第80話:理不尽を超えろ
メリークリスマス。
「ゆくぞ」
その言葉と共に、漆黒のドラゴンライダーは上空へと舞い上がった。
黒龍ヴァドニールの上にアンリルアーマーが騎乗した形のアンリルデスライダーは、高さも横幅もかなりの巨体である。
しかし、それを考慮して拡張されたと思しきフロアは、彼が飛び回る妨げにならない程度には広い。
悠然と翼をはばたかせながら中空に滞空する邪神の眷属を見上げながら、玲治達は対応に動き始めた。
「魔法で一斉に攻撃して撃ち落とすぞ!」
「は、はい!」
「任せておけ!」
玲治、テナ、そしてオーレインの三名は黒龍と対峙するのは二度目であり、上空から一方的に攻撃されることの脅威を知っている。
それ故に、以前と同じようにまずは魔法による遠距離攻撃で相手を地面に落とすことを優先とした。
防御魔法でパーティを守るフィーリナを除き、全員が一斉に黒龍目掛けて魔法を放つ。
「フッ、撃ち合いか……面白い」
以前のパーティと比べると、火魔法を得意とするミリエスが加わっている。
また、玲治は勿論として、それ以外のメンバーも力量を伸ばしているため、全体的に火力は増していた。
黒龍だけであればひとたまりも無く地面に叩き落とされていたことだろう。
しかし、そんな飽和攻撃に対してアンリルデスライダーは動じることなく空で待ち構えていた。
彼が手に持った大剣を前に掲げると、その周囲から無数の闇弾が生み出される。
「ま、魔法を!?」
「使えぬと思うてか?」
以前の黒龍と目の前の敵の最大の違いがここにあった。
黒龍自身はブレス以外に遠距離攻撃を有していない。勿論ブレスは強力な攻撃であり侮ることは出来ないが、単発であったり溜めを必要とすることから、撃ち合いには不向きだ。
しかし、今彼の背には邪神の鎧の搭乗した不死者の皇が居る。
深き闇にその身を浸した彼が闇魔法を使えぬわけがない。鎧越しであっても、その力に衰えはないのだ。
アトランダム一行の放った魔法と、アンリルデスライダーの放った闇弾が真っ向から衝突する。
大半は互いに相殺し合って消えたが、何割かは突き抜けて相手へと迫った。
「助かった、フィーリナ!」
「はい! 守りはお任せ下さい!」
玲治達に向かって飛んできた闇弾はフィーリナによって防がれる。
「ぬ? 消し切れなかったか」
アンリルデスライダーへと迫った魔法は彼が持つ大剣によって薙ぎ払われたが、数が多かったせいか消し切れなかった幾つかは鎧や黒龍に被弾していた。
しかし、それほどのダメージは与えられていないらしく、宙に浮かぶ姿は小揺るぎもしていない。
「いけるぞ、魔法の撃ち合いならこっちが有利だ!」
「ええ!」
あまり効いていないことは分かっていつつも、鼓舞するために玲治はパーティメンバーに声を掛けた。
そこには願望や希望的観測も多少は含まれていたが、他に手が無い現状では気圧されて委縮するのは致命的だったためだ。
それに、ダメージは大きくないものの攻撃を当てることに成功したことは事実でもある。
玲治達が再び魔法を放つと、アンリルデスライダーもそれに応じる。
無数の光が飛び交う中、次第に黒龍への被弾が増えていった。
インペリアル・デスの放つ闇魔法は、光神の魔法を模した玲治の光魔法とほぼ互角。
テナやミリエス達が加わっている分、攻撃の総量としては有利だったのだ。
勿論、抜けてくる攻撃魔法は大剣によって防がれていたが、黒龍に騎乗しているという体勢上、どうしても剣が届かない部分が出てくるのは自明の理だった。
「成程、大したものだ。一ヶ所に留まって迎撃するのは不利のようだな」
インペリアル・デスがアンリルアーマーの脚を動かして合図を送ると、空中に滞空していた黒龍は彼を乗せたまま空を舞い始めた。
「ッ!? 厄介な」
それはまるで、以前の黒龍との戦いの焼き回しのようだった。
しかし、今はそこに更に強力な魔法を行使する乗り手が加わっている。
これまでは飛んでくる魔法の防御に手を割いていたインペリアル・デスも、回避を黒龍に任せることによって攻撃に専念することが出来る。
まさに、ドラゴンライダーの本領とでもいうべき戦闘法だった。
こうなると、玲治達の方は途端に手が無くなってくる。
先程までは押していたが、それはあくまでアンリルデスライダーが一ヶ所に留まっていたためだ。
上空を自在に飛び回る黒龍には、散発的な攻撃しか当てることが出来ない。
また、移動を黒龍に任せたアンリルデスライダーと異なり、玲治達は動き回りながら魔法を撃つような真似は困難だ。
無理をすれば出来ないことはない技術だが、威力も照準も大幅に低下することは確実である。
真っ向から相殺し合うことが無くなったせいで、上空からは闇弾が次々と降り注いで来る。
「くっ!? 支え切れません!」
「レージさん! 私も防御に回ります!
