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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】不憫召喚編
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第05話:黒薔薇の従者

「ええと、初めまして」

「ああ、うん。初めまして」


 ジャイアント・ホーンボアを追い払った後、玲治は改めて少女と相対した。

 少女の方から挨拶してきたことに少し救われた気持ちになりながらも挨拶を返す。


 しかし、玲治は先程までは必死だったために忘れていたことを思い出して、内心では冷や汗を掻くこととなった。

 それは、彼はこの世界では追われる身であるということだ。

 もし仮に目の前の少女がそれを知っていた場合、どのような対応をされるか分からない。


「ええと、俺は玲治。志藤玲治だ。君は?」

「え? あ、はい。テナと言います」


 互いに名前を交わす玲治と少女──テナ。


 しかし、玲治は次の話題に悩む。

 この世界の住人と会話が出来そうならば色々聞きたいことは多いのだが、そのためにはまず自身の立ち位置を話さなければならないだろう。


「レージさんは、リーメルの街の方ですか?」

「リーメル? いや、ごめん。

 正直、ここが何処なのかすら分からないんだけど……」

「はい?」


 不思議そうに首を傾げるテナの様子を見て、玲治は「しまった!」と思ったが、後の祭りだった。

 自分が居る場所が分からないなど、どう考えても普通の状態ではない。しかし、言ってしまった以上は最早修正は利かない。


「その、実は森の中を走っていた筈なんだけど、気が付いたらこの草原に居たんだ」

「???」


 上手く説明出来ずに自分自身でも良く分からない発言内容になってしまい焦る玲治、テナは案の定意味が分からず不思議そうな表情をしていた。


「ええと、取り敢えずここに居るとまた魔物に襲われるかも知れませんし、行く所がないなら一度私が住んでいるお屋敷に来られますか?」

「え? お屋敷?」

「はい、私が仕えている方のお屋敷です」

「ええと、仕えている人に聞かなくて大丈夫なのか?」

「大丈夫です。アンリ様はお優しい方なので、悪いようにはされません」


 そう微笑みながら言われると、他に行く当てもない玲治は着いていくしかなかった。




 ◆  ◆  ◆




 玲治はテナに案内されながら、街道を歩いていた。


 テナが持っていた荷物は、玲治が抱えている。

 テナは遠慮して固辞しようとしたのだが、玲治としても年下と思しき少女が荷物を持っているのに自分が手ぶらなのは気が引けるため、譲らなかった。


 途中の分岐路で細めの道に入っていくテナの斜め後ろを歩きながら、玲治は気になっていたことを尋ねた。


「そう言えば、さっきの凄かったな」

「さっきの、ですか?」

「ああ、あのデカイ猪……と言っても分からないかな?

 魔物を倒してたじゃないか」


 玲治には猪の変種に見えたジャイアント・ホーンボアだが、この世界で「猪」という単語が通じるのかは分からない。そう考えて、少女も使用していた「魔物」という言葉に言い換えた。


