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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】不憫召喚編
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第08話:邪神の手紙

「後は、アイテムボックスの中に何か手掛かりになりそうなものは入ってない?」


 スキルの確認が一段落着いた後、新たにアンリが玲治へと質問してきた。


「ええと、アイテムボックスの中身って、どうやって確認すれば良いんですか?」


 ステータスウィンドウのスキル欄には確かに「アイテムボックス」という単語が並んでいたが、生憎と玲治には使い方が分からなかった。

 相も変わらず窓の外に手を出した格好のまま、玲治は疑問を口にした。


「『アイテムボックス』と唱えれば、ウィンドウが開いて中身が確認出来る。

 なるべく低い声で『アイテムーーー』と五秒溜めてから『ボーーーックス!』と叫んで」

「はい?」

「そ、そんなことしなくちゃいけないんですか?」


 アンリから告げられた予想していなかった使用条件に、玲治は冷や汗を掻く。

 その横でテナが思いもよらぬ内容にギョッとしているのだが、不運にも玲治がそれに気付くことはなかった。


「いいから、早く」

「わ、分かりましたよ。

 アイテムーーーーーーー……」

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」


 アンリに促され、玲治は渋々と呪文を唱え始めた。

 腹の底から出す、出来る限りの低い声で、指示通りに五秒間の溜めを作る。

 アンリは仮面で表情が見えないが、その横に居るテナはお腹と口に手を当てて必死に笑いを噛み殺している。


「ボーーーーーーックス!!!」

「ぷぷっ」


 限界まで溜めた玲治が叫ぶと、先程とは違うディスプレイウィンドウが立ち上がった。

 それと同時に、笑いを堪えていたテナが限界を超えて噴き出す。


「え?」

「ご、ごめんなさい、レージさん! あはは……く、苦し……」

「ぼーっくす!」

「ちょ、アンリ様! わ、笑わせないで……ぷぷ……下さい〜!」


 突然笑い出したテナの姿に、驚く玲治。一方、テナの方はつぼに入ってしまったのか苦しそうに笑っている。

 そんなテナに、横に居るアンリから追い打ちが掛けられた。

 アンリの「ぼーっくす!」という台詞の無気力さがまたつぼを直撃し、テナは涙を浮かべながら笑いを止めようと必死に息を整えた。


「もしかして……騙しました?」

「騙してはいない。

 私達からは見えないけれど、ディスプレイが出ている筈」


 その言葉は嘘ではない。

 確かにアンリの言う通り、アイテムボックスの中身を表すディスプレイウィンドウは表示された。


「普通に唱えたら表示されないんですか?」

「普通に唱えても表示される」

「されるのかよ!

 じゃあ、何であんな言い方させたんですか!?」

「気持ちの問題?」


 どう考えても、単なる嫌がらせだった。


 おそらくは、先程の風魔法によって恥ずかしい姿を見られたことに対する意趣返しなのだろう。

 それに思い当たり、この件をこれ以上追及しても藪蛇になるだけと考えた玲治は、諦めてウィンドウへと目を向けて読み上げた。




 運任せの剣   ×1

 革の鎧     ×1

 邪神の手紙   ×1




「………………」

「………………」

「………………」


 何処からツッコんで良いか迷う内容物に、三人は沈黙した。

 このラインナップだと、むしろ普通の筈の「革の鎧」の方が混ざっていることの方が異常にすら見えた。


「さっきと同じように、詳細を確認してみて」


 アンリの指示を聞き、玲治はまず「運任せの剣」に意識を集中して、詳細説明を表示させた。




 <運任せの剣>

 鞘から抜き放つ度に刀身が変わる剣。

 どのような剣になるかはランダムであり、選べない。 

 一度抜いた後は、振って何かに当てないと鞘にしまえない。

 レージ専用であり、他の者が使用しようとすると束縛の呪いに襲われる。




「スキルだけじゃなくて剣まで徹底してランダムかよ……容赦無さすぎだろ」

「お、落ち込まないでください、レージさん!」

「他の二つは?」


 アンリの質問に改めて残り二つのアイテムの詳細も確認したが、そこには特筆するような内容は書かれていなかった。普通の鎧と手紙だ。


「鎧は兎も角として、手紙は取り出して読んでみるしかないな。

 どうすれば取り出せるんですか?

 ……あ、叫ぶのは無しでお願いします」

「チッ。意識して念じれば取り出せる」


 先程の悪戯を思い出して釘を刺す玲治に、アンリは舌打ちを一つするとアイテムボックスからの取り出し方を教えた。


 玲治がその言葉を受けて手紙を取り出すことを意識すると、玲治の目の前の空間が歪み、そこから黒い封筒が落ちてきた。


 玲治は窓の外に突き出したままだった手をそちらに伸ばして、手紙を拾い上げようとする。


「待って!」


 手紙へと手を伸ばす玲治に対して、アンリの鋭い制止の声が届く。

 これまで一度たりとも声を荒げなかった彼女の突然の反応に、玲治は思わず首を竦めた。


「え? で、でも読まないと取り出した意味が……」

「いいから。テナ、菜箸を持って来て」

「え? え? さ、菜箸ですか?

