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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第五章】最終試練編
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第96話:光闇の調和(真)

 悪威の魔眼。

 それは邪神アンリが保有するスキルの一つであり、目を合わせた者に対して恐怖を植え付ける能力だ。

 魔王であろうとも土下座するほどの恐怖を与えると言われるその瞳は、人族魔族の区別なくあらゆる者を一瞥にて屈服させる。

 光神の加護を受けし勇者であろうと魔族の頂点となるべく創造された魔王であろうと、それは耐えられるものではない。

 例外となる者が居るとすれば、せいぜいが邪神の系譜に連なる眷属、そして同格以上の神族くらいの筈だった。


 そう、その筈だった(・・・・・・)

 なんと異世界からの来訪者である玲治はその魔眼の影響を受けることなく平然としていた……などということはない。

 彼はしっかりと、為す術もなく土下座をしている。

 むしろ想定と異なっていたのは、邪神アンリと同格の筈である光神ソフィアと闇神アンバールの様子の方だ。


「ぐっ──ッ!」

「こ、これは……」


 神族である彼らなら本来多少不快感を覚える程度の筈の魔眼、にも関わらず今の彼らは冷や汗を流して後ずさる。

 玲治達のように倒れ伏してはいないものの、明らかに魔眼の影響を普段よりも強く受けていた。

 その理由は目の前の人間大の巨大な目玉にある。


「アイツの『眼』より強化されてやがるな」

「ええ、私達ですらこの有様です。

 彼らは……」


 邪神アンリ本人を媒介として顕現した、魔眼の強化型モンスター「邪神の瞳」。

 その影響で自然と震える手を見下ろしながら、ソフィアとアンバールは考え込んだ。


 邪神の瞳は無言のまま佇んでおり、その状態から攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 それでも、その驚異の魔眼の威力をもって玲治達は戦闘不能状態に陥ってしまっている。

 ソフィアとアンバールも倒れ伏すことはないものの、近付く気力を持てずにいた。


 しかし、彼ら管理者達は同時に不審な思いを覚えていた。


 ──すなわち、簡単過ぎる(・・・・・)、と。



 確かに、玲治達は身動きが取れず管理者達も前に出る気がない。

 そこだけ見れば、邪神の瞳は彼らが先に進む為の障害としての役割は十分果たしているように見える。

 しかし、実際にはまだ自由に行動出来る者がいる。

 邪神アンリの眷属であるテナ、そしてある意味においては当人とも言える人族のアンリだ。

 邪神に連なる者である二人は基本的に魔眼の影響を受けない。

 それは強化された「邪神の瞳」でも同様だった。


 魔眼によって恐怖を与えて行動不能にしてくる以外には特段の攻撃方法を持たない邪神の瞳なら、彼女達に攻撃してもらい倒してしまえば特に労せずして先に進めてしまう。

 果たして、底意地の悪さには定評があるあの敵が、そんな簡単な障害を用意するだろうか。


「なるほどな、そういうことか」

「敵に塩を送るか、余裕のあらわれか……。

 いずれにせよ、侮られているようですね」


 アンバールとソフィアは同時に敵の真意に気付き、苦々しい表情を浮かべた。

 そんな彼らの様子に首を傾げながら、テナはおずおずと提案する。


「あの、私は影響を受けないみたいなんですが、攻撃した方がよいでしょうか?」

「いえ、その必要はありません」

「癪だが、乗らないわけにもいかねぇな」

「??? どういうことですか?」


 テナの提案は光神と闇神の二柱によって止められてしまう。

 しかし、現状動けるのはテナとアンリだけで、彼女達が状況の打開を図らなければ永遠にこのままだ。

 彼らが制止する理由が分からず、テナはその理由を問い掛けた。


「確かに、先に進むことだけを考えるなら、貴女達が攻撃を仕掛けて撃破するのが一番手っ取り早い。

 しかし、それではこの先に待ち受ける者に対抗出来ません」

「あの野郎も同等かそれ以上の魔眼の持ち主だからな。

 ここで乗り越えられないなら、どのみち対抗なんて夢のまた夢だ」

「あ……」

「確かに」


 ソフィアとアンバールの説明に、テナとアンリは納得の表情を浮かべる。


 この階層の次に待ち受けている筈の敵……真・邪神。

 元々、邪神アンリに力を分け与えたのはかの邪神であり、その眼も彼女のそれと同等かそれ以上の魔眼だ。

 ここで「邪神の瞳」から与えられる恐怖を乗り越えられない者に、彼と対峙する資格はない。


「そして、あの野郎もそれを分かった上でこんなもんを用意しやがった」

「つまり、乗り越えて自分のところまで来い……そう言いたいのでしょうね」

「聞こえてたな?

