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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第四章】迷宮踏破編
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第65話:ダンジョン再び

「ここが邪……いえ、アンリニアの神殿ですか」


 邪神殿に足を踏み入れたフィーリナが、周囲をきょろきょろと見回しながらそう呟いた。

 聖光教の敬虔な信徒である彼女としては、本来この場所は敵地に等しい。

 勿論、彼女は邪神を敵対視していた派閥とは離れた立ち位置に立っているのだが、それでもこれまでの人生でずっと敵だと教えられてきた相手の本拠地に居ることに複雑な心境を覚えている。

 それでも、ここで邪神アンリを「邪神」と呼ぶことは拙いと判断し、途中で言い直していた。


 奇妙なことではあるが、当の邪神アンリ自身が自らを「邪」神であると認識しているにも関わらず、信徒達は異教徒から彼女が邪神──邪なるものと呼ばれることを良しとしていない。

 故に、聖光教徒である彼女がその呼び方を避けるのは、賢明なことだった。


 彼女の視界に映る神殿内の風景は、聖光教の聖堂とは装いが異なるものの、想像していたようなおどろおどろしいものではなかった。

 建物の外観こそ威圧感はあったが、中に入ってしまえば拍子抜けするくらいにまともなものである。


「私とフィーリナだけか、ここに初めて来たのは」


 フィーリナのように露骨ではなかったが周囲の様子を窺っていたミリエスが、そんなフィーリナの様子に苦笑気味に口にする。

 彼女の言う通り、玲治とテナ、そしてオーレインはダンジョンの経験者であり、ミリエスとフィーリナの二人だけが初めての来訪となる。


「はい、場所は分かりますのでご案内しますね」

「ああ、頼む」


 テナに至っては元々ここの住人だ。この中の誰よりも内部の様子については詳しい。

 彼女の案内により、一向は程無くしてダンジョンの入口へと辿り着く。


「ここが地下階層の入口です」

「随分と仰々しい扉だな……ん? 開かないぞ?」


 天井まで届く程の大扉の前で振り返ったテナの横でミリエスが扉を開けようと力を籠めるが、扉は微動だにしなかった。

 その様子に、原因を知っている玲治とテナ、それにオーレインの三人は苦笑を浮かべる。


「この中に入るには、入場料を払わないとダメなんですよ」

「は?」

「入場料、ですか?」


 オーレインの思わぬ言葉に、口を開けてぽかんとした表情になるミリエスとフィーリナ。

 百聞は一見に如かずとばかりに、テナは扉の前に設置されている箱に向かって銀貨を五枚投げ入れた。

 すると、ミリエスが幾ら押しても動かなかった扉が、重々しい音を立てながら開いていく。


「……本当に金を入れたら開いたな」

「驚きました」


 オーレインの言葉通りに開いた扉を見て、ミリエス達は驚き半分呆れ半分の溜息を吐いた。


「しかし、これは毎回払わないといけないのですか?」

「え? あ、はい。その筈ですけど……」

「毎回銀貨五枚ですか……ちょっと大変ですね」

「そうですね。

 毎日宿に戻ればよいと思ってましたが、そうすると毎日銀貨五枚払わないといけないことになります。

 ダンジョン内で稼げればよいですが、そうでないと結構痛い出費になりますね」


 入場料は一人頭銀貨一枚でアトランダムは五名なので、一回につき銀貨五枚の支払いが必要になる。

 テレポータルの情報を得た彼らは日中はダンジョン攻略に挑み、夜になったらテレポータルで入口まで戻る計画を立てていた。

 テレポータルを使えば宿に泊まった翌日も前日訪れた階層から攻略を再開できる。夜間をダンジョン内ではなく宿屋で休息を取ることで、効率的にダンジョンを攻略することが出来ると踏んだためだ。

 しかし、フィーリナやオーレインの言う通り、この方法だと毎日銀貨五枚ずつの出費が発生することになる。

 いきなりの問題発生に、一向は頭を抱えた。


「と、兎に角、今は中に入ろう。

 ダンジョン内の稼ぎで入場料を賄えそうなら問題ないわけだし」

「そうですね。

 ここで頭を抱えていても時間が過ぎるだけです」


 玲治の促しに、一向は気持ちを切り替えて扉を潜り、すぐの場所に設けられている階段を下っていった。




 ◆  ◆  ◆




 ダンジョン「邪神の聖域」において、各階層の最初の部屋は魔物が立ち入ることが出来ない安全地帯だ。

 そのため、ダンジョンに挑む冒険者達の休憩場所として活用されている。勿論、流石に入口である地下第一階層で休憩を取るような者は居ないが。


 その最初の部屋に、玲治やオーレインが事前に調べて判明した新たな設備──テレポータルは存在した。

 と言っても、外見上は単なる転移陣でしかないのだが。


「あれが、テレポータルですか?」

「ええ、あの上に乗ると文字が浮かび上がって階層を指定できるんですよ」


 オーレインの説明を聞いたミリエスが試しに陣の上に乗ってみるが、ディスプレイが立ち上がったものの何も書かれていない。

 説明と異なる状況に、ミリエスは首を傾げた。


「何か出てきたが……文字なんて無いぞ?」

「ミリエスはまだ地下第一階層しか入ったことがないからだろうな。

 ちょっと一度陣から降りてみてくれるか?」

「ああ」


 玲治の指示を受けてミリエスが陣から降りると、今度は玲治が自ら陣の上に移動する。

 すると、先程ミリエスが乗った時と同じようにディスプレイが立ち上がった。しかし、彼女が乗った時と異なるのはディスプレイ上に「地下第二階層」と文字が書かれている点だ。


