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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第五章】最終試練編
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第81話:ミッションコンプリート?

「……ん……ここは……?」


 目を醒ました玲治は、身体を起こして周囲を見回した。

 床に倒れ込むようにして眠っていた彼の周りには、同じようにパーティメンバーが倒れている。


「オーレインさん! ミリエス! フィーリナ!」

「……うぅ、レージさん?」

「あれから、どうなった?」

「確か、あのアンデッドと戦っている中で意識を失って……」


 玲治が声を掛けると、三人の少女達はそれぞれ意識を取り戻した。

 しかし、何れも状況を把握出来ておらず、戸惑ったように周囲を見回している。

 そんな彼らに、背後から声が掛けられた。


「目が醒めたようだな」

「レージさん! 他の方達も大丈夫ですか?」

「……え?」


 彼らが振り返ると、そこには二人の人物が立っていた。

 一人は彼らのパーティの一員であるテナだ。意識を失う直前まで一緒に居た彼女が居るのは自然なことであるし、それについては理解も出来た。

 しかし、もう一人の人物については何故ここに居るのかが分からなかった。


「エリゴールさん!?」

「せ、先代陛下っ!?」


 声を掛けて来たもう一人の人物、それは以前玲治達と行動を共にしたこともある先代魔王のエリゴールだった。

 予想もしていなかった人物の姿に、一行はしばし呆然となる。

 特に、魔族であるミリエスの動揺は最も大きい。

 そんな中、玲治はとある事に思い当たった。


「あ、もしかして……俺が気を失う前に聞いた声は……」


 インペリアル・デスとの戦闘で最後に相討ちに近い形で意識を失う直前に聞こえて来た声。

 後から思えば、あれは目の前に立っている彼の声だったと気付いたのだ。


「うむ、上前をはねるようで気が引けたのだがな。

 流石に見過ごすことも出来ず、戦闘を引き継がせて貰ったのだ」

「その後、気絶したレージさん達を三十一階層まで運んだんです。

 試練をクリアすれば、手当てをして貰えると思って……」

「そうだったんですか……」


 エリゴールとテナの説明に、やっと状況を呑み込むことが出来た玲治だが、そこであることに気付いた。


「って、そうだとするともう試練はクリアしたってことになるのか?

 それと、ここはダンジョンの地下三十一階層なのか?」

「確かに……先程戦っていた地下三十階層とは別のフロアのようですが」


 改めて周囲の光景を見回す玲治達。

 今、彼らが居るのは謁見の間と呼ぶのが相応しい部屋だった。インペリアル・デスと戦った地下三十階層よりは大分狭いものの、豪奢な装飾が施されており、数段高い場所に玉座が据えられている。

 しかし、その玉座に座る者は誰も居ない。


「いえ、ここは地下三十一階層ではありません……地上第四階層です」

「地上第四階層ですか!? ど、どうしてそんなところに?」


 テナの答えを聞いて、玲治達は狼狽するしかなかった。

 ずっと地下を目指して下に下にと進んできたにも関わらず、知らぬ間に真逆の地上の階層……それも最上階の一歩手前まで移動していたのだから、それも無理はない。

 しかし、落ち着いて改めて見ると確かに以前試練を言い渡された時に見た部屋の光景と同じであることに気付いた。


「それは、私が招待したから」

「────ッ!?」


 玲治達は一斉に声が聞こえた方向へと振り向く。

 すると、先程まで確かに誰も居なかった筈の玉座に座っている人物が居た。


 玲治達にとっては見覚えのある、漆黒の扇情的なドレスに身を包んだ黒髪の少女。

 しかし、そんな姿形に気を留める前に彼らの視線は一ヶ所に集中する。

 それは……この世全ての闇を凝縮したような澱んだ瞳だった。

 その眼が視界に入った瞬間、本能が感じるどうしようもない恐怖に衝き動かされ、玲治はその身を伏せた。

 両手両膝を地に突いたその格好……土下座だ。


 なお、オーレインとエリゴールは反射的に眼を逸らして土下座を免れたが、ミリエスとフィーリナは玲治と同じように土下座ポーズを取っていた。

 テナだけは影響を受けず真っ直ぐに彼女の方を見ていたが、玲治達が土下座の姿勢になってしまったのを見て頭痛を堪えるように額に手を当てた。


「……アンリ様」

「……ごめん。忘れてた」


 咎めるようなテナの声を聞いて軽く謝った少女は、玲治達から視線を外して明後日の方向へと向ける。

 そうすることで、漸く彼らは玉座に座る少女──邪神アンリの魔眼による土下座ポーズから逃れることが出来るようになった。


「え、ええと……神族の方のアンリさんですよね?

