白い人形拾われる
あの時の饅頭です。少々見づらいと思いますが暖かい目で見てやってください。
ここはどこだ……。
右を見ても左を見ても殆ど見えない。当然上下もまた然り。しかし問題はそれだけではなかった。
体が一切動かない、さっきの見たといっても視界の上下左右であって首を動かした訳ではない。自我を持ってからというもの早くも手詰まりだった。
「これならあの子も喜んでくれるかしらね?」
「あぁ、少ないとはいえ魔力が蓄積した人形がある、今までのより丈夫だろう」
あの子?、魔力が蓄積した?、丈夫?、一体何の話だ。少なくとも丈夫などという単語が聞こえた時点で碌なことにならないだろう。
しかし、体が動かないのではどうにもならない。どうしたものか。
どうにかならないか思考錯誤して見た結果、分かった事がある。
まず、体を動かすには魔力なるものが必要らしい。時間が少し経つにつれ何かが体に溜まるような感覚がしたのでまさかと思い体を動かしたところ、腕が少しだけ動いた。本当に僅かだが確かに動いたのだ。
その結果魔力を消費しきったのは失敗だったが、まぁいい事にしよう。いずれにせよ魔力が溜まらないことには始まらないのでしばらく待機するしかないだろう。
余談だがいつの間にか会話をしていた片方はどこかに行ったようだ。まぁあまり関係ないかな。
コンコン
「フラン?入るわよー」
しっかりと二回ノックしてから扉を開ける、扉が大きいのか中々軋むような音をたてて動く。
「?お母様、どうしたの?」
「フランが前に人形が欲しいって言ってたじゃない?それでちょっと探したらそれっぽい人形があったのよ」
「本当!お母様ありがとう!!」
自分を持っていったのはフランなる人物の母親らしい、当のフランは幼さを感じさせる声で答える。その声は純粋な喜びに満ち溢れていた。
「それじゃあ大事にするのよ?」
「うん!」
その声と同時に視界が開けてくる、どうやら箱のようなものに入れられていたらしい。目の前には紅を基調とした服装の幼女と言っても差し支えない程幼い金髪の少女がいた。その背には綺麗な宝石のようなものがぶら下がった翼なのか羽なのかよくわからないものがあった。その紅い瞳はキラキラなどというような擬音がどこかから聞こえて来そうなほど輝いていた。
「ほへぇ~……可愛い…」
可愛い?、確かに目の前のフランと比べるまでもなく小さいが可愛いと言われるような要素があっただろうか。少なくとも気の抜けた声を漏らしているフランの方が可愛いの分類に入るのではなかろうか。
「気に入ったみたいね、それじゃあその子をよろしくね」
「うん!」
言うが早いかフランに抱っこの要領で抱えられる。視界が高くなると今度は部屋がよく見える。
それにしても広いしベッドなんかも小さくはない、寝返りを同じ方向に複数回出来るくらいに大きい。
そうやっているうちに母親はどこかへ行ったようだ。
「それじゃあ何しようかな~」
フランがこちらを眺めながら呟く、丁度魔力も溜まったようなので体を動かす代わりにこの体に干渉出来ないか試みる。することは魔力効率の向上と蓄積速度の向上だ、このままだと何か有っても少し動いただけで魔力が底をつく。
「お姉様が来るまで時間があるから本でも読んでようか」
そう言うと自分をテーブルに乗せてから本を取りに行く、取りに行くのはいいんだがもう少し内側に乗せて欲しかった。はみ出た足の重さで今にも落ちそうになっている、というより落ちる。思わず動いてしまったのは責められないはず。
時間が出来たのでうまい具合に魔力関係の改善が施せたのだが今は動きたくない、バレたらどうなるのか想像がつかないからな。
とりあえず動くくらいでは魔力の問題がなくなるであろうくらいには改善した。……はず。
フランが本を探す間、落ちないようにしつつ正面にあった姿見を見る、そこに映っていたのは少女を模した小さい人形がいた、勿論自分だ、自分だがこれはどうすればいいのだろう。
腰まである白い髪は天井のランプの光に反射して輝いて見える、顔などから見える肌もまた白くそれでいて健康的に見える、服は白を基調とした長袖、踝まで届くスカートだった。確かに観賞するのならば問題はない、しかしこれは自分だ、別人に見えるのは人形だからだろうか。
「あっ、あった!……?まぁいっか」