「あ、はい。

 とある人に教えて貰って、闇魔法が使えるようになったんです。

 レージさんこそ、さっき魔法を使われてましたよね?」


 そう話を振られて、玲治は考え込んだ。

 確かに、玲治の手から放たれた電撃がジャイアント・ホーンボアを一度は撃退したが、あれが魔法なのかどうかの判断が玲治には付かない。


「あれ、やっぱり魔法なのか?」

「え? 魔法じゃないんですか?」

「いや、魔法なんてこの世界に来るまで見たこともなかったから……」

「この世界に来るまで?」

「……あ」


 思わず口が滑ってしまった玲治、手が自由であれば口元を押さえていただろう。

 相手が年下の少女だからか警戒心を抱くのが難しく、ついつい余計なことまで喋ってしまいがちになっていた。


「もしかして……別の世界から来られたんですか?」

「ど、どうしてそれを!?」

「やっぱり、そうなんですね。

 レージさんは勇者……様なのですか?」

「いや、俺は勇者とかそういうのじゃ……」


 確かに玲治をこの世界に召喚した者達は玲治のことを勇者と呼んでいたが、玲治自身は自分を勇者などとは考えていない。

 そもそも、彼の認識では自分のことを勇者だと公言してはばからないのは痛い奴だった。


「アンリ様と敵対するつもり……ではないですよね?」

「いや、そのアンリ様って人のことも知らないし、敵対なんてするつもりはさらさらないよ」


 この世界では理不尽に追い立てられる羽目となった玲治だが、少なくとも玲治自身から誰かと敵対したいと思ったわけではない。

 これまで出会ったことも噂すら聞いたこともない相手と、好き好んで敵対するつもりはなかった。


「と言うか、そのアンリ様って人は勇者と敵対でもしてるのか?」

「いえ、今居る勇者の人達とは別に敵対したりはしてません。

 ただ、新しい勇者の人がどうなるかは分からないので……」

「そっか。

 まぁ、俺は大丈夫だよ。

 勇者なんかじゃないし」

「分かりました。嘘には見えませんし、信じます。

 あ、見えてきました」


 テナの言葉に顔を上げると、目の前には広大な豪邸がその威容を見せていた。


「こ、ここが?」

「はい、アンリ様の黒薔薇邸です」

「そうか、凄く偉い人なんだな。

 ところで、一つ聞きたいんだけど……」

「はい? 何ですか?」

「アレは何?」


 玲治が指差した先、黒薔薇邸の門の前には数メートルはある巨大な黒い甲冑が膝立ちになっていた。


「ああ、あれは門番のアンリルアーマーです」

「も、門番?」

「あ、大丈夫です。

 不審人物とかでなければ、襲われたりしません」

「それなら良いんだが……何か立ち上がってこちらに向かってきてるんだけど?」

「え? あれ?」


 先程まで膝立ちで控えていたアンリルアーマーは立ち上がり、どこからか剣と盾を構えている。

 そして、ゆっくりと二人に向かって……いや、玲治に向かって歩いて来ている。


「もしかして、俺、不審人物扱いされてる?」

「……あ」


 その時、テナは忘れていたことに気付いた。

 屋敷の住人であり、日々出入りをしているテナは当然不審人物と扱われることはないが、初めて訪れる玲治は別だ。


「ちょ、止めてくれ!」

「ご、ごめんなさい! あれを止められるのはアンリ様だけなんです!」

「嘘だろ!?」


 そうこうしているうちに、アンリルアーマーは玲治やテナのすぐそばまでやってきて、巨大な剣を振り上げた。


「うわあぁぁーっ!?」

「きゃーーーーっ!?」


 玲治とテナはお互いに庇い合うように抱き合うと、目を閉じた。






「………………」

「………………」

「…………ん?」

「………あれ?」


 いつまで経っても襲って来ない衝撃に不思議に思って二人が顔を上げると、そこには剣を振り上げたまま停止しているアンリルアーマーの姿があった。




「あ、アンリ様!」


 テナが黒薔薇邸の入口の方を見て人影に気付くと、喜色の声を上げた。


 釣られて玲治がそちらを向くと、そこには仮面を着けた黒いドレスを纏った女性の姿があった。

 テナの言葉を信じるなら彼女がこの屋敷の主人で、二人を攻撃しようとしたアンリルアーマーを止めてくれたのだろう。



 女性は黒薔薇の意匠が施された少々目のやり場に困るデザインのドレスを纏い、黒く長い髪をたたえていた。

 しかし、相対したときに何よりも目を引くのは、その目元を覆い隠す黒地に紅い紋様の入った仮面だろう。

 それによって、彼女の目は外から見ることは出来なかった。


 顔は見えないが、背丈などから判断すると玲治と同年代か少し年上くらいに見えた。テナよりも二つか三つ年上になる計算だ。

 尤も、とある部分の装甲の厚さでは負けているようではあるが。

 ドレスのデザインが妖艶なだけに、その事実が一際目立った。


「おかえり、テナ」

「あ、はい! ただいま、戻りました」

「それで……そっちは誰?」


 その言葉に、テナと挨拶していた仮面の女性……アンリの視線が玲治を向いた。

 玲治は突然向けられた視線と言葉に、思わず混乱してしまい上手く言葉を返せなかった。


「あ、俺は……」

「……日本人?」

「!? ど、どうして……」


 確かに、髪を染めてすらいない玲治は日本人の特徴から想像しやすい容姿であると言える。しかし、この世界の人間でそれを知る者は居ない筈だ。

 だと言うのに、玲治を「日本人」であると判断したアンリに、玲治は驚愕した。


「詳しく話をする必要があるみたい。

 中に入って」


 そう言うと屋敷の中に入っていくアンリを追って、玲治とテナも黒薔薇邸の中へと足を踏み入れた。

<登場人物から一言>

アンリルアーマー「──────!(不審人物発見、排除に移る)」


<作者からのお知らせ>

なお、アンリのヒロイン化予定はありません。

彼女は「小姑」枠です。

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