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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第五章】最終試練編
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第92話:急転直下

「どうやら、狙い通りこちらが標的となっているようだな」

「はい、先代陛下。

 しかし、あちらが我々よりも近付いた場合、狙いが変わる怖れがあります」

「そうだな」


 先程までと同様に闇神の加護が与えられた大剣で飛んでくる光線を打ち払うエリゴールに、ミリエスは頷いた。

 彼らは今、作戦会議を行っていた地点から弧を描くようにして右方向に進んでいた。

 水晶砲台を中心とした円周上を弧を描くように立ち位置を変えているため、敵からの距離はほとんど変わっていない。


「ったく、俺を囮にしやがって」

「申し訳ございません、闇神様。

 決して、お手を煩わすような真似は致しませんので……」

「わぁってんよ。

 必要以上に手を貸すつもりはねぇが、歩くだけなら付き合ってやんよ」

「ありがとうございます」


 エリゴールとミリエスの後ろを面倒くさそうな表情で歩くのは闇神アンバール。

 狭間を攻略する一行の中で飛び抜けて力を持っている彼が居れば、そちらを狙ってくる筈だという目論見はどうやら的中したようだ。

 水晶砲台から放たれる光線は、立ち位置を変える彼らを追跡するように狙いを変えて襲い掛かってくる。

 敵に意思があるのか自動的に反応しているのかは分からないが、移動を察知して狙ってきているのは明らかだった。


「……そろそろ予定の地点か」

「はい、この辺りで大丈夫でしょう」


 低い声で呟くエリゴールは、光線が飛んでくる方向を見通すように視線を鋭くする。

 元より攻撃を防ぐために視線を外すことはしていなかったが、今の彼が見ているのは水晶砲台ではない。

 彼の視線は遠目に辛うじて見ることが出来る水晶砲台……ではなく、その更に先へと向いている。


「頃合いだろう──合図を」

「ハッ!」


 エリゴールの指示を受け、ミリエスは右手を上へと向ける。

 その掌から巨大な炎の球が上空へと放たれ……そして派手に弾けた。


「作戦開始だ」

「はい!」

「やれやれ……めんどくせぇ」




 ◆  ◆  ◆




「合図ですね……行きましょう」

「え〜?」


 上空で弾けた火球を見たオーレインが隣に立つ女性に声を掛けるが、掛けられた方は面倒くさそうな態度を隠さない。


「やる気を出してください、アンリさん。

 あの攻撃がこちらに来たら、防げるのは貴女だけなのですから」

「それが嫌なんだけど。

 って、分かった。分かったから、後ろから押さないで」


 渋るアンリに痺れを切らしたのか、オーレインは彼女の背後へと回り込んで両手で前へと押し始めた。

 力で押し負けたのか、それとも本気で渋る気は無かったのか、彼女は女勇者に押されるままに前へと足を進める。


 彼女達が居るのは、作戦会議を行っていた地点から時計回りに九十度進んだ場所。

 エリゴール達が居る場所から見れば、水晶砲台を挟んで丁度対角の位置となる。


「どうかこっちに飛んできませんように」

「そういうことを言っていると、逆に飛んできそうなのですが」

「そうやって拾うと尚更こっちに来そう。

 貴女こそ縁起でもないこと言わないで」

「そんな理不尽な」


 彼女達は合図と共に水晶砲台に向けて足を進めたが、反対側に居るエリゴール達も同じように進む手筈となっている。よって、水晶砲台からの距離は彼らとほぼ同じになる筈だ。

 そのためか、今のところは向こうが狙われているようでアンリ達の方へは光線が飛んでこない。

 予定通り、最も脅威となり得るアンバールが居る方が優先標的となっているためだろう。


 この調子なら、このまま間近まで接近出来るのではないか。

 そんな風に思った瞬間、水晶砲台の動きが変わった。


「ッ来ます!」

「だから言ったのに」

「わ、私のせいではありません!

 いいから、防いでください!」


 それまでの光線は単発の直線だった。

 しかし、エリゴールやアンリ達が二方向に分かれて近付いたことを察知したのか、全周囲を薙ぎ払うような動きへと変わる。

 横から叩き付けられるような光線が、アンリが手を伸ばした先に生み出した闇の防壁へとぶち当たる。

 直線の時と異なり攻撃の持続時間は短く、すぐに止まった。


「重い」

「泣きごと言わないでください、不安になります!

 って、また!?」


 無事に防ぐことが出来て安堵したせいか軽口を言い合う二人だったが、すぐに次の攻撃の兆候を察知して焦る。

 近付いたおかげで水晶の内部の光珠から放たれる光を視認することが出来たのだ。

 おかげで攻撃の予兆を見逃すことはない。

 しかし──


「やはり攻撃のスパンが短すぎます!

