七話 収穫の旅
引き続き残酷かつグロテスクな描写が入ります。ご注意下さい。
アインファルクの街から一時間程街道を歩き、更に山へ三十分程歩いた所に盗賊のアジトはありました。
まわりには木や草がうっそうと生い茂っていて、風で葉っぱが擦れる音が聴こえてきます。
パッと見ではどこにアジトがあるのか、わかりづらくなっています。
隠れる必要のある盗賊としては、絶好の隠れ家になっていました。
アジトは洞窟の中にあり、多くの食糧や武器、商人から奪ったであろう商品もあります。
アジトの前には十数人の盗賊がいて、なにやら会話をしているようでした。
「お頭ぁ、今月は豊作っすねぇ。大収穫っすよ!」」
「ああ、順調に稼ぎもメンバーも増えて来ている。こりゃぁ俺たちが大盗賊団になる日も近いぜ?」
お頭はそう言うと、ガハハと豪快に笑いました。それに対し、部下の盗賊も軽口を言います。
「もしも大盗賊団になれたら、俺たちはそれの幹部だ。稼ぎには期待させてもらっていいんすよね?」
「阿呆か、お前みてぇな奴はいつまでたっても下働きだ。一生こき使ってやるからな?」
「そりゃあんまりってもんすよ、お頭」
盗賊たちは笑いながら、そんな和気あいあいとした会話をしていました。
――もう近くにまで、悪魔の手が伸びて来ているとは露知らずに――
「お、あれがアジトですね」
クローデが単眼鏡を覗きながら言いました。
「距離は四百メートルぐらいですね。どうします?」
「なら狙撃といこう。良い練習台だ。スポッターを頼む」
二人は、まわりより少し高い場所を選んで盗賊を見ていました。
比較的アジトが見えるので、狙撃することも可能でしょう。
カークはボルトアクション式のスナイパーライフルを取り出し、二脚を立てて地面に伏せます。横には収納袋から取り出した弾薬が置いてあります。口径は七.六二㎜。
「数は十六、バラけて立っていますね。中央付近にリーダーと思われる人物がいます」
「了解、全員仕留めるようにする」
カークはゼロインを調整し、眼から十センチほど離してスコープを覗き込みます。
集団から少し離れた位置にいる盗賊に狙いを定め、引き金を引きます。
パシュンという音と共に、一秒強かけて弾が飛んでいきました。
そして、弾丸は着弾の瞬間、まるで歪に花開くように変形して――
「着弾、命中、ヘッドショット」
クローデが淡々とした声で伝えます。
盗賊の頭は、変形した弾丸により余すことなくエネルギーが伝えられ、見るも悲惨な光景になっていました。
カークはボルトを動かし排莢をし、薬室へ弾を送り込むと、すぐに他の盗賊に狙いを定め、また引き金を引きました。
『パアァン』「着弾、命中、ヘッドショット」
山に減音された銃声と、声と、銃を操作する音が響きます。
スナイパーライフルにはサプレッサーを付けていますが、音速を超える弾丸なので発射の際の衝撃波による破裂音があるため、小口径の拳銃を撃った時ぐらいの音がしています。
しかし、主な目的は射手の保護なので、問題は無いようでした。
「弓か魔法で狙われている!警戒しろ!」
「場所を探しだせ!そう遠くないはずだ!」
四人程頭を撃ち抜くと、盗賊たちも異常事態に気づいたようで、頭が叫びました。
が、盗賊たちの予想をはるかに超える攻撃には意味がなく、次々に撃ち抜かれていきます。
途中でマガジン内の弾が無くなるも、すぐに再装填して狙撃を再開します。
そして、立っていることのできる盗賊はどんどん減っていきました。
「着弾、外れ、やや左」
カークはすぐに狙いを修正し、撃ち抜きます。
「着弾、命中、ハートショット」
そんな声が響く頃には、盗賊は全員地に伏していました。
「全員死亡した模様――やりましたね、所長」
「ああ、偏差を読み違えて外したときはヒヤヒヤしたが、何とか全員殺れたな。鈍ったかな……」
「そこそこ風が吹いてますからね。あれだけ当てられればすごいですよ」
「そうか? まぁ、まずはさっさと片付けてかっさらいに行くぞ」
そう言うと二人は、ライフルと弾薬を収納袋に仕舞い、アジトへ歩き出しました。
「うひゃぁ、近くで見るとやっぱえげつない光景ですねこれ」
クローデの言うとおり、アジトの前にはおびただしい量の血と、脳漿が飛び散り、死体が転がっていました。
血の匂いも濃く、慣れていない人ならば、その場で吐いてしまうでしょう。
「あまり長居はしたくないな。早く片付けるぞ」
カークがそう言うと、二人は慣れた手付きで装備を剥ぎ、魔法で掘った穴に放り込んでいきます。
「あ、リーダーだけは残しとけよ?証拠として首を要求されるかもしれん」
盗賊のお頭が誰かはわかりやすい。一人だけ心臓を撃ち抜かれているからです。
それ以外の盗賊は穴に放り、まとめて燃やしていきます。
「さーて、次は収穫タイムですね」
「売れそうな物があるといいな」
そうして二人は、アジトの中を探っていきます。少し探るとお目当ての物を見つけたようでした。
「お、食糧と武器が沢山ありますね。宝石や魔道具なんかもありますし、大豊作ですね」
「ああ、中々の値段で売れそうだ。いい収穫だ」
偶然か、必然か、奇しくも盗賊が言ったことと同じ様な会話をする二人。
アジトには、保存の効く食糧が沢山と、剣が二十本、防具が十五個、弓が二本、矢が六十本程ありました。他にも、小さいがいくつかの宝石と、湯沸し器のような機能を持った魔道具がありました。
「これなら合わせて金貨四枚程で売れますかね?」
「それくらいにはなるだろうな。剥いだ装備と合わせれば金貨五枚ぐらいにはなるだろ。――よし、そろそろ、帰るとするか」
現在の時刻は頭上よりもわずかに傾いており、およそ十一時半頃と思われます。今から街へ帰ればちょうど正午くらいには着くことができるでしょう。
二人は、アジトにあった売れそうな物を全て収納袋に仕舞うと、街へ向かって歩き出しました。
もはやどっちが盗賊なのかわからない今日この頃