五話 金欠の旅
街について二日目の朝、二人はようやくある重大な問題に気づきました。
「む、金があまりないな……」
口調に危機感がありませんが、この二人の財布の中には、護衛料として貰った銀貨六枚しか入っていません。
一日の宿代、食事代を考えると、一週間も持たない計算となります。
「うーん、どうします?手持ちで売れそうなのは、売ると騒ぎになったりどこかに目を付けられそうなので売れませんし」
「むーん……、どうしたものか」
なぜ普通に売れそうな物を収納袋の中に入れていないのか疑問ですが、基本的に不要と言われればそれまでです。
「そうですねー……。あ! いいこと思い付きましたよ」
「お、なんだ?」
「前に馬車を襲っていた盗賊、いたじゃないですか、そこのアジトを襲いましょう」
「そうだな……、その手があった。ギルドに登録しておけば報奨金も貰えるし、アジトで見つけた物も買い取って貰えるな」
ハンターギルドでは、盗賊の被害を少しでも減らすために周辺にいる盗賊の情報を集め、討伐したハンターに報奨金を出しす、というシステムがあります。
あまりにも特定の盗賊からの被害が大きい場合には、ギルド名義で依頼として張り出されることも稀にあります。
「では早速登録しに行ったあと、根こそぎかっさらいましょうか」
まさか金策のために襲われるとは、なんとも可哀想な盗賊です。しかもこの二人、盗賊を倒せば被害が減るから、なんて理由は一切思ってなかったりするので余計にタチが悪いです。
もうどっちが盗賊だかわかりません。
何はともあれ、二人の場合は早速ギルドに登録しに行くようでした。
ギルドは、弓に剣をつがえた紋章のある建物でした。
中には、ハンターの姿がちらほらと併設された酒場に見えます。強面が多いのは、職業柄でしょうか。
黒く目立ちにくいものの、珍しい格好をしているカークとクローデに幾人かが視線を向けましたが、すぐにまた仲間と喋り始めました。
ハンターの登録は、基本的に誰でも行うことができます。かわりに、何かあっても自己責任ということになるのですが。
「どうもー、ハンター登録しに来たのだが」
「はい、ハンター登録ですね。ではハンターの規則を説明しますね」
ハンターの規則には、「ハンターのランクが、GからAランクまであり、自分のランクの一つ上の依頼までしか受けられない」
「依頼を失敗した際には違約金が発生する」
「依頼によって違約金は異なり、報酬の四割~三倍までがある」
「二年間依頼を受けなかった場合、登録が抹消される」
「重い犯罪を犯した場合、最悪登録剥奪、再登録禁止になる」などといったことがあります。
「以上ですが、よろしいでしょうか? あと、登録料としてお一人につき銀貨一枚いただきます」
「ああ、大丈夫だ。」
「では、お名前と、できればおおよその戦闘スタイルをこちらの紙に記入してください」
差し出された紙に、さらさらとペンを滑らせていきます。
カークもクローデも、戦闘スタイルは遊撃と書いたようでした。
「お二人とも遊撃ですか……、珍しいですね。どれくらい戦闘経験はあります?」
「結構ありますね。オークぐらいならサクっと殺れます。なんなら、素材として使えない部分なら持ってるんで、出しますよ?」
「では、確認させていただきますね」
取り出したのは、オークの部位でも特徴的な尻尾の部分でした。
オークの尻尾は、肉としても皮としても使えない部位と言われています。
「なるほど……。確かにオークの尻尾ですね。少々お待ちください。ギルドカードを発行しますね」
受付の女性が、奥にいる人に紙を渡しました。
カタカタと、文字を魔道具で打ち込む音が聞こえてきます。
ちなみに、ギルドの受付は、みんな美人の女性で構成されています。男が多く、荒っぽい人も多いハンター達からの受けを良くする為でしょう。
数分たつと、ギルドカードが発行できたようで、受付の女性が声をかけてきました。
「はい、こちらギルドカードになります。それなりに戦闘経験がおありとのことでしたので、お二人ともFランクからになります」
経験のない初心者はGランクからですが、ある程度の経験があることを申告すれば、Fランクから始めることができます。
「なくした場合は再発行も受け付けますが、その場合は銀貨二枚をいただきますので、ご注意下さい」
ギルドカードは、金属製で四角い形をしています。名前とランクが刻印されており、身分証としても使うことができ、街に入る際の通行料が無料になるという特典がついています。
もちろん、死んだ際の身元確認の意味も大きいですが。
偽造されないように、カード自体がちょっとした魔道具にもなっているので、再発行料が高く設定されているのです。
本物は、魔力を流すと右下のギルドの紋章が刻まれた部分が7色に光るように作られています。
「ああ、ちゃんと気を付けておく。ところで、依頼ボードはどこにあるんだ?」
「依頼ボードは、入口側の壁に置いてあります」
「そうか、ありがとう」
ギルドカードを受け取ると、まっすぐ依頼ボードの横を素通りして行きました。
そして迷うことなく入口へ向かい、ギルドから立ち去って行きました。
「それでは、早速向かいますか」
「そうだな。"善は急げ"っていうしな」
「"私利私欲"の間違いじゃないですかね?所長」
「そうとも言うな」
カークとクローデは、街の門へと歩いていきます。
衛兵とのやり取りを済ませ、体を伸ばしながら、背の短い草が覆う大地を踏みしめて行きました。
そしてそれは、二人が門を通って数分後に起きたのでした――
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