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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第四章】迷宮踏破編
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第68話:テナとの語らい

後書きに重要なお知らせがあります。

 第十階層のボスを無事に倒した玲治達は、ボスフロアの奥にある階段から第十一階層へと降り立った。


「ここからが中層ですか」

「ええ、これまでの上層とは大分様子が違います」


 玲治の問い掛けを聞いたオーレインは、過去にこのダンジョンに挑んだ時のことを思い起こしながらそれに答えた。

 その表情が頭痛を堪えるかのようなものになっているのは、気のせいではないだろう。

 当時の苦労を思い出して顔を顰めていたオーレインだが気を取り直して後ろを振り返り、パーティメンバーに告げた。


「とはいえ、一度テレポータルで地上に戻りましょう。

 流石にこのまま連続で攻略を続けるのは疲労が激しいです」

「確かに、一度休息した方が効率が良いな」

「そうですね。テレポータルがあれば此処からまた攻略を再開出来るわけですし」


 オーレインの提案にミリエスやフィーリナ達も同意し、一向はテレポータルを起動させて地下第一階層に戻ることにした。

 テレポータルは各階層の入口に設置されているため、地下第一階層まで戻ればすぐに地上に出ることが出来る。

 ダンジョンの入口に当たる大扉から地上に出た玲治達は、邪神殿の中を通って外へと出た。


 既にダンジョンに潜り始めてから一日半以上が経過し、外は大分陽が落ちてきている。


「うーん……」

「オーレインさん?」


 外の時間を確認したオーレインが何やら考え込み始めたのを見て、テナが不思議そうに小首を傾げた。


「いえ、思ったよりも時間が経っていたので」

「そうですか?」

「はい、このまま宿に戻って一泊してからまた翌日ダンジョンに挑むつもりだったのですが、これだとあまり休息が取れないかも知れませんね」

「それなら、明日は休みにしますか?」


 二人のやり取りに、後ろに居た玲治が口を挟んだ。


「いいんですか?」

「ええ、無理をしても逆に効率が悪くなるだけでしょうし」


 玲治は立ち止まって振り返りながら聞いて来たオーレインに、頷きながら答えた。

 現在彼らが挑んでいるダンジョン攻略は、玲治が元の世界に帰るための試練だ。

 なるべく早く攻略しようとしているのは、主に玲治が早く元の世界に帰りたいだろうという気持ちを察してのことだ。


 なお、彼と良い仲になりたいオーレインとしては本来はダンジョン攻略を急ぐのは得策ではないのだが、そのためにダンジョン攻略を遅らせるような真似が出来ないのは彼女の性格によるものだろう。


 いずれにしても、その玲治自身が一日休みを入れようと言うのであれば、他の者に否は無かった。


「分かりました。

 明日は自由行動として、明後日の朝から攻略を再開しましょう」


 アトランダム一行はその結論に頷くと、宿へと戻った。

 宿の食堂で夕食を摂り、その日は皆早目に部屋に戻って休んだ。




 ◆  ◆  ◆




「あれ? レージさん?」


 第十階層をクリアした翌日、テナがノックの音に応えて扉を開けると、そこには所在なさげにしている玲治の姿があった。

 ちなみに、部屋割りはテナとミリエス、オーレインとフィーリナがそれぞれ同室で、玲治は一人部屋だ。


「えーと。おはよう、テナ」

「あ、はい。おはようございます」

「あれ? ミリエスは居ないのか?」


 テナと同室の筈の魔族の少女が部屋の中に見当たらないことに、玲治は首を傾げながら問い掛ける。


「ミリエスさんなら朝食の後何処かに出掛けちゃいましたけど……ミリエスさんにご用だったんですか?」

「あ、いや! そういうわけじゃないんだ」


 玲治が自分ではなくミリエスを尋ねてきたものと勘違いしたテナの言葉に、彼は慌ててそれを否定した。


「今日は一日自由行動って話だけど、テナはどうするつもりなんだ?」

「私は特に用はないので宿でゆっくりしているつもりです。

 あ、後で少し買い物に行こうと思いますけど」


 少し不安そうに問い掛けた玲治に、テナはあっけらかんと答える。

 許容範囲内だったテナの答えに、玲治は喜びの表情を浮かべながら考えていた誘いを彼女に振った。


「そっか。

 その……良かったら一緒に街に出掛けないか?」

「レージさんと一緒に、ですか?

 はい、構いませんよ。

 何処か、行きたい場所とかあるんですか?」

「いや、特に目的があるわけじゃないんだ。

 ただ、テナと一緒に街を回りたいなって」

「え?」


 きょとんとした目を向けて来たテナに、玲治は自分の吐いた言葉を思い返して顔を赤くし、誤魔化すように言葉を続けた。


「あ、えーと……テナはこの街のことに詳しいだろう?