何とか、黒龍に攻撃を当てて地面に落してください!」
「わ、分かった!」
雨のように降り注ぐ攻撃に耐え切れなくなったフィーリナを見て、オーレインがフォローに回る。
後手に回っている状況で攻撃の手数が減るのはあまり歓迎出来ることではないが、この場合はやむを得ない。
敵の放つ強力な闇魔法を防ぎ切るためには、光魔法を合わせられる彼女か玲治の何れかが防御に回るしかない。
有効打になりそうな玲治を攻め手から外すのは得策ではないとなれば、消去法で配置は決まってくる。
しかし、攻め手の弾幕が薄くなった瞬間、アンリルデスライダーは即座にそれを察知して攻撃を切り換えた。
それは、長き時をあり続けた故の経験の差だったのだろう。
彼は、被弾を意に介さずに玲治達の立つ地面に急降下し、大剣を振り被る。
「っ!? 散ってください!」
「くっ!?」
防ぎ切れないと判断したオーレインは、パーティメンバーに指示を飛ばす。
それを受けてそれぞれが飛び退くのと、轟音と共に剣が地面に叩き付けられるのはほぼ同時だった。
「きゃあああああーーーーっ!?」
「フィーリナ!」
際どい所で回避した一行だが、五人の中で最も身体能力が劣っているフィーリナだけは反応が遅れてしまった。
とはいえ、直撃を受けたわけではない。もしも受けていたなら、おそらく即死していることだろう。大剣が地面へと叩き付けられた余波だけで、彼女は吹き飛ばされたのだ。
「おのれ!」
ダメージを受けたフィーリナの姿を見て、ミリエスがフレイム・マリオネットを形成してアンリルデスライダーへと差し向ける。
迫り来る炎の人形に黒龍がその爪を振るって応戦するが、上に乗る巨鎧は動かずに別の方向を見ていた。
視線を感じた玲治は、フィーリナに駆け寄るのをやめ、逆に距離を取る。
相手が自分に関心を持っているのなら、傷付いた彼女に近付くのは逆効果だと判断したためだ。
逆に相手の気を引いている間に、オーレインに手当てを任せた方がいい……そう考えた彼は、敢えて相手へと立ち向かった。
ミリエスのマリオネットとは逆方向から、双剣を抜いて斬り掛かる。
運任せの剣の引きも良く、飾りは無い武骨な作りだが頑丈そうな黒剣が出た。
「喰らえ!」
「そうはいかんな」
マリオネットに気を取られて隙だらけになった黒龍の支えとなっている前脚に切り掛かった玲治だが、それは無謀だった。
上に乗る漆黒の鎧騎士がそれを許す筈もなく、待ち受けるかのように大剣を扇状に斬り払ってくる。
「うわっ、と!?」
玲治は慌てて攻撃を中断して立ち止まる。その面前を、最早壁のような巨大な武器が横へと走り抜ける。
「止まっていて良いのかね?」
「拙っ!?」
アンリルデスライダーの剣を持たぬ方の掌が玲治へと向けられ、凶悪な闇の魔力が収縮してゆく。
魔法攻撃が来る! そう悟ったが、一度立ち止まってしまった彼はすぐに反応することが出来なかった。
回避しようと足に力を入れるよりも早く、丸太のような太さをした黒い槍が放たれる。
「く……えっ!?」
「ぬ?」
迫り来る闇の光槍が玲治を貫こうとした瞬間、横合いから同じ黒き槍が衝突し、両者は弾けて消えた。
「今です、レージさん!」
「助かる、テナ!」
テナが横から敵と同じ魔法を用いて相殺してくれた。そう悟るのと同時に彼は再び前に向かって駆け出した。
「それでは先程と変わらぬ」
自身の魔法を消されて一瞬驚愕したアンリルデスライダーだが、すぐに我に返って剣を振るう。
先程と同じように真っ直ぐ向かってくる玲治の姿に、僅かな失望と共に再び扇状の軌道で大剣を薙いだ。
「それはどうかな!」
「む?」