 これでは全力で走っても合間で距離を詰めることは……」


 前の攻撃を防いでから次の光線が放たれるまでのタイムラグが短く、その間に攻撃出来る位置まで近付くことは出来そうにない。


「弓ならここから撃てば?」

「やってはみますが……」


 第二射を防ぎながら提案するアンリに、聖弓を構えながら答えたオーレインは光線が途切れるのと同時に全力射撃を行う。

 しかし、まだ距離があるせいかその聖弓の光矢が届く前に次の攻撃が放たれ、呆気なく呑み込まれてしまった。


「やはり、呑み込まれてしまいますね。

 それに仮に当たったところで、聖弓の攻撃では属性の点でダメージは薄いでしょう」

「そう。それじゃやっぱり……」


 予想していた結果のせいか、二人に落胆はなかった。

 闇の防壁を展開したまま顔を後ろに向けるアンリに、目を合わせたオーレインが頷いて返す。


「はい、予定通りレージさんにお任せすることにしましょう」




 ◆  ◆  ◆




「結構な高さだな……」

「そ、そうですね」

「アンリ様やエリゴールさん達よりも近いと、攻撃がこっちに来ちゃうかも知れませんからね」


 エリゴールやアンリ達が水晶砲台の両側で攻撃を凌いでいるのと同時刻、玲治とテナ、そしてフィーリナは上空に居た。

 それは丁度水晶砲台の直上の位置だったが、かなりの高度のせいで辛うじて見える程度だ。

 上空に居ると言っても、別に空を飛んでいるわけではない。

 テナが闇魔法によって階段上の足場を生み出すことで、作戦会議の場所から真っ直ぐ斜め上に昇って来たのだ。


「ここから飛び降りるのか……」

「ちょ、ちょっと怖いですね」


 玲治の出した案は、水晶砲台の両側で気を引いた上で上空からの急襲を仕掛けることだった。

 敵の攻撃の合間は短く、どれだけ全力で走っても近付くことは難しい。

 しかし、それはあくまで地上を水平に見た時の話だ。

 走破ではなく落下であれば近付くための時間は圧倒的に短く済む。


「いけそうか、フィーリナ?」

「は、はい!

 落下の衝撃は私が防いでみせます!」

「ああ、頼む。

 それじゃ、いくぞ!」

「はい!」

「分かりました!」


 玲治は作戦決行前に運任せの剣を何度も引き直して出した闇属性の剣を両手で下向きに構え、テナとフィーリナは両側から彼にしがみ付く。

 そして、眼下の水晶砲台から光線が放たれた直後のタイミングを見計らって、テナが闇の階段を解除した。


 重力に従って落下する三人は見る見るうちに水晶砲台の上部へと近付いてゆく。

 すると、水晶の内部の光珠から再び光が放たれ始める。


「こっちに来るかも知れない、その前に突っ込む!

 頼む、テナ!」

「はい!」


 玲治の腰の辺りにしがみ付くテナが、片方の手を放して上空へと向けた。

 その掌から闇弾が放たれる。それが向けられた方向には何も存在しない。

 ただ空中へと消えていく無駄撃ちだ。

 しかし、その反動で三人の落下の速度が増す。


 スピードを上げた玲治が掲げた剣が水晶の上部に突き立てられたのは、光線が放たれるのは直前のことだった。

 落下のスピードを緩めないために当たる直前にギリギリのタイミングでフィーリナが防御魔法を展開する。


「間に合った!」


 落下エネルギーを乗せた剣が突き立てられた水晶はその部分から罅が全体へと広がってゆく。

 それに加えて、玲治は一瞬だけこの空間を満たしていた闇を解除し、闇属性の剣を通してそれを全て水晶の内部へと流し込んだ。

 罅によって散らされた光線は流し込んだ闇によって塗り潰されて消えてゆく。

 そして、光を鎮められた水晶はやがて……パリンっという音と共に粉々に砕け散った。


「ふぅ……やったか」


 水晶砲台を撃破した玲治達はフィーリナの展開した防御壁によってスピードを緩めながら地面へと降りた。


「ッ!? まだです!」

「え?」


 倒したと思って気を抜いた玲治だったが、砕けた水晶の後に残った光の珠が再び光を放つ。

 水晶の部分は攻撃の方向を定めるための媒介物でしかなく、中央にあった光珠さえあれば攻撃を放つことは出来るということなのだろう。


「クッ!?」


 着地の姿勢が悪く咄嗟に動けない玲治は、せめてテナとフィーリナを守ろうと覆い被さろうとする。

 しかし、結果的にそれは不要な行動だった。


「詰めが甘いな」

「もうこんな走るのは勘弁してほしい」


 玲治達三人を守るように闇の防壁が展開される。

 それと同時に、右側から大剣を振り被ったエリゴールが光珠へと強烈な一撃を叩き付けた。

 光の珠は彼の一撃によって弾け飛び、その中から一体の石像が姿を表す。

 その石像──光神ソフィアはゆっくりと中空から地面へと降りていった。

サブタイ詐欺気味な急転直下(物理)

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