 そう言えば、人族の方のアンリさんは?」

「あの子ならココ」


 玉座に座る少女がパチンと指を鳴らすと、天井の一部が開いてそこから巨大な鳥籠のような檻が降りて来た。

 檻の中には少女と同じ漆黒のドレスを着た女性が両手を縛られる形で横座りに座り込んでいる。

 彼女の顔には見覚えのある黒い仮面が着けられていた。


「たすけて〜」


 檻の中の仮面の女性は玲治達に向かって助けを求める声を上げて来た。

 しかし、その台詞はどう贔屓目に見ても棒読みで、彼らは対応に戸惑って顔を見合わせる。

 玲治達が動きを見せないことに一瞬小首を傾げた女性は、声が聞こえなかったのかと思ったのか再び声を上げた。


「??? たすけて〜」

「………………ハァ。

 あの、アンリ様?

 レージさん達もアンリ様と神族のアンリ様の関係は御存じですし、

 そんな演技は最初から意味が無いです」

「がーん、折角の囚われのお姫様役が……」


 テナに諭されてショックを受けた女性は、やがて諦めたように立ち上がると、縛られていたのが嘘のように縄を外して檻の外に跳び下りた。

 よく見ると、檻は前面だけのハリボテであり後ろ側は何も無い。最初から自由に降りることが出来る状態だった。


「一体何やってるんですか……」


 一気に緊張感が消失した空間で、玲治達は脱力して肩を落とした。




 ◆  ◆  ◆




「それで、こっちのごっこ遊びで遊んでたアンリさんが黒薔薇邸に居た人族のアンリさんで……」

「そういうこと。

 私が貴方に試練を課した神族の方のアンリ」

「ごっこ遊び……」


 仕切り直しで改めて玉座に座る少女、邪神アンリと相対する玲治達。

 仮面を着けた人族の方のアンリは何やら落ち込んでいたが、両者の顔をそれぞれ見た後、結局テナの横辺りに立ってやり取りを傍観する構えを見せた。


 人族でありながら神族に昇華し、かつ神族と人族に別たれたという彼女の複雑な事情については玲治も聞き及んではいたし、両者とも面識はあるのだが、こうして二人を同時に目の当たりにするとやはり困惑が大きい。

 全く同じ意匠の黒いドレスに身を包んでいる二人は、人族の方だけ仮面を着けていることを除けば殆ど同じ容姿をしている。

 しかし、よく見ると神族の方が若干幼い印象があった。歳を取らない神族と人族の間での差異が生じているのだろう。


「試練……そう言えば、結局俺達は地下三十階層で気を失ってしまったんですが、

 試練の結果はどうなるんでしょうか?」


 以前言い渡された試練の内容は、地下三十一階層への到達だ。

 しかし、玲治達パーティはテナを除いてインペリアル・デス戦で倒れてしまった。

 結局、後から加わってトドメを刺したエリゴールとテナの手で地下三十一階層まで運ばれたわけだが、果たしてこれで試練をクリアしたと言えるのだろうかという不安を玲治は抱えていた。


「ん、大丈夫。

 誰とどうやって到達するかまでは指定してなかったし、問題なし。

 試練クリア、お疲れ様」


 パチパチとやる気の感じられない拍手を贈ってくる邪神アンリ。と、ついでに人族のアンリ。


「釈然としない部分はありますが……これで試練は三つとも達成したことになりますよね。

 これからどうすればいいんでしょうか?」


 彼をこの世界に放り込んだ邪神からの手紙では、三柱からの試練をクリアすれば元の世界に返すと書かれていた。

 魔族領で当代の魔王レオノーラに認められるという闇神からの試練を、ルクシリア法国でフィーリナを救うという光神の試練を、そしてこのアンリニアで「邪神の聖域」地下三十一階層到達という邪神からの試練をそれぞれ達成した。

 つまり、これで玲治は元の世界に帰るための条件を満たしたことになる。


「じきにアレが接触してくる筈……ただ、その前に私達の話を聞いてほしい」


 アンリが「アレ」と呼ぶ存在については、玲治達もすぐに理解した。彼をこの世界に放り込んだ方の邪神……言うなれば、真・邪神とでも呼ぶべき存在だ。

 玲治は声しか聞いておらず姿は見ていないが、聞いた話では少年の姿をしているという。

 確かに、全ての条件を満たした以上は「彼」から接触してくるのは自然な成り行きだ。

 しかし、目の前の管理者はそれに待ったを掛けることを考えているようだった。


「私達? ええと、他に誰が……?」

「それは……」


 彼女がその答えを口にしようとした時、玉座の左右の空間が歪み人影が現れた。

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