 そんなわけで俺達は手を出さねぇ。

 お前達が乗り越えて見せろ」


 土下座の姿勢を取ったままの玲治に、アンバールは激を飛ばす。

 その声に玲治達は顔を上げようとするが、どうしても前を見ることが出来ない。

 一度その眼を見てしまったことで植え付けられた深いトラウマは、彼らの魂を縛り上げた。


(克服しろと言ったって、一体どうすればいいんだ……)


 地面を見ながら、玲治は必死に考えを巡らす。

 彼らは世界でも有数の強者であり、その意思の力も一般の者より遥かに強い。

 しかし、そんなものは「邪神の瞳」の恐怖の前には紙の盾も同然だった。

 それは、意思の強さなどでは到底対抗し得ないものだ。


(この状況で動けるのはソフィアさん達管理者とテナ達だけ。

 彼らと俺の違いはなんだ?)


 テナとアンリについては明白だ。

 邪神アンリから力を分け与えられた眷属と、当人そのものと言ってもいい存在。

 つまりは存在の性質が邪神に寄った者達だ。

 しかし、それが分かっても玲治には真似出来ない。


(なら、ソフィアさんとアンバールさんは?)


 そちらも明白と言えば明白。

 邪神アンリと同格である管理者、光神ソフィアと闇神アンバール。

 同格であることから、多少の影響はありつつも玲治達と異なり立ったままで耐えられている。

 しかし、それが分かっても神族ではない玲治にはやはり真似出来ない──。


(いや、違う!

 同格なら動ける(・・・・・・・)っていうことなら、俺にも出来ることがある)


 玲治は神族ではないし、神族になることも出来ない。

 しかし、同時に彼らが対抗出来ない相手に対抗することを依頼されている者でもある。

 同格であること──すなわち同等の力を持つことが条件なら、出来なくてはいけないのだ。

 そして、そのための「鍵」は既に与えられている。


 玲治は地面に伏したまま右手を自らの胸の辺りに当てる。

 そこには二つの紋様が刻み込まれていた。

 ここまでの二つの階層にて光神ソフィアと闇神アンバールから与えられたライン。

 彼ら神族と直接結ばれたそれによって、玲治は力を汲み上げることが出来る。

 それはつまり、神族と同等の力を振るえるということであり、擬似的に同格以上の存在になれるということ。

 彼が「邪神の瞳」に対抗しようと思えば、それ以外に方法はない。


(よし……賭けてみるッ!)


 玲治は決心を浮かべ、ラインを起動させて二柱からの力を汲み上げた。

 光神ソフィアからは光の魔力を、闇神アンバールからは闇の魔力を。

 二柱の神族から分け与えられる膨大な力が彼の元へと流れ込み……爆発した。


「んぎゃああああぁぁぁーーーっ!?」

「レ、レージさん!?」

「な、何が起こった?

 あの目玉の攻撃か?」


 突然の爆発に、オーレインやミリエスが土下座の姿勢のまま焦りを浮かべる。


「違ぇよ、前の階層でもあった力の反発だ」

「この階層で修練を積む筈が、そんな余裕もありませんでしたからね」

「あ……」


 忘れてた、玲治達の頭をその言葉が過ぎる。

 確かに彼らの言う通り、光のラインを繋いだ時も同じように爆発が起こっており、その為の対策を練る筈だった。

 しかし、この階層に来てからは恐怖のシューティングコースター(有料制)などに振り回されてそれどころではなく、結局ほとんど何も出来ていない状況だ。


「まぁ、やろうとしたことは間違ってねぇ。

 こうなったら、この場で身に付けて見せろ」

「心配は要りません。

 危険だと思ったらこちらで出力を絞るので、大した爆発にはなりませんから。

 習得出来るまで何度でも挑戦出来ます」

「鬼ですか──ッ!?」


 二柱の無茶振りに、玲治は引き攣った表情で抗議する。

 と同時に、スススッとオーレイン達が土下座の姿勢のまま彼から離れた。

 これから起こる爆発から逃れるための当然の行動だが、薄情でもある。


「ちょ……」

「ごめんなさい、レージさん。

 しかし、私達も心から応援しますから」


 縋る視線で助けを求める玲治にオーレインが生温かい笑顔で応援する。

 どちらも土下座の姿勢のままなので格好が付かないが。


 しかし、結局のところ状況を打破しようと思えば他に方法はない。

 しばしの逡巡の後、彼は自らの胸に再び手を当てた。




 ◆  ◆  ◆




「ぎょええええーーーーっ!」

「もう何回目でしょうか」

「分からん、数えてなかった」

「で、でも!

