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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第四章】迷宮踏破編
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第67話:積み重ね

「グハアアアアーーーーーッ!」


 入口付近で固まっていた玲治達に向け、炎の悪鬼グスタバが巨大な炎のブレスを放つ。

 困惑から立ち直り切れていなかった彼らは、それを交わすことが出来そうになかった。


「くっ!」


 玲治がグスタバのブレスに対抗するように右手を向けて水魔法を放った。無数の氷の矢が飛び出し、炎を迎撃してゆく。

 しかし、それは炎を消し去る程の効果を発揮することなく、飲み込まれて消えてしまった。炎のブレスは多少勢いを減じたものの、未だ健在だ。


「駄目か!?」

「これならどうだ!」

「ミリエスっ!?」


 玲治に続いて、今度はミリエスが火魔法を放った。その選択に、玲治がギョッとする。巨大な炎に小さな炎をぶつけたところで、大きくなるだけで逆効果だけだと思ったからだ。

 相手の炎より大きな炎を放つことが出来るならば迎撃として役に立つが、半端な炎では自らに返ってくることになる。

 ミリエスは魔族の中でも特に優れた火魔法の使い手だが、流石に相手が悪い。


「安心しろ、自棄になったわけではない」


 ミリエスは不敵に笑うと、指をパチンと鳴らす。すると、彼女が放った炎はグスタバの炎のブレスに飛び込む直前に破裂し、無数の小さな炎となって弾けた。


「何を……?」


 ミリエスの行動の意味が分からず困惑する玲治だったが、すぐにその意図することに気付く。

 彼女の放った無数の小さな炎は、グスタバの炎のブレスを掠めるようにしてあらぬ方向に飛び去っている。その際、小さかった炎は僅かにその大きさを増していた。飲み込まれずに掠めることで、炎のブレスを削り取るような形になっていたのだ。それは一つ一つは僅かなものでしかないが、数によって大きな効果を齎した。

 ミリエスの炎が拡散した後、グスタバの炎のブレスは最初に比べると大分その大きさを失っていた。


「これくらいなら……任せてください!」


 フィーリナが前に進み出て、光魔法で全員を覆うように防壁を張った。

 威力を削られていたグスタバの炎は、その光の壁に阻まれる形で消えてゆく。


 何とか初撃を凌いだアトランダム一向だが、このままでは拙いと玲治が声を上げた。


「固まっていると一網打尽にされてしまう! 散開するんだ!」


 玲治はそう指示を出すと、運任せの剣を引き抜いた……が、出て来たのは旗だった。

 無駄に達筆な「朴念仁」の文字にイラッとする。しかし、構っていられる状況ではなかった。


「こんな時にっ!」


 武器を換えている暇も惜しいと、玲治は旗剣のままでグスタバへと切り掛かった。否、殴り掛かった。

 しかし、相手は炎の悪鬼。その身に常に炎を纏っている獄炎の支配者だ。

 玲治の持っている旗はグスタバの身体に触れることすらなく、燃えて灰となった。


「熱つつっ!?」


 加えて、近付いただけでもその高熱に炙られてしまい、玲治は慌てて飛び下がった。

 そこに、グスタバがその巨大な腕で殴り掛かってくる。受け止める武器もない玲治は、二度続けてバックステップで下がり、その攻撃をかわした。


「ハッ!」

「えいっ!」


 玲治が囮となっている間に距離を取ったオーレインとテナが、それぞれ聖弓と闇魔法でグスタバを攻撃し始めた。

 ミリエスは防御手段の乏しいテナの近くに立って油断なくグスタバを見据えている。

 フィーリナは回復役に回るべく、攻撃には参加していない。


「グルルルウゥゥ……っ!」


 オーレインとテナの攻撃は相応のダメージをグスタバに与えたらしく、苛立ったような声を上げた。

 玲治を狙っていたグスタバはその標的をオーレインに変え、彼女の方に向き直った。闇魔法よりも光に属する聖弓の攻撃の方が大きなダメージとなっていたようだ。


「させるか!」


 二人の攻撃で出来た隙に運任せの剣を引き抜き直した玲治。今度出て来たのは槍だった。

 近付くだけでダメージを受けるグスタバ相手なら剣よりも好都合と考えた玲治は、右手で持った槍に左手を添えるようにして疾駆し、体重を乗せた渾身の突きをオーレインに攻撃をし掛けようと後ろを向いていたグスタバの背中へと放った。


「喰らえ!」

「!? グガァッ!?」

「チッ」


 無防備な背面に加えられた槍での一撃に、グスタバは苦悶の声を上げる。

 しかし、玲治はその手応えに思わず舌打ちした。完全に無防備な状態だったにも関わらず、彼の放った槍はグスタバの身体に深く突き刺さることなく、浅い一撃となってしまったためだ。

 これは、敵の防御力が玲治の攻撃力を上回っている証左であり、物理攻撃では倒すのは困難だと彼は判断した。

 勿論、運任せの剣で相手の防御力を上回るような凄まじい効果を持った武器を引き当てることが出来ればその限りではないが、そんなものを引き当てられるかどうかは未知数であり、頼りにするのは心許ない。