「一度行った階層がここに表示されるんだ。今居る地下第一階層は表示されないみたいだけど。

 俺とオーレインさんは昨日地下第二階層まで行ったから、選択出来るようになってる。

 この状態で陣に乗れば、他の人も一緒に転移出来る筈だ」

「なるほど、便利なものだな。

 それで、どうする?

 このまま地下第二階層に移動するのか?」

「いえ、テレポータルは使用せずに改めて地下第一階層から攻略しましょう。

 慣れる意味でも、順序は飛ばさない方が良いでしょうから」

「それもそうだな」


 オーレインの提案にミリエスも納得した。玲治やテナ、フィーリナもそれには異存が無いようで、頷いて返している。


「それで、これからいよいよ魔物が出没する領域に足を踏み入れるわけですが……改めて陣形を整理しておきましょう」


 オーレインはパーティメンバーを見渡しながらそう告げるが、その表情は微妙に引き攣っている。

 理由は単純、あまりにもパーティメンバーの偏りが酷いからだ。

 弓使いの自身は元より、テナもミリエスは魔導士、フィーリナは修道士で何れも後衛となる。

 唯一玲治だけが魔導剣士であり前衛も後衛もこなすことが出来るわけだが、人数比的に彼が前衛に回ることは確定としても、彼一人に前衛を任せるのは負担が大き過ぎるだろう。

 前衛は最低二人、出来れば三人欲しいところだ。


「フレイム・マリオネットを出して前衛をやらせるか」

「いえ、ダンジョン攻略は長丁場となるので魔力を温存しておいた方だ良いでしょう」

「しかし、前衛が足りんだろう」

「分かってます。

 ここは、私が前衛に回るしかないですね」


 以前、エリゴールを含めた四人でダンジョンを攻略した時も行ったことだが、オーレインは後衛が本分だが前衛をこなすことも出来なくはない。

 パーティ構成を鑑みて、オーレインは自分が前に回った方が良いだろうと判断した。

 ミリエスの魔力を温存するなら他に方法はないため、パーティメンバーにも異存はなかった。


「それでは、この構成でいきましょう」




 ◆  ◆  ◆




「順調ですね」

「ええ、以前にも十階層までは攻略してますから。

 罠にさえ気を付ければ、そこまでは問題なく進むことが出来るでしょう」


 前衛に回ったオーレインは必然的に玲治の隣に並ぶことになる。

 ダンジョン攻略中なのであまり無駄話は出来ないが、それでも全くの無言というのも精神衛生的に宜しくないため、必然的に言葉を交わすことは多い。


「あれから、まだそんなに経ってないんですよね。

 随分と昔のような感じがしますが」

「ふふ、色々ありましたからね。

 レージさんも、あの時とは見違えるように強くなりましたよ」

「ああ……そう言えば、あの時はすみませんでした」

「あ、あの時のことは思い出さないでください!」


 以前、このダンジョンに挑んだ時のことを思い返した玲治は、頭に浮かんでしまった光景に謝罪を口にする。

 彼の脳裏に浮かんでいるのは、オート魔法で水をぶっかけられてあられもない姿になってしまったオーレインの艶姿だ。

 彼が何を謝罪しているのか敏感に悟ったオーレインは、顔を赤く染めて抗議した。


「そう言えば、最近はあまりオート魔法の暴発が起きなくなりましたね」

「まだたまにあるんですが……魔法の取り扱いを覚えたらそれなりに対処出来るようにもなりました。

 ただ、それを抜きにしても頻度は下がっているかも知れません。

 どうも、危険な状況の時の方が発動頻度が高いみたいで」

「成程、レージさんの実力が上がったからピンチになる場面が減ったせいかも知れませんね」


 オート魔法の発動タイミングは読めないが、これまでの傾向からするとダンジョンなどの危険な場所の方が発動頻度が高かった。

 しかし、玲治のレベルが上がったことにより危険度が下がったせいか、以前と比べると大分発動は少なくなっている。

 また、仮に発動したとしても放出系の魔法であれば玲治自身がコントロールして被害を防げるようにもなっていた。


 二人は良い傾向だと笑い合いながら、ダンジョンの奥へと足を進めた。








「あの二人、私達のことを忘れてないか?」

「まさかそんなことは……」

「ないと言えるか?」

「……言えませんね」


 それほど離れていないにも関わらず話に入り込めないミリエスとフィーリナは、前を歩く二人を見ながら小声で呟いた。


「………………」


 そんな二人の少女の愚痴を後ろに聞きながら、テナは複雑そうな表情で楽しそうに談笑しているように見える玲治とオーレインの様子を見ていた。

<登場人物から一言>

テナ「なんかモヤモヤします……」

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