 始めの時に比べれば爆発が小さくなってませんか?」

「言われてみれば……なら、もう少しでコツが掴めるかも知れませんね」


 ミリエスは数えていなかったために分からなかったが、通算で百十七回目になる爆発を横目で見ながら彼女達はわずかに見られた進展に希望を見出した。

 フィーリナの言う通り、玲治が起こす爆発は次第にその規模を小さくしている。

 二柱からの出力が同等であるなら、それはすなわち反発が小さくなってきているということだ。


 一見薄情にも爆発から逃れるために玲治から距離を取った彼女達だが、彼が苦しむことで何の痛痒も覚えないような者達ではない。

 祈るような気持ちで成功を願っている。


 そして、二百回目を超えるか超えないかというところで……。


「あ、あれ?」

「爆発……しなかった?」

「それでは、もしかして!?」

「ああ、成功させたようだな……うぬ!?」


 玲治が胸に手を当てて念じても、初めて爆発が起こらなかった。

 それだけではなく彼から凄まじい力の奔流が迸り、周囲に居た彼女達を危うく吹き飛ばしそうになる。


 そして、彼は立ち上がった(・・・・・・)

 その眼前には未だ「邪神の瞳」が無言で佇んでいるが、その魔眼の威力は最早彼を地に伏しさせる程の影響を及ぼせない。


「やっと物にしやがったか」

「光と闇の調和……これだけ短時間で習得出来たのは、やはり器としての彼の才なのでしょうね」


 管理者達も何処かホッと安堵したような表情を浮かべる。


 立ち上がった玲治は戸惑った表情で自分の両手を見詰めていた。

 未だ自分自身の力を受け入れられておらず、何処か夢の中のような曖昧さを覚えている。

 しかし、目の前の現実は現実。

 彼は擬似的とはいえ神族と同等以上の力を得、魔眼を克服した。


 その実感が湧いてくると同時に、一つの問題も浮かんでくる。

 確かに彼は魔眼を克服出来た。

 しかし、オーレイン達は未だ土下座の姿勢のままだ。

 このままでは、先に進んだ時に彼女達は戦力としてカウント出来ないことになる。

 いや、それどころか自分の身を守ることさえ出来ない状態に陥るだろう。


(取り敢えず、邪神の方のアンリさんを助けてから考えよう)


 すぐには答えの出ない問題にそれ以上の思索を止め、彼は運任せの剣を手に「邪神の瞳」へと近付く。

 睨む以外の行動をしない巨大な目玉は、彼が近付いても何のリアクションも見せない。

 彼に魔眼を克服させるためだけに用意された障害は、既に役目を終えている。


 そして、玲治はそのまま鞘から飛び出した光の剣で巨大な目玉を横切りにする。

 パンッと弾ける音と共に眼球が消し飛び、中から漆黒のドレスを纏った少女が姿を現した。




 ◆  ◆  ◆




「力の受け渡しはこれでいい筈」

「ありがとうございます」


 これまでの二階層で行ったように、邪神アンリからラインを繋いでもらう玲治。

 その胸には新たに「S」を横倒しにしたような紋様が刻み込まれた。


「そう言えば、一つ相談させてもらいたいことがあるんですが……」

「なに?」


 玲治は先程気付いた彼以外の者が魔眼に対抗出来ない問題について、邪神アンリに相談した。

 魔眼を持つ彼女自身であれば、何か対抗策を思い付けるのではないかと期待してのことだ。


「……目を見なければいい」

「え?」

「目を合わせると魔眼の影響がある。

 なら、人族の私と同じような視線を通さない仮面を着ければ大丈夫」

「え?」


 思わぬ答えに、釣られるように仮面を着けた女性……人族のアンリの方を見る玲治。

 考えてみれば、魔眼を持っているのは彼女も同じ。

 しかし、最初に会った時は兎も角として、玲治も他の者達も彼女の魔眼の影響は受けていない。

 それは、彼女が目元を覆う仮面を着けているためだ。

 視線を完璧に遮りながら、しかし視ることは出来る仮面。

 相手にそれを着けることは困難だろうが、自分達がそれを着ければ相手と目を合わせることを防ぐことは可能だ。


「で、でも。そんな都合よく仮面なんて……」

「あるよ?」


 何とも簡単な対抗策に認めたくなくて反論を口にする玲治だが、アンリはアイテムボックスから同じような色違いの仮面をどっさりと取り出してみせた。

 彼は思わずがっくりと肩から力が抜けてしまう。

 二百回近くも爆発しながら会得した光と闇の魔力の調和はなんだったのか。


「あの苦労は一体……」

「どっちにしても必要なこと」

「それはそうですが」


 確かに、彼女の言う通り魔眼を克服するためではなくとも彼の敵と対峙するためには必要なことだった。

 しかし、それが分かっていても虚しさは無くならない。


「大丈夫」

「え?」

「これから続きをしてもらうから」


 二柱から分け与えられた力を行使出来るようになった玲治。

 しかし、この先の敵に対抗するためにはそれでは足らない。

 ならばどうすればよいか、それは目の前の邪神少女から新たに受け取った力を使いこなせるようになることだ。


「ま、まさか……」

「また頑張って」


 二つの力を掛け合わせるのにも二百回近い爆発を味わった玲治だが、今度は三つの力を並行励起させなければならない。

 果たして今度は何度の爆発を味わわなければならないのだろうか。



 冷や汗を流して絶望する彼から、仲間達は視線を逸らしながらソッと距離を取った。

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