたずらっぽくにやりと笑った。
「驚いた?」
「その……すごく……ビックリした……今までで……一番……」
突然の行為に嫌な気分になんてならなかった。けれども、思ってもいなかった行動に、しどろもどろな返事になってしまう。そんな返事で和に不快な思いをさせてないだろうか。
「嫌だった?」
案の定だった。和は肩を落とし、表情を曇らせる。あたしはすぐに答えを返した。
「そんなことない。平気」
返事を聞いた和から曇り模様が消え、ほっと安堵のため息をついた。あたしも安堵のため息をつく。和に暗い表情は似合わないから。
「そう。期待にそえてよかった。それじゃあ、もう一つ」
私の耳元に和はそっと近づき、ささやく。
「私、令のことが好き」
和の追い打ちに、あたしは目をパチクリとさせる。
「ええっと……エイプリルフールはもう過ぎてます……よ?」
「冗談でこんなことしないし」
和はじっと見つめてくる。その瞳から本気だということが伝わってきた。
「返事、聞きたいんだけど」
あたしはどう答えようか考え、日付が変わった瞬間に、コクリとうなずく。
「その……よろしく」
とろりとした笑顔を見せる彼女に、あたしは、また無茶振りをすることにした。
「その……もう一回しない?」