言うが早いか、玲治のスピードが段違いに上がった。風魔法による加速だ。
先程と同等のスピードを想定していたアンリルデスライダーは目算を誤り、その剣線は彼が通り過ぎた後を薙ぐに留まる。
大剣をかわした玲治は、そのまま風を全身に受けて舞い上がる。
「おぉ!?」
黒龍の前脚を駆け上がった玲治は、アンリルアーマーの正面へと降り立った。
そして、間髪入れずに彼へと斬り掛かる。
足場にされた黒龍が鬱陶しそうに首を振った。
「小癪な」
言葉とは裏腹に愉しげな声を上げながら、アンリルデスライダーは真っ向から向かってくる彼を迎え撃った。
しかし、黒龍の背で戦っているため、漆黒の鎧騎士には採れる手が限られる。
跨っている状態なので移動は出来ず、黒龍を傷付けるような攻撃も出来ない。
必然的に大剣を薙いだり突いたりといった、読み易い攻撃を採らざるを得ない。
当然、そんな単純な攻撃をまともに受ける玲治ではなく、黒龍の背や翼の上、頭の上、尻尾の上や地面などあちらこちらを跳び回りながらアンリルデスライダーを斬り付けてゆく。
その頑丈そうな鎧に大きな傷を付けることは出来なかったが、流石に鬱陶しさを感じたのか彼は黒龍へと合図を送った。
「その度胸は認めるが、それは失策であろう」
「何だって? ……うわっ!?」
「レージさん!?」
突然翼をはばたかせて再び宙へと舞い上がる黒龍。
丁度背の上に居た玲治は降りる機会を逃し、上空へと連れ去られる形になってしまう。
「ヤバッ!?」
状況に気付いて慌てる玲治だが、既に時遅し。
宙ではばたく黒龍の上は先程よりも動ける範囲が減っているし、この高さから落ちればただでは済まない。
そして、彼が近過ぎて仲間達も迂闊に攻撃が出来なくなってしまう。
「さぁ、これはどう凌ぐ?」
「──────っ!」
黒龍の背中ギリギリのところを横に薙ぎ払って来たアンリルデスライダーに、玲治は為す術も無く後ろへと跳び下がる。
しかし、頭の上に乗られた黒龍はそれを嫌がるように首を振るう。
「うわああっ!?」
不安定な足場の上に振り払われた玲治は空中に投げ出されてしまう。
「中々有望な青年だったが、ここまでか」
「勝手に殺すな」
「何っ!? ぬぉっ!」
呟いた言葉に思わぬ位置から答えが返ってきたことに驚くのと同時に、極太の光線がアンリルデスライダーを直撃する。
これまでで最大の攻撃に大きく仰け反り黒龍の上から落ちそうになるが、黒龍が上手くいなすことで何とか体勢を立て直す。
「莫迦な、どうやって……っ!?」
声から地面に落下した筈の玲治が攻撃してきたと悟り、驚愕と共に声のした方向を見るアンリルデスライダー。
その視線の先には、右掌を突き出した格好の玲治が空中に築かれた闇の階に立っていた。
「これは……テナ様か!」
「そう言えば、いつだったかテナも使えるって言ってたもんな」
それは彼らが魔族領へと旅立つ前、オート魔法のせいで空中から投げ出された時にアンリによって助けられた時に聞いた言葉だった。
「しかし、一度持ち直したに過ぎぬ。
再び落ちれば、二度目は助かるまい」
アンリルデスライダーの言葉通り、足場としてはあまり広いとは言えず、状況はさほど変わっていない。
だが、その言葉に対する答えは玲治ではなく、後ろから齎された。
「階が一つだけなら、そうですね!」
「流石に、此処までのことが出来るとは思わなかったがな」
「ぐっ!?」
後方から光の矢と炎がそれぞれ別の方向より飛来する。
まさか空中で後ろから攻撃を受けると想定していなかったアンリルデスライダーは直撃を受け、驚愕する。
