模擬戦は護身術と共に
久しぶりの戦闘ですが……銃を使用しません。
愚痴をなんとか振り切り、グランのいる門が見えた頃には、すでに日が落ち始めていた。
もうちょっと早く起きれば良かったな。
「おーい、グラン! いるか!」
「おっ、早速相談か、リューナ?」
グランが手を振っている。。
「ああ、冒険者になるにはどうしたらいいかを聞きたいんだが」
「冒険者か……腕に自信は?」
「まぁ、ある」
「まぁ……か。不安だな」
確かに……まぁ、じゃダメか。
「実戦経験はあるから、大丈夫だと思うが」
「うーん……よし、俺と模擬戦をしようか!」
模擬戦か……いやダメだ、銃は一撃必殺だ。銃が使えないとなると護身術しかない。
「いや、俺の武器は殺傷性が高すぎる」
「いや、それじゃダメだ。殺しちゃいけないって場面もあるかもしれないぞ?」
うっ……確かにそうだな、やってみるか。
「分かった」
「おう! じゃ、早速ここで始めようぜ……武器はあるか?」
「いや、いらない」
グランは一瞬訝しげな顔をするが、すぐに真剣な顔になり、鞘に納められたままの剣が向けられる。
「リューナ様……怪我しないで、くださいね?」
心配そうにリンが見つめてくる。
まぁ、可愛い子にそう言われちゃ、頑張るしかないだろう。
俺は護身術の構えをとる。
「よし……いくぞ」
──『戦闘狂の卵』発動──
「お、おうっ!」
まず、オレ流護身術の目的は、相手に怪我を負わせて逃げる事だ。
人間の弱点で、特に狙いやすい所は、目、耳、鼻、首、股関節、膝裏、スネなどだ。
まずは相手の視界を目掛けて攻撃する。それと、回避に五感の殆どを使う事だ。
グランにむかって一直線に駆け出し、大きく手を振り上げた。
「うおぉぉぉぉ!」
そこでグランの剣が手首に迫る、だがこれは囮、すぐに引いて回避する。本命は足蹴だ。
グランの右スネを目掛けて蹴り上げる。
「ぐっ……」
よし、狙い通り──「うおりゃぁぁぁ!!」上段──返された斬激をしゃがんで避ける。
速えぇぇ……切り返しにしては速すぎるだろ!? なんとか避けたが、グランの剣の技量は相当なようだな。
だったら「りゃゃゃあああ!」右か──左足を下げ、縦の斬激を避ける。
危なっ……考える前に下がろう、あれに当たったら只じゃすまなさそうだ。
横っ飛びでもう一太刀避けると、後ろに飛び退く。
──『死線予測』を習得しました──
「お前……やるじゃねぇか!」
「ありがとグラン……お前も、門番にしては強すぎるだろ」
俺は常人の三倍の身体能力らしいが、あの剣速はやばいだろう。
「へへっ、これでも俺は元Cランク冒険者だからな」
つまり、今の俺はCランク冒険者と互角か……戦闘経験の浅い俺で此処まで戦える理由。
それはやはり、常人の三倍の身体能力が理由だろう。
頭部を動かす事で相手のバランス感覚を奪う【頭点移動】を利用して攻撃するか。
──アクティブスキル『思考加速』を習得、『支点移動』を回復しました──
そのためには懐に下から入り込む必要がある。グランが上段突きをするように仕向けられるか。
「うおりゃあぁぁ!」下段払い──垂直飛びで回避する。
今度はグランから来たか……考える時間を与えなければ勝てると踏んだわけか。
だがこの勝負──俺の勝ちだ。
〔護身術は守る技術〕護身術部のスローガンだ。
「うらぁぁぁ!」右払い──これをわざと後ろに避ける。
距離をとれば相手が突きを行う可能性が高くなる。
「おりゃぁぁぁぁ!!」よし、突きだ──顔を横に逸らして回避する。
懐に入り込む。とった!
「はぁっ!」右手でグランの顎に掌底を放ち、寸での所で止める。
この勝負、俺の勝ちのようだ。
……ってなんで戦ってたんだ、俺?




