第07話:厄介な力
ステータス書くの久し振りです。
「落ち着いて下さい、アンリ様!」
「放して、テナ」
横合いから聞こえてきた声に、玲治の意識は浮上した。
「……うあ」
しかしその直後、玲治は頭痛と吐き気に思わず呻き声を上げた。
くらくらする気持ち悪さをこらえながら目を開けると、そこには逆さになったテナとアンリの姿があった。
「???」
何故彼女達は逆さになっているのかとパチパチと瞬きをして改めて見詰めるが、よく見ると彼女達だけではなく部屋全体が逆さになっている。
ここまで来て、玲治はようやく事態に気付いた。
逆さになっているのはテナ達ではなく、玲治自身の方だったのだ。
首を曲げて自身の身体の方を見ると、そこは闇色の何かでぐるぐる巻きにされた挙句、足を上にして天井から吊るされていた。
先程から襲ってくる頭痛や吐き気は、逆さ吊りで頭に血が昇ったせいのようだった。
「な、何だこれ……?」
「あ、気が付かれたんですね。レージさん」
「チッ」
玲治が思わず上げた声にテナとアンリが気付き、テナは安堵の言葉を上げ、アンリは舌打ちをした。
そのアンリの反応に、玲治は先程意識を失う前に何があったかを思い出し、反射的に彼女の方を見て顔を赤くした。
しかし、次の瞬間、闇弾が頬を掠めて青褪めることになった。
「うわ!?」
「ちょ、アンリ様!?」
アンリの突然の凶行に、悲鳴を上げる玲治とテナ。
「忘れて」
「え、いや……」
「忘れて」
「そんなことを言われても……」
「忘れて」
「分かった、分かりました! 忘れます!」
仮面で表情は見えないながらも、物凄い威圧感で同じ台詞を淡々と繰り返すアンリの迫力に、玲治は思わず冷や汗を掻きながら首を縦に振った。
「取り敢えず、頭に血が昇るのでそろそろ降ろしてほしいんですが……」
「安全が分かるまで、ダメ」
「安全って……」
「いきなり魔法を打ってきた相手には当然の対処」
玲治の言葉をにべもなく切って捨てるアンリ。
しかし、いきなり自身に向けて魔法を打たれたことを考えれば、対応としてはあながち間違っていない。むしろ、かなり穏便な部類だろう。
「違うんです! あれは俺がやったんじゃ……」
「………………」
何とか弁解しようとする玲治に対して、アンリはジッと見詰めてきた。
仮面越しで目元が見えないにも関わらず、その視線には強い疑念が籠められていることが感じ取れた。
「その、アンリ様。
レージさんは嘘を言っていないと思います。
私が会った時にも、レージさんが魔法を使おうとしてないのに手から魔法が出たんです」
玲治の窮地に、テナが横からフォローを出してきた。
その言葉を聞き、玲治を疑っていたアンリも少し態度を緩める。
「そうなんです! 俺は魔法なんか使えません!
多分、この世界に来る前に遭った『邪神』に渡された何かの力のせいです」
「……分かった、降ろす」
玲治のその言葉にアンリは溜息を一つ吐くと、操作していた闇色のロープを解除した。
「よっと」
縛られていたロープが消えたことで玲治は逆さのまま投げ出されるように解放されるが、身を捻って足から着地した。
元の世界ではとても出来るような動作ではなかったが、現在の身体能力の向上した彼にとってはそれほど難しいものではなかった。
「ふぅ……」
ようやく拘束から解放された玲治は、腕を軽く揉んでほぐした。その玲治に対して、アンリは一つの指示を出す。
「試してほしいことがある。
『ステータス』と唱えてみて」
「え? ス、ステータス?」
いささか気の抜けた唱え方だったが、玲治の言葉に反応して何か黒い板状のものが浮かび上がってきた。
それはまるでゲームに登場するようなディスプレイウィンドウで、そこには彼のステータスが表示されていた。
名 前:レージ
種 族:人族
性 別:男
年 齢:18
職 業:魔導剣士
レベル:5
称 号:異世界勇者
魔力値:3935 ~ 1528307
スキル:オート魔法(Lv.8)
ランダム召喚憑依(Lv.7)
剣技(Lv.6)
光魔法(Lv.5)
アイテムボックス(Lv.3)
装 備:なし
「な、何だこれ……?」
「何て書いてあるの?」
表示された内容に困惑する玲治に対して、アンリから質問が飛ぶ。
その質問に対して、玲治は立ち位置を変えてディスプレイウィンドウがアンリに見えるように角度を整えた。
「何て書いてあるって……見ての通りなんですが」
「それは本人にしか見えない。
私やテナには見えてない」
「あ、そうなんですか。
じゃあ、読み上げます」
そう言うと、玲治は上から順にステータスを読み上げていった。
その中の一節を聞いた時、テナとアンリが同時に反応を示した。
「それって……」
「その『オート魔法』の部分に意識を集中して」
「え? あ、はい」
