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果てなき刻の旅人  作者: 鷹鴉
第零章 "Endless traveler"
9/22

追憶の旅: 「クローデ」

クローデの過去話です 

 

 私は、森の中にいた。

 見回す限り、鬱蒼(うっそう)と大地を覆い尽くす、(そび)え立った木と、膝程の高さまで伸びた草しか見えない。


 木々の間を、風がするりと通り抜けて行く。毎年、この時期になると吹く風だ。


 私は、森の中で寝転がっていた。上から見たら、大の字を描いている事だろう。


 鳥の囀り(さえずり)、虫の囁き(ささやき)、葉っぱの歌声、不思議と鮮明に聴こえてくる。


 そして、私を追う人族の声も。


「どこに行った!」「観念するがいいぞ!」「人族の皮を被った邪神の手下め!」


 ああ。寝転がっているというのはおかしいな。


 私は動けないのだ。逃げるのに疲れきって動けないのだ。


「どうして……、どうして追われなきゃならないの……?」


 もう間近に迫った死を前に、涙が零れ(こぼれ)落ちた。


 なんで……、こうなっちゃったんだろうな……。




 * * *




 私は、黒髪のハーフエルフの父と、金髪のハイエルフの母の間に産まれた。


 ハーフエルフとハイエルフが結婚することは、これまでなかったらしく、周囲からの反対も凄かったらしい。


 いや、反対だけじゃない。母のことが好きだった純血のエルフや、ハイエルフからの嫌がらせも受けたという。何をされたのかは言ってくれなかったし、私も聞こうとは思わなかった。

 とても、悲しんでいるような。それでいて、とても憎しみのこもった表情をしていたからだ。


 私の両親はとても優しかった。

 私が怪我をして泣いた時も、物を壊してしまった時も、――そして、嫌がらせを受けたときも。「大丈夫。クローデは強い子だ。だから泣かないで?」と、優しく受け止めてくれた。


 大好きな両親だ。

 その両親と楽しい日常を過ごしていた。


 ――あの日までは。





 私が十歳になる年のことだった。

 エルフには、十歳になる年の春、精霊魔法の練習を始めるという風習がある。

 

 もちろん私も練習を始めた。人一倍頑張って練習した。なのに、私はまったく精霊魔法が使えなかった。


 同い年の子が、どんどん精霊魔法を使えるようになっていく中、私はどんなに頑張っても使えなかった。


 まわりが使えるとはいっても、発動するのはそよ風程度の風だが、二週間、三週間、それ以上の間、必死に練習しても使えなかった。


 そうなると、私はまわりから虐められるようになった。

「役立たず」「半端者」「精霊の心も分からぬ問題児」


 そしてその矛先は、私の両親にも向けられた。


 だんだん、私と両親は、集落の中で孤立していった。


 

 そんな時だった。

 私たちの集落の位置が人族に見つかったのは。


 人族はすぐに征伐隊を向かわせてきた。


 神に(あだ)なす邪神の手下を倒すという名目で、虐殺は始まった。


「お父さん!お母さん!行かないでよ!!」


「……すまないクローデ。お父さんたちは皆を守らなくちゃいけないんだ」


「巻き込まれないように、あなたは逃げなさい」


「いやだよいやだよ!! 人間はあんなにいっぱいいるんだよ?! 数え切れないくらいいるんだよ?! そんなの勝てっこないよ! 一緒に逃げようよ!!」


「ごめんな。それでも一緒には行けないんだ。――心配するな。父さんたちは力を合わせて必ず勝ってくる。だからそれまで逃げているんだ。いいね?」


 力強い眼差しでお父さんにそう言われた。お母さんに目を向けると、「心配しないで?」と、微笑みながら言われた。

 私はしぶしぶうなずき、集落から逃げた。


 そして、一キロほど離れたとき、それは見えた。見えてしまった。


 集落に、大量の炎が撃ち込まれる様子を、集落が炎に包まれる様子を。

 あの中で生きている人はいないだろう。

――私の両親も。


「お父さんの……お母さんのウソつき……。」


 思わず言葉がこぼれた。


「馬鹿ばかバカ馬鹿バカぁぁあああああっ!!!!」


 私は逃げ出した。全力で走った。

 叫んだ声が聞こえたのだろう。後ろからは人間が追いかけてきた。


「いたぞ!生き残りだ!」


「急げ!早く追いかけて殺せ!」


 森の木を、草を、花を、動物を、それらに隠れるように動きながら必死で走った。


 命懸けで走った。足の痛みも気にせず走った。草が脚を切り、血が流れても走った。

 そうしなきゃ、殺されるから。




 物事には限界がくる。全力ともなればなおさらだ。


 私は、石に躓いて(つまずいて)転んだ。


「うわぁっ!」


 すぐに起き上がって、逃げようとする。


 ――体が動かない。全身が痛い。喉はカラカラ。


 もうだめだ。私は死ぬしかないのか。


「どうして……、どうして追われなきゃならないの……?」


 涙が零れた(こぼれた)


 そんな時だった。カタカタという音が聞こえてきたのは。


 その音の主は、馬車だった。

 馬車にしてはかなり小さかった。そして、私の前で止まった。


「……ふむ、二人乗りの馬車なんて変なものを貰って困ってたところだ。たまには人助けをしても、バチは当たらんだろ」


 中から、若い男が変なことを言いながら出てきた。


 後に、名前は教えてくれなかった……、いや、本人も自分の名前を忘れているようだったが、「所長」と呼び、ついていく事になる、恩人との出会いだった。



 

初一人称に挑戦。少し不安です。

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