表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第三章】聖国叛乱編
51/102

第49話:残された二人

「………………」

「………………」


 玲治とミリエスが消えた後、その場に取り残されたテナとオーレインは暫く固まっていた。

 テナは夕食の支度を、オーレインは結界の敷設を行う姿勢のまま、それぞれ無言で動きを止めている。

 そのまま二人が立っていた場所を眺めていたが、やがてお互いに視線を交わし──。


「………………」

「………………」


 ──頭を抱えた。

 二人とも、状況を理解したようだ。

 元より、玲治のオート魔法によってパーティが転移されてバラバラになってしまうリスクは当初からあり、仮に何処か別の場所に飛ばされたとしても散り散りにならないように気を付けて居た筈だった。

 具体的には彼の服などを掴んでいることで、一緒に行動していた。


 しかし、油断によってそれを怠っていたせいで、こうして分断されてしまっている。


「レージさーん! 何でよりによってこのタイミングで……!」

「ど、どうしましょう? オーレインさん」

「どうしましょうと言われても……」


 不可抗力であることは分かっていても八つ当たりの文句を言いたくなったオーレインに、テナが問い掛ける。

 しかし、問われたところでオーレインにもどうしていいかは分からない。


「どう行動するにしても既に日が落ちかけている以上は野営の準備はしましょう。

 取り敢えず、テナさんは夕食の準備を続けて貰えますか?

 私は結界を完成させたら薪を拾ってきます」

「あ、はい。分かりました」

「ああ、それと食糧は半分だけ使うようにしてください。

 元々、四人分だったのが二人になってしまいましたし、明日の朝食分も要るでしょう」

「そうですね。

 残りの食糧はレージさんのアイテムボックスの中ですし……」


 幸いにして夕食の準備のために四人分の食糧を玲治から受け取っていたから、取り敢えず今晩と明日の朝の食事は何とかなりそうだった。

 しかし、その時点で打ち留め。残りの食糧は玲治が持ったまま消えてしまったため、手元には何も無い。


「はぁ、その問題もありました。

 今後の方針が決まっても、明日はまず素通りしたリーメルの街に引き返して食糧を買うしかないですね」


 前途多難な状況に空を仰ぎながら、オーレインは結界の敷設を終えると薪を探しに行った。




 ◆  ◆  ◆




 野営地でたき火を熾し、二人はテナの用意した夕食を口にする。

 しかし、その表情は共に暗い。

 二人はどうしていいか分からない状況に途方に暮れていた。


「取り敢えず、レージさん達の居場所が分からないとどうにもできないですね」

「そうですね。レージさん達、一体何処に飛ばされてしまったんでしょう?

 無事だと良いんですけど……」

「今のレージさんとミリエスさんが居れば早々危ないことはないと思います。

 ……いきなり土の中に転移とかしてなければ」

「そんな!?」


 オーレインが思わず口にした不穏な想像に、テナが真っ青になる。

 それを見て、オーレインは慌てて手を顔の前で振って先程の発言を取り消した。


「あ、すみません。

 流石にそんなことにはならないと思いますよ。

 転移魔法には詳しくないですけど、転移先に障害があったら飛べない筈ですから」

「ホッ、良かった。

 もう! 変なこと言わないでください!」

「フフ、ごめんなさい」


 頬を膨らませて抗議するテナの姿に、オーレインは微笑ましく思いながらも謝罪した。


「とはいえ、あまり安心していられないのも事実です。

 例えば、いきなりルクシリア法国の中に飛ばされたりしていたら、捕まってしまうかも知れませんし……」

「それは……そうですね」


 元よりそこに赴こうとしていた一向だが、お尋ね者の玲治や魔族のミリエスが突然法国の中に飛ばされたら大変な騒ぎになるのは目に見えている。

 下手をすれば捕まって処刑されてしまうかも知れない。


「なので、早く二人の居場所を見付けて合流しないと……あら?」

「? どうかしたんですか?」


 話をしている途中で何かに気付いたオーレインがそちらに視線を向ける。

 それに釣られるように、テナも同じ方向を向いた。

 すると次の瞬間、上空から黒い何かが舞い降りてきた。


「カァー」

「アンリさんの使い魔の鴉?

