三話 アインファルクへの旅
翌々日の朝。
これまでと比べると森が近くに見えていて、川沿いに街道が走っています。より、はっきりと街道が見えていることから、ここを通行する人は多いのでしょう。
実際、はるか遠くにですが、別の馬車が見えています。
幌馬車のすぐそばには護衛が歩いています。数十分おきに交代して、3人ずつで見張っている様です。
そして、その街道をとても平和に走っていきました。
「だったら良かったんだけどな……」
「少し先にゴブリンが3体。問題はありませんが、平和ではなくなりましたね~」
ゴブリンが3体。珍しい訳ではなく、よく見る光景です。並の護衛なら負ける方が難しいでしょう。
少し前に油断ならぬ相手と言ったかもしれませんが、それは一般人から見ての話です。
ある程度の経験を積んだ者からすればザコであることに変わりはないのです。
ライル達が怪我をした原因は、実は油断して不意討ちを喰らったからです。
「そうだな……、普通に倒してもいいんだが……」
「"あれ" 使います?」
「そうだな。魔法の道具と言い張ればいいしな」
二人が会話していると、ライルが話しかけてきました。
「ゴブリンか。まぁあの数なら余裕だな」
「それについてだが、俺たちに任せてくれないか?」
「いいのか?別に良いのならなにも言わんが……」
「ええ。"ちょっと変わった"武器を使いますが」
そう言って二人が取り出したのは――、
――銃でした。
どこからどう見ても銃です。上から見ても、下から見ても、銃口を覗き込んでも銃です。
ちょっとどころではありません。"かなり"変わっています。
「確かに変わった武器だな。小さいし、変な形をしているな。あんた達ならそのくらい持ってるよな、うん。」
どうやらライルは、もう、つっこみに疲れてしまったようです。
おそらくはオリバーも同様でしょう。
ちなみにカークが取り出したのは四四オートマグと呼ばれる、四四マグナム弾を使用する銃……、が元ですが、スライドが追加されているなど、改造がされています。
その為、コルト・ウッズマンのマッチターゲットモデルに似ています。総弾数は七発です。
クローデが取り出したのは、MEUピストルと呼ばれる四十五ACP弾を使用する自動式拳銃です。
こちらにはハイキャパシティーフレーム化(注:大容量化。他にも安全装置などが改造されている)が施されています。総弾数は一四+一発です。
アタッチメントとして、レーザーサイトが取り付けられています。
この2つの銃には、魔道具を使うことで、消音機能を付けてあります。
マズルブレーキ(注:発射時にガスを分散させることで反動を軽減するパーツのこと)は、フレームと一体化するように取り付けられています。
「とりあえずさっさとゴブリンを殺すか」
「思いつきでサクっと殺られるとは、可哀想なゴブリンですね」
二人ともゴブリンに狙いを定め、引き金を引くと、『パシュッ』という、減音された発砲音が響きました。
ゴブリンに向かって、右回転しながら一直線に向かい、着弾の瞬間、歪に花開くように変形しました。
カークが1発、クローデが2発、正確にゴブリンの頭を撃ち抜きました。
装填されていた弾はホローポイント弾。辺りには血と脳漿が飛び散っています。
即死です。何があったのかも解らぬまま、ゴブリンは命を落としました。
銃の発射音を完全に消さないのはロマンでしょうか。
「まぁこんなもんですね」
「さすがにゴブリン相手じゃ、これで死ぬなと言う方が難しいだろ。」
頭が吹き飛ばされたら、ゴブリンでなくても死ぬと思うのですが。
そんな二人をライルとオリバー、護衛達は何かを諦めた様な表情で見ていました。
「本当になんなんだあんたらは……。その大きさでその距離から即死させられるってどういう武器だよ……」
「ちょっとした魔法の道具だよ。小さな石を高速で打ち出す魔法が発動する。代わりに、魔力を食うのと扱いが難しいがな」
だいたい合っていません。慣れれば誰でも使えてしまいます。
素早く魔石と、討伐の証明となる耳を切り取ると、再び歩き出しました。
†
そうしてしばらく歩いていると、また魔物が現れました。
オークと呼ばれる、人型の豚の様な魔物です。
身長2mほどの大きさで、やや太っていて、力が強い魔物です。
目安としてはゴブリン5匹ぶんぐらいの強さ『パシュン』で、肉は中々の美味です。そこまで強いわけでもないので、よく狩られる魔物でもあります。
……。説明中に倒すのはやめて欲しいものですね。まったく困った二人組です。
†
なんやかんやと色々ありすぎて、違う方向に疲れましたが、なんとかアインファルクの街に到着したようでした。
アインファルクは"これといった特徴がない"のが特徴の街です。
ですが、農業も、鍛治も、商業も平均以上にはしっかりしているおかげで、人は多く集まってきます。
ただし、こういった街は、別に珍しいわけでもないので、結局あまり特徴はないわけですが。
「そういえば、お二人はハンターギルドに登録しているんですか?」
この世界には、ハンターなる職業が存在します。
要するに、依頼を受け、魔物を狩り、報酬をもらい、素材を売って生活する人々のことです。
ハンターギルドは、その人々達のまとめ役のような組織となっています。
依頼をギルドに出すと、その依頼をギルド内に張りだし、それをハンターが受注し、達成すると、依頼報酬が手に入るという仕組みとなっています。
馬車の護衛依頼もここから受けることができます。
素材の売却自体は、ギルドに入ってなくても行うことができます。が、代わりに手数料を取られますが。
「いいや?登録していないな」
「その強さで登録していないとか……。本当あんた達何者だよ……」
「ただのか弱い旅人ですが?」
「ただのか弱いな旅人は、ゴブリンとオークを瞬殺しないと思うんですよ……」
こんなのがか弱い旅人だなんて、ゴブリンとオークに謝って欲しいものです。
「なにはともあれ無事に街についたんだ。疲れたし、俺達は宿を探すことにするよ」
「ええ…。護衛ありがとうございました。おかげで街に着くことができました……」
1番疲れる原因を作った奴らが何を言う、とオリバーと護衛達も少しは思っているでしょう。
仮にも命の恩人なので言うことはありませんが。
できるなら、無事に着くことが出来たということで、前向きに考れば少しは楽になるでしょうか。
二人はそんな商人達を後にし、街中で探し物をしていました。
「んー。所長~、いい宿屋はないですかね~?」
「むーん。お、あの宿屋はいいんじゃないか?」
カークが指したのは、"山の恵亭"という名前の宿でした。
見た目はかなり綺麗で、1日で大銅貨3枚とあります。 他より少々高いですが、期待はできそうです。
「確かにいいですねあれ。 よし、あれにしましょうか、所長」
こうして、二人は山の恵亭に泊まることになりました。
読んで下さりありがとうございます。
設定が多い…… 全部吐ききるのに何話かかるやら……
追記 細かい所を修正
銃の描写を変更