 分かりました!」


 アンリがテナに指示を出すと、テナは首を傾げながらも菜箸を取りに厨房へと走った。


 数分後、戻ってきたテナから菜箸を受け取ると、アンリはそれを使って手紙を挟み上げてテーブルの上へと載せた。


「いや、何もそんな汚いものを触るみたいにしなくてもいいんじゃないですか?」

「呪われてるかも知れないから、当然の対処」

「の、呪い!?」


 驚愕する玲治だが「邪神の〜」などというアイテムが呪われていないと思う程、アンリは楽天的にはなれなかった。

 彼女が纏っている邪神の加護付きのアイテムは全て呪われているのだから、それこそ身を以って思い知っている。

 尤も、彼女の装備品の呪いは自分自身で付与してしまったものなのだが。


 アンリは直接触れないように菜箸で器用に封筒を開封し、中の手紙を広げた。



『やあ、これを読んでいるということは彼女には会えたということかな?

 もしかしたら、自力でアイテムボックスを開いたのかも知れないけど……まぁ、どっちでもいいや。

 いずれにしても、概ね状況は理解出来た頃だということに変わりはないだろうし。


 さて、もう分かっているだろうけど、君はその世界の者達によって召喚された。

 ただし、別に召喚した者達に従う義務があるわけじゃない。

 君は君として、動きたいように動いてくれて構わない。 


 とは言え、今君が一番気になっているのは元の世界に帰る方法だろうね。

 僕としては折角送り込んだからには楽しませてほしいけど、目標があった方がやる気が出るだろうから、帰る方法を提示してあげるよ。


 その世界に居る三柱の管理者、彼らから与えられる試練をクリアすること。それが条件だ。

 それを達成したら、元の世界に帰すと約束しよう。


 手始めは闇神アンバールからの試練だ。

 内容は「この世界の魔王に実力を認めさせること」だってさ。

 残りの試練は一つクリアするごとに伝えるよ。






 追伸、この手紙は開いてから六十秒後に消滅するから離れた方が良いよ』



 最後の部分を読んだ次の瞬間、アンリは咄嗟に菜箸で摘まんでいた手紙を開いていた窓から菜箸ごと放り投げた。

 菜箸の重みが加わって、窓から数メートル先まで勢いよく飛んでいく手紙。



 次の瞬間、手紙は火柱を上げて燃え上がった。


「危なかった」

「部屋の中で燃えなくて良かったですね」

「おいおい……」


 邪神絡みの理不尽さに慣れているアンリとテナは特に取り乱すこともなく朗らかに言葉を交わし合っていたが、玲治はその光景に思わず冷や汗を掻いていた。


「まぁ、それは置いといて……。

 結局、俺が元の世界に帰るためにはその三柱の試練とやらをクリアするしかないってことでしょうか?」

「レージさん……」

「この世界から貴方の居た世界に移動する方法がアレに握られている以上、他に方法はないと思う」

「そう、ですよね。

 それにしても、神々の試練を乗り越えろとか……無理難題にも程があるだろ」


 神々の試練を乗り越える……字面を改めて聞くと、とんでもない無理難題だ。


 前途多難な状況に頭を抱える玲治だが、その時玲治のお腹がクーッと鳴った。

 悩んでいてもお腹は減るのだ。考えてみれば彼はもう半日近く何も食べていないのだから、空腹になるのも無理はないだろう。


「あ、や、今のは……」

「ふふ、悩むのは後にして取り敢えず夕食にしませんか?」


 顔を赤くして弁解しようとする玲治に、テナは微笑むと玲治とアンリに対して提案した。


「そうしよう。準備は今から?」

「いえ、リリが下準備をやってくれてるのですぐに準備出来ると思います」


  そこまで言ったテナは首を傾げて玲治の方を、いや正確には再び窓の外に向けられている彼の両手を見た。


「あ、でも……レージさんの魔法はどうしましょう?」


 確かにテナの言う通り、いつ魔法が飛び出てくるか分からない今の状態では危なっかしくて食事も安心して出来ない。


「大丈夫」


 そう言うと、アンリは玲治へと手を向けると魔法の詠唱を始めた。

 呪文と共にアンリの手から禍々しい紫色の霧が噴き出し、玲治を包んだ。


「わぷ!?」


 突然自分を襲う不気味な霧に、玲治は思わず声を上げた。

 霧は玲治の身体を包むと大部分が彼の身体に吸い込まれ、一部が身体の周りに漂った。


「い、今のは?」

「魔法の使用を妨害する闇魔法。

 これが効いている間は魔法は発動出来ない筈」

「そ、そんなことが出来るならスキルを知った時に掛けてくれれば、こんな間抜けな格好しなくても良かったんじゃ……」

「ごめんなさい、最初は思い付いてなかった」


 仮面越しで見えないが俯くアンリの姿に、玲治は慌てた。意図せず彼女を責めるような形になってしまったためだ。


「あ、いや、責めるつもりはなかったんです!

 すみません、助かりました!」

「途中で気付いたけど、格好が面白かったからそのままにしてみた」

「おおい!?」


 落ち込んだように見えたアンリを慌ててフォローしようとした玲治を裏切るように、面白かったから放置してた発言が告げられ、玲治は思わずツッコミを入れるのだった。

<登場人物から一言>

アンリ「ぼーっくす!」

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