一瞬怪訝な表情をしたフラン、本人はさして気にしていなかったようだが自分の背筋は冷や汗が流れていた。正確には流れていないのだろうが背筋が冷えたのは間違いない。
フランが持って来たのはそれなりの厚さの所謂魔道書なるものだった。フランに抱えられて魔道書を見るのだが……全く理解できない。魔法陣?なにそれおいしいの?そう思うのは自分だけではないはず。
それからしばらく魔道書を{表面上は}読んだ。勿論意味など一切分からない。そんなわけで自分の体の改良に勤しんだ。
結果魔力は実質動いても減らないくらいの効率を出せたはず……多分。やっぱり実際に動いた訳ではないので分からない。最悪魔力を蓄積させる方で相殺できるはず。
コンコン
「フラン、入るわね」
そう言って入って来たのはフランより気持ち背の高い白を基調とした服装の少女だった、こちらも紅い瞳をしているがその背には立派な翼があった。
「あっお姉様」
「わざわざ立たなくても良いから、そのまま座ってなさい」
フランが立とうとしたのをお姉様なる人物が留める。なるほど、髪の色や翼を除けば中々似ている姉妹だ。
「……貴方は何者かしら?」
こちらを見据えてお姉様が聞いてくる。その目には戸惑いや迷いがない、分かった上で問い詰めている目だ。そして逃がすつもりもないらしい。……何故バレたし。
「だんまりかしら、まぁそれでもいいけど」
「へ?お姉様?」
どうやらこの場は凌げ……てない、何故槍の先端がこちらに向いているのでしょう?。
え?え?何で振りかぶってんの?いやいやいやいやストォォォップ!!!。
ブゥン
振り回された槍が自分の頭のあった位置を通過する、思わず仰け反って回避したが背に腹は代えられない。
「動いて…る?、なんで?」
「やっぱり動けるんじゃない」
お姉様がしたり顔でにやける。完全に逃げ道がなくなった。う~むどうしたものか。
「貴方妖怪でしょ、何で妖力が一切しないのか分からないけど」
「え?そうなの?」
フランが興味に満ち溢れんとするかのような視線をよこす……その目は卑怯だ、反則だ。ただ、自分にも分からないので首を傾げておく。これで分からないという意思表示になるはず。因みに話すことは出来なかった、やはり人形だからなのだろうか。
「っ!、こ、これは中々来るものがあるわね」
「でしょ!ね!」
何でフランが得意気に話しているのだろうか、まぁお姉様の方は何故か目を逸らしている……槍を振り回したときの気迫はどこに行ったのだろうか。
「ところでフラン、貴方はその子が何出来るのかわかってるの?」
「ううん」
「そう、一応確認しておきなさい」
「はーい」
「ところで名前はなんていうのかしら」
そう言いつつこちらに視線をよこす、しかし名前…名前ねぇ。ないな、うん。ということなのでもう一回首を傾げる。
「うーん、ないのかしら」
一応頷いておいたが何故目を逸らす、首傾げただけだろうに……ん?、それか?。
「じゃあ私が付けてもいい?」
「いいんじゃない、で、なんて名前?」
「えっとね、白ってどうかな」
「良い名前だと思うわよ」
「うん!えへへへ」
自分の付けた名前が良いと言われてお姉様に笑いかけながらも照れるフラン、庇護欲を掻き立てるというのはこういうのを指すのだろう。何はともあれ自分の名前は白に決まった。そのまんまだとか言う奴は許すべからず、その身を持って粛清してくれるわ。
「それじゃあそろそろ寝ましょうか」
「うん」
自分が自我を持ったのは大分遅い時間だったらしい、フランが若干眠そうな顔していたがこちらはこれといって何かあるわけでもない。これが生身と人形の差なのだろうか。
そうして考えるうちにフランが寝間着に着替えたらしい、気がついたら抱えられていた。
「じゃあ白、おやすみなさい」
頷くことで了承の意を示す、するとフランは満足気に微笑みそのまま寝始めた。抱き枕にされているのはまぁ気にしたら負けだろう。
「スゥ……スゥ……」
その寝顔は自分が一緒にいようと決意させるには一瞬の時間も要さなかった。そこに打算的なものは殆どない。故に並みのものでは揺らがない固いものとなるのだろう。決して寝顔が可愛いからとか普段の姿をみてほっこりするからとかそんな訳ではないのであしからず。
これが記念すべき自我を持ってから一日目の出来事だった。