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冒険者は宵越しの銭を持たず  作者: 鳴海 諒
そのささやかな祈りを
14/19

40年前の因果

 画商の所から引き上げて、一旦四人は『踊る牝鹿亭』に立ち寄っていた。親父に簡単な昼食を頼んで食事処に腰を落ち着ける。昼食時を少し過ぎた頃合い、店内に人の姿はまばらだ。冒険者の多くは外出しいてるし、出入する層を見れば一般客はなかなか入りにくい。潰れてしまわないかが少し心配だ。


 「画商の話を交えると、気になる点がいくつか思い浮かぶな」


 着席がてら最初に口を開いたのはロランドだった。画商の話から分かったのは、壁画の作者はフェルド・ヴィクトールという流浪の画家であり、壁画の女性に似た何点かの肖像画を含めて近年高く評価されているが、本人は40年前に強盗に襲われてイスハーンで既に亡くなっている、といった具合だ。


「気になるところといえば、例の姉妹(シスター)とフェルド氏の関係ですね。親しい間柄だった事はほぼ確実でしょう」


 壁画の女性に似た姉妹ーー地下室の白骨ーーとフェルド氏と恋仲だったのではないか。壁画と同様に姉妹を描いた何点もの肖像画が存在すること、その作品の表題『微笑む姉妹』そして『愛しのリーリア』がその関係性を裏付けているように思える。そうアイシャが指摘した。


「私は、フェルドさんが亡くなったという時期がやっぱりきになるわ……」


 そう少しためらいがちに口を開いたのはミアラだった。同じような引っかかりを覚えていたロランドがその言葉を横から補足する。


「当時の師教の突然の死、同時期に襲われて亡くなった画家、姿を消したーー実際には地下室で人知れず亡くなっていた姉妹。繋がりのない死も教会の改築の前後で時を置かずに起きたことを考えると、ただの偶然とは言い切れないような違和感がある」


「冷静に考えれると、あの姉妹を地下室に閉じ込めたのは当時の師教なのではないかと……」


 肩を落としてアイシャが言う。あの地下室に入った姉妹が外に出られないよう長椅子を動かした人物、40年前の改修に携わり、地下室の存在そのものを確実に知り得た人物がいる。


 隠し部屋だったくらいだ。その存在を知り得たのは実際に作業した者か、設計を依頼した人間――教会関係者ーーという線が妥当だろう。都市イスハーンで責任者であった前師教があの部屋の事を知らないはずがない。


「可愛がっていた姉妹が男に取られたからそのまま囲っちまったんじゃねえか?」


「どうかしら。前教師と例の姉妹は親しそうだったという話だけど、さすがに父娘以上に年の差があるのよ。いや、でも歳の差何て関係無いほど執着していたのかも……」


 痴情のもつれか、などというモルガンと真面目に返すミアラ。下らない噂の落ちとしては良くある話だ。


「確かに前師教は姉妹を閉じ込める事のできる立場にあった。だが執着していたなら尚の事、殺す理由にはならないだろう」


 人が人を殺める。冒険者の二人は仕事柄綺麗事ばかりでここまで来たわけではないが、それでもそれは人として忌避すべきことだ。


「ただ閉じ込めるだけのつもりだった……とか?」


 ロランドとミリアの掛け合いで、一同はうーん、と唸ってしまった。朧気に繋がりが見えるものの、やはり情報が不足している感が否めない。


「そもそも、何で姉妹の格好をしていたのに記録がねえんだ? おかしいだろうよ」


「正式に認められた姉妹ではなかったのか。なにか記録に残せない後ろ暗い事があったのか。でも修道服を着ていたのなら教賛者ではあるはずなんですよね」


 そんな風にモルガンとアイシャが話しているところに、ふと思い出したようにミアラが言葉を挟む。


「私、気になった事があるの。ロランド、あなたが地下室で見た杖って表面に文字が刻んでなかった?」


 暗がりで確認したので細部までは分からない。だが、大きさを確かめようと手にした際に、言われて見れば表面に凹凸があったような気がした事をミアラに話す。


「それ、おそらくただの杖じゃないわ。法具よ。」


 法具とは、魔術師の使う杖や指輪と同じように法力を強めたり補助する道具の事だ。ミアラも大きさは少し小さいが似たような道具を持っている。


「つまり、あの姉妹は法力か使える人だったと」


 法力は誰しもが使えるわけではない。魔法使いと同じように生まれた時に使える使えないが決まる。『賢哲の社』などの学術機関では、魔術と法力は異なる体系であるがその根源は同じと位置付けている。


「だがよ、それが分かるとなんだってんだ?」


「治癒の使える法力使いが居るのと居ないのじゃ、御布施も変わってくるのよ。即物的なご利益があるんだからね」


 訝しげに聞くモルガンと、教えてあげるわ、とばかりのミアラ。聞くところによると法力とは癒しと凶祓いに秀でた魔術である、と言われることがあるそうだ。建前上は怪我の治療で対価を取ることはないが、その謝礼は御布施という形で返ってくる。富める者も貧しき者も皆一様に、自分で責任を持てる額を払うという。記録には存在しない姉妹、法力、比較的裕福といえた当時の教会、そこから朧気にであるが推測が立っていく。


 「老夫婦のおじいさんや、聞き込みをした人たちも姉妹を覚えていなかった。法力を施す人が当時存在したなら、誰か一人くらい覚えていてもいいはずだ。少なくとも姉妹は表立って法力を使っていたわけではなかったんだろう。だがその一方で、事実としてこの教会には当時改築できるほどの余裕があった。つまり……」


「限られた一部の人々に法力の癒しを与えて、多くの御布施を頂いていたと、そうなのですね」


 ロランドの推測をアイシャが結んだ。そう考えれば姉妹の扱いにも資金についても説明がつく。前師教と姉妹を結ぶ線が繋がったとなると、そこに画家はどう絡んでくるのか。


「画家と姉妹は恋仲で、法力の力で利益を得ていた前師教がそれを快く思わなかった、というのはあり得るかもね」


 前教師が人を使って画家を殺めた。ミアラが言外に語ったのはそういうことだ。だが、本当にそこまでするものなのか。横で「考えるだけで恐ろしいことです」とアイシャが呻いた。仮に画家に手をかけたのが前師教だとしても、前師教と姉妹の死については説明がつかない。


「推測は成り立つが証拠はなにもない。前師教の死は偶然だったのか?人を殺めるのは怨恨か、利害か、はたまた常軌を逸した何かがあったのか……」


 ロランドがそう呟くと皆一様に黙ってしまった。これ以上は手詰まりか。皆が肩を落としたその時、食べ終わった料理を下げに来た宿屋の親父が無責任に口を出した。


「さっきから難しい顔で話し合ってるな。事情はわからんが考えるくらいならまず当事者に聞けばいいだろ?お前らだって詳しいことは依頼人に聞いて判断するじゃないか」


 当事者はもう死んでんだよちくしょう、とモルガンは毒づいたが、他の三人は別に思うところがあるように目を見合わせた。


「やってみる価値はあるかもしれないな」


 ロランドがモルガンをにやりと一瞥してそう言った。今一度教会に赴き、あのゴーストに話を聞いてみる。応じてくれるかどうかは分からないが、今回ばかりは自他共にーーいや、ゴーストも認める伊達男のモルガンを担いでみよう。そう決めたのだった。

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