二つ折り
数字を押せない
手書きの電話番号
三色ボールペンで
レシートの裏に書かれていた
記憶の中には
ちょっと待って下さいの声と
縦に折られたレシート
気づく時間と
直ぐにやってきた次の客
視線だけの会話は三秒
それだけで開く自動ドア
信用できる時間は
それだけで
未だに
こんな事をする人が居るんだと
標語が浮かんだのだが
今だからこそ
こんな事をする必要があるのだと
上書きされそうになる
勝手な理由付けだ
遊びの欠片が
そうやってぽとりと落ちるが
電話をかけた先に待っているのが
当人だとは限らない
関係無いと思っていた人が
登場人物になる瞬間の予定外の形を
信用できるだろうか
踏み込むことがリスクになるのなら
何も無い方が波は無い
でも、それを
退屈だと言って嘆くのなら
あゝ面倒な思考である
全力でスウィングして
空振りした方が
まだ良いだろう
アドレス帳のみの受信にするなら
知られても構わないだろう
何なら番号を変えても良い
防壁ばかりを高く建造する
何もなければ
それに意味は無いのだから
ただの保険である
キーパッドを眺めながら
寝転がった
片手にはレシート裏
天井と白色へ
交互にピントが合う
夕方の五時に交代だったようなと
頭に巡って来た
馴染みのコンビニは
行く回数で店の様子を把握する
時計は午後四時五十五分
今日は日曜日
もう一度コンビニへ出掛けた
辿り着いた時には
五時を過ぎていた
キーパッドには
電話番号を打ち込んで
後は押すだけにしてある
灰皿の近くで
煙草を吹かしながら
とある人が出て来た時に
発信を押した
振動音に気が付いたのか
肩にかけたバッグを
手で持った
駐車場であるから
直ぐに邪魔にならない方へ歩いて行く
だけど、途中で我慢が出来なくなって
前屈みになり
膝をバッグの底に当てながら
中を漁っている
仕事用で
少しぞんざいなバッグなのだろう
画面を見ると
躊躇なく押したようだ
こちらの発信音が消える
「もしもし?」
「もしもし?」
「レシートの人」
「あーあぁ」
よく分からない反応だったが
体の方は正直で
背中がピンとなっていた
喋りながら
店内の雑誌コーナーへと歩く
見られると気持ち悪い奴になる
場所も場所で
何の余裕も無いが
意味があるように思えた
雑誌コーナーで自己紹介をし
電話帳へ登録することを
お互いに納得すると
「ショートメールで」と言う
機械音声が互いの鼓膜で被る
「またね」
先に言われてしまったから
「またね」と返して切った
外を見ると
駆け足で帰っている背中が
ゆっくりと遠ざかっている
夕陽で袖のボタンが光っていた