カファの村は差別と共に
あぁ?
いや、リンの事じゃないかも知れない。
「すみません、私の背中に奴隷などはおりましたが?」
作り笑いでそう返す。
「くくっ……坊主そのフェアリアで楽しむつもりか? やめとけ、目が腐るぞっ、プッ……」
はぁ。
リンの事だと……断定しても良さそうだ。
「すみません……その、ご迷惑を……」
後ろから震えた声が聞こえる。
リンは何も悪くはない、だがここでそう言う訳にもいかんだろう。
はぁ……どこの世界にも差別はあるって事か。
人間ってそういうもんなんだろうか? 誰かを下にしてないと落ち着かないのだろうか?
だとしたら喜んで人間なんかやめてやるが。
「生憎そのつもりは無いんで、通らせてもらうぞ」
おもいっきし嫌みをこめて吐き捨ててる。
「あぁ? 坊主少しは目上の者に──」
「リン、しばし我慢だ」
門番の話をスルーしながらリンに話しかける。
「は、はいっ……」
怯えた声の返事を聞く。
リンはここには置いていけない、少なくとも差別の少ないところまで送り届ける。
俺はそう決めた。
この村に宿みたいなものはあるだろうか?
とりあえず近くを歩いていた青年に聞いてみることにする。
「すまないが、近くに宿はあるでしょうか」
「奴隷同伴の宿屋かい? この村には〈熊の耳亭〉しかないよ、そこの物見塔を右に曲がればすぐだから」
奴隷……ここではそれが普通なのだろうか。
中世ヨーロッパでは既に多くはいなかった筈だが。
とりあえずそこへ向かうしかないな。
お金は足りるだろうか?
「悪い、少しだけ奴隷の扱いでも構わないか?」
「は、はい……本当にすみません……ご迷惑を」
「気にしなくていい、仲間……だろ?」
「はい……でも」
「宿屋についた、話は後でだ」
扉を開けると、内装は普通のファンタジー宿屋だった。
ファンタジー宿屋が何なのかは自分でも分からないが。
二秒程すると、カウンターから宿屋の主人らしき人がきた
「いらっしゃいませお客様、部屋はいくつ借りられますか? 一部屋につき銅貨八枚になります。 奴隷用の集団部屋もありますよ、そちらは無料となっておりますのでご自由に使ってください」
金は足りるな。
「いや、一部屋借りるだけだ、これでいいか?」
銀貨を一枚カウンターに投げる。
これで残りは……はぁ……
「はい、ありがとうございます、これが6号室の鍵になります」
流石に商売人だ、態度が悪くても金さえ払えば笑顔ってことか。
へっ……商魂たくましいな。
「あぁ分かった」
俺たちは鍵を使って6号室に入る。
「おっ……」
一万円程度の宿だからどうかと思っていたが、ベッドもあり、案外いい部屋だ。
リンをベッドにおろすと、横に俺も寝転がった
「ふぅー、久しぶりのベッドだ~」
実に五日振りのベッドである。
「ほ、本当に……ありがとう、ございますっ……」
横を向くと、リンが泣きながら感謝の言葉を紡いでいく。
泣いていても可愛らしいが、笑ってるリンのほうが俺は──
って何考えてんだ俺は。
「んあっ…… さっき言ったろう? 気にすんなって」
「ですが、こんなに──」
「それより、フェアリアってなんだ」
「えっ……」
怒りからかドスの利いた声になってしまった……
まぁ差別の原因だろうし、言いたくないだろうが、聞いておかないと対策もたてられない。
正直リンをつれて町を歩けない状況は避けたい。
だがなんと言えばいいだろうか?
俺はいじめられていた頃は、嫌われるのを恐れて、言いたいこと言えなかったんだっけ。
『安心しろ、お前がフェアリアだとしても気にしない』これは嘘に聞こえるかも知れない。
『フェアリアが何だろうと俺には関係ない』これはもはや本末転倒だろう、質問の意図が分からない。
──いじめられていた時、俺が一番言ってほしかった言葉、これかな?
と思って言ってみた言葉が、
「大丈夫、俺がお前を守るから」
だった。
……我ながら本当にアホだと思うが。
次回ようやく戦闘に入ります。