後ろを振り向くと、そこには更に二つの階が築かれて、聖弓を構えるオーレインと炎を掌に浮かべるミリエスがそれぞれに立っていた。
否、階は二つではなかった。
遥か下方に立つテナの足元から次から次へと新たに線が伸び、アンリルデスライダーの周囲をまるで檻のように取り囲んでゆく。
「まさか、余を捉えるために……」
四方を階で取り囲まれ、今や彼はまともに動くことが出来ない。
そして、それはそのまま玲治達の足場となり、攻撃を仕掛ける起点となる。
「これで、終わりだ!」
「ぬぅ!?」
玲治、オーレイン、ミリエスの三人がそれぞれ最大級の攻撃を放つ。
身動きの取れないアンリルデスライダーはそれを甘んじて受けるしかなく──
──身を翻した黒龍ヴァドニールが、攻撃の全てをその身で受け止めた。
◆ ◆ ◆
「…………………………」
傷を負って地に伏した黒龍を、アンリルアーマーに搭乗したままのインペリアル・デスは黙して見詰めていた。
背を向けた今の彼は隙だらけだったが、そこから放たれる雰囲気に玲治達は動くことが出来ない。
背に乗る彼を庇う形で攻撃を受けた黒龍は、空中から落下し地面に叩き付けられる前に彼に受け止められた。
空中に投げ出された彼だが、あれだけの高所から巨大な黒龍を支えながら落ちて、ほとんどダメージがあるようには見えない。
それは、彼の常軌を逸した防御力を物語っている。
「よくぞ役目を果たした。
後は余に任せ、しばし休むがよい」
そう言うと、インペリアル・デスは巨鎧を振り向かせ、玲治達に対峙する。
相手が地面に落ちたことで、彼らも階から降りて地に立っていた。
「まさか、我らのフォーメーションが崩されるとは思わなかったぞ。
ヴァドニールの機動力、アンリルアーマーの攻撃力と防御力、そして余の知と魔力。
これらを合わせたアンリルデスライダー形態。
如何にテナ様の御力を借りたとはいえ、それを破ったそなたらの奮戦は称賛に値する」
しかし、と彼は言葉を続ける。
「ヴァドニールの機動力が失われても、この身は未だ攻撃防御ともに完全無欠。
そしてこれより先、余に油断はない。
心して掛かってくるがよい」
「言われなくても!」
先程の空中での攻防のように、玲治達が一斉攻撃を仕掛ける。
「なっ!?」
「言った筈だ……これより先、余に油断はないとな」
玲治達の攻撃を全てその身で受け、黒鎧インペリアル・デスは無傷だった。
漆黒の鎧からは、凄まじい闇の魔力が立ち昇っている。
「この邪神の鎧アンリルアーマーは、世界最高峰の金属であるオリハルコンに我らが神アンリ様が加護を与えたもの。
その上に更に余の魔力を重ねれば、最早貫ける攻撃などこの世に存在せぬ」
そしてそれは、と彼は続けた。
「攻撃についても同じことよ!」
闇を纏った大剣が振り下ろされる。
先程フィーリナが傷を負った時と同じような構図……しかしその結果は違った。
「うわああぁーーーっ!?」
「いやああぁーーーっ!!」
かわした筈の攻撃から放たれた余波は先程の比ではなく、離れた場所に居たフィーリナとテナを除き全員が吹き飛ばされて地に叩き付けられる。
「くっ!」
「効かぬと言ったぞ」
何とか立ち上がった玲治が双剣で斬り付けるが、先程までとは異なり掠り傷すら負わせられない。
そして、防御に手を割かないということはそれだけ攻撃に専念出来るということでもある。
攻撃防御共に完全無欠、そう言い放った黒鎧インペリアル・デスの言葉は伊達ではない。
玲治達は絶望と共にそれを痛感していた。
◆ ◆ ◆
「う、あぁ……」
「レージさん!」
ボロボロになって膝を突いた玲治に、テナが悲痛な叫びを上げる。