アンリの追加指示を受けて、玲治はディスプレイに表示されている「オート魔法」の項目を見詰めて意識を集中した。
すると、表示が切り替わりスキルの詳細が表示された。
<オート魔法>
魔法を自動的に無詠唱発動させるスキル。
発動される魔法や頻度はランダムであり、選ぶことは出来ない。
魔法は基本的に掌を基点として発動する。
Lv.8は本人の素養で発動可能な全ての魔法が選択対象となる。
分類:常時発動 オンオフ:不可 ハイロウ:不可
「これのせいかよ!?」
「取り敢えず、両手を窓の外に出してあっちに向けて。
ここでこれ以上魔法を撃たれたら困る」
「あ、あはは……」
シッシッとばかりに手を振って促すアンリに、テナも乾いた声で笑い声を上げた。
「うぅ……分かりました」
アンリの言うことももっともなので、仕方なく玲治は窓際まで歩いていって、そこから両手を外に向けた。
手だけを窓の外に出して会話をする為に身を捻っている、なんとも間抜けな格好だ。
「召喚された時の炎も、大きな猪に襲われた時の電撃も、さっきの風も。
全部この『オート魔法』とかいうのが原因か……」
「風のことは忘れてと言った筈」
「す、すみません。ちゃんと忘れます!」
先程の風のことをうっかり口に乗せた玲治を、アンリが仮面越しに睨んだ。
玲治は、慌てて弁解して何とかアンリを納得させる。
アンリは溜息を一つ吐くと、ある推論を話し始めた。
「多分、それだけじゃない。
貴方が召喚されたというルクシリア法国からここまで、徒歩なら普通は数十日は掛かる。
とても数時間で来られる距離じゃない。
転移魔法がオートで発動して移動したんだと思う」
「そう言えば、確かに森で狼に襲われた時に突然草原に移動しました」
フォレストウルフの群れに追い掛けられてあわやという瞬間に草原へと移動していたのはそういうわけかと玲治は納得した。
「それで私と会ったんですね。
凄い偶然です」
「偶然にしては出来過ぎ。
たまたま飛んだ先でテナと知り合って、この世界と元の世界の事情や邪神のことを説明出来る私に会うなんて、天文学的な確率」
アンリの言う通り、たまたま飛んだ先で知り合った相手が先にこの世界に放り込まれた者の従者で、そこから情報を知ることが出来た、などと言うのは偶然と言うにはあまりにも出来過ぎだ。
更に言えば、法王に対して炎で攻撃してしまったり、アンリのスカートを風で捲り上げたりしたのも、タイミングが良過ぎる。
「偶然じゃないってことですか?」
「そう考えるのが自然。
裏でアレに操作されているか、運勢が弄られているか、どちらかだと思う」
能力を与えた『邪神』が裏で操作しているのであれば、都合の良いタイミングで発動したのもの納得出来る。
あるいは、幸運や不運といった運勢を書き換えられているのであれば、不自然に都合の良いタイミングでの発動もあるかも知れない。
「でも、だからと言って危なくなっても大丈夫と依存するのは危険」
「それは勿論分かってます」
「邪神」の気まぐれも運勢も、当てにするには不安過ぎる。そう考えた玲治は、アンリの忠告に素直に頷いた。
「それで他の能力はどんな内容?
剣技や光魔法、アイテムボックスは字面で分かるけど」
「もう一つ、聞いたことがないスキルがありましたね。
『ランダム召喚憑依』でしたっけ?」
「見てみます」
アンリとテナの言葉に、玲治は「ランダム召喚憑依」の文字を見詰め、意識を集中した。
すると、新たにスキルの詳細が表示される。
<ランダム召喚憑依>
会ったことのある者の力を召喚し行使するスキル。
呼び出される対象は選べないが、人型生物に限定される。
Lv.7は呼び出された力の九十%の再現が可能。
分類:任意発動 持続時間:三十分(途中解除不可)
制約:一度使用すると二十四時間の間、再使用が出来ない。
条件:一.対象の名前を知っていること
二.対象を視認していること
三.対象と言葉を交わしていること
「また随分と使いにくそうな……」
「力を召喚って、一体どんな感じになるんでしょうね」
「何でこんな能力ばっかりなんだ……。
って、そう言えば『邪神』が統一するとか言ってたな」
「魔力値の内容も変、普通は数字は一つだけ。
範囲で表示されたりしない」
「やっぱりか……」
表示されたスキルの詳細に、呆れたような声を出すアンリに首を傾げるテナ、そして手を窓の外に向けているせいで出来ないが内心で頭を抱える玲治。
なんとも前途多難で先行きが不安になるスキルのラインナップだった。
<登場人物から一言>
テナ「ええと、多分良いことありますよ……」(玲治のスキルを聞いて)
<作者からのお知らせ>
玲治の能力ゆえにキーワードに下記のようなものを入れていました。
「勝負は時の運だ!」
「残念チート」
「俺危Neee!?」
「主人公最強な時もある」
改めて見返すと、キーワード欄がひどいことになってますね。