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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第五章】最終試練編
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第93話:光闇の調和

 薄闇に満たされた空間に一瞬だけ強い光が放たれた。

 光源となったのは地面に立つ一体の石像だ。

 全身甲冑を身に纏った優美な女性の像は、しかしその光と共にその質を石から生き物へと変じてゆく。

 やがて石像は完全に生身へと姿を変えた。


「──────ッ!」


 石化が解除されて元の姿に戻った光神ソフィア。

 そんな彼女を周囲で見守っていた玲治達は、彼女の顔を見た瞬間一歩引いた。


 元より闇神アンバールの時と同じように復活するなり激昂して周囲を吹き飛ばしてくることも視野に入れて警戒は怠っていなかったが、それすらもまだ想定が甘かったと言える。

 とはいえ、別段彼女が怒鳴ったり周囲に無差別攻撃を仕掛けて来たというわけではない。

 それどころか、彼女は顔に笑みすら浮かべていた。

 慈悲深いと謳われる彼女の穏やかな美貌に浮かべられた笑みは周囲に安堵と幸福感を与える……筈だったのだが、それを見た玲治達の胸に齎されたのは真逆の感情。すなわち、恐怖だ。


(目が笑ってないです、光神様ッ!)


 視線があっただけで殺されそうな鋭い眼光。むしろ表情自体は笑顔なのが逆に怖かった。

 彼女を信仰している筈のオーレインやフィーリナまでもが全身から冷や汗を流しながらジリジリと後ろに下がる。

 マイペースなアンリですら、同じような状態だった。

 気にせず平然としているのは、同格の闇神だけだ。いや、よく見ると彼も額に一筋冷や汗をかいている。


「………………はぁ」


 暫くの間、周囲に静かなる怒りをまき散らしていた光神ソフィアだが、内心の折り合いが付いたのか溜息を吐くと共に威圧を解く。

 それによって玲治達も緊張から解放され、内心でホッと安堵を浮かべた。それでも一歩引いた立ち位置から前に出る者は居なかったが、そこには触れないのがマナーである。


「どうやら、世話になってしまったようですね。

 よく私を復活させてくれました。

 見る限り……」


 ソフィアはそこで一度言葉を切り、彼らの方を見回した。


「私は二柱目というわけですね。

 残りはアンリだけですか」

「はい、そうです」


 最初の階層で闇神アンバールを解放し、今こうして光神ソフィアを解放した。

 三柱の内の二柱までを取り戻し、残りは邪神アンリだけとなる。


 と、そこでソフィアがふと玲治の方を向いて何やら気を引かれた様子を見せた。


「? それは……アンバール?」

「今のうちから少しずつ慣らしといて損はねぇだろ」

「なるほど、それもそうですね」


 どうやら、彼女は玲治がアンバールから闇のラインを繋がれていることに気付いたらしく、闇神へと問い掛けた。

 彼の答えに少し思案しながらも納得を見せた彼女の次の行動は誰しもが予想出来た。


「それなら、私も同じように力を与えましょう」




 ◆  ◆  ◆




 アンバールから闇の力を受け取った時と同じように儀式を行い、ソフィアから光の力を受け取る玲治。

 儀式自体は二度目であり、受け取るのが闇と光で正反対であっても受け渡し方は同一だったため、同じ要領であっけなく終えることが出来、彼の胸には新たにVの字のような紋様が刻まれた。

