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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第五章】最終試練編
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第86話:性悪階層

「狭間」第一階層の探索を開始したアトランダム一行+2名の進行は──


「ところで、どっちに行ったらいいんだ?」

「ええと、前も後ろも同じような道がずっと続いてますね」


 ──最初から躓いていた。

 どの方向を目指せばよいのか、さっぱり分からなかったのである。

 戸惑いながら告げた玲治の問い掛けに、テナは途方に暮れたような表情で答えを返した。


 彼らが居るのは橋のような形状をした場所だ。

 必然的に、進める方向は限定されている。前に進むか、後ろに進むかの二択しかない。


 玲治は候補となる二方向にそれぞれ視線を向ける。が、その二方向は彼の目には全く見分けが付かない。

 前も後ろもずっと先まで橋状の地面が続いており、目的となりそうなものは知覚領域内には存在しなかった。

 そもそも、前や後ろというのもこの場所で気付いた時に見ていた方向かそうでないかだけの話であり、便宜上のものでしかない。

 どちらの方向にも判断材料となりそうなものはなく、完全に直感で選ぶしかない。

 正しい道である確率は五十パーセント。低いわけではないが、ここでの遅れが世界の崩壊に繋がるかも知れないと考えると賭けるには危険過ぎる。


「あの、二手に分かれるというのは?」

「それはなるべく避けた方がよいな。何が待ち受けているか分からぬ現状では、迂闊に戦力を減らすことは避けた方がよい」

「先代陛下の仰る通りかと」


 フィーリナが手を挙げて提案するが、エリゴールとミリエスは彼女の意見に対して反対の意を示す。


「そうですね。

 それに二手に分かれて正しい道を見付けたとしても、合流するのが困難になってしまうでしょう」

「確かに……」


 二人に遅れて、オーレインも同調する。

 彼女の言う通り、仮に二手に分かれたうちの一方が正解の道を見付けたとしても、そこから全員が合流するには単純に考えてそこに至るまでの倍の時間を要することになる。

 それ以前に、連絡手段が無ければ正しい道を見付けたことをもう一方のメンバーに伝えることも出来ない。

 勿論、合流せずに片方を捨て石として先に進むのであればこうした点は考えなくてもよくなるが、この場の誰もがそんな選択肢は頭に置いていない。

 心情的な意味でも、先を考えた戦力的な意味でもだ。


「? アンリさん?」


 玲治はふと、ここまでに一言も発していない漆黒のドレスを纏った女性の方を見た。

 彼女の目元は仮面で隠されていてその胸の内は伺えないが、他のメンバーが前と後ろのそれぞれを見遣ってどちらに進むべきかを検討している中で、彼女だけは明後日の方向を見ている。

 別段彼はそのことを咎め立てするつもりはなく、単純に彼女の意見を聞いてみたかった。


「ちょっと実験」

「はい?」


 しかし、彼女から返ってきた答えは玲治が予想したものとは全く異なるものだった。

 それ以前に、何を言っているのかサッパリ分からない。

 戸惑う彼を尻目に、アンリはアイテムボックスから何かを取り出してみせる。

 彼女が取り出したのは、中に何か粒状の物が入った小袋のようだった。


 二人のやり取りに気付いたのか他の者達も彼女の方へと視線を向け始める。

 その場の全員の視線が集中する中、彼女は小袋の中身を左手の上へと広げた。

 玲治の立っている場所からは黒い粒状の何かとしか分からなかったが、おそらく木の実か豆のようなものだろう。


「? それをどうするんですか?」

「こうする」

「あっ!?」


 次の瞬間、彼女が取った行動にテナは思わず驚いて声を上げてしまった。

 アンリは掌の上に載せた物を無造作に右方向に放ったのだ。

 彼女の右側は何も無い空間が広がっており、放り投げられた物体──後で分かったことだが、結局それは豆であった──は遥か下の方向に落ちなかった(・・・・・・)


「何っ!?」

「これは……」


 アンリが放り投げた無数の豆は、丁度彼らが立っている辺りの高さで見えない何かに当たったように跳ね、やがて空中に静止した。

 その事実に驚愕するエリゴール達に構わず、彼女は続けて小袋を振って残った豆を今度は左側の空中へとばら撒く。

 すると、今度は途中で止まることなく落下していった。


 目の前で起こった出来事に呆然となる一行の前で、アンリは豆が空中にぶちまけられている方の淵へと歩み寄り、しゃがみこんで指で地面の延長線上をつつくような仕草をする。

 案の定というべきか、そこには見えない地面が続いているようで固い感触が返ってきた。


「前と後ろに続いている道はトラップで、空中の見えない道が正解ってわけですか。

 よく分かりましたね、こんなの」

アレ(・・)は性格が悪い。

 素直な二択なんて出してくるわけない」

「さ、流石被害者トップのアンリさんですね……。

 しかし、これは随分と性質が悪いです。

 下手をすれば永遠にさまようところでした」

「多分、前後の道の何処かにヒントはある筈。

 私達がずっとここでさまよったままというのは、向こうも望まない。

 無駄に歩き回った私達が正解を知って肩を落とすのを嘲笑うつもりだと思う」

「どっちにしても性質悪いですね」


 玲治はアンリの横まで近付くと、勇気を出して何も無い空中へ向かって片足を出した。

 恐る恐る地面の高さの感触を探るようにして、そこに見えない地面が存在することを確信してから体重を掛ける。

 すると、彼の片足は何も無い空中で留まった。

 ホッと一息を吐いてから、もう片方の足も見えない地面へと下ろす。

 今、彼は宙に立っているかのような状態になっている。


「落ちないって分かっていても落ち着かないな」

「うぅ……怖いです」


 おっかなびっくり踏み出そうとするテナに、玲治は片手を差し出す。彼女はその手を握りながら覚悟を決めて空中へと足を向けた。


「しかし、これでは何処で足場が欠けているか分からんな。

 かなり慎重に進まないと危険過ぎる」

「そうですね……いや、ちょっと待ってください?

