八話 種族の旅
カークとクローデは、街道を歩いていました。遠くには馬車や歩いている人が、微かにだが見えています。
太陽がはるか頭上からこちらを見つめてきていて、山から吹いてくるそよ風が心地よく感じます。
カークとクローデはアインファルクの街へ向かって歩いていました。
「後はギルドに報告して、物を売り払うだけですね」
「アジトにあった物からして、そこそこ荒らしていた盗賊の様だからな。多少は報奨金にも期待できるだろう」
ギルドで出す報奨金は、ハンターたちのやる気の為にも、最低でも大銅貨五枚は出すようにしています。盗賊だと認められれば、ほとんど被害を出していなくても、です。
ですが、甚大な被害をもたらす、大盗賊団などと呼ばれるような規模にもなると金貨や大金貨が動くことも珍しくありません。
「まぁ、報奨金は銀貨いけばいい方だろうがな」
「ええ、そうですね。――前方にゴブリン、二匹ですね」
クローデが気付き、五十メートル程先にゴブリンが現れました。
行きは囮としての役割があったので、魔物が現れても戦わず、わざと逃げていたようでした。
帰りはもう、その必要がないので銃で瞬殺していきます。行きに逃げるしかなかった事への憂さ晴らしも兼ねているのでしょうか。
数十分後、二人はアインファルクの街へ到着していました。
「それでは、早速ギルドに向かいますか」
「そうだな、いい稼ぎになるといいが」
二人は楽しみが待ちきれない、といった表情と足取りでギルドへ向かいます。
ギルドには、朝よりも多くのハンターで賑わっていました。
良さげな依頼を捜す者、酒場で食事をとっている者、祝勝会でしょうか、仲間と酒盛りをする者もいれば、――それを横目に、ヤケ酒をしている者。
実にいろんなハンターがいました。
「どうも、ギルドにどのようなご用件でしょうか?」
カウンターの前に立った二人に、受付が話しかけてきます。
「盗賊を討伐してきたんで、その報告と、戦利品の売却だ」
「わかりました。解体部屋に移動しますね」
そう言うと、受付は二人を先導して、解体部屋へ向かいます。
解体部屋は二十畳を越える、広い部屋となっていました。
ここでは買い取り品を並べたり、魔物の解体をするため広く造ってあるのです。
他のハンターたちも何人かいました。思いがけない高価格に、心躍らせる者もいれば、戦い方が雑なのだろうか、素材として使えない部分が多いせいで安く買い叩かれる者もいるようでした。
「それでは、討伐の確認をさせて頂きますね。何か証拠となり得る物はお持ちでしょうか?」
「ああ、頭目と思われる奴の首を持ってきた」
そういって頭目の首を出すと、確認役の男がやってきていくつかの似顔絵と見比べ、確認していきます。
少し経つと確認が終わったようです。
「ふむ、最近活動が活発になっていた盗賊で間違いなさそうや。報奨金は銀貨五枚ってとこか。――こいつらを二人でやったんか。見た目のわりに腕利きやな」
特徴的な喋り方で男が確認の結果を伝えます。
「では、戦利品の買い取りに移りますね。ここに並べて下さい」
二人は収納袋から、剣、弓、防具、宝石や魔道具を並べていきます。ストーレク達チンピラどもの物もまとめて並べていきました。
男は買い取り品の鑑定の仕事しているようで、戦利品を手に持ってはルーペ等を使って確認していきます。
十分程で確認が終わったようで、金額を伝えてきました。
「装備にもそこそこ良いもんが入っとるし、宝石と魔道具は中々の値段になるで。全部で金貨四枚と、大銀貨五枚ってとこやな」
「思ってたよりもいい値段で売れますね」
「なら、大銀貨二枚分を銀貨に替えて欲しい、後はそのまま支払ってくれ」
「わかりました。カウンターでお待ち下さい」
受付が別の部屋に移動します。買い取り金の用意をするのでしょうか。
二人が、少しカウンターで待っていると、受付が袋に買い取り金を入れて持ってきたようです。
「こちら、金貨四枚と、大銀貨三枚と、銀貨二十枚になります」
カークは中身を確認し、合っていることを確かめると袋を収納袋に入れ、ギルドを後にしました。
†
「中々の稼ぎになりましたね、所長」
「金貨四枚いけばいい方と思っていたが……、大銀貨もついてくるとはな」
二人とも物の価値に対して、まわりとは若干ズレている節があります。
どちらも今の情勢を知らないのだから仕方なくはありますが。
「そういえば、前に旅をした時とは少し変わっていることがあるな」
「そうなんですか? 私にはよくわかりませんが……」
「あの鍛冶屋とか、道行く人をよく視てみるといい」
クローデは目を凝らして、鍛冶屋や、色々な人を見てみます。
よく見ると人々の中に背が低く、やや浅黒い人や、背が高く、耳の尖った人がいるのが見えます。
「あれは……。ドワーフとエルフですか?」
「ああ、前は人族の街では普通に暮らせなかった種族だ」
「確か、前はかなり迫害されていましたよね?」
この世界には、人族の他にも、エルフ族、ドワーフ族がいます。
エルフ族は、みなスラッとしていて金髪、精霊魔法という魔法が使え、ドワーフ族は、背は低いが力が強く、手先が器用という特徴があります。
どちらも人族よりもずっと長命な種族だが、元々の数が少ないのです。
そこにかつて人族からの迫害を受けたので。更に数は減っていました。
「迫害、されなくなったのでしょうか?」
「いや、迫害自体は続いているだろう。それをする所が大幅に減ったというだけで」
「なるほど」
「アクラス教は知っているな?」
「もちろん知っていますよ。アクラス様と邪神が云々で邪神の手下が魔物でー、って宗教でしょう?」
「昔、というかアクラス真教派は、エルフとドワーフも邪神側だって教えてたがな」
「どうして亜人もなんでしょうね?」
「さあな? 羨ましかったんじゃないか?」
「うわ、嫉妬ですか。――まったく、おかげで酷い目に遭いましたよ。本当に」
「パッと見、判らないがクローデは"ハイエルフ"なんだよな」
エルフ、ドワーフの上位種族として、"ハイエルフ"と"ハイドワーフ"がいます。
よりはるかに長命で、より能力も高いが、より数が少ないのが特徴です。
ただ、クローデの場合は特殊なようですが。
「なぜか精霊魔法が全く使えないんですよねぇ。耳も尖っていませんし」
クローデの見た目は、金髪ではなく黒髪な上に人族とあまり変わりません。ですが、人族よりも永く生きています。
「なんででしょうかね? 理由はわかりませんが」
「確か、その事について昔に少し喋ったことがあったか……? 俺も覚えていないが」
「まぁ、おかげでかつての仲間からも役立たずと言われ、人間からも迫害されて、酷い目に遭いましたよ」
そんなことを言いつつも、声には悲しみや憎しみがこもっていません。もうどうでもいいと思っているのでしょうか。
「でも、"過去は変えられない。変えるべきじゃない"って所長も言ってたじゃないですか。こんなしけた話は止めて、宿で美味しい料理食べて、休みましょうよ」
「それもそうだな、かなり腹が減ってる。それが一番だな」
宿の食堂へ向かって歩き出しました。