 案内して貰えたら嬉しいなって。」

「あ、そういうことですね。

 はい、この街なら色々ご案内出来ると思いますよ」


 少し残念そうにしながらも明るく案内を承諾してくれたテナ。

 玲治は出掛ける準備をするという彼女と宿の前で待ち合わせすることにし、彼女達の部屋を後にした。




 ◆  ◆  ◆




「お待たせしました、レージさん」

「いや、大丈……」


 宿の前で待っていた玲治は、後ろから掛けられたテナの声を聞いて振り返ったが、その途中で唐突に固まった。

 振り返った先に立っていた彼女の姿に、思わず目を奪われたためだ。


「? どうかされたんですか?」

「あ、ごめん。凄く似合っていたから驚いただけだ」

「ありがとうございます」


 普段は好んで黒い貫頭巫女服を着ているテナだが、今日は街から外に出る予定がないためか、白いワンピースを着ていた。

 明るい金髪で整った顔立ちの彼女がそういう格好をしていると、まるで何処かの姫君のように見える。


「それじゃ、行こうか」

「はい。

 あ、お昼はどうします?」

「そうだな……何処かのお店に入ってもいいんだけど、

 屋台で買って食べるのでも良いかな」

「それなら、良いお店があります。

 そこで買って、広場で食べましょう?」

「ああ、任せるよ」


 玲治の答えを聞き、テナは朗らかな笑顔を浮かべて玲治の手を取って歩き出した。

 普段は一歩引いて優しく微笑んでいる印象の強いテナだが、今日は久し振りの休息のせいか歳相応の顔を見せている。

 そんな彼女の姿と繋がれた手の感触に顔を赤く染めながら、玲治は彼女に引っ張られるようにして街の中心部に向かって歩いていった。


 二人は途中でテナのオススメの屋台でタレを付けて炙った鶏肉をパンに挟んだようなものを買い、街の中央広場に設けられていたベンチに座って二人で食べた。

 上を向くと、最初にこのアンリニアに来た時にも目に入った巨大な像の姿が見える。教国の守護神アンリルキーパー、通称アキだ。

 しかし、最初に見た時と異なりまるで寝大仏のように横になっている。


「本当に動くんだな、アレ……」

「あはは、初めて見た方は皆ビックリしますよね」


 テナから聞いて知ってはいたが、あれだけ巨大な像が動いている事実は中々に衝撃的なものがある。


「初めてと言えば、この世界でまともに会話したのはテナが初めてだったんだよな」

「あれ? フィーリナさんとかとも話をされてたんじゃないですか?」

「いや、それは言葉は交わしたけど召喚された直後の異常な状況だったし……」

「そうなんですね。

 でも、私も驚いたんですよ?

 いきなり、魔物に追い掛けられてましたし」

「あ、あはは……そんなこともあったな」


 二人はこれまでのことを思い出しながら談笑を続けている。

 そんな中、ふとテナが彼に問い掛けた。


「そう言えば、レージさん」

「うん?」

「レージさんの世界ってどんなところなんですか?」

「え?」


 テナの問い掛けに、玲治は思わず固まる。


「ええと、アンリさんから聞いたりしてるのと変わらないとは思うけど……そうだな。

 魔物も居なくて魔法も無い。

 国によっては戦争しているところもあるけれど、少なくとも俺の周りは平和だったな。

 餓えることも無かったし、危ないこともしたことない」

「凄いところなんですね……ちょっと、想像出来ません」


 テナは隣に座る玲治を真剣な表情で見詰めながら、呟いた。


「そんな凄い世界だから、レージさんも帰りたいんですよね」


 僅かに諦念を滲ませながら告げられた言葉に籠められた思いはどのようなものか、玲治は想像を巡らせながらも彼女の言葉を否定した。


「それは違うよ」

「え?」

「確かに最初は世界の差に戸惑って帰りたいと思っていたけれど、今は違うんだ。

 この世界にも結構慣れたしね。

 今はそれより、あの世界に居る家族や友達とまた会うために帰りたい」

「あ……」


 玲治の言葉に、テナはぽつりとただ一言だけ呟いた。


「そう、ですよね。

 ご家族とか友人の方とも、会いたいですよね」


 向こうの世界から半ば拉致に近い形でこちらの世界に放り込まれた玲治には、向こうの世界に残してきた家族が友人が居る。

 考えてみれば当然のその事実に初めて気付いたテナは、辛そうな表情になる。


「でも、レージさんが元の世界に帰っちゃったら、もう会えないんですよね……」

「それは……」


 テナの言葉に、玲治は思わず言葉に詰まる。

 元の世界に帰るとはそういうことだ。

 家族や友人と再会出来る代わりに、こちらの世界で会った者達とは永遠の別れとなる。

 玲治の表情が曇ったことに気付いたテナはハッと我に返ると、慌てて言葉を取り繕った。


「あ、ごめんなさい。つい……。

 その、レージさん。

 食事も終わりましたし、別の場所に行きませんか?」

「あ、ああ」


 少し強引な雰囲気の払拭だったが、玲治は彼女に促されるままにベンチから立ち上がる。




 しかし、ここでの会話は彼の心に残り続けることとなるのだった。

<登場人物から一言>

神アンリ「鴉を抱えて何やってるの?」

人アンリ「今こそこの嘴による制裁が必要な予感が」


<お知らせ>

既に活動報告を読まれた方もいらっしゃるかも知れませんが、本作が書籍化(?)します。

……疑問符の理由は、タイトルが変わるからです。それから、主人公も変わります。ついでに、視点も変わります。

最早そこまでいくと別の話なのではというツッコミもあるかと思いますが、何も言わずにタイトルをご覧ください。それで概ねご理解頂けると思います。


「邪神アトランダム 平均的邪神娘と召喚勇者」


公式発売日は10/24の予定ですので、どうぞ宜しくお願い致します。

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