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(短編)僕とエースの物語

作者: 星ナルコ

僕らは土砂降りの中、円陣を組む。


よし。いくぞ。

雨になんか負けんなぁぁぁ!

オオオオォ!


僕らは円陣から離れ、それぞれの位置につく。


僕らが求めた歓声は聞こえない。

聞こえるのは、激しい雨音だけだ。


「いま○○市に、台風が近づいております。

しかし、こちらに通過しないと思われますので、イベントは決行することになりました。」


ずっと、僕らはこのよさこい祭りの為に練習してきた。


本来なら、台風になった時点でどんなに天気でも中止になる事が多いのだ。


しかし、僕らの街では何故か決行されてしまった。「危ないのに、何考えてるんだ」と、きっと街の住民は怒るだろう・・。


もちろん。


こんな台風警報が来るかこないかわからないような大雨の中。


誰も、僕らが踊ってる姿を見てなくても。

僕らは、精一杯声を出して叫び続ける。


客は、ただ一人。

僕らの代表。エースの健太だ。


誰よりも一生懸命練習してきたあいつは、

本来なら今日センターで踊るハズだったのに。


前日の怪我のせいで、骨折してしまい急遽踊れなくなったのだ。


全部。


全部。


僕のせいだ。


僕は、チーム内でも一番踊りがヘタクソで問題児だった。


皆は、踊れない僕の為に色々教えてくれた。


こうすれば、きっと踊れるようになるよ。

もっと、こうしたらいいよってさ。


でも、理解力に乏しい僕には


人に一回言われただけでは、何を言っているのかさえわからなかった。


だから、僕は「どうしてですか?」と聞いた。


「「どうしてですか?」じゃないよ。

だから、言われた事をそのままやればいいんだよ!」


教えてくれた人は、やがて僕にイライラしはじめた。


何やってんだよ。


素直に俺の言うとおりやればいいんだよ。


頭で考えずに、言われた事を何度も繰り返して覚えるんだよ。


そんなこと言われても。


僕には。


言われた事が、すぐに理解できないから。


みんなみたいに。


すぐに、出来ないんだよ?


そんなこと言われても困るよ・・。


やがて、皆は少しずつ僕の事を諦めるようになった。


しかし、そんな中。


健太だけは、何故か僕を諦めようとしなかった。


大丈夫。出来る。出来る。絶対できるよ。


僕を、信じてくれた。

僕は、嬉しかった。


僕は、一生懸命練習した。


そんな中、ある日具合が悪くなり病院に行った僕は・・


お医者さんに「君は、適応障害だ。」と宣告された。


僕は、ずっと知らなかったけど。


普通の人と同じように、学校へいって友達も出来てたけど。


本当は。俺。

障害者だったんだ。


ある日。僕は障害者になった。

「障害者手帳」と書かれた冊子を渡された。


その日の晩。

僕は、部屋で一人。

手帳を抱えて、声を出して泣いた。


健太にだけは、その真実を伝える事にした。


健太は、


「ふぅん。そーなんだ。」


とだけ言った。


「そんな事よりも、僕が今日の練習までに作った宿題ちゃんとやって来たの?


ターンの練習と、ステップの練習。


前回練習した箇所が、今日の練習でちゃんと出来てるかどうか!


さあ、練習はじめるよ!」


と言って、手をパァンと叩いた。


その後も、彼は何事もなく僕にスパルタ指導を続けたのだった。


彼は、本番の前日の最後の自主練で事故してしまった。


本来なら、祭りの前日など誰も練習などしない。


踊り子達は、体調管理を万全にすることが大切で怪我などしたら困るからだ。


つまり、よっぽど僕が問題児だったということだ。


祭り前日に、健太と僕のワンツーマンの練習

が行われた。


そこで健太は練習後、公園の階段を降りる所で足元を崩して転げ落ちてしまった。


僕は、必死に何度も「健太!大丈夫か!車、車今から乗ってここまでくるから!病院つれてくから!」と、叫んだ。


死に物狂いで、車に向かって走り。

健太を担いで車に押し込み、


無我夢中で、夜道を迂回しながら病院を探し続けた。


そんな中、彼は後部座席で「あの時のお前の動きは、ここが足りないんだよなぁー。もっと、あそこをこーしてさぁー。」と、懲りずアドバイスし続けていた。


馬鹿野郎。


こんな時まで、俺のアドバイスしてないで。自分の心配しろよ。


僕は、涙を瞳に押し込んで運転し続けた。



土砂降りの雨の中。


他には客はいないかもしれないけれど。

今日は、最高のお客様が一人いるよ。


さぁ、みんな。

最高の笑顔で、行くぞ!


健太は、傘をさしてニコニコ嬉しそうに僕らに手を振っていた。


僕らが踊り終わるまで。ずっと。















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― 新着の感想 ―
[一言] 思わず涙が溢れ出しました。 健太の優しさに感動しました。 実は僕も障害者手帳を持っていて主人公の事が他人事にようには思えませんでした。 密かに主人公と健太のBL小説が読みたいという願望が湧い…
2015/12/02 23:23 退会済み
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