 そう言えば、先程から姿が見えませんでしたね。

 一体何処に行ってたんですか……?」

「いえ、待ってください。これは……」


 空から降りてきたのは、ジト目の鴉だった。

 その外見からアンリの使い魔の鴉であることに気付いたオーレインは、そこで初めて鴉が居なくなっていたことに気付いて、何処で遊んでいたのかと問い掛ける。

 しかし、テナは鴉をジッと見て何かに気付いたのか、それを止めた。


「何か気付かれたんですか? テナさん」

「この鴉、今まで一緒に居た鴉とは別の個体だと思います」

「え? そ、そうなんですか?」


 テナの言葉に改めて鴉をジッと見るが、オーレインにはこれまで一緒に居たものと全く見分けが付かない。


「ほら、尾羽の角度がちょっと違いますし」

「えーと、全く分からないんですが……まぁ、テナさんが言うならそうなんでしょう。

 でも、そうだとすると最初の鴉は何処に行ったんですか?」

「多分、レージさん達と一緒に転移魔法で飛ばされたんです」

「あ、なるほど。

 すると、この鴉はもしかして……」

「事態に気付いたアンリ様が連絡用に寄越してくれたんだと思います。

 合ってますか?」


 テナの問い掛けにアンリ鴉弐号は頷くと、地面に図を書き出した。

 それは、玲治達と一緒に居る鴉が全く同じ地図であり、彼らが居るであろう×印から法国へと矢印が付け加えられている。


「これは……つまり、レージさん達はここよりも法国の近くに飛ばされていて、法国に向かうと言うことでしょうか」

「もしそうなら、私達も法国に向かってそこで合流すべきですね」

「はい、そうなります。

 取り敢えず、今後の行動が決められたのは幸いでした。

 ありがとうございます」

「助かりました。

 ありがとうございます、アンリ様」

「カァー」


 玲治達の大まかな居場所と今後の行動を知ることが出来、途方に暮れていた状態から何とか今後どうすれば良いか決めることが出来た。

 やっと精神的に余裕が出来たオーレインとテナは、安堵と共に鴉とその向こうに居る女性へとお礼を告げる。


「でも……」

「カァー?」

「? どうかしたんですか、オーレインさん?」


 何か言い淀むような仕草を向けたオーレインに、鴉とテナが不思議そうに首を傾げた。


「いえ、折角新しく使い魔を作って寄越すなら、地面に地図を描いたりするよりも手紙でも書いて届けてくれれば良かったのでは?」

「………………」

「………………」


 オーレインのツッコミに、周囲に気まずい沈黙が流れる。


「カァー!」

「痛ぁ!?」


 八つ当たり兼照れ隠しの嘴攻撃が薄紫髪の勇者の脳天に突き刺さった。




 ◆  ◆  ◆




「うぅ、髪の毛抜けたりしてないですよね?」

「あ、あはは……それは大丈夫ですよ、多分」

「ならいいんですけど」


 鴉につっつかれた自分の頭を撫でながら涙目で告げられたオーレインの言葉に、テナは苦笑しながら慰めた。


「もう、あんまり乱暴な真似したらダメですよ?」

「……カァー」


 膝の上に抱えた鴉に窘めるように言うが、鴉はつーんとそっぽを向いた。


「ところで、テナさん。

 折角二人だけなので、聞いても良いですか?」

「え、あ、はい。何ですか?」


 鴉の仕草に苦笑していたオーレインが、改めてテナに向き直り、真剣な表情で話し始める。

 その様子から重要な話だと悟ったテナは、姿勢を正した。


「単刀直入に聞きます。

 テナさんは、レージさんのことをどう思ってますか?」

「え? ど、どうって……」

「パーティメンバーとしてとか色々あると思いますが、今私が聞いているのはそうではありません。

 男性として、です」

「え、ええと……」


 戸惑っていたテナだが、オーレインの補足で漸く彼女が何を聞きたいかを察して、僅かに顔を赤らめた。

 そのまま暫く答えに悩んでいたが、やがてぺこりと頭を下げた。


「すみません、よく分かりません。

 あまりそういうことを考えたことが無くて……」


 テナのどっちつかずな答えに、オーレインは怒るでもなく不満を示すでもなく頷いた。

 以前だったら何の気負いも無く答えていただろう問い掛けに、色を感じさせる仕草を示していたことには敢えて触れることは無い。


「そう、ですか。そうなのでしょうね。

 それでは、質問を変えさせてください。

 レージさんが元の世界に帰ろうとしていることは、どう思われてますか?」

「元の世界ですか? それは勿論帰りたいと思われるのは当然ですし、

 出来る限りお手伝いしたいと思っています」

「それで、二度と会えなくなるとしても?」

「…………え?」


 オーレインの問い掛けに、テナの笑顔が凍り付いた。

 実際、彼が元の世界に帰った場合、会うことは難しいだろう。それは当たり前のことではあるが、しかし近くに居る人と二度と会えないということを想定するのは難しい。

 テナも頭では理解しつつも現実に当てはめることを無意識のうちに拒否していたのだろう。


「私は、レージさんの望みは叶えてあげたいですが、同時に叶えたくないとも思ってます。

 彼のことは好ましく思ってますから、手の届かないところに行ってしまうのは嫌なんです」

「オーレインさん……」

「ただ、だからと言ってレージさんの邪魔をする気もありません。

 正直、どうして良いか自分でも迷ってるんです。

 だから、テナさんがどう考えているか知りたかった」

「……すみません」


 そこまで深く考えて居なかったテナは答えを持ち合わせていない。

 そのことに恥じ入り、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。


「謝る必要はないですよ。

 ただ、テナさんも今私が話したようなことを考えておくべきだと思います」


 でないと後悔する、というオーレインの忠告に、テナは神妙な顔で頷いた。

<登場人物から一言>

オーレイン「あ、あの時結界の敷設をレージさんに手伝って貰ってれば、今頃……」


<作者からお知らせ>

前作「邪神アベレージ」3巻は5月25日発売予定です。早い場所では、明日くらいから店頭に並んでいるかも知れません。

3巻は1巻や2巻に比べると書き下ろしの比率は高めになります。(おそらく3割程。視点改稿分も含めると5割近く)

WEB版をご覧頂いた方にもきっと楽しんで頂けると思いますので、是非よろしくお願い致します。


また、書籍3巻発売記念として新連載開始します。


「乾坤一擲パイルバンカー♂」http://ncode.syosetu.com/n1310dh/

尖った性能の武具を手に入れてしまった青年のお話。ファンタジーコメディ。

ストック切れるまで毎日投稿。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