 闇のラインを繋いだ時に片眼だけ真紅に染まった彼の瞳は、もう片方が蒼に染まって完全に標準的な日本人の色から離れることとなった。


 そう、力の受け渡し自体は問題がなかったのだ。

 問題があったのはその後、試しに光の力を使ってみることになった時分だった。


 闇の力を行使する時と同様に、玲治は光神ソフィアと繋いだ光のラインから魔力を汲み上げて使おうとした。

 その瞬間──






 爆発した。

 ぼふん! と間抜けな音を立てながら煙が巻き起こして爆ぜたのだ。


「ぎゃああああーーーー!?」

「レ、レージさん!?」

「だ、だ、だ、大丈夫ですか?」


 堪らず悲鳴を上げた彼に、少女達が血相を変えて駆け寄る。


「あー、やっぱり反発しやがるか」

「性質が正反対ですから、やむを得ないことかと」

「分かってたならやらせないで」


 混乱するアトランダムパーティとは対照的に、管理者の二柱や仮面の女性は落ち着いたままその光景を考察している。


「せ、聖女神様! お助けください!」

「心配要りません。

 直前で私達の方で出力を絞りましたので、大きな怪我は負っていない筈です」

「派手に爆発したように見えるが実害は少ねぇ」


 彼を助けるように懇願する信徒を安心させるように、ソフィアはゆっくりと頭を振った。追随するように、アンバールもそれを補足する。


「彼、悲鳴上げてたけど?」

「あー? いきなり爆発したからビビっただけだろ」


 ジト目と共に疑問が飛んできたが、闇神は軽く肩を竦めるだけで取り合わなかった。


 しばらくして煙が晴れると、ソフィア達の言う通り所々傷付きながらも大きな怪我はない玲治の姿が見えた。

 地面に伏してはいたが、意識自体は失っていないようだ。

 彼はよろよろと立ち上がると、二柱の管理者の方へと疑問を投げて来た。


「あの、今のは一体何で爆発したんですか?」

「光の魔力と闇の魔力を同時に使用しようとしたからだ」

「光と闇、それは属性的に相反するものです。

 真逆の性質の物を無理矢理合わせようとしたら、反発を引き起こすのも無理はありません」

「え? でも……」


 ソフィアとアンバールの説明に、玲治は首を傾げる。

 彼の認識では複数の属性の魔法を同時に運用すること自体は不可能ではないものだったからだ。

 しかし、そうではないと二柱は首を横に振る。


「光魔法(・・)と闇魔法(・・)であれば、同時に運用することは必ずしも不可能ではありません。

 それは魔力によって生み出されたものであってもそれ自体はただの現象ですから、

 互いに打ち消し合って消滅したり減衰することはあっても反発まではしません。

 しかし……」

「さっき手前ぇが同時に運用しようとしたのは、魔法によって生み出された現象じゃねぇ。

 魔力そのものだ。

 言ったろ? 手前ぇらの密度の薄い魔力と違って俺やこの生真面目女の魔力には明確な色があるってな。

 それが真逆の属性なら、反発して爆発の一つも起こるだろうよ」

「ち、ちょっと待ってください!

 それが本当だとしたら……っ!」


 管理者達の説明を横で聞いていたオーレインが表情を変える。

 そこには、隠しようのない焦りが浮かんでいる。


「聖女神様達が例の邪神に直接攻撃を仕掛けずにレージさんの力を必要としているのは、

 彼を媒介に聖女神様達が持つ力を合わせるというお話だった筈です。

 それが反発してしまうのなら、最初から前提が不可能だということにっ!?」

「い、言われてみれば……」


 彼女の懸念を聞いて、玲治の顔も青褪める。

 この狭間に飛ばされる前に聞いた彼らの話では、あらゆる才を内包する玲治に管理者三柱分の力を集めて敵である真・邪神に一矢を報いるという話だった。

 しかし、そもそも管理者達の力が「混ぜるな危険」なら、絵に描いた餅にすらならない。

 確かにあの時も属性が真逆だから普通は無理と言っていたが、同時に玲治であれば可能だとも言っていた筈だ。

 それがこの結果では、作戦の決行は絶望的になってしまう。


 疑惑と焦燥に顔色を変えた彼らに、ソフィア達は一切態度を変えず泰然としたまま口を開いた。


「属性が異なる力は反発してしまい、同時に運用することは出来ません。

 しかし、それは通常であればの話。

 あの時言ったことは偽りではありません。

 貴方にはそれを為すだけの才があります」

「え? で、でもそれならどうして……?」

「簡単なこった。

 才があっても習得してないものは使えねぇってだけだ」

「習得……」

「資質はあります。才能もあります。

 しかし、だからと言って最初から使えるわけではありません。

 それは、貴方がこれまで身に付けてきた力も一緒だった筈です」

「あ…………」


 ソフィアとアンバールの説明に、テナは思わずポツリと頷いた。

 それは、玲治やオーレイン達も一緒だ。

 脳裏を過ぎるのは、これまでこの世界で彼が通ってきた道。


 剣を修練し、魔法を習い、力を身に付けてここまで歩んできたのだ。

 彼の習得速度は異常の一言で、通常であれば数年は掛かるであろうレベルの技能を短時間でものにした。

 しかし、光神の言う通り、それでも彼は最初からではなく修練によってそれらを身に付けたのだ。


 ならば今回も同じ。

 これまでよりも困難なことを、これまでよりも短時間で身に付けなければならない。

 それでも、これまでと同じように真剣に真摯に取り組むだけだ。


「分かったみてぇだな」

「はい!」

「時間がありませんので、修練は次の階層を進みながらになるでしょう。

 私とアンバールで、出来る限りのことはします」

「分かりました」


 しなければならないことは山積みだが、明確な目標を目指し、光神を加えた一行は三つ目の階層へと突入する。

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