 これなら!」


 次に進むべき方向を考えているエリゴールが示した懸念に一瞬同意し掛けた玲治だが、その時ふいに思い付くことがあった。

 彼は跪くようにして自分の立っている見えない足場へと手を当てると、魔力を集中させて水魔法を放つ。

 彼が立っているところから冷気が走り、次々に凍り付いてゆく。

 数秒後、そこには氷で出来た大地が出来上がった。ところどころ道が途切れているところがあるが、そこは元々足場が無かったところなのだろう。


「なるほど、これなら安全に進めそうですね」

「凄いです、レージさん!」

「はは、ありがとう。テナ。

 でも、これもアンリさんが道を見付けてくれたから出来ることだよ」


 テナの称賛を聞いた玲治は照れたように頬を掻くと、氷の足場の感触を足で確かめている仮面の女性へと目を向き直る。


「相手の手の内を読めるのは貴女だけだと思います。

 この後も、どうかよろしくお願いします!」

「……嬉しくない」


 仮面で目元は見えないが、見えている口元だけでも嫌がっているのがよく分かった。

 実際、性格の悪い邪神の思考が読めるというのはあまり褒め言葉ではないのだから、その反応も無理はないのだが。

 とはいえ、嫌でも何でも現状では他に手がないことも確かだ。

 このような性質の悪い仕掛けが最初で最後だと考えるのは、安易に過ぎるだろう。


 一行は玲治の作り出した氷の足場に足を踏み出し、空中を歩き始めた。




 ◆  ◆  ◆




「んっ!?」

「へ、変な感触ですね」


 空中を歩いていた一行は、極彩色の幕のようなものを通過した。

 最初に立っていた橋状の場所からは無限の空間が広がっているようにも見えたのだが、実際に近付いてみると結界のようなフィールドに覆われていただけで、その先には全く別の光景が広がっているようだ。


 しかし、彼らがそれを視認することは出来なかった。


「こ、これはっ!?」

「闇……?」

「これでは何も見えませんね」


 極彩色のフィールドを越えた場所に広がっていたのは一面の闇だった。

 一切の光が存在しない空間で、視界の視認度はゼロ。

 隣に立つ仲間の顔すら見えない状況だ。


「ちょ、ちょっと待ってください。

 オーレインさん、フィーリナ。

 二人も手伝ってくれ」


 玲治が慌てて光魔法で光源を作り出すと、オーレインとフィーリナの二人もそれに続いて魔法を行使する。

 しかし、闇の方が強く三人掛かりで作り出した光源も辛うじて足元を照らすことが出来る程度にしかならなかった。

 何よりも困ったのは、これでまたどちらの方角へ向かうべきなのかが分からなくなってしまったことだ。

 少なくとも来た方角である後方は除外出来るが、それ以外の方角の全てが候補となってしまう。


「また、どっちに進むべきか分からない状況になってしまいましたね」

「アンリ様、如何でしょう」

「私は地図じゃない……でも」

「でも?」


 言い淀むアンリの口振りに、玲治は期待を籠めた視線を向ける。

 ただ、手元の光で下から照らされている今の彼ではホラーな光景にしかなっていない。


「アレは各階層に管理者の石像が一つずつ置いてあるって言ってた。

 それにこの闇……多分、この階層に置いてあるのは」

「ッ! 闇神様か!」

「その可能性が高い。

 貴方達なら、闇神アンバールの居場所が分かったりしない?」


 魔族は闇神アンバールによって生み出され、彼を信仰している。

 ましてや先代とはいえ魔王であるエリゴールは、特別に闇神との関連性が深い。

 今は娘である当代の魔王に譲って手元にないとはいえ、闇神の加護を受けた魔剣の所持者だった存在でもあるのだ。

 そんな彼や四天王のミリエスならば闇神の石像の場所が分かるのではないか、というアンリの問い掛けに、二人は目を閉じて意識を集中する。

 他の者達は、二人の様子を固唾を呑んで見守った。


 やがて静かに目を開けたエリゴールとミリエスは、そっと手を上げてある方向を指差した。


「確実なことは言えんが、あちらの方角に何か力を感じるな」

「私も同感です、先代陛下」


 二人の言葉を受けて、玲治達は互いに顔を見合わせると頷き合った。

 どのみち、現状では他に手掛かりもないのだ。

 魔族である二人の意見が一致したことで、可能性も多少上がったと言える。

 ここは信じてそちらの方角に進んでみよう、アトランダム一行の意見はその方向で一致した。

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