最早その場に立っているのは彼女だけであり、ミリエスも、オーレインも、フィーリナも意識を失い倒れ伏している。
「よく戦ったと、そう称賛すべきだろうな」
そして、勝者である漆黒の鎧騎士はゆっくりとトドメを刺すべく歩み寄って来る。
「あ、あぁ……」
「に、逃げろ、テナ……」
「そんなこと出来ません!」
テナを逃がそうとする玲治、玲治を庇おうとするテナ。
その時、玲治の右掌から光が放たれ、鎧騎士へと向かっていった。
「今更この程度の攻撃など……ぬ!?」
「え……?」
玲治としても意図して放ったわけではない。オート魔法が偶々発動しただけだ。
とてもあれだけの防御力を誇る最強の敵に効くとは思ってはいなかった。
しかし、その意図とは裏腹に軽くとはいえ、黒鎧インペリアル・デスが怯んだのだ。
「今のは……」
玲治には、同じような経験があった。
戦闘中にオート魔法で放たれた攻撃ですらない魔法が、相手にダメージを与えたことを。
以前のダンジョン攻略時に、オート魔法で回復魔法が発動してしまった時だ。
「そうか、極端に強いとはいえ相手はアンデッド……だったら!」
希望を見出した玲治は最後の力を振り絞って立ち上がり、広域回復魔法を唱えた。
「ハァ!」
「ぐおおおぉぉお!?」
アンデッドであるインペリアル・デスにとって、回復魔法は攻撃になる。
そして、先程の反応から見たところ、攻撃ではない魔法はアンリルアーマーの絶対防御では防げない。
そう睨んだ玲治の思惑通り、初めて彼が苦痛の声を上げる。
それと同時に、効果範囲にはオーレイン達が含まれており、その助けにもなった。
光神ソフィアの光魔法をその身で経験して習得した玲治だが、得られた中で最も大きな能力は攻撃魔法ではない。
ルクシリア法国で奇跡を齎した、回復魔法だ。
そして今、それが最強の攻撃となって不死者の皇へと牙を剥く。
機動力を持たない鎧は今や、その回復魔法から彼を逃さないための拘束具となっている。
「くっ……もう残りの魔力が」
しかし、玲治の方も既に限界が近付いている。
傷は先程の回復魔法で一緒に完治していたが、体力と魔力はそうはいかない。
「俺の魔力が完全に尽きるのが先か、お前が倒れるのが先か……」
「面白い……試してみるがいい」
広域回復魔法は回避出来ない。そう悟ったインペリアル・デスは玲治との根競べに応じた。
覚悟を決めた玲治は、最後の魔力を振り絞って回復魔法を放ち続ける。
「うあああ……ッ!」
「ぐぬうう……ッ!」
光に包まれた漆黒の黒騎士は、その力を削られて膝を突いた。
そして、玲治は……前のめりになって倒れたまま回復魔法を放ち続けていたが、やがてその光も小さくなっていって消えた。
彼の意識が消える、その直前──
「やれやれ、これで倒しても上前をはねただけで雪辱を晴らせたとは到底言えんな。
まぁ、今はよいか。後は任せるがいい……レージ」
聞き覚えのある声が聞こえた。
試合に負けて、勝負に負けて、試練には勝ったところで、第四章完です。
少々グレーゾーンではありますが、挑む面子を定める決まりは特になかったのでギリセーフ……の筈、多分。
何でこんな決着の仕方にしたか?
倒さないとお話が進まないのですが、玲治にどうやって勝たせるか頭を悩ませる中でふと思ったんです。
「いや、ちょい待ち?
デス様にリベンジするために王位投げ出して単身ダンジョンに挑み続けた先代魔王様を差し置いて、
後から割り込んできた玲治が倒すのってどうなの?」と。
年内の更新はこれが最後になる予定です。
本年中は、応援どうもありがとうございました。
来年も変わらぬご厚誼をお願い申し上げます。
よいお年を。