「それなら魔法で……!」


 物理攻撃では倒し切るのは難しいと判断した玲治は、槍を引き抜くのと同時に水魔法で氷の槍を放った。

 しかし、氷の槍はグスタバが纏っている炎によって勢いを殺され、小さなダメージしか与えることが出来ない。


 決定力に欠ける、それが玲治の結論だった。

 玲治が使える魔法はオーレインに教わった光魔法に加えて、魔族領で特訓した火、水、風、地の四属性だ。

 しかし、彼が覚えている光魔法ではオーレインの聖弓以上のダメージを与えるのは困難であるし、火魔法ではミリエスがやったように相手の攻撃を削ることは出来てもグスタバにダメージを与えることは出来ないだろう。

 水魔法はつい先程試して大したダメージにならなかったし、風魔法や地魔法は攻撃力という意味では火や水に劣るため、これらも大きなダメージを与えることが出来るとは考え難い。


「レージさん!」


 考え事に捉われていた玲治の耳にテナの切迫した声が届き、彼は咄嗟に後ろに飛び下がった。

 その直後、彼が居たところを黒く太い何かが薙ぎ払う。それはグスタバの尻尾だった。最初に対峙した時には向きあっていたために観察出来ていなかったが、グスタバが後ろを向いたことでその存在には玲治も気付いてはいた。しかし、実際に攻撃に用いられるまではここまでの脅威であるとは認識出来ていなかったのだ。

 その巨体に相応しく尻尾も丸太のような大きさで、テナの声が無ければ玲治は今の攻撃で吹き飛ばされて大きなダメージを負っていただろう。いや、大きなダメージどころか一撃で即死してもおかしくはない。


 この世界に放り込まれ、玲治は何度も死ぬような目に遭った。

 聖光教で捕えられそうになった時も、森の中でフォレストウルフに追い回された時も、一歩間違えれば命を落としていた。

 初めてテナに会った時にも、ジャイアント・ホーンボアに撥ねられていたら無事に居られたかどうかは分からない。

 あの時も、偶々オート魔法で飛び出した電撃が無ければ──。


「っ!」


 まるで走馬灯のように過去の出来事が脳裏を過った際に、玲治の頭にピンと何かが引っ掛かった。


 それは単なる思い付きに過ぎない。

 彼が持つ厄介スキル「オート魔法Lv.8」は、「本人が発動させ得る全ての魔法」がランダムに発動する。勿論、それはあくまで資質という意味であって習得は個別にする必要はあるが、少なくともこれまでオート魔法で発動した魔法は「玲治が習得出来る魔法」であることは確かだ。

 そして、あの時は無我夢中で何が何だか分からなかったが、魔法を習って使えるようになった今なら再現することは不可能ではない。


 その時の感覚を思い出しながら突き出した玲治の右手から電撃が飛び出し、真っ直ぐにグスタバへと突き刺さる。


「ゴアアアアアァァァーーーーッ!」


 これまでで最大のダメージを与えた、グスタバの反応にそう玲治は確信した。

 実際ダメージは大きいらしく、グスタバは苦悶の声を上げながら炎を周囲にまき散らす。

 しかし、そんな散発的な攻撃はミリエスが巧みに操る火魔法によって逸らされ、一向にダメージを与えることは出来ない。


「今です、テナさん! フィーリナ!」

「はい!」

「分かりました!」


 オーレインとテナ、そして回復役として待機していたフィーリナも、好機と見て攻撃を合わせる。

 二条の光と闇の塊がグスタバの身体を打ち据えてゆく。玲治の放った電撃と比べれば与えるダメージは少ないものの、確実にダメージは積み重なっていった。


「これで、トドメだ!」


 玲治はもう一つ、過去オート魔法で発動した魔法を思い返して再現を図る。

 それは、かつてこの部屋で黒龍ヴァドニールと対峙した時に発動し、彼の命を救った極光。

 おそらくは最高位の光魔法だと思われるそれは、あの強力な黒龍にすらも大きなダメージを与えていた。

 きっと、目の前の炎の悪鬼にも通じる筈。そう考えた玲治は右手を突き出し左手でそれを掴むようにして固定すると、ありったけの魔力を注ぎ込んで魔法を発動させた。


 玲治の右手から極光が放たれる。その輝きは凄まじく、グスタバの巨体が丸ごと光に飲み込まれた。


「──────ッ!?」


 恐らくは悲鳴を上げているのだろうが、あまりの威力にその声すらも飲み込まれて玲治達の耳に届くことは無かった。

 数秒後、光がやむとそこには全身ボロボロになった炎の悪鬼グスタバが力なく立っていた。

 まだ倒せないのかと警戒の色を浮かべた玲治達だったが、グスタバはそのまま後ろに倒れてゆく。

 巨体が床に落ち、轟音と震動が広いボス部屋の中に響き渡った。

<登場人物から一言>

人アンリ「グスタバ、ヴニより弱くない?」

神アンリ「代替要員だし」

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